第74話 ただいま

 前回までのあらすじ。


 復活した俺は神っていた。←文字通り



「ガァァァァァア!!!」


 ザンッ! と切り裂かれたセルリアンを背に俺は特撮ヒーローよろしくの決めポーズとると一言…。


「燃えたろ?」ビシッ


 ブボォギャァァァン!!!!


 その瞬間切り裂かれたセルリアンは爆炎の炎に包まれる。

 そして炎が消える頃、セルリアンは跡形もなく燃え散っていた。


 事態は強くなりすぎた俺の手によって鎮静化された。


「おいおいなんだそりゃあ?コントロールできんのかよ?」


 とポケットに手を突っ込んで唖然とした顔を向けるのは親友、ツチノコちゃんだ。


「気付いたんだ、要はサンドスターが足りていればいつでも引き出せるんだよ?初めて使ったときは体にサンドスターロウを大量備蓄してたからね」


「ほぉ~?オレもビームをコントロールできるようになったから加勢しようと思ったが、これじゃあ返って足手まといになったな… とうとうヘラジカのヤツを超えたな?」


 と彼女は仰ってますがこれは飽くまでスザク様の力だ、俺は俺自身の力で師匠を超えていかないとならない。





 しん野生解放やせいかいほう


 俺が船を沈めた時の状態のことだ、体内に充実したサンドスターはその光の爪だけではない、右手のみならず両手両足から自由に操ることができる巨大な獅子の四肢を使うことができるようになっている。


 超サンドスターコントロールとでも呼ぼう。


 それにしても飛び出す手足かぁ… すげぇやスーパーロボットみたいだ!


 腕が飛び出すババンバン!足が飛び出すババンバン!バンバンバンバンバンバンバンバン!鋼鉄ぅ~シローグ!


 ビルドアーップ!ナックルボンバー!ダイナマイトキィーック!


 って感じでまるで磁力の力で戦いそうな。


 これも全てスザク様からお借りしている浄化の炎のおかげだ、この力は当時フィルターとして俺の体に残っていたサンドスターロウをじわりじわりと浄化してくれていた。

 しかしそのスザクフィルターは俺の激しい怒りによって解放… だかその時フィルターはなぜか消えずにスザク様の浄化の炎として再変換、そのまま俺の体に残った。


 結果、俺は浄化の炎を我が物としてサンドスターロウを瞬間的に浄化する方法を身に付けることができたというわけだ。


 つまり、四神がサンドスターロウを操れるというのはこの“浄化”の力だったというわけだ。


 そしてこの炎… 敵意を向けた物だけを爆炎に包むことができる便利ファイヤー機能を搭載しているらしい、おかげで妻も火傷しないで済んだし… 待てよ?ってことはあの服燃えねぇかなーって敵意向けたらかばんちゃんの服だけ燃やせるんだろうか?


 えーとつまり…。


「あーん!エッチな炎ぉ~!」


「あぁ大変だ火傷が無いかチェックしないと… 大丈夫かい?」


「もっとしっかり見てくださぁ~い///」


 なるほどなぁ、さすが神の力だ… 俺のマグマがほとばしってきやがった。←邪神



 それはいいんだが、上手いこと使えば料理の時火起こしも楽チンだな。

 神レベルに到達すると火にもこだわり始めるんですよ。


 火ってなに使ってますか?

 浄化の炎ですね。

 わぁキラキラしてるー。


 よし、きっと素敵な料理になるな。





「快調ではありませんか?とても廃人だったとは思えません」


「あ、オイナリ… 様?」


 真っ白なキツネ、この方が力を貸してくれなければ二人が俺を助けに来ることはできなかった。


 つまり俺が助かったのもこちらのオイナリ様のおかげというわけだ。


「ありがとうございますオイナリ様、このお礼は後日必ず…」


「良いのです、正しき者を導くのが私の役目… お礼ならそこのツチノコとあなたの大切な人に言っておやりなさい… 彼女、待ってますよ?」


 そうだ、起きた時一声掛け合ったきりだったな?セルリアンめ!よくも邪魔してくれたなっ!


「ふふふそれにしても、“総集編”… 素敵ですね?本当の愛を見ました、奥さんのこと余程愛しておられるようですね?」


「え?あぁハハハ… そりゃもうとっても、お恥ずかしいですはい///」


 総集編… ってなんだ?わからんな。


「大切にしておやりなさい、彼女もまた同じくらいあなたを愛しています… 大切なものは決して離してはなりませんよ?」


 そう言ったオイナリ様の目はどこか寂しげで、前に何かあったのだろうか?と連想させるに十分な悲しみを感じさせたが、それを詮索する勇気は俺にはなかった。







 ところで、寝起き早々セルリアンを退治しながらアホなこと考えていた俺だったが、忘れていたことがあった。


「じゃあシロさんそこに座ってください」


「はい…」


 例の大事な話だ、察しはついている… こんなおちゃらけてていい話ではない、俺はもうダメかもしれない。


「なんの話しかわかりますか?」


「ツチノコちゃんのことかな…」


「隠さないんですね?」


「まぁね」


 というか… 今更隠しても無駄だろう、あれはもう6年くらい前になるか?


 いま思えば殺してもらうためにキスしようとするって?イカれてる… 参ってたから付け入り易いツチノコちゃんに甘えに行ってしまったのかもしれない、どーせ自分はこのままセルリアンになるから誰からも嫌われていいんだと好き勝手やってみたくなってしまったのかもしれない。


 最低だな、ツチノコちゃんは仕方ないって言ってくれたけど傷つけただろうし。

 結局俺が妻を裏切ったことに変わりはないんだよな。


 はぁ、具合悪くなってきた…。



「許してくれなんて都合のいいことは言わない、ずいぶん前に平原で星を見ながら話した時のことを覚えてる?」


「お姉ちゃんとケンカした時のことですか?」


「そう…」


 俺たちはその時こんな約束をしたはずだ。


 いつか俺のことがどうしても嫌になって、本当に一緒にいたくなくなったならそれは仕方がないけど、思ってもいないなら絶対に別れ話はしないでほしいと…。


「だから君が俺に愛想尽かしてしまったのなら、その時は本当に君の隣にいる資格がない、俺は出ていくよ… ただそうなったとしてもツチノコちゃんのとこに行こうなんて思わない、それは俺が君になんて思われようと君を愛しているから… まぁたまに子供達に会うくらいのことはしたいし、許されるなら俺はなんだってするけど… いや、ちがうね?先にごめんなさいだ、本当にごめん… この通り…」


 床にオデコ擦り付けてこれでもかってくらい謝罪したつもりだ、本当にそれくらい悪いことをしたんだ俺は… 正直彼女に拒絶されたらせっかく復活したのに今後生きていく自信がないし心を閉ざしたままの方がまだましだったんだ、だから俺は彼女の意思に逆らうつもりはない。


 許されるどうかは自分の意思ではない。


 罪とはそういうものだ。



「シロさんのバカ…!」


「え…?」


 顔上げると涙いっぱいの目で俺を見る妻がいた… また泣かせてしまったぞ、そろそろ腕の一本や二本は覚悟した方がいいかもしれない、こんなに何回も自分の妻を泣かせている男は多分俺くらいだ。


 目が合ったとき、涙を浮かべた彼女は少し強めの口調で俺に言った。


「あの夜に僕が言ったことを思い出して下さい!」


 あの夜、平原で星を見た夜のあの日に確か彼女は…。


 嫌になったならその時は仕方ないって返事に彼女は言ったはずだ。


 “そんなこと思いません!絶対!”


 と確かこう言ったはずだ。


 するとちょっぴり必死そうに、泣きながらまっすぐ俺の目を見て言ってくれたんだ。


「なんで出てくなんて悲しいこと言うんですか?せっかく元通りになったのに… また家族仲良く暮らせるようになったのに… グスン もうどこにも行かないで?僕の側から離れないで…?」


「あぁいや!もちろん離れるつもりなんてないよ!?かばんちゃんさえ良ければ手錠でも首輪でもなんでも付けていいから!いや付けてくれ!」←錯乱


「し、しませんよそんなこと!ちゃんと僕のことを想ってくれてるならいいんです… 僕すぐヤキモチ妬いちゃうから、何もなかったってわかっててもモヤモヤしちゃって… だって僕のシロさんを盗られたくない、僕だけのシロさんなんだもん…」


 嬉しいけど胸が苦しくなるじゃないか、抱き締めねば… 今すぐ抱き締めて責任とらないと。


 そこらからは強めに抱き締めてただ「ごめん」と繰り返した… 彼女にはとてもとてもさみしい思いをさせた上にこうして不安な気持ちにもさせてしまった、できるならなんだってしてやりたい。



 俺は妻を愛しているから。



「約束してください…」


「なんでも言って?」


「二度と離しません… シロさんも僕を二度と離さないでください」


「いいよ、離れないようにいつもお姫様抱っこで移動しよう、それがいいね任せて?」


 なんて歯が浮くようなことを言うと彼女は顔を赤くして嬉しそうにしている。


「えへへ…」


 と彼女のこんな顔を見るのが久しぶりに感じるのは、ここしばらく俺が彼女にあまり構ってやれていなかったってことだ… いろいろいっぺんに起こりすぎたんだ。


 あぁ~しばらくかばんちゃんのことしか考えたくないな…。


 と、思ってたんだけど~?


「あ、パパ元気になった!」

「ユキも抱っこしてー!」


 子供達… そうだな、二人とも忘れてはいけないな、反省反省… でももうちょいママとくっつかせて?まだチューしてないの、あっち向いてなさい?


「シロさん、二人も構ってあげてください?ずっと心配してたんですよ?お義母さんも心配で着ききっきりでした」


「約束したからこの手を離すわけにはいかないな」


「大丈夫ですから!」


 子供達も構ってやりたいがここは少し意地悪をしよう、困る彼女の表情もまたたまらんのだ。


「もう君との約束破りたくないんだ… ほらラッキー!音声サンプル再生だ!」


「任セテ」


“『二度と離しません… シロさんも僕を二度と離さないでください』”


「あー!もー!ラッキーさんまでやめてくださーい!」



 こうしていると実感できる… 幸せだ、幸せが戻ってきたんだ。


 俺は家族とここに生きてる!




 それから家に帰ると島中のみんなが俺を出迎えてくれた。


 姉さんは泣いて喜んで俺にヘッドロックをかけるし、師匠は神モードと戦わせろと掴み掛かってきたが… 「家族サービス!」と言って一蹴しておいた。


 もう家族の元を離れるようなことは二度としないし、家族に何かあるなら俺はそれに全力で対応する。


 スザク様もオイナリ様も言っていた、綺麗事では済まないこともあると。


 口では何とでも言えるし何かを為し遂げ維持するには暗い闇の側面が必ずでてくる。


 守るためにその手を血で汚すこともあるだろう、誰かを悲しませることもあるだろう。


 それでもやらなきゃならない時がある。


 罪を抱える覚悟をしなくてはならない。


 もう迷わない、俺は自分の正義の為なら、家族を守る為ならいくらでも汚れてやるさ。


 それが地獄行き確定だったとしてもいい、死んだあとのことなんてどうでもいいんだ。



 でも、俺が生きてるうちになんとかしてくれるんだろ?


 なぁ… ゲンキ?










「ねぇかばんちゃん?」


「はい?」


「ただいま」


「はい!おかえりなさい!」


 ずっと寂しい思いさせた、それでも俺を待っていてくれた。


 消せない罪はあるが、君に対していろいろ償いたい。


「なんでも言って?どんなワガママも聞いてみせる」


「じゃあ今から二人の時間にさせてください?夜子供たちが起きるまででいいんです」


「そんなんでいいの?」


「ずっと寂しかった… もう誰にも邪魔させません」


 なんだそんなことか、お安いご用だ。


 この際云うまでもないが、子供たちも寝静まった夜はやっぱり図書館の地下室だ。


 “そういうつもり”って訳じゃないんだ、ただゆっくり二人で話でもしたかった。

 昔みたいな初々しい感じを思い出して二人でゆっくりしたかった、まぁもちろん下心はあるんだが…。



「あの… ツチノコさんとのあれは、やっぱりショックでした」


「ごめん… 黙ってたのも、そもそもあんなことしようとしたのも間違ってたよ」


「でもシロさんの心の中で僕が特別なのも確認できて嬉しいです!」


 肩を寄せ身を預けてくる彼女の黒髪を撫でながら他に何があったのか尋ねた。


 なんでも思い出を覗くことができたそうだ、それでツチノコちゃんとのことを知ったのか。


 そしてその中にあったらしい。


「あの、“かばんちゃん総集編”ってなんですかあれ?」


「それオイナリ様にも言われたけどなんなの?どんな内容?」


 俺の記憶にそんなフォルダがあるのか、まるでエロ動画がたくさん入ってるフォルダを発見された気分だな。


「いろんなシチュエーションでいろんな表情の僕が“シロさん”って名前を呼ぶのが何度も繰り返される内容でした… すごく昔の結婚する前のもありました」


「それ三人で見たの?やん恥ずかしい///」


「もぉ~僕だって恥ずかしかったんですよ?でも、嬉しいんです… 愛されてるって感じました」


 当たり前のことさ、だって俺は愛しているんだ君を。

 

 これまでのこと、君への愛故だといっても過言ではない。


「わかってくれた?俺が君をどれだけ愛しているか?」


「はい…」


 肩を優しく抱き寄せて、互いの指を絡め見つめ合うと。

 

 俺たちは唇を重ねた。


 なんだかとても久しぶりな気がして、離れた時すごく緊張した。

 でもそれは彼女も同じで、潤んだ瞳で俺をチラチラと見ながら頬を紅潮させている。


 とても愛しい…。


 俺があのとき返事がないと知っていても懸命に声を掛けてくれた彼女。


「あの時君の声、ちゃんと届いてた… 

 でも面と向かう勇気がなかったからあんな風に行動だけで… ごめん」


「嬉しかったです… まだシロさんが僕を見てくれてるってわかったから、子供たちも喜んでました」


「俺の手は、人の命を奪い血で汚れてしまったけど… まだ君や子供たちを幸せにしてやれるかな?」


 迷いはないが悩みは消えない、そしてその時の罪は消えない。


 不安はいつだってあるんだ…。


 でもそんな俺の手をぎゅっと握り彼女は言ってくれた。


「汚れているかどうかなんていいんです… 僕達を幸せにしてくれるのはシロさんしかいません、僕の夫はシロさんだけです、クロとユキのパパもシロさんだけです、これからもっと幸せにしてください?それに…」


 続けて、少し暗い表情をした妻はさらに手を強くにぎり直した。


「ありがとうございます、僕が汚れてしまう前に助けてくれて… すごく、怖かった…」


 気を使わせて思い出したくもないことを思い出させてしまったようだ、うっすら涙を浮かべる妻を俺はまた抱き締めた。


「大丈夫、もう怖くないよ?二度とあんな怖いは思いさせない…」


 震える肩とすすり泣く声… 抱き締めたま優しく髪を撫でていると、妻も俺を抱き返す。



 そして…。



「シロさん…?僕はシロさんじゃなきゃいやなの、あんなこともう思い出したくもない…

 だから、僕の心と体をシロさんでいっぱいにして?自分が汚れていると言うならそれも全部僕に分けて?綺麗にはしてあげられないかもしれない、でも分け合えば少しは楽になると思うから」


「かばんちゃん…」


 腕の力を緩め、優しく彼女の両肩に手を置き直すと、一度髪を撫で頬に手を当てた。


 普段、俺は衝動に駆られて彼女を貪るように求めているが今夜は違う。


 驚くほど冷静、でも求める気持ちは強く、それこそ体が燃えるように熱い… これは例の炎のせいではないだろう。


 でも、今夜はそんなに無粋なマネはしない。


 ゆっくりと… 気持ちを確かめ合うように彼女と楽しみたい。



 長めのキスを終えると彼女が息を荒くしながら恍惚とした表情で言った。


「ハァ… 今日は、優しいんですね?それとも意地悪ですか?」


「いいじゃない?今日はゆっくり楽しみたいんだ、ダメかな?」


「いえ… わかりました、じゃあ今夜はたくさん構ってくださいね?」










 その晩俺達は互いとの時間を取り戻すかのように。


 ゆっくりと… ゆっくりと…。


 

 溶けてひとつになるような。



 そんな夜を過ごした。

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