第67話 地下資料
「島長… なにか用か?」
「四神獣スザク!聞いてほしいのです!」
「シロが回復に向かっているのです!」
「なんじゃと…!?」
二人は食後すぐにスザクの元へ行き、その現状を事細かに伝えていった。
その時スザクは驚愕の声を挙げ改めて思った。
どこまでも規格外なヤツじゃ…。
博士達はシロの心を取り戻したい…。
スザクには、そのための解決策を出してもらおうと足を運んだのだ。
「お主らの言う通りなら、ヤツの心は焼きれとらんということ… あるいは灰が降り積もるように焼けた後もわずかに形が残っておるのか… いずれにせよ、ヤツの中の“帰りたい”という気持ちをもっと引き出さなければならん!かばんが鍵じゃ、しかし足りん!もっとヤツの心の奥まで入って引き上げるくらいのことをすれば恐らくは…」
「かばんのテレパシーではダメなのですか?」
「心に直接語りかけるなんてかばんにしかできないのです」
要はもっと深層意識まで入り込む方法を探さなければならないとスザクは言っているのだ、かばんのテレパシーでは自分の言葉を伝えることはできるがシロの心を読み取ることができていない、故に不十分… 消えかけの彼の心を覗き込む方法を探すことになる。
「すまぬ、我にも専門外なのじゃ… とにかくもっと深くヤツの心に入り込む方法を探すのじゃ!それには間違いなくかばんの力が必要になる、なにか進展があればまたくるのじゃ、力になろう!」
スザクの言い様だと、なにか特殊な方法でシロは心を取り戻せるらしい。
具体的な方法はスザク本人にもわからなず、故に大きく進展はないが長はそれが聞けただけでもと希望を持ち、一旦図書館まで降りることにした。
これをかばんに伝えたら、大喜びなのです!
二人の顔にも笑顔が溢れ、残るスザクは降りてゆく二人に背を向け定位置へ戻る。
その最中残る3つの石板に目が止まる。
「…ん?」
東、西、北… と目を向けては眉をしかめてジトっと目を細めた。
「なんじゃお前ら?仕方ないじゃろ我はこういう性格なんじゃ!」
実際に話している訳ではないが、スザクは昔を思い出すとつい皆に言われている気がしていたのだ。
「この世話焼きめ」と…。
あれは我の炎、その炎で焼かれたヤツの心は我の責任でもある。
我からしてみれば道理じゃ…。
セイリュウのアホめ、お前だって皆に厳しいわりに現を抜かすこともあったじゃろ?
ビャッコのチビ、お前も皆に「いつでも頼れ」とか言って寛容だったじゃろうが?
ゲンブの老いぼれが、我らだって喜怒哀楽を感じる者なんじゃろ?なら情緒的になることだってあるじゃろ…?
フッと顔を上げ周りを見渡すが、そこには火口から吹き出す結晶、三枚の石板、あらゆるちほーの景色…。
立つのは自分ただ一人。
「なんじゃ、寂しくなんかないぞ?フンだ…」
定位置に戻ったスザクはその場で座禅を組むと、また心を無にして瞑想に入った。
…
長の二人が山を降りると、すぐにシロを助けるための方法を探す手筈となった
まずシンザキがゴコクのカコ達に連絡をとり、なんとか彼の心の中に入る方法を探すよう依頼した。
そんな中、シロを心配したたくさんのフレンズ達がお見舞いに訪れていった。
「シロ~?姉ちゃんだぞ~?元気か~?」
「私も来たぞ!さっさと元気になってまた戦おう!」
ライオンとヘラジカだけではない、いろんなフレンズがシロのお見舞いに来てくれた
話し掛けても彼はなかなか反応することはないが、みんな五体満足で彼と会えたことに安堵していた。
彼が最後に見せた力に恐れを抱く者もいただろう…。
しかし、それ以上に皆彼が大切だった。
話しかけたとき、彼が目を向けるだけで皆一喜一憂していた。
「毎日いろんな方がお見舞いに来てくれますねシロさん?」
「…」
「みんな、待ってます… シロさんが元気になるのを…」
「…」
回復はしている、誰が来ても見向きもしなかったころと比べればまだかなり良い。
声を掛ければ目を向け動きを見せるようになったのだから。
もう目を覚まさない、目覚めてもそこに彼はいない…。
そう言われていたはずなのに、目を向け時に行動を起こす彼の姿にかばんは希望を抱かずにはいられない、手を握り自分はここにいると彼に強く認識させていく。
「また、綺麗な物を探しに行きましょう?美味しい物をたくさん食べましょう?僕はいつまでも待ってます、でも早く元気になってください?寂しくてたまに泣いてしまいます」
…
その時だ、ノックの後にドアを挟んでシンザキの声が聞こえてきた。
コンコン!
「かばんさん、ゴコクのツチノコさんから通信で、話したいことがあるそうですぅ?」
どうやら向こうでなにか進展があったらしい、かばんはドアを開けてシンザキの持つ通信機を手に取るとツチノコに話しかけた。
「ツチノコさん、どうしたんですか?」
通信機越しに少し興奮した声のツチノコが話し掛けてくる。
“『なぁおい!深層意識ってのは要はアイツの脳ミソの中に入れってことだよな!?』”
の、脳ミソ!?
まさかの単語に少し引き気味になりつつもかばんは話を続けた。
「えっとはい… 彼の考えてること、つまり思考を見えるようにするというか… やっぱり心の中を見たいって感じなんですけど」
“『うぉははぁ!?いいかかばん!地下室の資料を見ろ!セルリアンのレポートの五番目のやつだ!』”
地下室の資料…?セルリアンに関するレポートの… 五番目…?
かばんも地下室の資料には目を通したことがあるがそこまで詳しくはない… シロはなにかあると前例がないかとよく読み漁っていたが、大抵そうして彼が調べものをして二人で答えを見つけていたりした。
「あの、それにはなにが書いてあるんですか?」
“『いいから読め!タイトルはなぁ!
“夢とセルリアンについて” だ!』”
夢?セルリアン?つまりどういうこと?
“『それを突き詰めていけばあのバカの夢の中に入れるかもしれない!カコともその辺は調査中だが、そっちには神様がいるんだろ?読んだ上で聞いてみてくれ!いいな!?』”
「あ、あのちょっと待っ…!」
ブツン… とそのまま通信は一方的に切られてしまった。
夢の中に入る?僕がシロさんの夢の中に?頭の中に入るってこと?
不思議なことは何度もあったが、誰かの頭の中を覗く… ましてや夢の中に入るだなんて聞いたこともなかった。
でも…!可能性があるなら!
階段を駆け降りて扉を勢いよく開けると早速資料探しに入る。
セルリアン… セルリアンのレポート。
「あった!これの五番目!」
ファイルに纏められたレポートの1つを手に取りタイトルを確認すると。
「“夢とセルリアンについて”… これだ!見付けた!」
ツチノコさんはなぜこれがここにあると知ってたの?と少し疑問には思ったが気に止めずレポートを読み漁る。
えと…。
“ 夢とセルリアンについて。
ある日クビワペッカリーのフレンズが行方不明となり捜索に出たが手掛かりがない、そこで占い師と評判のダチョウのフレンズに力を借りて行方を探すことになった。
結果、古いトンネルを抜けた先の一面ピンク色の世界にいることが判明した、そんな場所はパークに存在しないはずだが探してみると確かにあった。
道中ヒツジのフレンズが同行を願ってきた、何でもクビワペッカリーとは友人らしく、彼女は夢で例のピンク色の世界にいるクビワペッカリーを見てそれを不信に思ったらしい。
ダチョウの占いと一致するのは偶然ではないだろう、彼女の同行を許可した。
例の世界に入るとマレーバクとヤマバクのフレンズが案内を申し出た、なんでもこのピンクの世界は“夢の世界”らしい、今更だがにわかに信じがたい。
二人のバクの案内で進むと大型のセルリアンが何体か確認できた、そして振り返るあったはずのとトンネルがない、どうやら我々は閉じ込められたようだ。
周囲の調査によりこの世界もまたサンドスターによって作られた世界だとわかった、夢の世界まで具現化するなど、サンドスターはまだ謎が多すぎる。
バクに案内された先に二人のフレンズがいた。
一人はハシブトガラス、そしてもう一人が“ヤタガラス”だ、バクに案内を命じたのは彼女らしい。
彼女の説明によると夢の世界はセルリアンによって支配されているらしく、夢の力が強すぎるためにヤタガラスの力でも脱出が不可能となっていた。
脱出にはセルリアンを倒し夢の力を弱めることが条件らしい、セルリアンを倒しつつクビワペッカリーを探すことになりそうだ。
この世界には様々な夢がある、例えばヒグマがオシャレをしていたり、スカイインパルスが合体技を完成させたと歓喜していたりだ。
ただどれも半透明に見える、どうやら誰かの夢が投影されるとそのように見えるらしい。
さらにこの世界の凄いところは望むとなんでも手に入るというところだ、例えば美味しいものが食べたいと願えばそれが手元に現れる。
しかしこれはこの世界に閉じ込めるための罠、使えば使うほど夢に惑わされセルリアンも増えていく、厄介な世界だ。
そしてその証拠にクビワペッカリーに会わせろという願いは叶えてくれない。
ようやくクビワペッカリーを見付けたがすでに夢に魅入られた後らしく「帰りたくない」と逃げてしまった、捜索を続けつつ発見したのはこの世界を支配する親玉のセルリアン。
“ユメリアン”と命名された。
クビワペッカリーの説得と共にヤタガラスの力を借りた我々はユメリアンを撃退、同時に出口が出現した。
ユメリアンはまだ残っており、危険なので全て掃討することで今回の件は幕を閉じた。
サンドスターの作り出す夢の世界、そこに巣食うセルリアン。
まだまだ調査が必要である。”
…
「ユメリアン…」
かばんはレポートを閉じて棚に戻すと考えた。
えっと、セルリアンを使ってわざと夢の世界を作り出せばいいということ?そんなの危険過ぎる。
それとも、サンドスターで他人の夢を見ることができるという部分に着目するべき?
「ん~…」
頭を悩ませてみたが思い付かない、やはりスザクに相談する必要があると感じた彼女はすぐに地下室から出ると火山に登ることを長に伝えた。
「収穫ですねかばん?」
「えぇ、それならばかばん?我々が連れていくのです」
子供たちとシロを一度サーバル夫婦に任せると、かばんと長の二人はすぐに火山へと飛び立った。
到着すると瞑想を続けるスザクが気配に気付きこちらに目を向けた。
「進展… じゃな?」
かばんは軽く挨拶を済ませるとスザクに尋ねた。
「スザク様、夢の中に入る方法をご存じではないですか?」
「なに夢の中じゃと?」
かばんはレポートの件をスザクに伝えると「なるほど」とその場に座り込み顎に手を当て考えた。
「サンドスターで夢に干渉し、他人の夢の中に入る… できるかもしれん」
「本当ですか!?」
かばんは驚きのあまり膝をつきスザクにぐっと顔を近づけた。
これは大きな前進となる、長の二人もかばんもそう確信していた。
「だが簡単ではない、良いかよく聞け?お前達は確かしばしばゴコクに足を運んでいたな?」
「え?はいその、一応家族がいますので」
「ふむ、いや良いのじゃ… ゴコクに神社があるのを知っておるか?読みが正しければそこには神獣“オイナリ”のフレンズが結界を張って眠っておる、そやつを起こして力を借りるが良い、少なくとも我よりは頼りになるはずじゃ」
オイナリサマ?確かゴコクに初めて着いたときもカコさんに教えてもらって一度お参りに出掛けたことがありました。
ツチノコさんはクロが病気になってしまった時にはお百度参りをしてくれたって。
あそこにいるんですか?本当に?オイナリサマが?
「かばん、我は一応神を名乗るフレンズじゃがやはりできることというのは限られておる、ここから自由に動けん我はなんの役にも立てんが… 希望を捨てるなよ?心を炎に焼かれてもヤツが目を覚ましお前を抱き締めたということは、ヤツもまたお前という希望にすがり付いているということじゃ… わかるな?」
「はい…!」
フッと小さく笑い立ち上がったスザクはかばんの肩に手を置いた、少し黙るとその笑顔はまた神妙なものとなる。
「改めて、謝ろう… ヤツの心を焼いたのは我が浄化の業火じゃ、この件は決して我と無関係ではない、我には責任があるのじゃ… すまないかばん」
「そんな… スザク様が助けてくれなかったら彼と会えなくなっていたんです、彼が船で暴れていた時もスザク様の力で僕たちは助かりました… ですからどうか謝らないでください?そして言わせてください、主人を助けてくれて、ありがとうございました!」
頭を下げる四神スザクに丁寧にお礼言うかばん、その時お互いにあったモヤモヤとしたものが消えていった。
「うむ!このスザク!この件に関しては全力で力を貸そうぞ!オイナリに会うのなら持っていくが良い!」
そう言うとスザクはおもむろに尾羽を引き抜き「アイタ」と小さく声をあげながら、それを手渡した。
「あの…」
少し困った、とても綺麗な羽だがどうしたら良いのか?確か以前子供たちにも渡していたし、そんなに大事なものでもないのだろうか?と紅く輝く羽を眺めた。
「それは所謂紹介状じゃ、オイナリに会ったら見せてやるがいい?この四神スザク直々のお達しじゃとな!なぁに断るような野暮なやつではない、もっとも断らせはせんがな」
スザクの想い、島中のフレンズの想い、そして自分の想いを胸に抱き…。
かばんはまたスザクに礼を言うと火山を後にした。
家に帰るなりその日の内にツチノコとカコにこの件を伝えるために通信を繋いだ。
「聞こえますか?かばんです!」
“『かばんちゃん?カコよ、進展かしら?』
『オレもいる、聞かせてくれ!』”
解決策… というにはあまりにも他力本願なのかもしれない、でもそんなことで彼が帰ってくるのなら彼女はどんな試練も乗り越えるつもりだった。
「これからそちらに向かいます、もちろんシロさんも一緒に… ジャパリ神社に行かなくてはなりません」
かばんの声は静かだった、静かに冷静に用件を伝えていった。
「彼の心を救うには神の力が必要です…!
神獣、オイナリサマの力が!」
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