第75話 よくきてくれた

 あれから数ヵ月経ち、子供達の6才の誕生日がきた。


「「お誕生日おめでとー!」」


「わーい!」

「ありがとー!」


 今年もまた無事に成長を見守ることができた、母さんは俺が3才の頃に消滅してしまったからこれでダブルスコアだな… 二人には寂しい思いさせてないだろうか?いい父親をしてやれてるだろうか?かといって甘やかしてばかりいるのもよくない、正しい心へ導いてやれてるのだろうか?


 今のところあるのはそういう不安だけだ。



 子供達が皆に祝ってもらい戯れている姿を、“俺達”は厨房から眺めている。


 あんなにたくさん愛されて、小さな体にいろんな経験詰め込んで… 大きくなったクロとユキ。


 ここ1~2年でいろいろあったからなぁ、なんだか背中が大きく見えるよ。


「あっという間にでかくなりやがって…」


 なんて呟いてみる… それを聞いた隣にいる男は半笑いで俺に言った。


「ハハ、それ親父さんも言ってたぞ?」


「ん~?そうだな… 親子って似るんだなやっぱり」


 こいつが誰かって?俺がこんなに親しげに話す男なんて一人しかいない。

 

 こいつはミライさんの部下、今年から特別調査隊に加えられた若い戦力だ。

 知識は広く動物に対して思いやりもあるし命に分け隔てがない、歳は…。


「なぁ?いくつになるんだっけ?」


「唐突だなおい、今年で26か?タメだろ?なんで自分の歳もわかんねぇんだよ?」


 だそうだ、なるほどどーりで老けたと思ったよ。


 いやしかしよく来てくれた、父さん達も粋なことするよなぁ、他にベテランの人材がいるだろうに急ピッチでこいつに特別調査隊の試験を受けさせたんだから。


 見事パスしたこいつも相当だと思うけど。


「しっかし幸せそうだな~?なんだよあの嫁さん!くっそ美人じゃねぇか!」


「いいだろぉ~?へへへいいだろぉ~?ちょっかいだすなよ…?」


「くそ!ニヤニヤすんじゃねぇ!」


 こんなバカな会話を自然としたのも何年ぶりになるのか?今26ってことは10年ぶりか?なのにこいつときたらまったく変わってないじゃないか、やれやれここに来るまで何人の女の子に玉砕されてきたんだ。


「つーかバカお前、俺も一応既婚者なの!」


「はぁ!?嘘つくなよ!フラれすぎて想像結婚したんだな!早く現実に戻ってこい!」


「ちげーって!…つーか、多分お前の知ってる子だぞ?なんてったってなユウキ?お前が切っ掛けで仲良くなったんだ、俺と彼女はな?」


 驚きの連続、誰のことだろうか?それにしても結婚したのにこんなところに出張して嫁さん置いてきていいのか?俺なら耐えられないな、泣きながら家に帰ってやる。



 十年も経てばいろいろある、そんな十年ぶりにあったこいつは人間という生き物の中で唯一無二の親友と呼べる男だ… そう、こいつの名は。


「なぁ“ゲンキ”… 本当によく来てくれたなぁ?素直に感動した」


「へっへっへっ!抱き締めてやろうか?」


「やめてよ!人が見てるわァン///」クネクネ


「気持ち悪っ!」

「お互い様だろ!」


 ジャパリパーク特別調査隊所属のゲンキ、俺との別れの後ゲンキはミライさんの元で働くことが世界を変える近道だと確信し、動物のことを調べに調べあげなんと獣医の資格までとりやがった。


 その後、父さん達が俺の状況を知り一度帰った際に一つの提案が生まれた。


 馴染みの深い人物を連れていけば回復していくのでは?と。


 特に俺にはそんな人間がコイツくらいしかいない… もう選択の余地は無く、ゲンキはミライさんの側近達に混ざることとなり見事ジャパリパーク上陸を実現した。


 まぁ、その前に俺は治ったんだけど。


「俺はお前が幸せそうで安心したよ、まぁいろいろあったみてーだけどよ?嫁さんと子供もいて、しかも双子ときたもんだ」


「なんかさ?やっぱり俺はこっち向きだったんだなって思ったよ… みんなが俺を受け入れてくれて、当たり前みたいに助けてくれて、一緒に笑って泣いて怒ってくれた、だから俺にとっては友達フレンズどころかみんな家族だよ」


 ゲンキにとって俺のこの発言は耳が痛いものだったかもしれない、なにせ俺みたいなやつが笑って暮らせる世界を向こうで作り上げるのがこいつの目標。


 そしてそれはすべて俺の為の目標でもある。


「すまん、あの時よりはかなりいいんだ、でもやっぱり過激な連中も多くてよ…」 


「いや、そんなつもりじゃなかったんだ、サンキューな?」


 苦虫を潰したような顔をしたゲンキだったが「でも!」と顔を上げこちらを向き直し、俺に嬉々としてこんなことを伝えてきた。


「実はパーク復興の目処が立ってんだ!なんでもパークの創設の時に関わってた海運会社が、復興の為の物資の輸送をまたしてくれるっつーんだよ!なんて会社だったかな… 月… なんとか株式会社って?ミライさんが言うにはパークの初代所長がそこの社長に顔が利いたとか?まぁそんな感じなんだ!」


 さらっと重要な情報ハショるんじゃねーよ!取引先くらい把握しとけよ!“なんとか”は仕事の上で禁句だぞ!いや!俺も知らんけど!


 ただとにかく凄い会社らしい、いろんな団体の力を借りてパークを守ってくれる… パークが運営していた当時カインドマンみたいなやつが近づけなかったのもこの会社と所長の力あってこそらしい。


 にしても…。


「初代所長… それって誰?どんな人?」


 そういえば知らない… そもそもジャパリパークを創設した者とは何者なんだ、教科書に乗るくらいの施設なのに創設者なんて聞いたこともない。


 なぜ?


「いや、知らん…」


「おい特別調査隊、勉強し直してこい」


「わかんねぇんだよ!資料の一つも無いんだ!誰も教えてくんねーし、知りようがないんだよ?」


 謎だな… でもこんな面白い場所を作り出す人なんだ、きっととてつもない人格者で動物愛に溢れた統率力の尋常じゃないとにかく半端ない完璧超人に違いない。


 都市伝説だなまるで、ワクワクすっぞ!


「しっかし本当に結婚してるんだなぁ?へぇ~?あの恋愛のれの字もわかってなかったお前がなぁ?」


「俺はお前の結婚の方が驚きだよ、結局誰?吹奏楽部のエリちゃんか?」


「ちげーよ… つーかさ、同窓会でエリちゃんに会ったけどあの子お前の方がタイプだったらしいぞ?」


 なん… だと…?


 なんでも普段は先輩ぶっ飛ばしたり寡黙でミステリアスなのに、話してみると案外柔らかいところがギャップ萌えポイントだったらしい… あと顔。


「結局顔なんだよな女ってやつは…」


「これは生まれつきだもん仕方ないだろ?母さん譲りだ、でほら?お前の嫁さんは?」


 ゲンキの妻になった女性、彼女とゲンキは大学の獣医学部で会ったのが初めらしい。


 ということは、俺とゲンキが会う前からの俺の知り合いってことだ。


「お前に謝りたがってたよ、ずいぶん昔のことだけどすげーヒドいこと言っちゃってそれっきりだからってさ?獣医になりたいのもそもそもお前にしたことに罪悪感があったかららしい」


「誰だよ?」


 名前を聞いたとき驚愕した… 昔なんてレベルではない。

 あんな小さな頃に起きたことを未だに胸に抱えて生きてきたというのか?


 しかも謝りたいと言っているんだ…。


 悪いのは俺なのに。


「彼女… 右肩に傷が残ってるだろ?」


「そうだな」


「俺が付けたんだ… だから、謝らないとならないのは俺の方なのに…」


 若い女性の肌に消えない傷を残した俺は恨まれはしても謝られるような男ではない。

 

 俺がゲンキの妻と会ったとき、それは俺が3才の頃だった…。


 彼女の… ゲンキの妻の名は“アイ”


 あの時俺が怪我をさせた女の子だった。



「美人だぞ~?見るか?」


 俺はお前の嫁さんに怪我させたんだぞ?なんでそんな楽しそうなんだ?

 

 と口にはしないまま、俺は差し出された写真を手に取った。


「おいおいゲンキお前さぁ…」


「なんだよ?言っとくが本当に俺の嫁さんだからな?」


「じゃなくて!アイちゃん妊娠してんのかよ!お前こんなとこ来てる場合か!早く帰れ!」


「まぁ聞けよ、俺だって当然残るつもりだったさそりゃ?」


 その写真には、大きなお腹に手を添える黒髪で長さにしてセミショートくらいの… 確かに美人になった彼女がそこに写っていた。


 よく見れば面影がある気がする、なにせ3才の頃なので顔立ちなどそこまで覚えてはいない。


 でも、彼女は確かにアイちゃんだ。


「嫁さんに言われちまってさ~?自分は大丈夫だから親友ならちゃんと助けてやれって、まぁ見た感じ俺の手は必要無かったみたいだけどな?」


「そっか… いや、お前のおかげで助かったんだよ?ありがとうな?帰ったらアイちゃんにもよろしく言っといてくれるか?あの時はごめん、それからありがとうって」


「おぅ必ず伝えてやる!今度は家族で来るからな!そんときゃ案内でもしてくれよ!」


 しかし驚いたな、ゲンキとアイちゃんが結婚したのか… もう子供もできてるなんて、時間の流れを思い知った。


「そうだ… これ、渡しとこうかな?」


「お前の家族写真か?」


 俺は家族四人で写った今年の写真の裏にアイちゃん宛にメッセージを添えて手紙代わりにすることにした。


“ アイちゃんへ


 ゲンキとの結婚と妊娠、おめでとうございます。

 俺は今とても幸せです、そちらも末永く幸せであることを願っています。


              ユウキより”


「必ず渡しとく… さて、そろそろお前のとこの双子にちょっかいだしてくるかな~?」


「ハハッ…いじめるなよ~?」



 昔から小さな兄弟達の面倒を見てきたゲンキはクロとユキの扱いにもすぐに慣れていた、耳と尻尾はないが二人ともよくなついている。


 アイツならいい父親になれるだろう。


「クロユキく~ん?シラユキちゃ~ん?おっさんが遊んでやるぞ~?」


「わーい!おじちゃーん!」

「なにして遊ぶの~?」


「あ、すいませんゲンキさん… 二人ともワガママ言ったらダメだよ?」


「あぁいいんすよ奥さん!慣れてるんで!」


 気を付けろゲンキ、うちの子達はお前の言う普通とはかけ離れているぞ?


 ゲンキが子供達にもみくちゃにされ始めると妻がこちらへ歩いてきた、子供達を任せきりだったから疲れているだろうか?お茶の一つでも用意しとかないとな。


「はいどーぞ?」


「ありがとうございます!ゲンキさん、やっぱり優しい人ですね?子供達ともすぐに仲良くなりましたね?」


「惚れた?」


「もう!怒りますよ!」


 ちょーっとだけヤキモチ妬いちゃったから意地悪してやったのさ、まぁ「はい!」って元気よく返されても俺はショックで火山に身を投げるんだけどね。


「まだわかってくれないんですか?僕はシロさんだけのものです、シロさんに独り占めされたいんです」


「き、急にそんなこと言われたら照れちゃうじゃないか… わかったゴメンね?大好きだよ?許して?」


「後で… 構ってくださいね?たっぷりワガママ言わせてもらいますからね?」


 へへへへ… なぁんだよ任しといてよ?いいよいいよなんでも言って? 



「ぼく仮面フレンズやる!」

「わたしもーー」


「仮面フレンズ?なんだいそりゃ?」


「「パパだよ!」」


 仮面フレンズは向こうに浸透してないもんな、向こうは本家本元の仮面ライダーだから、あ!今はどんなライダーやってるのかな?楽しみ~!


「ユウキ!お前ついに本物のヒーローになったのか!やるな!」


「パパは燃えるヒーローなんだよ!」

「そうだよ!炎の力で蔓延る悪を打ち倒すんだよ!」


「なんだそれ!?難しい言葉知ってるねクロユキくん!」


 いや実は俺はもう燃える男ではないんだなこれが、今が旬のホットな男期間は終了してしまった…。


 あれは一ヶ月ほど前のことだった。






 みずべちほーのステージにて、ヒーローショーはホワイトタイガーさん主演の元たまに続けられていた。


「ハーハッハッハッ!ブラックガオガオ軍団は復活したのだ!しかも今回はヘラジカ軍と手を組んだ!我々は最強だ!ジャパリマンを全て献上しろ」


 と姉さんぞろぞろ手下を引き連れ名演技を見せつける、後任の仮面フレンズホワイトタイガーはその猛攻に思わず膝を着く… その時だった。


「くっ!我がこんなところで屈するわけには!?」


「ハッハッハッ!とぅ!」 


 空の彼方に踊る影!


「よく来たなシロ!勝負だ!」

「ヘラジカ様その名は今は禁句ですぅ!」

「助っ人でござるよ!」


「む、そうだった!誰だ貴様は!シロか!」


 師匠のセリフ?の後に続き俺は高らかに名乗りを挙げる。


「俺の名は怒りの超戦士!仮面フレンズ!バーニングフレイムヒートファイヤーフレアフェニックスだ!」


「バーニン… なんすかたいしょー?」


「バーニングフレイムヒートファイヤーフレアフェニックスだよ」コソコソ


「やべーよ覚えらんねぇよ…」


 ホワイトタイガーさんを休ませつつ俺は前に出てあらかじめ蓄えておいたサンドスターを炎で爆発させた。


「この浄化の炎を恐れぬのならかかってくるがいい!」ボォォォウ!!!


「「「おお~… 」」」←感心


 浄化の炎は敵意を向けないと対象を燃やすことができない、それを利用したパフォーマンスだった、客席からは歓声があがり俄然こちらもみなぎってくる。


「んぉお!?それが例のやつか!?凄い熱量だなぁ!いざ勝負だ!」


※浄化の炎は敵意を持たぬ限り暖かくフレンズも恐れを感じません。


「あの… なんか火山から飛んできたんだけどあれは?」


 ハシビロちゃんが指差す先には真っ赤なセルリアンのような鳥がこちらに向かって来ていた。


 そしてそいつは俺にはなんなのかお見通しだった…。

 

 そう、ヤギだ。×

 

 そう、スザク様の力の化身だった。○


 まさに神からの刺客である。


「やばい!スザク様だ!?」

「!!!!!」ガシッ

「あーはー!?」


 あっさりと捕まった俺は火口まで連行されてしまう。


 \シロー!?/ \ワーイデッカイゾー?/ \オォ!ショーブダー!/


 というみんなの悲鳴が聞こえてくるが、俺は成すがままだ… 俺はこれからどうなってしまうのか?





 サンドスター火山… 火口。


「なんじゃお主、そのふざけた仮面は?さっさと外せ」


「はい…」スポッ


 仁王立ちスザク様の前に正座を余儀なくされ仮面を外した俺、これから小一時間は説教が続くだろう。


「あれほど浄化の炎を遊びに使うなと言ったなぁ我は?なのになんじゃそれは?」


「仮面フレンズです…」


「はぁ?」ゴゴゴゴゴ


「ひぇ…」


 やべーよ… やべーよ…。


「お前のぅ!この前は料理の火起こしに使っとったなぁ!?いい加減にせんか!神聖な浄化の炎をなんだと思っとる!」


「すんません、でもこれ使ったらみんな盛り上がるしカッコいいからパフォーマンスにいいかな~って…」


「こんのぉ~ッ!愚か者!!!もういいわかった!」


 とうとう煮え湯を切らしたスザク様は全身に炎を巻き起こしながら俺の頭を鷲掴みにした、まさか自分がアイアンクローをくらってしまう日が来るとは。


「痛い!痛いっす!」


「その炎はお前に定着している故!取り返すことができんのが悔やまれるが!ならば封印じゃ!」ゴォォォォオ!!!


「えぇあぁ!?ウソダドンドコドーン!?」



 こうしてスザクロックを掛けられた俺はバーニングモードになれなくなってしまったのである、ただし…。


「なんじゃその不満そうな顔は!浄化が出来るだけありがたく思え!またセルリアンになられてはたまらんかのぅ!」 


 浄化はできるらしい、これがなければセルリアンを補食できないし助かった。


 思うに、俺がまた何かの拍子で心を焼いてしまうのも心配してくれたんだと思う。


 神の力を神ではないものか使う、代償は計り知れない。


 まったくもう!スザク様はツンデレなんだから!





「いろいろツッコみどころはあるけどよー?お前バッカだなぁ~!」


「うるせぇよ、もともと過ぎた力だったし、いいんだこれで…」


 クソ… 俺のバーニングモードが!


 ただ浄化可能ということは超サンドスターモードにはなれるということ。


 “神・野生解放”改め“真・野生解放”だ


「まぁ、子育てに神の力なんていらねぇな確かに」


「その通り、俺の仕事は妻を笑顔にして子供達を立派に育てることさ?」


「すっかり家庭的なパパやってんのな?」


 そりゃそうだ。


 だって俺は、美人の嫁さんと俺達そっくりな子猫を守っていかなくちゃあならないんだ。



 “親猫” なんだから。

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