第76話 ずっと明日の僕
しんりんちほーのジャパリ図書館、その離れにある家に僕は家族と住んでいる。
不満はない、父も母も愛情いっぱいに僕達兄妹を育ててくれた。
僕は幸せだ。
「では掘るのです!」
「過去からのメッセージを受けとるのです!」
高らかに叫んだ島長、博士と助手に従い僕は地面にスコップを突き立てる。
タイムカプセルというのがある。
10年くらいまえに図書館の裏に家族みんなで手紙などを牛乳瓶に入れて埋めたんだ、そして今、それを掘り起こそうとしている。
ザック ザック
とスコップを使い地面を掘っていくとやがて先端にゴツっとなにか固い物に当たった感覚があった。
そこの土を丁寧にほろうと箱があり、周囲の土もどかして蓋を開けると中から目当ての“それ”が顔を出す。
いくつかの牛乳瓶の中に手紙や、何やらキラキラした綺麗な石などとにかくいろんな物が入ってる。
僕はそのうち一枚の手紙を手にとり、それを黙読した。
“ ずっとあしたのぼくへ
サーバルちゃんをおよめさんにしてますか?こどもはさんにんくらいいますか?パパみたいにつよいですか?ママみたいにやさしいですか?しあわせですか?いまのぼくはしあわせです ”
きったない字だなぁ…。
なんて自分がずっと小さい頃に書いた文章に対して文句をつけてみる。
あの頃はまだ5才になるかならないかだから、きちんとした字を要求するのは酷というものかもしれないが。
「どうだ二人とも?十年前から来た手紙は?」
「なーんか、私すごい変なこと書いてる!」
「ははは、さてはパパと結婚するとかだな?」
「半分正解!なんでわかったの!?」
さては埋める時に読んだな?
話しているのは父と妹だ、二人はよく似ていて髪は白髪で瞳が青く、肌も透き通るように白い。
父の名は“ユウキ”。
だが、大体みんな安直につけられた渾名の方の“シロ”と呼ぶし、父も呼ばれ慣れている。
そして妹の名は“シラユキ”。
一部を覗きみんな彼女を“ユキ”と呼んでいる、というのは祖母がユキという名だから使い分ける人がいるのだ。
一方僕は母とよく似ていて髪は黒く瞳も黒い、頭の回転が早いなんて言われるけど僕は考えるのが少し得意なだけで特別なこととは思っていない、皆考えるという行為に慣れていないだけで誰でもできると思っている。
頭がよく、フレンズの中でも極めて希な存在であるヒトのフレンズ… そんな母の名は“かばん”。
そして僕の名前は“クロユキ”。
みんなは“クロ”って呼んでる。
今、15歳だ。
家族構成としてはご覧の通り、父はホワイトライオンとヒトのハーフで尻尾と猫耳がある、母はヒトのフレンズ、それから双子の妹にシラユキ。
こんな家族四人に、加えて島長のフクロウのフレンズ二人がここしんりんちほーの図書館に住んでいる。
僕も10年もあれば背が伸びたし心境の変化とかでいろいろ考えるようになった、この歳になるまでいろんな経験をしてきたのだけど、実は小さな頃から変わらずに今でもたまに胸を締め付けていることがある。
それは…。
僕はサーバルちゃんのことが好きで、そしてそれは叶わぬ恋であるということだ。
この小さな自分から届いた手紙を読んだとき、また気持ちが再確認されてしまった。
やっぱり僕はサーバルちゃんが好きだ。
「クロのやつ読ませてよ~?」
「やだよ、こんなの見せられない…」
「ちぇ、つまんないのー!」
ユキが僕の手紙をスーっと覗き込んできた、こんなの読まれたら一生からかわれる上に本人に話されて人生赤っ恥もいいとこだ。
僕は読まれる前にそれを折り畳みポケットに乱暴に突っ込むと、ビンの中にあるもう何枚かの手紙を取りそれぞれ手渡していった。
「はい、これはパパの… あとこれはママだね?」
「ありがとうクロ、でも実はこれはパパに宛てたものなの… はいどーぞシロさん?」
「えぇ?そうだったの?じゃあ読ませていただきまーす!えー… 未来のシロさんへ…」
「あ~!?口に出さずに読んでくださぁい!?///」
ご覧の通り父と母は大変仲が良い、でもそんな二人を見て育ったからこそ思うのだ。
叶うことがない僕の想いはどこへやったらいいのだろうと…。
「これは博士、これは助手… 二人はなにを書いたの?」
「私からは助手に」
「私からは博士に書いたのです」
「「二人でこの島の長なので!」」
島長の二人は10年経ってもそう変わらない、背だって今となっては僕の方が高い。
フレンズの体というのは不思議で、老いというのが外見で分かりにくい。
父も母も歳のわりに老けては見えないし、ここ数年でパーク復興の為にヒトが増えてきたから、それらと比べると余計に二人や島のみんなが若々しいというのが分かる。
でも時間というのは確実に流れている。
僕は最後に残った手紙を彼女に手渡すため側まで歩いた。
彼女の髪はブロンドで、昔と比べるともう少し長くその風に揺れるサラサラとした金髪を後ろで束ねている。
彼女には父と同じようにフレンズの特徴がある… それは当然だ、彼女は猫科のフレンズだから。
大きく上に伸びる猫耳と黄色と黒のシマ模様がある尻尾がとても可愛らしい、小さい頃はよく触らせてもらったが今も是非その耳を愛でたいと感じている。
がそこはさすがに自制している、いくらなんでも常識くらい弁えている、僕は
そんな彼女に、僕は手紙を手渡した。
「はい、サーバルちゃん?」
「ありがとうクロちゃん!もう10年も経つんだね!クロちゃんもすっかり大きくなったね?出会った頃のかばんちゃんそっくりだよ!懐かしいなぁ~…」
そう言うと彼女は僕の髪を昔と変わらずワシャワシャと撫でてくれた。
「あ、ごめんね?もうこういうのは嫌かな?」
「うんん、そんなことないよ?なんだかくすぐったいだけ」
そう、胸の奥がくすぐったい…。
僕がまだ小さいころはお姉ちゃんって感じだったサーバルちゃんだけど、なんだかすっかり大人びてしまった。
彼女から見れば僕がどれだけ大人になってもずーっと“クロちゃん”のままなんだろう、寂しいがそれが心地好くもある。
なんて照れくさい思いをしていると彼女の足にくっついてる小さな男の子が僕に尋ねた。
「クロにーさん!それはなになに?僕にも教えてください!」
「タイムカプセルっていってね?ずーっと昨日の僕たちが書いたお手紙を今日読む日なんだ、次は“サン”も一緒にやろうか?」
「やったー!やりますかねぇ!」
僕が“サン”と呼んだこちらの話し方が独特かつサーバルキャットの特徴を持つブロンドの男の子は、お察しの通り彼女とシンザキのおじさんの子供である。
名前は“サバンナ” 現在8才。
とんでもないネーミングセンスだが命名はサーバルちゃん、なんでも妊娠する前から決めていたらしい… シンザキのおじさんは彼女に甘いので無事採用された。
しかしそこは僕の母の機転で。
「じゃあ親しみを込めて“サン”と呼ぶのはどーかな?」
といい感じの渾名が付いて皆ホッと胸を撫で下ろした。
そう彼女にはもう子供だっている、家庭があるのだ。
ただ…。
今更シンザキのおじさんを嫌とも思わないし、そんな二人の子供であるサンは僕やユキにとって弟同然であり、彼を疎ましいとは思わない。
むしろ可愛がっているくらいだ、実際こうして“クロにーさん”と呼ばれるのも満更ではない。
「サーバルちゃんはなんて書いたの?」
「ふっふーん!クロちゃん読んでみる?」
となにやら得意気なので手紙を受け取り開いてみた。
“ わたしはサーバルキャットのサーバル
もしかしてシンザキちゃんとけっこんしてあかちゃんもいる?たのしみだなー!なまえはサバンナにするんだ!そしたらクロちゃんとユキちゃんにはおにーちゃんとおねーちゃんになってもらって!かばんちゃんとはママとも?っていうのになるんだー!ぜったいかなえてね!”
なるほど、なにを得意気にしてると思ったら全て実現させていたからか。
この手紙を書いた人のなかで1番実現率が高いのはなにを隠そうこのサーバルちゃんだろう。
はぁ、眩しいなぁ…。
と彼女を見るたびに思う、そんな太陽みたいな笑顔に元気をもらうことも多い。
いつから特別に好きなのか僕はハッキリ覚えていない、でもずいぶん小さい頃からそう想っていたのは確かだ。
そんな小さな僕の恋心を、子供の恋愛ごっこだと笑う人もいるのかもしれない。
むしろ僕はそうだとよかったのにと思っている、それならどれだけ楽だったか。
だってそうだとしたらこうして結婚妊娠出産を体験した彼女を見ても胸がきゅうと締め付けられることもなかったのだから。
いつか見付けた花にノコンギクっていうのがあって、その花言葉に“忘れられない想い”ってのがある。
それの意味は助手が「大きくなれば分かる」と言っていたのをよく覚えてるのだけど、なるほど“これ”のことかって今まさに痛感してる。
サーバルちゃんが結婚するのは小さな僕の心にはそれはショックだったよ。
だから今では忘れることも思いやりだって自分に言って聞かせてる、彼女と笑い過ごした日々を。
そんな思い出を忘れられるはずないしそりゃ辛いに決まってる、だからそんなあらゆる辛いことをそれも運命なんだ人生なんだって胸張って、それをさらっと言えるようになったらその時。
僕もいよいよ大人になったってことなのかもしれない…。
サーバルちゃんは今幸せだろう、いつも幸せそうにしてたが特に幸せなはずだ。
だから今更僕が彼女を独占しても幸せではないことはわかっている、誰も得しない。
僕もサーバルちゃんもシンザキのおじさんもサンも周りにいる人誰も幸せにならない。
だから不思議とヤキモチは妬かない、この際本人が幸せそうにしてるのなら僕は満足だ。
そんな僕が不安に感じているのは、これから僕は恋をできるのか?ってとこだ。
彼女以上に好きになる人がこれからいるのだろうか?
…
「かばんちゃん?」
「なんですか?」
「愛してるよ」
「き、急になんですか!?あ、ありがとうございます…///あの、はい… 僕もです」
父は母を愛している、だからこそこうして僕らはここに存在している。
なんでも若いころ一悶着あったらしいのだけど、それを話そうとした博士と助手はアイアンクローで外に引きずられていったので結局聞けずじまいだ。
「いや書いてあったんだよ、“変わらず妻を愛しているなら今すぐに伝えろ”って」
どうやら父の手紙にも母宛の何かが書いているようだ、だからと言ってみんなの前で“愛してる”は恥ずかしくはないのだろうか?
ユキはこういうのに憧れるのかニコニコと二人のやりとりを眺めている、まぁ僕だってそんな二人がベタベタしてるとこを見るのは慣れたものだ。
「そんなわけだからな二人とも、パパとママは島一周デートをしてくる、いい子にしてるんだぞ?」
「待ってよパパ、なんでそうなったの?私達ご飯どうしたらいいの?」
「シロ、お前最近自由すぎやしませんか?」
「子供達に手も掛からなくなったとは言え関心しませんね?職務怠慢なのです」
ユキはジトッと両親を眺め、料理はどうするのだと圧力をかけている、長の意見も一理ある… 父は昔料理人は云々かんぬんと熱弁していたのにこの様だ。
「ユキ、お前も食ってばかりいないで少しは料理できるようにならないとユキおばあちゃんみたいになるぞ?」
「お、オムライス作れるもん!」
「それから博士達、みんな自由に生きているって歌詞で聞いたことあるだろ?それからなにも理由もなくこんなこと言ったんじゃないんだよ?俺の書いた手紙にそう指示されているんだ」
「ふむ、見せてみるのです?」
「判断してやるのです」
父の手紙にはこう書いてあった。
“ 未来の俺はまず今と気持ちが変わらないなら妻に愛していると伝えろ。
それから幸せならその感謝を伝えるために島中で感謝を伝えてこい。
しっかりと家族を守れているか?妻を泣かせていないか?料理の腕は上がったか?師匠には一度くらい勝てたか?酒は飲めるようになったか?親孝行したか?姉孝行もしたか?長孝行もしたか?子供たちは立派に育ったか?
ひとつでもできているならそれはお前の力だけではない、みんなのおかげだ。
さっさと行け「ありがとう」とみんなに伝えろ。
みんなにだ、一人の例外もなく。”
なんだか、お前は生かされている… ってそんな文章だ。
全てみんなのおかげか… 確かに、いろんな協力があって今の自分がある。
でもだからと言ってそんなに急ぐ必要はあるのかは別だけど。
「クロ、お前はしっかり者だからしばらく任せても大丈夫だな?」
「いいよもうそんなに子供じゃないし、行ってきたら?そんで新しく弟か妹つくってきたらいいよ」
「わかった!どっちがいい?多数決しよう」
「やめてよただの皮肉だから今の… っていうか選べないでしょ」
ハハハと歯を見せて笑う父は僕の頭をポンと1度叩くと「頼んだぞ」というようにバギーで母とデートに洒落こんだ。←無許可
「待つのでーす!?」
「昼食くらい用意していきやがれなのですー!?」
「ふっふーん!任せて?わたしが作るよ!」
「サーバルちゃん!私も手伝うよ!」
「え!?ユキちゃんが!?た、頼もしいね…!」
「!?」←妹は何か察した
とりあえず昼食はサーバルちゃんのおかげでどうにかなるけど、あとでアライちゃんと連絡つけないと… とそんな考えこむ僕に小さなお客さんが声を掛けた。
「クロにーさん!また歌を聞かせてください!」
「え?いいけど… 僕そんなに歌は自信無いんだけどなぁ~?実は弾く専門で歌はついでなんだ」
「ぼくはクロにーさんの歌好きなんですけどねぇ… おもしろいもん!」
ほぅ?上手い下手の話ではなく面白いと?飽くまでいい声だとは言わないんだねボウヤ?いや、いいよいいよ?うん、自信あるわけじゃないし?
ならば上等だ、とりあえず僕の歌を聞け
僕は練習用に地下室に置いてあるギターを手に取りジャーンと1度鳴らすと、小さなファンにご挨拶した。
「今日は来てくれてありがとぉう!」
「キャークロニーサーン!」
「それじゃあ聞いてくださぁい!ようこそジャパリパークへぇ!」ネットリ
「わーい!」
さぁ、親猫は行っちゃったし…。
新しい時代の幕開けだ!
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