第55話 いぎなし

「結婚式ぃ~!?わたしたちの~!?」


「シロからのお達しなのです」

「やはり、やっておくべきかと我々も思うのですよ」


 長である博士助手の二人は早急にサバンナちほーへと飛んだ。


 すぐにサーバルの縄張りに付くとそこにはこじんまりとしたテントがひとつ木の下にポツンと張られている。


 シンザキの寝床である。


「なんだか申し訳ないですねぇ?」


 モソモソとテントから顔を出したシンザキはメガネをかけ直しながら二人の前に姿を見せた。


 この時長は、結婚式とはまったく関係ないがこの二人はここで毎晩夜を過ごしているのだろうか?と少し疑問を感じた、シロとかばんのことを考えるとここにも何かしら住居としての設備が必要なのではないかと? 



 こいつらはこの中でシロとかばんのようなことになっているのでしょうか?



 長は、二人の結婚祝いとして後日ビーバー達にそれを依頼することを決めた。





「二人ともよく聞きくんだ、サーバルちゃんの結婚式を挙げようと思う… 結婚式ってわかるか?」


「知らなーい!」

「え~っと… “こんいん?を成立させるため、もしくは確認するためのぎしき?”だって… つまりどういうこと?」


 ユキはまんまユキの反応だが…。

 クロはすぐに辞書を開き言葉そのものの意味を口にしている、結局よくわかっていないということか息子よ?まだ子供らしいとこが残っててパパはなんか安心したよ逆に。


「そんなに難しく考えなくていいんだ、要は二人は結婚するからみんなでお祝いのパーティーを開きましょうってことだよ」


「じゃあケーキ食べれるのー!?」


「そうだよ~?こーんなでっかいやつが見れるぞ?」


「あれ?パパそれは“ひろーえん”っていうやつじゃないの?」


 今は式も披露宴もざっくりまとめて結婚式というんだ、時代だよ息子よ?パークでそこまで複雑怪奇なこと考えることないんだぞ?この天才!


 それにしても、思ったより普通に楽しそうな反応をするんだな?サーバルちゃんという部分に反応するかと思ったが… やっぱりスナネコちゃんにきてもらって正解だったかもしれない。


「ねぇパパ?」


 そんな風に安心していると、ユキが俺の裾を引っ張って少し寂しそうな表情をしていた。


「サーバルちゃんに会えるの?」


 やっぱり… 寂しいもんは寂しいよな?誰かが彼女の代わりになるなんてことないんだから。


「あぁ、おめでたい日だからたくさんおめでとうしてあげような?できるか?」


「できる!プレゼント持ってく!」


 そんなユキの頭を優しく撫でてやった。


 ユキは大丈夫そうだ、感情に素直なだけに心配はしてたけど、ちゃんとお祝いのことわかってるじゃないか?良し悪しの区別がついてるようで何よりだ。


 さてクロはどうだろうな…。


 息子に目を向けると何も言わないがやはり複雑そうな… 恐らくお祝いもちゃんとしないととは思ってる、でもやっぱり悲しいものは悲しいとそんな心境なんだろう、そんな顔をしている。


「クロは、大丈夫か?」


「平気…」


「そっか」


 知っているかクロ?そんな顔で「平気」って言うやつは大抵平気じゃないやつなんだよ?






「かばんちゃん、どう?」


「順調です!」


 しかし採寸もなしによく作れるなぁ?もしかして「サーバルちゃんのことなら隅から隅までわかりますよ!」ってことなんだろうか?

 だとすればさすがサバンナコンビと言わざるを得ないが、同時にかばんちゃんもやっぱり身を引き裂くような思いをしてサーバルちゃんとの別れを決めたんだなー?と思ったり。


「サイズとかわかるの?」


「サーバルちゃんって僕とほとんどサイズが変わらないんですよ?」


「じゃあ具体的にはどこが違うの?」


「えと… 胸とお尻です」


 なぁるほど!


 胸× お尻○ 


 ってことか!


 俺の欲求を幾度となくその叡知お尻で解決してきてくれたからな妻は、この叡知に簡単に勝てる子はいない、どれ一応確認の為に感触も見ておこう。


サワサワ


「ぃや!?ビックリした… 手元が狂うから今はやめてください!」


「えっへへ!めんごめんご~?」


「もう…!」


 怒った顔も疲れてぇ~る♪君も好きだけどあんなぁ~に♪飛ばして生きて大丈夫かな?って思ぉ~ぅ♪


 DANDAN心惹かれてきたというわけで、ドレス制作も順調だ。

 戻ってきた博士達に聞いたところどうやら今回の式は遊園地でやるそうだ。


 そうだね、サバンナも近いもんね?それに何故か料理の設備もあるし海も近い、海の幸取り放題だ!刺身や寿司を提供できそうだな、早起きしてサーモンの特を得るぞ。







 それから数日掛けた準備が進み式当日となった時、俺はアライさん達と協力してウェディングケーキを作り上げることになっていた。


 勿論場所は遊園地、


 慣れない厨房での大掛かりな作業になるが問題はない。


「アライさん!フェネックちゃん!腕の見せ所だ!」


「任せるのだ!」

「はいよー」



 俺達お料理組の三人は協力してウェディングケーキ作りに入った。


 無敵の布陣、だろ?









 結婚式…。


 サーバルは当初自分には無縁のものと思っていたそれが、今それは自分の為に挙げられようとしている。


 彼女は未だにハッキリと実感が湧かなかった、もう数時間後にはドレスを着てバージンロードを歩き、ステージに上がり誓いの言葉を言わなくてはならないのに。


 当時、かばんとシロの結婚式ではかばんの友人代表としてスピーチをしたサーバル。


 今日は逆にサーバルの友人代表としてかばんがスピーチをすることになるだろう。


 かばんの結婚式を見たとき、サーバルにはまだ結婚どころか恋愛そのものがよくわかっていなかった。


 二人はヒトだからこういう結果に落ち着いたのだとそれくらいに思っていたのだ。


 だが、ある日やけに自分に興味を示してくるヒトのオスが現れた。




 それがシンザキだ…。




 彼は元々サーバルキャットに詳しい男で、それこそサーバルキャットのことなら右に出る者はいないほどである、そしてそんな彼もとうとう出会ったのだ。


 それがヒトの姿をしたサーバルキャットの女の子、パークではトラブルメーカーでお馴染み。


 


 サーバルキャットのサーバルだ。




 彼は嬉しさのあまりにあれこれとたくさん話しかけた、普段女性とこんな風に話すことなんてないのにサーバルとだけは積極的に自分のサーバルキャットに対する熱意を伝え続けていた。


 サーバルもサーバルで自分でも知らないようなことを話してくれる彼に大変興味が湧いており、余程サーバルキャットとという動物が好きなのだろうと自身も嬉しく感じていた。

 

 加えてもともと彼女は人当たりが良く、相手に対する反応も裏表がない。


 故にシンザキのマシンガントークにもうんうんと嬉しそうに頷いていた。



 先に相手を異性として意識し始めたのはシンザキの方だ。



 天真爛漫で見ているだけで元気がでる、優しくって可愛らしいがドジでオッチョコチョイなとこもある、そんな彼女に対し彼が恋愛感情を抱くのにはそれほど時間が掛からなかった。


 自分にはサーバルしかいない…。

 とすぐに感じた。


 それからは人並みに良く思われようと頑張ってみた。

 清潔さを心がけてみたりちょっとかっこつけてみたりと、とにかく彼女の興味を惹きたくて仕方なかった。


 ただ同時に人間ではなくフレンズに恋をする自分をどこか不安に感じた彼は、同じくフレンズを伴侶に選んだナリユキに相談すると言われたそうだ。


「ナリユキさん、やっぱりぃ… こんなのおかしいですかねぇ?」


「その俺が変態ケモナー野郎みたいな言い方はよせ、そんなにおかしいかい?たまたま好きになった相手がフレンズだった… それだけのことだと思うんだが?」


 人間の女より余程思いやりがあって裏表がない、恋愛経験がないなら惚れてしまって然りだ。


 ナリユキはシンザキにそう伝えた。


 その時彼は、そうか自分が彼女を好きになったのはサーバルキャットだからというだけではない、言わば彼女の人間性や心に惹かれたのだとわかり安心感を覚えた。


 そして彼は命の危機に瀕した時思った…。



 悔いは残したくないと。



 だからその年のキョウシュウから船を出す際、彼は遂にサーバルにプロポーズをした。




 そしてそれからだ、サーバルもシンザキをオスとして意識し始めたのは…。


 “結婚”。


 かばんとシロくらいにしか起こり得ないと思っていたことが自分に起こったのだ。


 興味はもともと示していたがイマイチ恋愛を意識したことがない彼女にとっては理解が追い付かず、しばらく頭を悩ませた…。


 だがシロやかばん、他のちほーのさまざまなフレンズからのアドバイスを受けやがて彼女も女性として彼を意識していると自身の気持ちに気付き始めた。


 好きだという気持ちを知り、嫉妬という暗い気持ちも体感することとなった時、与えられてばかりでは良くないと花嫁修行を始めた。


 シンザキが戻るまでの間にクロユキが不幸な目に逢いその過程でクロユキが自分に特別な感情を抱いているのも知ったが、彼女にとってクロユキは飽くまで庇護対象であり、それは親が子を見るような愛なのだと理解することでさらにシンザキが自分にとって特別なのだと感じ取った。


 そして再会した二人。


 プロポーズに良い返事を返したサーバルとそれを聞き跳んで喜んだシンザキ、その晩二人は初めて口付けを交わした。


 それから間もなくしてシロ一家との別れを告げ、シンザキとの生活をサバンナちほーで始めたサーバル。


 そんな初々しい二人は今日このジャパリパークでとうとう夫婦となるのだ。


 ジャパリパークで誕生する二番目に出来たツガイだ。







「サーバルちゃん、ウェディングドレス作ったんだけど… 着てくれる?」


「作ったぁー!?え!?これかばんちゃんが作ったの!?」


「うん、一生に一度の結婚式だもん… 最高の思い出にしてほしくって頑張ったんだけど… どう?」


 それを聞きサーバルは涙した。


 親友かばんの心遣い、優しさ、そのすべての気持ちに。


「かばんちゃん… うん!是非着させて?こんな綺麗なドレスわたしに似合うかわからないけど、かばんちゃんの作ってくれたドレスだもん!他の誰かも着るとしても、わたしが一番に着ないと!ううん、一番に着たい!」


「サーバルちゃん… ありがとう!本当におめでとう…!」


 ぎゅっと強く抱き合った二人…。


 パークで1番の親友を、今日はパークで1番の美人にしてみせる。


 そう意気込んで、かばんはお化粧や装飾品などを使い目一杯サーバルにおめかしをさせてドレスに着替えさせていく。


「真っ白で綺麗だね?でもわたしなんかに似合ってるのかなぁ…」

 

「サーバルちゃんは可愛いから何でも似合うよ?ウェディングドレスは白が基本なんだけど… でもほら?やっぱりサーバルちゃんには黄色が一番かなー?って思って、サーバルキャット模様の黄色いリボンをつけてみたんだよ?」


 肩だしの白ドレス、背中の腰の辺りには大きなヒョウ柄のようなリボン。


 それは本当のドレスと比べれば材料もデザインも劣るものなのかもしれない、だがサーバルにとってこれ以上の物はない。


 世界広しといえど、このドレスこそがサーバルにとっての一番… 唯一無二の絶対なのである。


「わぁ… これがわたし?」


 自分の姿を改めて鏡で見たとき、その己の姿に思わず見とれてしまった。


「サーバルちゃん、今日はどのフレンズさんよりもサーバルちゃんが1番綺麗だよ?」


「本当…?」


「勿論!さぁシンザキさんにも見せてあげないと!みんな待ってるよ?行こう?」


「うん!」








「ほーら見たか二人とも?これがウェディングケーキだ!」


「「すっごーい!」」


 参ったか?ウェディングケーキチームシロスペシャルの完成だ!子供たちもご満悦なご様子、長も遠くでじゅるりしてるのが見てとれる。


 完ッッッ璧ッッッ!!!



 あとは時間を待つばかり、そしてこの男も刻一刻と迫り来る時間に落ち着きを失いソワソワとしている。


「き、緊張してますかねぇ?」


「落ち着きなよシンザキさん?緊張してるのはあなただ」


「ですかねぇ…?ですかねぇ?サーバルぅ直前にいなくなってしまうとか?」


「もっと信じてやりなよシンザキさん?しばらく二人で暮らしてみたときどうだった?どーせイチャイチャしてたんでしょ?」


 ガッチガチになりながら正装に身を包むシンザキさんは花嫁がちゃんと来るかどうか心配らしい、言っても一ヶ月は二人で暮らしてるんだ?妙な感じにはなってないはずだ。


「なんていうか息子さん…?実はサーバルって結構上手なんですよぉ…」


「そりゃあこっちで花嫁修行してたもの?料理はみっちり仕込んであるよ?」


「いえ、夜が…」


 おい待てどういうことだそれ…。


 聞くにお互い初めてのはずなのに初夜以降は主導権を握られてしまったシンザキさん、彼女は毎晩「わたしに任せて!」と言ってガンガン責めてくるらしい。


「ねぇ?こう…?これが好きなの?///じゃあこれは?これはどう?///」

 

 と、どこで覚えたのかわからない謎のテクニックで毎晩とてつもないことがあのテントの中で繰り広げられているらしい。


「まさか… そちらもみっちり仕込まれていたとかでは?」


「変なこと言わないでよ本当に… これだけは言っておく、図書館にはいろんな本があるんだよシンザキさん、後は察して?」


 恐らくオオカミ先生直筆の保健体育教材の仕業だな?どうやらかばんちゃんが与えてしまったばかりに余計な知識まで吸収してしまったらしい。


 でも全部あなたを喜ばせるための技なんだよ?ちゃんと受け入れてあげなさい。


 最高なんだろ本当は?えぇ?このスケベ!


 しかし妙な疑いをかけてくれる…。

 俺が夜大好きを混ぜ合っているのはかばんちゃんだけだよまったく。


 仕方ない、証拠としてシンザキさんにもあれを見せるか?いや… あれモデルが俺とかばんちゃんなだけにシンザキさんに嫁さんの裸見られてるみたいでちょーヤダ、やめた… そろそろやめるようにオオカミさんに直談判だな。


 そんな下世話な話をしていると子供たちがこちらに駆け寄ってきた、どうやらシンザキさんに言いたいことがあるそうだ。


「おじさん!」


「あぁクロユキくん、お元気そうで何よりです…」


 先にクロが元気よく声を掛けた、その目は真剣で、親である俺から見てもなにか固い決意のようなものを感じさせる。




「サーバルちゃんのこと… よろしくね!泣かせちゃダメだよ!泣かせるとバチが当たるんだよ!」




 クロお前… よく言った、男だよ。


 思わず涙が出てきてしまう、でもグッと堪える…。


子供が我慢してるのに親の俺が泣いていられない。


「わかりました、約束ぅ… ですかねぇ?」


「うん!絶対だよ!」


 二人はきゅっと指切りをして固い約束を交わした… あの二人がだ。


 心配なんかいらなかった、クロは今失恋を乗り越えた。


 自分の悲しみより相手の幸せを喜ぶことを選んだんだ。


 そして…。


「はい!これあげるおじさん!」


「シラユキちゃん… これは?」


「スザクちゃんの羽だよ!綺麗だからもらったの!“ゆくすえをあかるくてらしてくれる”んだってー!ユキの宝物だけどお祝いにあげる!」


「なんだかすごいものをもらってしまいましたねぇ…」


 シンザキさんはそれを胸ポケットに差し込むと正面を向き直しステージへ向かった。





「新婦の入場よ!」


 お馴染みプリペンさんの名司会で進められる結婚式。


 ステージに続くバージンロードからかばんちゃんにつれられたサーバルちゃんがドレス姿で現れる。


 \オォ…/


 っと会場全体がどよめいた。


 それは当然だ、綺麗じゃないかサーバルちゃん?あんな大人っぽい顔になってまさに花嫁って感じだよ。


「わぁ…」

「すごーい!」


「はは、そうだな?サーバルちゃん綺麗だな?なぁ二人とも?」


「「うん!」」


 ゆっくりと歩いてシンザキさんの隣に来たサーバルちゃん、かばんちゃんは彼女を送り届けると俺の隣に戻ってきた。


 花嫁の父役か… 変な話だが確かにずっと生活を共にしたかばんちゃんが適任ではあるのかもしれない。


「グスン…」


「おかえり、ドレスぴったりだね?さすがはサーバルちゃんの親友だ…」


「僕は… サーバルちゃんがいなかったら今頃どうしていたか… こんなことでお返しできたとも思ってないけど、少しでも役に立ててよかった…」


 多分俺が思うに… サーバルちゃんも同じことを考えていると思うんだ?


 感謝してもしきれないよ、どうもありがとうって?







「サーバルぅ… とても綺麗です」


「えへへ///シンザキちゃんもすっごく素敵だよ!」


 ステージ上に立つ二人。

 その真正面には島の長が立ち、ここに宣言する。


「これよりシンザキとサーバルの結婚式を執り行うのです!」

「異議のあるものは前にでるのです!」






 もちろん全員、異議無し!

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