第58話 ニンゲン

 やつらが来た場合の対策として、まず正攻法で帰ってもらうというのを大前提に置く。


 こんなときの為にシンザキさんはパークに住んでいるようなものだ、つまり自然保護官みたいなことをしてもらうのである。


「まず、息子さん一家は決して連中に見付かってはいけません… なぜかはもちろんわかりますかねぇ?」


 もちろんわかっている。


 それは連中の目的がフレンズをいいように利用するためだからじゃない、本質はその先にある… いやある意味、この研究さえ進めば連中は満足してくれるだろう。


 それは。


「連中の最大の目的は人間にフレンズの能力を付加させること、フレンズじゃなくて飽くまで人間にフレンズの力を与えるんだ…

 そうして人の知性やスキルを持ったまま獣の能力も持たせることにより新人類を作り上げる実験… つまりアイツらは獣のように強く人間のように考えることができる兵隊を作りたいんだ」


「兵隊… ですか?」


「そう、人間ってのはしばしば争いごとに加担するのさ?」


 金儲けの為にな…。


 流行りの映画やなんかの話に置き換えると、要はミュータントを作ろうとしてるってことだ。

 そしてその完成形とはつまり俺のことだ、人間の父親とフレンズの母親を両親に持つ俺は生まれながらにして奴等の夢を叶えてしまったんだ、俺を解析すればいつか人間とフレンズの融合を可能にできるのかもしれない。


 あるいは、そういう能力を持った装備の開発が進むだろう。


「その通りです、そしてそれはヒトのフレンズであるかばんさんも、お二人の子供たちであるクロユキくんもシラユキちゃんも例外ではありません」


「じゃあ、カコさんもですか?」


「そうですねぇ… あの人は不老長寿を手にしてしまった御方ですからねぇ?見付かると連中どころか世界中がカコ博士を欲しがるでしょう」


 そうだ、サンドスターにそんな力があると知られてみろ?島中ひっくり返してでも強引な調査が入るぞ、世界中から連中みたいのがわんさか入ってきて一環の終わりだ。


「なので、まず僕が行って正式な手続きを踏んできたのか?などといろいろ理由をつけてお引き取り願おうと思います、不正があればそれを突き付けてやることができますからぁ?少なくともミライさん達が来るまでの足止めができればとぉ…」


「シンザキちゃん、そんなに危ない人たちが来るのに大丈夫?怪我しないよね…?」


「息子さん達だけではないんですよぉ?島中のフレンズ、なによりサーバルを守る為に僕がここに残っているようなものですからぁ」


 シンザキさんが言うには、もし自分が殺されてしまったとしたらその時は、ミライさん達が全力でその真相を国に提示するだろうということ、すると連中の立場はたちまち犯罪組織として認知され幹部はすぐに檻の中だ、そして組織はすぐに解体される。


 それがわからないほど向こうもバカではない、つまり身の安全は保証されていると言うのだ。


 そう都合良くいくだろうか…?


「でもシンザキちゃん!危ないことは絶対しないでね?」


「新婚早々未亡人にはさせられませんよ~」


 なんてシンザキさんはサーバルちゃんとイチャイチャやってるが、この人は下手したら死ぬことを本当は理解している。


 だがそうはさせない。


 いざとなったら俺が…!









 日の出港、そこから少し離れた沖の方にその場に似合わないほどの大きな船が漂着している。


 そして、丁度その場に居合わせたフレンズが二人いた。


「見るのだフェネック!大きい船なのだ!きっとミライさんなのだ!」


「ん~そうかなぁ?時期が早すぎるよー?それにいつもの船と違うと思うんだけど」


 アライグマのアライさん、そしてそのお供のフェネックだった。


「おぉ!何人かこっちに来るのだ!おーい!なのだ!」


 二人はちほーを移動する際に丁度港に通りかかっただけだった、海の方を眺めると大型船からボートに乗って港まで来る数人の男


 男達は港に足を踏み入れると、そのうちの年配の男が一人声高らかに叫んだ


「やったぞ!ようこそジャパリパークヘ!」


 その後ろを武装した軍人のような男達三人が着いて歩く


 彼らもまた、この場所を興味深そうに辺りを見回していた


「ミライの奴にさんざん邪魔をされてきたが、奴等が何度も調査で結果を出してくれたおかげで皮肉にも国の管理が甘くなったからなぁ?隔離されたパークには今や愛護団体も口を挟まない!邪魔をするやつらも半年はこない!今なら研究し放題だぁ!ははは!」


 その男はなんともいやらしい笑いを浮かべる男で、着いてくる兵士達も目付きが悪く柄が悪そうな男たちだった。


 そんな彼らを見たフェネックは、連中に第一印象として酷く嫌悪感を覚えた…。



 なにあれ?ミライさんたちと全然違う、同じオスでもシロさんやパパユキさん達ともなんか違う、なんか…。


 気持ち悪い…。


 

 フェネックは不信に思い「アライさんもう行こうよ?」と声を掛けその場を離れようとしたのだが、当のアライグマは好奇心が勝っているらしく恐れることなく連中に近づいた。


「初めましてなのだ!」


 男達はアライグマに気付くとハッとしてジロジロと舐め回すように彼女を眺めていた。


「おやぁ?早速フレンズが現れたな?しかも2匹… 君達?フレンズは初めてだろう?よーく見ておくといい… やぁ初めまして?君達はなんのフレンズかな?」


「アライさんはアライグマなのだ!気軽にアライさんと呼ぶのだ!」


「フェネックだけど…」


 アライグマはほんの自己紹介のつもりだったが、違和感を感じたままのフェネックはすぐにでもアライグマの手を引き連れて帰ろうと期を伺っていた。


 がその時、数人の男達は声を揃えて笑い始めたのだ。


「「「ハハハハハ!」」」


「何がそんなに面白いのだ?」

「アライさんこの人達なんか変だよ?もう行こうよ?」


 フェネックは笑う男達を放ってさっさと行こうとアライグマの腕を引いたが、良くも悪くも純粋すぎる彼女はそれを拒否した


「ダメなのだ!のけものにするなんてひどいのだ!せっかく来てくれたのだからみんな仲良くするのだ!」


「アライさん…!」


 ひとしきり笑い終えた男達はネットリとした笑みを浮かべたまま彼女に言ったのである。


「聞いたかね諸君?彼女はアライグマだそうだ、可愛いアライグマがいたものだねぇ?」


「可愛い?ありがとうなのだ!」


 言葉をそのまま受け取ったアライグマはいい気分になり素直に礼を述べた… が続けて男達はそれを嘲笑うような言葉を浴びせてきたのである。


「ハハハ!まったくです!まさか“ゴミパンダ”がこんな美少女になるとは!」

「向こうじゃ“害獣”でもこれなら飼ってやってもいいな!」

「もう一人はフェネックギツネってやつだろ?動物でも人の姿でも“高く売れそう”な見た目してるぜ!」


「「「ハハハハハ!」」」


 言われた本人、アライグマにはよくわからない言葉がいくつか並べられたがフェネックにはすぐにわかった。


「あんた達、アライさんのこと今なんて言ったの…!」


 普段感情を大きく見せない彼女が相手をキッと睨み付けて強めの口調で男達に言い返していた、それが意外だと驚いたアライグマは少し動揺していた。


「ふぇ、フェネック!?どうしたのだ?何をそんなに怒っているのだ!?」


「アライさん、私はこの人達とは友達になれない!絶対に許さない!」


 アライグマ自身も、フェネックとは長い付き合いだがこんなに怒ってるところを初めて見たと困惑した。


 年配の男は「フ~…」とあきれたような溜め息をつき怒りを露にするフェネックの前に立ち、言った。


「君は知らなくて当然だが、アライグマは我々の住む世界ではゴミを漁り街を汚す害獣として指定されているんだよ?野生動物はばい菌をたくさん持っててどんな病気かかるかわかったものじゃないしねぇ~?そんなやつらがゴミまで漁るんだよ?まったく厄介極まりない…」


「一方お嬢ちゃんは珍しい動物でな?ペットとしても高値で取引されているんだ、よかったな?」

「しかしゴミパンダとそのフェネックが一緒に行動してるのか?ずいぶんと面白い組み合わせだな?」

「一方は金持ちの家で丁寧に扱われ、もう一方は保健所で殺処分か?まったく皮肉なもんだな?笑えるぜ!」


「「「ハハハハハハッ!」」」


 続く暴言にアライグマもようやく自分がけなされていることを察した。


 ゴミパンダ… 害獣… 自分の種族は海の向こうでそんなにも酷い扱いを受けているのかと。


 フェネックもそんな連中の態度に怒りを抑えきれず、歯を食い縛りその目に野生の輝きを灯し睨み付けている。


「アライさんは… ゴミなんて漁らないのだ?ばい菌だってないのだ!いつも綺麗にしてるのだ!だって料理人は清潔感がないとだめなのだ!」


「料理ぃ?君が?それは食中毒待ったなしだねぇ?すぐにやめなさい、せっかく食べてくれた人の苦しむ顔がみたいのかい?」


「そ、そんな…」


「あんた達いい加減に…!」


 フェネックの怒りも頂点に達した、今にもその男共の喉元に爪を突き立ててやろうとグッと地面を踏み込んで臨戦態勢に入ってた。


 その時だった。


「「待つのです!」」


 空から長の二人、そして連れられて降りてきたのはシンザキ。

 彼は連中が来たことを知り交渉に入るため港へ来たのだ。


「フェネックさん?どうか抑えてください?僕が話をつけますからぁ」


「ここまでアライさんをバカにされて引き下がれって言うの?アライさんがどれだけ傷付いたかあんたは知らないでしょッ!」


「フェネック、気持ちはわかりますが相手が悪いのです…」

「事情を話します、我々と来るのです」


 不本意ではあっただろうが、おとなしくアライグマとフェネックの二人は長に掴まり空へ舞い上がった。

 

 そして二人が降ろされたのは遊園地、そこでは一人港の様子を伺う人物がいた。



 彼… シロだ。







「二人とも、こっちだよ?なにか言われたね?様子を見れば分かる」


 博士達が二人を連れて戻ってきた、やはり妙なことを言われたか… アライさんが酷く落ち込んでフェネックちゃんが見て分かるくらい頭にきてる。


 野郎…!忘れもしないぞあの顔は!


「アライさん、気にするんじゃない… アイツの言うことはすべて忘れるんだ?心当たりのないことを鵜呑みにする必要はない」


「シロさんさぁ… まるで何を言われたか分かってるみたいな言い方をするんだね?猫耳もないのに聞こえてたわけ?知ってたってかことでしょ?外でのアライグマって動物のことをさ?」


「いや… フェネックちゃんもどうか抑えてくれ?アイツらに関わっちゃダメだ、今シンザキさんが追い返すために話をつけている… アイツらは、ここに来ては行けない存在なんだ」


 彼女が何を言われたか?分かるとも、俺なら口が裂けてもそんなことは言わないが… 連中は違う。


 パークの復興を望みながら真の目的はフレンズを使った実験だ、表向きは綺麗事を並べるが本当は人間意外は畜生だと見下しているようなクズ共だ。


 博士達はアライさんを慰めフェネックちゃんをなだめた。

 そして奴等がいる間俺たち一家の存在は隠すようにと念をおしていた。


「基本近づいてはダメだ… 腹が立つのは分かる、俺も今すぐ走って連中を海に沈めてやりたいがダメだ、フレンズが人間に手を下してはいけない…」


 フレンズがヒトに危害を加えた… もしやつらを追い返すことに成功してもその事実があることで父さん達の今後の活動に響く。


 そうなると… もう会えなくなってしまうかもしれない。


「シロさん?アライさんは害獣とかいうのなのか?ゴミを漁ってみんなに迷惑を掛けている動物なのか?」


「バカなこと言うんじゃない!君は俺の優秀な弟子!料理上手で自信家で綺麗好きの可愛い妹みたいな子だ!」


 すっかり自信を喪失して… 目尻は下がり悲しみを露にしている、今にも泣き出してしまうだろう

 なんとか自信を取り戻していつもの元気な顔がみたいが…。


「シロさん、あれがヒトなの?かばんさんやミライさんたちと同じヒトなの?私にはそうは見えないよ、本当は違う動物なんじゃないの?そうでしょ?」


「フェネックちゃん、よく聞いて?ヒトってのは君達が思うよりずっとずっとたくさんいるんだ、とてつもなく多い… そしてその中には自分達が一番偉くて他の動物は下だって決めつけてくるようなやつがいたり、受け入れることができない人たちがいるんだよ…

 でも忘れないで?そんな連中ばかりじゃない、ミライさん達みたいに動物みんなと友達になりましょう?ってヒトもたくさんいるから、パークだってそもそもそういう人たちが集まってできたんだよ?だから…」


 だから…。


 だからどうかそんな目で見ないでくれ。


 頼むよ…?


 彼女も今にも泣き出しそうな、それでいて悲観的な目を俺に向けていた。

 その「お前なんか」って目が俺に向けたものではなかったとしても、俺にはそれが耐えらるほどの強い心がない。


 君がそんな気持ちになるのは優しくアライさんが大事だからだ、わかってるんだ…。


 わかってんだけどさ…。








「シロ!シンザキ達の様子が!」

「なにやらよくない感じになってきているのです!」


 博士達のその目と耳に、向こうの状況は少なからず伝わっている。


 二人の慌て様を見て俺も急ぎ目を凝らした、するとどーも穏やかじゃないのはここから見てもすぐにわかった。



 シンザキさんはやつらに銃を突き付けられている…。


「まずい!博士助手!すぐに俺を連れて飛んでくれ!」


「しかしシロ!」

「お前が奴等の前にでるわけにはいかないのでしょう!」


「構うもんか!シンザキさんを死なせたいのか!いいから飛べ!」


 博士達はやむを得ず俺を連れてシンザキさんのもとへ一直線に飛んでくれた。


 これが必要もないのに俺が遊園地で監視をしてた理由だ、何をするかわからん連中がシンザキさんを“口止め”しようとした時にそれを止める役割… 無論俺の独断だが。


 ここでシンザキさんを失う訳にはいかない、サーバルちゃんのためでもあるが、相手の情報を知る人物が必要だからだ、そして父さん達に状況を話せる人が…。






 上空に着いたとき、俺は手を離しまっすぐ港に落下する。

 


「やぁめろぉぉぉぉぉお!!!」



 そして上空から勢いをつけたまま三人の軍人に奇襲を掛けた。


「なんだ!?」


 一人の男が叫んだ時、俺はサンドスターの右拳を飛ばしてまずはシンザキさんに銃を突き付ける男を海に落とした


「ぐぇ!?」バシャン


「また変なやつが現れたな!社長はさがっててください!」

「構うな!撃つぞ!」


 二人は俺に銃を向け容赦なく引き金を引くが俺は光の壁でそれを防いだ。


 この壁は厚い、ここまでの密度を出すのにかなり練習をした。


「なんだと!?」

「なんなんだこいつは!?」


「…っ!!!」


 油断したところを間髪いれずに攻撃を加えもう二人を海に落とした、残るはこのおっさんだけだ…。


「なんなんだお前は…!」


「息子さん!?なぜ来たんですかぁ!」


「なに?息子さん?」


 シンザキさんの叫びに俺は反応せず、ただ首謀者のそいつを睨み付けた。


 目が合ったとき、ヤツは何かに気付いた。


「お前は… ハハハ!そぉうか!」


 男は俺の顔を見て笑いだし、続けて言った。


「なるほど見付からないわけだ!ずいぶん探したんだぞ!てっきりどこかで野垂れ死んでいるかと思っていたが!ハハハハ!そうかパークに、母親の故郷に隠れていたか!アイツは本当に味な真似をしてくれるな?」


「…」


 何年ぶりだよ、その胡散臭い笑い顔… 前から最悪に嫌いだったんだよその顔、綺麗事並べて紳士みたいに近づいてきてさ…。



 俺をまっすぐ見てやつは言い放つ。



「やっと見つけたぞ!ナリユキの息子ぉ!」



 俺はこれから過去と向き合うことになる。

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