第87話 子供のケンカ
「さてかばんちゃん、それじゃそろそろ行こうか?」キリッ
「はい、次はサバンナですね?」
シロです、これからおーいしょってカフェを降りるよ?歳のせいか腰とか足とかつっらーい!でも頑張るぞー!
「さっきまで耳を触られて悶えてたのにあのキリッとした顔はなんなのかしら?」
「多分、二人にしかわからない方法でなにか通じ合ったんだゆぉ?私もよくわからないんだけどにぇ?」
二人に礼を述べ、俺達はカフェからジャングルちほーへ降りた。
このロープウェイもいい加減ちゃんとした運行ができるように管理してほしいものだ、あるいはエレベーターでも付けてくれ。
妻との旅もサバンナで丁度半分と言ったところだ、これからシンザキ邸で一晩お世話になり翌朝港で海沿いを走りそのままロッジアリツカでムフフ、それから温泉でもムフフ。
最後にPPPライブを観て一旦図書館に帰る、後日スザク様にご挨拶してそれからゴコクのカコ先生とツチノコちゃんに会い、最後にオイナリサマのとこでお参りだ。
サバンナに泊まる理由は…。
「クロと丁度会えそうですね?」
「うん、一瞬でも雨が止んだら一気に港まで出てしまうはずだからね」
多分、スナネコちゃんと行動を共にするんだろうな?一緒にいるとこ見たらサーバルちゃんどんな反応するんだろうか?少し見物ではあるが、返って新しい恋に走る姿を見て安心するだろうか?やっぱり彼女も家庭があるのだし。
いつまでも悲しんでるとなぁクロ?サーバルちゃんだって心配で眠れないんだぞ?
だからまぁスナネコちゃんでも誰でも、お前が選んだのなら俺はそれでいいよ?みんないい子だしな?でもあんまり泣かすんじゃないぞ?
俺みたいにな…。
…
「え!?もう出たの!?」
「どこへいったのですか!」
「スナネコさんとサバンナちほーへ向かうそうです、今ならまだ飛んでいけば間に合うかもしれませんよ?」
私、シラユキと博士はその時戦慄を覚えた。
クロ… 今度はスナ姉にちょっかい出してるの?←出してない
なんでも雨季で足止めされてたそうだ、今日はたまたま晴れたからまた降りださないうちにと足早に出発したそうだけど、つまりそれってスナ姉と一つ屋根の下でしかも同じ部屋に寝泊まりしたってことで、今も仲良く旅の真っ最中ってことでしょ?
クロは昔からスナ姉のこと結構好きだったからなぁ… しかもスナ姉はその辺緩そうだから「まぁ騒ぐほどでもないかぁ?好きにしてください」とか言ってそうだし、助手といろいろした後にキタ姉とお風呂で楽しいことしてるようなクロだもの、何もなかったはずがないよね?←偏見
「ゆ、許せんのです…」
「博士、どうしたんだいそんなに怒って?」
「事件かしら?クロが何かしたの?」
「あの~?ところで博士とユキちゃんはどういったご用件で?」
博士がプルプルと怒りに震えている… これは覚悟してもらうしかないねクロ、まさか女の子を何人も手に掛ける最低な男に成り下がってしまうなんて!←冤罪
「クロ…!助手を傷物にするだけに飽きたらず!あっちでイチャイチャこっちでイチャイチャと…!」
「え?助手どうかしたのかい?教えてくれないかな?代わりに私は彼ら二人が宿泊中だった時の夜について情報を提供しよう、これは正当な取引だ」←悪ふざけ
「だ、ダメだよ!内々なの!これだけは言えないよ!」
不用意な情報漏洩は避けないと!でも、あの色の違う二つの目… 見透かされている気がする!やめて!そんなに見ないで!///
それにしてもクロはサバンナに行くの?なんで?
私の疑問を察したのか… 博士は既にその答えを持ち前の明晰な頭脳で導きだしていた。
「ユキ、これは完全にヤベーイことになってしまったのですよ…」
「え!?どういうこと!?」
「わからないのですか!これまでのクロの行動を辿ってきて極めつけのサバンナということはやることは決まっているのです!あそこにはサーバル一家がいるのですよ!」
ハッ!?
その時私もその恐ろしい事実の一端に触れてしまったのだ、博士の導きだした答え。
即ちこれからクロがやろうとしていることそれはつまり…。
「は、博士… さすがにそれはないよ?ないない、流石にしないってそれは… 流石にさ?ね?」
「気付いたようですねユキ、そうですよ…」
ロッジに緊張が走る。
オオカミ先生はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、アミちゃんは口をワナワナと動かしている、迷探偵の血が騒いでいるのだろう… そしてアリッちゃんは苦笑いを必死に隠しているとお見受けする。
クロのサバンナでの目的それは…。
「「NTR!」」デデデドドン!
まさか諦めずに禁断の恋を成就させようとしているなんて、双子の私もさすがにドン引きしてしまった。
「先生!NTRってなんですか!?」
「よく聞いてくれたねキリン、いいかい?NTR というのはね?」
NTR… ストーリーの一環として話すとすれば、例えば主人公の恋人や妻などヒロインに位置するキャラクターが別の男とそういう関係になることを指す… 即ち“寝取られ”のことである。
パターンとして様々だが、このクロユキの場合は家庭のある女性を自分の物にするという極悪非道のタイプである。
ちなみに、クロユキを主人公の位置に置くと“寝取り”になるので、その場合は“NTL”となるらしい。
ちなみにBLTはベーコンレタストマトで、ELTはEvery Little Thingだ。
「クロがそんなことを!?」
「さぁ?それはわからないよ?でも博士達の話が本当なら信憑性は高いね?」
「あの~… 昔も博士の勘違いで変なこと起きてましたよね?またそれなんじゃ~…?」
「しー… アリツさん?野暮だよそれは、いいねぇ~?触れてはいけない禁断の恋!創作意欲がガンガン沸いてきたよ!」
後ろではオオカミ先生達が私達一家の危機に呑気そうに盛り上がっている、しかしこれは呑気にバカやってる場合でない。
止めなくちゃ!一刻も早く!
後にこれを“長ユキ大大大暴走”と呼び、タイリクオオカミ執筆の元一つの本としてパークに出回るのであった。
…
僕達がロッジを出て遊園地に着いたころ、スナ姉は言った。
「サーバルとの事が済んだら家に帰るのですか?」
正直そんな気になれるだろうか?と不安である… 帰ってどうするんだ?そんな傷心状態で帰ったらフェネちゃんに甘えて泥沼確定なのではないか?
それでは意味がない、心の整理を付けるのが今回の旅だ。
一端僕の歪んだ恋心をゼロに戻して、それからまた新しく恋をするんだ。
そしてその時の相手は僕を好きだと言ってくれるフェネちゃんかもしれないし、また別の子でもある可能性もある。
ただ僕としては…。
僕を対等に見てくれる相手がいい、これはサーバルちゃんもやってくれなかったことだ。
サーバルちゃんは子供の目線に立ってはくれたが自分と対等の位置には立たせてくれなかった、証拠に僕を未だに小さなクロちゃんと同じように接している。
言わば彼女にとって僕という存在は自分の息子であるサンとそう変わらないのだ。
いやそれはそれで嬉しいんだ、サーバルちゃんは自分の子供のように僕とユキを可愛がってくれたってことだ、そうして同じ目線に立って何度も遊んで一緒に笑ってくれた。
でもそうしていたら、いつのまにか信じられないくらい大好きだった…。
独り占めしたくなったんだ、でも僕が小さい頃彼女は結婚したし、僕も小さいながらにいつまでもヤキモチ妬いてるのは愚かな考えだとやがて気付いた。
だからサンが生まれてからは自分の弟のように可愛がったし事実弟だと思ってる。
もう忘れよう… この恋は小さなクロちゃんの恋であり今の僕、クロユキの物ではない。
と分けて考えてきたけれど…。
そんなのは無茶な考えだったんだ、自分から自分を切り離すことはできない、故に忘れることは叶わない。
大きかろうが小さかろうが僕は僕だ、同じなんだ。
でもスナ姉は言ってくれた、忘れる必要はないって。
サーバルちゃんが幸せであってほしいと願うことができるのも、サンを弟のように可愛がれるのも全て僕がサーバルちゃんのことを好きだからだ。
“「幼い頃のそんな経験が今の優しいクロを作ったんです」”
その通りだ、でもそれだけではない。
僕の人格を作ったのはこれまでの出来事全て、どれか一つでも欠けたら今の僕にはならないんだ。
そうなったら僕は今よりもっと子供かもしれないし、もっと横暴でワガママな性格をしているかもしれない。
でも僕はそんな経験を重ねここにいる。
忘れる必要はない、乗り越えればいい。
その為に、僕は今からこの長すぎる初恋を終わらせてくる。
これは必要なこと、どんなに辛くたって。
…
「着いてしまいしたねサバンナちほー」
「うん、ここからでもサーバルちゃん一家の家が見えるね?緊張するなぁ… なんて伝えればいいんだろ?」
「それはクロ自信が考えなくてはなりません、というよりは… 単に正直にその心を伝えればいいんです、伝わりさえすれば言葉は大して重要ではないですからぁ」
伝わりさえすればか… 言葉選びも重要な気がするんだけどな?
それにしてもスナ姉なんだか難しいこと言うようになったなぁ?
なんかすっごい頼りがいがある、実は結構頭のいいスナ姉は勉強しないだけで飲み込みは早いのだと思う、歌詞を作った時だってすぐ覚えて合わせてきたし。
結局僕の曲はスナ姉との合作になった、プリンセスさんに言ったらライブでお披露目することになるのかな?
いや、今は目の前のことに集中しよう。
サーバルちゃんの家を目指しサバンナちほーを突き進む。
スナ姉は長い旅の生活の為慣れているのか比較的進みやすい道を選んでくれたのでどんどん目的地が近付いてくる。
そうしたらほら、もう目前だ…。
「つ、着いた…」
「じゃあドアをノックです」コンコン
あーん!?ナズェ心の準備させてくれないんです!?
ノックから間もなく「はいはーい!」なんて元気な声が聞こえてきた、彼女だ…。
ゴクリ
ドアが開くその瞬間汗がわーッと吹き出してきた気がした。
そしてお待ちかねの彼女が顔を出す。
「あ!スナネコ!よくきたね?それからー…?クロちゃん!もう遊びに来てくれたの?ありがとー!」
いつもと変わらない元気な姿、ほんの数日前あったばかりなのにずいぶん前に感じる
あぁ僕ってやっぱり好きなんだな… ってそう思うと、なんだか眩しさがいつもの倍くらいに感じた。
「クロがサーバルにどうしても会いたいけど恥ずかしいらしいので付き添いなんですよ」
「ちょ!ちょっとぉ!スナ姉やめてよ変なこと言うの!?」
なんてこと言うのさ… もしかすると緊張を解こうとしてくれたのかな?
それを聞いたサーバルちゃんはは一瞬だけキョトンした後にニカッと笑い直し僕の頭をポンと撫でた。
しかし、これからここで死ぬほど厄介なことになることを僕らはまだ知らない。
「えへへ、実は二人が来るのは知ってたんだー?今日は賑やかになりそ… あ!?危ない!」
その警告を聞き振り向いた時、何か白い物に視界が覆われた。
「んなっ!?」ゴツッ
瞬間鈍い衝撃と共に僕は巻き込まれるようにサバンナの草原にゴロゴロと転がる羽目になる。
「やーっと見つけた!捕まえたよ博士!」
「よくやったのですユキ!気を付けるのです!発情したオスは手強いのです!」
この声は…。
「ユキ!?なにするんだよ!って言うか… えぇ?なんで僕の居場所わかったの?今何て言った?発情!?」
狩りごっこで捕まった時を思い出す… 僕は大の字になって地面に寝そべりユキが覆い被さるように僕を見ている。
「クロ!自棄にならないで帰っておいでよ!いろんな子にちょっかいだしてダメじゃない!」
「何の話だよ!僕は何もしてない!」
「ネタは上がっているのですよクロ、お前が助手としていたこともこれからやろうとしていることもすべて…」
なんの話!?
僕が助手に何をしたと言うんだ!?そしてこれからすることは僕の問題だろ!なぜ二人に止める権利があるんだ!
「二人とも急にどうしたの!?ケンカはダメだよ!」
「ユキと博士はクロを連れ戻しに来たのですかぁ?」
「…と言うよりは、責任をとらせようと思ったのですよ、クロは傷心のせいとは言え火遊びが過ぎたのです」
「「火遊び?」」
なんだ火遊びって!
なにやら僕は悪者になっているらしい、責任をとらなきゃいけないことなんてしていない、いや… しそうになったけどギリギリやめたからセーフだ、そしてそれは助手と関係ないはず。
「とぼけないでクロ!早く帰って助手とゆっくり話しなよ!助手は悩んでるんだよ!」
「だーから!なんで僕の家出が助手と関係あるのさ!降りろよ!」
「こうしてないと逃げるでしょ!」
埒が明かない… もういいわかった!話が通じない相手と言葉を交わす必要はない!おとなしくしてもらうぞ!
「上等だ!頭を冷やせ!」
「ッ!?」
僕は右手にサンドスターを集め逆にユキを巨大な手で押さえ付けた。
「んー!離してー!」
「黙って聞け!そっちから始めたことだろ!話す気がないならとことんやってやる!」
じたばたと暴れ拘束を解こうとするが簡単には離さない、そんなに僕の光の手はヤワではない… が
「もー怒った!そっちがその気なら私も手加減しないから!」
ユキの目は野生の輝きを灯すとフレンズ化して僕の作り出したサンドスターの手をバンッ!と弾き飛ばした
「くそっ!馬鹿力のわからず屋!」
「女の敵!歯ぁ食いしばれ!」
それから、兄弟喧嘩と呼ぶには些かハイレベルな攻防が続いた。
僕は両方に光の手を出現させた、そうして時に攻め時に攻撃を受け流していた。
ユキは野生解放するととても厄介だ、到底人間の追い付きっこない速さと力で攻めてくる、おまけに動体視力も良く戦闘勘も鋭敏なので生半可な動きじゃ僕なんかすぐにやられてしまう。
「ガァァァァアッッッ!!!」
ユキの飛び後ろ回し蹴りが炸裂。
バギィャァォン!と豪快な音をたてて光の手の片方が砕かれてしまった、こうなると集中力が回りきらなくてまた出現させるのに少しラグができてしまう。
でも問題はない。
「このッ!」
ドドドシュッ!と指から射出されたのは三発のスターショットだ、これをユキの左足右腕左肩に一発ずつ直撃させた。
「あっ!?いっ…つつ… この!やったなぁーッッッ!!!」
だが頑丈な今のユキには豆鉄砲くらいの強さにしか感じられないようだ。
とうとう爪を使ってきた、目がマジなのでどうやら本気で怒らせてしまったようだ。
だったら僕もとっておきを使わせてもらうしかないな。
スターショットの要領でサンドスターを手のひらに集め回転を加える、そしてこれの射出時に手の平で力を爆発させて撃ち出す、スターショット何倍も大きく強い攻撃を加えることができる。
名付けて…。
スターキャノン!
「ガァァァァアッッッ!!!」
「うぁぁぁぁあッッッ!!!」
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