第56話 だいじょうぶだよ

「病める時も~」「健やかなる時も~」


 今回、神父を勤めるのは博士達らしい。


 どうやら俺とかばんちゃんの結婚式の時にラッキーに仕事をとられたのが悔しかったようだ、内容の丸暗記をして尚且つ本も持ち込んでいる、努力の賜物だ。


「「誓いますか?」」


「ねぇシンザキちゃん?“やめる”とか“すこやか”ってなぁに?」


「つまり、具合が悪かったり逆に元気いっぱいでも変わらず互いを支え合い愛し合えますか?と聞いてるんですよぉ?」


「あ!それならもちろん誓いまーす!わたしシンザキちゃんを支え続けるよ!」


「ふへへへ///僕もぉ誓いますかねぇ?」


 二人はこの後もありとあらゆることを誓い合っていった。


 誓う度にニコニコ笑いながら「誓いまーす!」手を挙げるサーバルちゃん、あの元気な姿が今ではずいぶん久しぶりに感じる。

 そしてシンザキさんはそんな彼女を見る度に顔がデレッデレになっていく、まったくこのなかよしマーチ!



 一通り誓い合うと、長がその砂糖増し増しの甘い空間に嫌気が差したのか結論を急ぎ始めた。



「もうわかったのです!」

「さっさと誓いのキスをするのです!」


「なんだかみんなに見られるのは恥ずかしいね?///」モジモジ

「ですかねぇ…///」モジモジ


「早くするのです!何をさっきからイチャイチャしてるのですか!」

「我々は一度見ているのです、大して驚きもしませんよ?」


 それでは… と新郎新婦が向かい合う。


 恐らくファーストキスであろうあの時の第一発見者とはまさに俺のことなんだが、こうして改まって見るとなんだか逆にこっちが恥ずかしいなぁ。


 かばんちゃんだって「ドキドキしますね?」って俺の手を握っている、俺達のファーストキスはサバンナだったなぁ… お付き合いを始めた次の日だった。


 その日の早朝、空は青白く今に太陽が上がるだろうという時間だった。

 あんまりかばんちゃんの寝顔が可愛いもんだからその唇を奪ってしまいたくなったんだよ、悪い男だねぇ?ケダモノだねぇ?


 でもいいとこで何度も邪魔が入ってねぇ~?ねぇラッキー?

 もう初日だし諦めるかって図書館に帰ることにしたんだ。


 その時彼女の方からこう… ヒョイッとね?飛び付くようにして唇を奪われてしまった。


 最高だ!わーい!



 いや待てよ?かばんちゃんもサーバルちゃんも初めては軍曹だったか…?


 チッ!


「…」ゴゴゴゴゴ


「ビーバー殿、なんかすごい睨まれているであります!?」


「思い出しちゃったんすねぇシロさん?辛いっすねぇ?」



 ファーストキスの怨みは恐ろしいんだぞ?



「それではお前達」

「誓いのキスをするのです」


 向かい合うと、シンザキさんはサーバルちゃんの肩を優しく抱いた、そして数秒間見つめ合った二人はゆっくりと顔を近づけていき。




 皆の前で、お互いの唇と唇を重ねあった。




 瞬間、ひゅー!っとざわめく会場。


 顔を真っ赤にしながらキスを終えた二人は照れてうつむいている。



「それでは本日をもってこの二人を…」「「夫婦と認めるのです!」」


 長の声と共に大きな歓声が上がる… 「おめでとう!おめでとう!」と二人を祝う声があちこちから聞こえてくる。


「みんなありがとー!わたし幸せだよー!」


 大きく手を振るサーバルちゃん、それを見たみんなも大きく手を振り返す。


 今日パークにまた、新しい夫婦が誕生した、二人はこれから数々の苦難を乗り越えて幸せを増やしていくことだろう…。


 がんばれ、きっと愛し合う二人ならなんだってできるよ?





 そして、皆様お待ちかねのあの時間がやってきた。


「ではサーバル、ブーケトスの準備です」「背中を向けて、皆に向かい一思いに放り投げるのです!」


「よーっし!なげるぞー!」


「次は誰がとるんですかねぇ?」


 ブーケトスの時間だ!


 さぁさぁさぁ始まりました第二回ジャパリパークブーケトス大会!


 今回はいったい誰が掴みとることになるのでしょう?


 スナネコちゃんの例を思い出していただければわかりますが受け取ることで必ず結婚できるわけではありません、飽くまでジンクスのようなものだ。


 がしかし、にも関わらずここには猛者達が揃っている。


「とうとう… リベンジするときが来たな!ライオン!」


「前も言ったけどさぁ~あ?取ったから絶対強いオスがくるわけじゃないんだよ?」



「更なる作品の成長のために… さぁとってやろうじゃないか!オスに出会うためのチケットを!」


「オオカミさん?結婚ってそういう気持ちでしていいものじゃない気がするんですけど?聞いてないですね…」


「アリツさん!先生の新作の為に私たちもブーケをとりましょう!」



「サーバルに先を越されて、わたくしも負けてられませんわ!」


 血に飢えた猛獣のクラウチングスタートを見ることになりそうだな、こんな中でしれっと仁王立ちのスナネコちゃんのポテンシャルには素直に関心としか言いようがない。


 そして、皆に背を向けたサーバルちゃんが大きな声で言った。


「みんなー!いっくよー!みゃみゃみゃみゃみゃー!」ポーイ


 二人の幸せを乗せたブーケがフワリと宙を舞い、飢えたメスの群れに向かい美しく放物線を描き落ちていく。


「おぉぉぉ!とにかく取るぞー!」

「おぉ!?我々も取りに行くでありまーす!」

「よかろうならば一撃で決める、行くぞホワイトタイガー?」

「わ、我まで巻き込むな!」


 パークは今日もドッタンバッタン大騒ぎ、まさかみんなこんなに結婚願望が強いとは思わなかったよ。

 あんなこと言ってるけど姉さんだって目がマジだし、百獣の王達も触発されたのかソワソワとしてる。

 アルパカさんはトキちゃんたちに付き合ってやる気まんまんだし、リカオンちゃんがまっすぐ駆けていくところは意外と言わざるを得ない… うわ、キンシコウさんが棒を使ってあんなに高く!?ハンターの力をこんなところで利用するとは職権乱用ではないか?


 そしてフレンズの波に揉まれ跳んだり跳ねたりしたブーケは、結局ガチ勢の手に渡ることはなく。


 ストン… と一人のフレンズの手元に渡った。



 そのフレンズとは?







「アライさんのとこに落ちてきたのだ!?ブーケがアライさんを選んだのだ!これはアライさんがもらったのだ!」


 \エェェェ~!?!?!?/


 そんなに意外か?そういうこともあるだろう、去年と同じだよ。


 しかし跳んで喜ぶアライさんを見てその友人代表フェネさんは言ったのだ。


「でもアライさんさぁ?結婚なんてしたいのー?男の子もほかにいないしさ~?」


「そうだったのだ… よく考えたらアライさん恋愛をしようとは思ったことすらないのだ!ただ面白おかしく過ごしていたいだけだったのだ!」


 確かにね?しかしアライさんが結婚か…。


 彼女に限ったことではない、母さんの復活がなければ父さんと姉さんがまさに“成り行き”で結婚することになっていたかもしれないのだし。


 パークが復興に近づくにつれて人が増えると、いつか男が何人も入ってくるだろう、サーバルちゃんが結婚した今誰かと他のフレンズが結婚するようになったとしてもなんらおかしな話ではないのだ。


 だからアライさんも機会があればひょっとすると…?


「アライさんもいい出会いがあれば恋をするかもね?なんせ君は料理上手で綺麗好き、元気で明るくて顔も可愛いからね?」


「本当かぁー!?アライさんは人気者なのだ!ハイスペックなのだ!」


「シロさんさー?そういうこと言うからかばんさんにヤキモチ妬かせるんだよー?気を付けなよ~?アライさんはこういう子だから大丈夫だけどさ~?」


 おっしゃる通りですフェネっさん… ところでなんか怒ってる?なんか怒ってるよね?見えるよそのポーカーフェイスの裏の顔が、かばんちゃんが俺を睨んでる時と同じオーラを感じる、凄まじいオーラ力だ。


「アライさんの行動力に普通のヒトがついていけるとも思えないし~?シロさんみたいなヒトも他にはいないんでしょー?」


「わかんないよ?俺がこうしているってことはどこかにいるかもしれないじゃないか?例えば、ニホンオオカミの男の子とかね?」


「え~?そんな子いるかなぁ?」


 フレンズと子供作ったのは父さんだけらしいけど、どうだろうな?誰かが駆け落ちとかしてればあるいは…?


 でももしそうなったら、君はどうするフェネックちゃん?

 

 もしくは、逆に君が誰かに恋をしてしまった時は?


 二人とも女の子なんだ、男性の仕草にキュンとくることもあるだろうさ?今はわからなくてもね? 







 式は進みケーキカットの時間になった


 前回無断でマグロ包丁を持ち込んできた長には注意をしておいたので今回は普通のケーキカット用のやつだ。


「サーバルぅ、準備はいいですかねぇ?」

「いいよ!さぁ切ろう切ろう!せーの!」


 「えーい!」と元気よくケーキに入刀、初めての共同作業も大成功を納めた。

 

「さぁお前達、ファーストバイトするのです」

「お互い食わせあってこその夫婦なのです!」


 すると「僕はそこそこ稼いでますらからぁ」とパークではあまり関係のないことを言って食べさせるシンザキさん、サーバルちゃんは無論の如くキョトン顔だ。


 その言葉は無収入の俺に対する当て付けかね?ここで暮らしててよかった…。


 そしてそんなシンザキさんの口に運ばれるケーキを見て俺は思い出す。


「はい!どーぞシンザキちゃん!」


「入りますかねぇ…?」


 出た~!またミニスコップだ!あんまりふざけてると結婚式とはそういうものだと勘違いされてしまうぞ!そろそろいい加減にしなさい長!


「えーい!」

「ガバモゴモガガ!?!?!?」


 人間… 辛抱だぜ?







 ここからはパーティーだ、ケーキがみんなに配られてお料理チームの俺達はご来賓のお客様にごちそうの数々を振る舞っていく。


 ところでちらほら皆さんの中に見慣れない物を飲んでらっしゃる方々がいるね?


「これ… まさか、ワインか?」


 赤紫の液体が注がれている、用意してるのは誰だ?


「はいどぉぞぉ!えへへ!」


 そこの白くてモコモコのお姉さん、あなたいつからバーを始めたんだい?


 聞いてみたところ面白い答えが返ってきた。


「ブドウが沢山取れたからぁジュースにして置いといたんだけどさぁ?ほっといたら不思議な飲み物になちゃったんだぁ~?ワインって言うんだってぇ!飲み過ぎ注意だゅぉ?」


 じゃあ出すんじゃない!フレンズは酒の恐ろしさを知らんのだ!


「パパ!ブドウのジュース僕も飲みたい!」「ユキも!ユキもジュース飲みたい!」


「いやダメだ、あれはジュースじゃない」


「「えー!ずるいよ!」」


「大人になるまで我慢だよ?ほらあれを見ろ二人とも…」


 俺は子供達をなだめ、ある方向を指差した… そこには酔い潰れたあの子の姿が。


「そこに座りなしゃいキタキツにぇ!まったくもう!仕事もしないでゲームばっかりしてぇ!聞いてるのぉ?聞いてよぉ… ふぇぇ私ってうるさいフレンズよねぇ?」


 ギンギツネさんがあんなに酔って… しかも説教と泣き上戸かよ、ちなみにあなたが話し掛けているのは街灯だ。


「な?yabe-iだろ?」


「「えー!面白いじゃん!」」


 ダメなものはダメだ!酒の味なんて知らんでよろしい!


 そこに相方を心配したキタキツネちゃんが不安そうに俺に尋ねた。


「紫の液体を飲んでからギンギツネがおかしくなったんだけど…」


 どれだけ飲んだのか知らないが慣れていないのに飲み過ぎたんだろう、そのまんま答えてあげた


「酔ったんだよ、水を飲ませてあげて?あとは休ませとこう…」


「わかった、ボクは飲まないでよかった、飲んでも何も回復しなさそうだし」


 そうだね回復はしないね、ゲームだとどうかな?


「キタ姉ちゃんだ!」

「キタ姉ちゃん遊んで~!」


「クロにユキ!久しぶりだね?いいよ、行こう!」


「「わーい!」」


 子供達と手を繋ぎ走り去るキタキツネちゃん… おーい?ギンギツネさんはどうするんだい?

 あと「キタ姉ちゃん」ってまるで「汚ねぇ」みたいな呼び方はやめろと言ってるだろ子供達、キタキツネちゃん優しいから気にしてないだけなんだぞ?





 それから日も傾き始めざわつきも落ち着いてきた頃。



「それじゃあみんな!新郎新婦の友人代表がスピーチしてくれるわ!さぁ上がって?シロ!かばん!」


 プリンセスちゃんに呼ばれて俺達夫婦は二人の待つステージに上がった。


 シンザキさん友人代表は本当はナカヤマさんがよかったのだけど、この場にいないのに無茶なことは言っても仕方ない… 代打シロで行かせてもらいます。


「えーそれでは、ナカヤマさんに代わり俺が勤めさせていただきます…

 シンザキさんサーバルちゃん?まずはご結婚おめでとうございます」


「いやぁありがとうございますぅ」

「ありがとー!」


 俺とシンザキさんは深く面識があるわけではない、どちらと言えば父と面識の深いシンザキさん。

 あんまりこういうの上手くないからすぐに終わってしまうけど。


「初めて会ったときは丁度俺が右腕を無くしたときだった… 俺が目を覚ました時ナカヤマさんと一緒にそこにいて、父とミライさんと助けに来てくれたことを知った

 俺は男の人に会ったのがあんまり久しぶりで、あんな風に男臭い会話をできたのがなんだか嬉しかったよ?あの時誰がパークで一番可愛いんだ?って話になって、俺は断然かばんちゃんが一番可愛いって主張したんだけど、ナカヤマさんはジャガーちゃんだって引かないしシンザキさんもサーバルちゃんが一番に決まっていると引かなかった、始めっからサーバルちゃんに夢中だったってことだよね?」


 照れくさそうに頭を掻く二人、本来出会うはずのない二人、出会えたとしても結婚にまで行くのにどれ程の苦難があるか。


 それでもお互いを選んだ、それがつまり答えだ。


「ごめん、これ以上いい言葉が浮かばないや?とにかく二人ならきっと何があっても一緒だと信じてるよ!俺もみんなも力を貸すから、二人ともお幸せに!」


 こんな感じ、うまくできただろうか?


 不安だったが大きな拍手が聞こえ、主役の二人が涙する姿を見ることができた。


「息子さん… 僕ぅ、僕にもなんでも言ってください、助け合いましょう!」


「ありがとうシロちゃん!わたしのこともいつでも呼んでね!すぐに助けに行くから!」


 二人は溢れる涙を拭いながらそう言ってくれた、そんなことを言われては俺まで泣いてしまう… もともと涙脆い方だが、子供が生まれてからはさらに涙腺が緩くって。


 歳かな?なんて…。





「それじゃあかばん!次はあなたがスピーチしてあげて?」


「はい、サーバルちゃんシンザキさん!今日はおめでとうございます!」


 かばんちゃんの番が回ってきた… 俺からはもう言うことがない、黙って聞こう。



「サーバルちゃん?今の僕があるのはサーバルちゃんがいてくれたからだよ?生まれたばかりで訳もわからずサバンナちほーを歩いてるとサーバルちゃんが飛び付いてきて… あの時初めてしたお話、覚えてる?」


「忘れたりしないよ!“食べないでください”でしょ?」


「うん、サーバルちゃんは困った顔で“食べないよ”って言ってくれたね?」


 妻が語ったのは、自分の式の時サーバルちゃんがしてくれたスピーチと同じようにこれまでの思い出。


 サバンナで出会い、旅をして。


 巨大な敵に立ち向かい。

 

 海を渡り… そして…。


「僕がシロさんに恋をして、傷つくことがあって辛かった時もずっと側で励ましてくれあね?あの時僕は思ったよ?壊れてしまうくらい傷ついてもサーバルちゃんがいてくれたらきっと大丈夫だって、元通り元気を取り戻せるって…

 それからもずっと隣で元気をくれて、子供ができてからもたくさん力になってくれて… 


 子育てもいっぱい協力してくれて…


 いつも… “大丈夫だよ”って…!」


 

 もう二人の間に言葉はいらないのかもしれない。


 妻は目に涙を浮かべ、しゃくりあげながらも前を向き直し親友に向かい言った。



「サーバルちゃん…!僕はもう大丈夫だよ?シロさんも付いててくれるし、子供達もすごくいい子だから!だから心配しないで?今度はシンザキさんを大丈夫だよって支えてあげて?

 ありがとう!おめでとう!離れても僕たちずっと親友… ううん、家族だよ!」



「うぇぇ~ん!!!かばんちゃぁん…!」


 

 式のフィナーレには少し早いが、これにて二人の結婚式は無事大成功を納めた。


 最後に大泣きしたかばんちゃんとサーバルちゃんを慰めるのに俺もシンザキさんももらい泣きしてお互いの妻をただ抱き締めてやることしかできなかった。


 それどころか会場みんな感動の渦だ…。



「かばんちゃん!シロちゃん!クロちゃんもユキちゃんも博士達も!一緒にいてくれてありがとぉ…!」


 

 けものはいても


 のけものはいない


 本当の愛はここにある

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