第54話 まんぞく

 時間は大体夕方、日が落ちる前に帰ってしまおう。


 姉さんと交替して後ろにはスナネコちゃんが乗る、空が赤くなりかけたころ彼女もようやく頭がハッキリしてきたようだ。


 グッと俺の肩を掴みバギーの揺れに耐えている。


「シロの後ろはとても久し振りですね?」


「あぁ~…あのときは間にツチノコちゃんがいたね?そう言えば今年は一緒にゴコク行かなくてよかったの?ツチノコちゃんも会いたかったと思うけど」


「いいんですよ~?ちょっと寂しがらせておいた方がすぐ帰って来てくれそうじゃないですかぁ?」


 ふーん… そういうもんかなぁ?その辺の駆け引きは俺下手っくそだからなぁ、よくわからないけど天然小悪魔系砂漠の天使が言うんだから多分そうなんだろう、ツチノコちゃんも深くは聞いてこなかったけどやっぱりなんか寂しそうだったし、会いたいものは会いたいんだろうなぁ。


 こういう来てほしくない時に限ってセルリアンがでたりするんだが、道中何事もなく図書館に着いた。


 これには妻もホッと胸を撫で下ろす。


 よく考えたらセルリアンの激減もかばんちゃんのおかげなんだよね?ありがとう、君のおかげで君のとこにまた帰ってこれたよ。


 ギュウ… と妻の手をとり両手で包み込むように握ってみると、キョトンとした顔を向けて首を傾げた後、ニコりと俺に笑顔を向けながら言った。


「どうしたんですか?僕はちゃんとここにいますよ?」


 知っている… だから嬉しいんだ、帰ったら奥さんが待ってて「おかえりなさい」と笑顔をくれる。


 もうそれだけで必ず帰るって気になれる。


「「パパおかえりなさい!」」


 っておまけに子供たちまでいて出迎えてくれるんだよ?姉さんの言う通り、力の有無は関係ないのかもしれない。


 だって十分幸せだもの。

 

 俺が誰にも勝てない情けないやつだったとしても、この幸せだけはなんとしてでも守る、どんな手を使ってでも必ず守ってみせる。


 そうだ、強くなんかなくたって…。





「二人とも誕生日ぶりですね?元気にしてたのですかぁ?」


「スナねぇちゃんだ!」

「遊んでー!」


 二人はスナネコちゃんを見るなり嬉しそうに飛び付いた、作戦成功だな… やはり子供は笑顔が一番。


「クロは元気そうですね?病気はすっかり治ってるみたいで安心しました」


「抱っこして…」ギュウ


「相変わらず甘えん坊ですねぇクロは?ボクの耳を触りますか?」


「うん…」


 やっぱり寂しいんだな、スナネコちゃんは耳が大きいしサーバルちゃんと少し似たところがあるから重ねるところがあるのかもしれない、すっかり赤ちゃん返りしてるじゃないか?


「あーん!ユキも抱っこー!」 


「二人同時はさすがにキツいので、クロは一旦降りましょうね?」


「やだ」


「えー!なんでぇ!ユキもスナねぇちゃんに抱っこされたい!」


「これは困りましたねぇ?ボクはモテモテです、満足…」


 こんな「満足」の使い方してくるとは意外、あまり表情が大きく崩れないだけによくわからないが、これはきっと子供たちとわちゃわちゃして御満悦ということだ。


 とにかく、子供たちが元気になって良かった… スナネコちゃんからも早速1満足を頂いた、子供たちはこのまま辛いこと忘れて立ち直ってくれたら良いのだけど。





 ひとしきり遊んだあとスナネコちゃんには夕食をごちそうすることにした、子供たちに挟まれてご飯を食べる彼女だが大変落ち着きがあり、あれこれ興味が移ってキョロキョロしたり席を立つこともない、得意の「満足」で飽きることもない。


 成長したんだねやっぱり?可愛い子には旅をさせろか…。


 しかし、二人ともスナネコちゃんにやけに甘えたがるがかもしかして猫要素が不足してるだけとか?俺も今は耳と尻尾がないし、サーバルちゃんもいない。


 耳しゃぶと尻尾引きをさせれば治るのかな?なーんてそんな単純な理由だったら苦労はしないのだけど。





 その晩、当たり前な話スナネコちゃんは目がさえて眠ることができない、むしろ活動時間である。


 俺は朝が早いので長くは相手できないが少しの間話し相手を勤めている。

 

「今日はありがとうね?子供たちのこと」


「いえ、落ち込んでると言うからどんなかと思えば… なかなか元気で安心しました」


 そもそもの理由はなんだ?と尋ねてくるものだから、俺はざっくりいろんなことを端折りながらそれを話す。


 まぁ結局、サーバルちゃんが結婚するのはめでたいことだが、出ていくのはそれで寂しいってそんなワガママみたいな理由なんだ。

 そんなことを伝えると彼女は「うーん」と顎に手を当てて悩んでいるようなポーズをとった、なにか思うところでもあるのだろうか。


「サーバルが結婚?おかしいですねぇ?」


「え…?」


 なんで?なにかおかしいか?なるべくしてなったように感じられるのだけど。


 彼女は悩むのをやめると少しだけイタズラっぽい笑みを浮かべながら俺にこんなことを言い始めた。


「次に結婚できるのはボクのはずですよぉ~?」


「そりゃまたどうして?相手は?」


「いません」キッパリ


「えぇ…」


 え、えー!?急になに言い出すの!?

 その根拠のない自信はどこから?


「だって、シロとかばんの結婚式でブーケを取ったのはボクですよぉ~?ブーケを取ると次に結婚するのではないのですかぁ?」


 あぁなるほど… 確かにそんなことがあったなぁ?ブーケトスの風習というか結婚の概念自体フワフワしてるからなパークは、鵜呑みにしてしまっている子も多いのかもしれない。

 あれは飽くまでそういう風習というだけだ、なんか決まりごととしてそうなってるわけではない… 白羽の矢じゃあるまいし。


 あの時は確か、みんながわちゃわちゃしてる間に勝手にスナネコちゃんのもとに落ちたんだったな?ツチノコちゃんにあげようとして「いらん!」と言われてるのがとても印象的だった… というか面白かった。


 フム、結婚式か…。


「スナネコちゃん、多分あの時一番最初にブーケに触れたのがサーバルちゃんだったから先を越されたんだよ」


「まぁ騒ぐほどでもないかぁ…」


「そうだね、そもそも結婚願望無さそうだもんね」


「そんなことはありません、クロは考えとくと言ってましたからぁ」


 おい、この子マジでうちの息子狙ってんのかまさか?適当に言ってるのかと思ったらまさかガチ勢なのか?すっとぼけた顔していろんな子にちょっかい出してると聞いたが意外とクロが本命だったりして、アイツもなついてるしな、クロめ… 罪な男だ。


 とそれはいいとして…。


 サーバルちゃんとシンザキさん、式を挙げてやるべきではないか?俺達の時だって博士達の計らいで挙げてもらったんだ、自分のウェディングケーキ自分で作ったんだよね、だからやるなら今回は腕によりをかけて最高の物を用意しなくては。


「スナネコちゃん、アライさんたちどこかで見た?」


「湖畔にいましたよ?そのままへいげんに行って図書館に戻ると言ってましたから、数日もしないでここにくると思うです」


「いいタイミング… 実はさ?サーバルちゃんとシンザキさんの結婚式を挙げてあげたらいいかなって思ったんだ?俺の時もみんなにやってもらったし… どう思う?」


「おぉ~いいですね?またブーケがボクのもとに落ちてくるのですね?」


 いやそれはたまたまだから自ら取りに行くガチ勢には敵わんと思うよ俺は、よしそうと決まれば長に相談だ。




 

 翌朝、朝食が済むと俺は結婚式の件を長に持ちかけてみた。


「サーバルの結婚式ですか?やるべきでしょうが…」

「勿論我々も考えていたのです、ただ子供たちがあの様子だとかばんが言ったように…」


 そう、しばらく干渉するべきではないのかもしれない。

 でも違うと言いたい、なんでってあのサーバルちゃんだからだ。


「俺は逆にハッキリ形にすることで子供たちもしっかり祝ってくれると思うし、踏ん切りが付くんじゃないかと思うんだ?」


「「そうかもしれませんが…」」


 と不安の声を揃える二人、確かにかばんちゃんが言うように二人をサーバルちゃん離れさせられなくて困らせるかもしれない。


 でも子供たちだってダメなことはダメだと理解して我慢することを覚えている、二人も成長しているんだ。


 俺はそんな二人を親として信じたい。


「最近さ、子供達が結構しっかりしてて驚くことも多かったんだよ?思っていたより二人は成長してるんだ、いつまでも親がいろいろやってちゃ自立にならないし、ここはクロとユキの心の成長を信じたいんだ… だから二人も信じてみない?」


 少し悩んではいたが、最終的に二人は首を縦に振ってくれた。


 もちろん俺だって不安だ、どうなるかなんてわからないんだから。


 でもクロは心の痛みに耐えて「おめでとう」と言える精神力がある、ユキだってこれがいいことでサーバルちゃんの幸せだということもしっかり理解している。


 二人とも思いやりがある…。


 だから俺は信じている、まだ5才の子供達だが親が思っているよりずっと大きいって。








「え?サーバルちゃんの結婚式ですか?僕達の式以来でなんだか懐かしいですね?でも、昨日のことのように思い出せます!」


「あの時はかばんちゃんの髪もまだ短かったね?それでも、とても綺麗だった… 白いドレスと花の冠で本当に天使かなにかかと思ったよ」


「もぅ…またそんなこと言って」


「本当だよ?あれは反則… もちろん今もすごく綺麗だよ?いや、もっと綺麗になった」


 互いの指を絡め、おでこをコツンとくっつけながら自分達の結婚式を思い出してみる。


 今思い返すとなんだかとてつもないことだったんだなと思う。


 まさか俺が結婚とはね?あの時はまだ17か18?向こうじゃまだ学生の歳だ、法的にも結婚できるか微妙、遊び盛りなんて言われてる年頃だろうが、でもここじゃそんなの関係ない。


 俺には絶対かばんちゃんしかいないと思ったし、彼女とならずーっとやっていけるとも思った。

 世の中には嫁に飽きたとか、自分の女の悪口しか言わないような男もいるが…。


 なぜなのかわからないな?


 ならなんでそもそも一緒になったんだ?俺は少なくとも未だに妻に夢中だし、これからもずっと妻が大好きだ。


 人を好きになるってこういうことではないのか?結婚ってそれが大前提のはずだ、一生側にいて君を守る…ってそんな気持ちになるから結婚するんだ。


 照れ臭いけど目をそらさずにちゃんと言え

る、「愛している」って。

 胸張って嫁さんを愛していると言えないようじゃ夫としてどうかとすら思ってる。


 ずっと君だけを見ている…。


 というよりは、もう君意外見れないんだ。


 大きすぎるんだよ、存在が…。




「あのシロさん…?そんなに見つめてどうかしたんですか?///」


「ダメ…?」


「いえ… でも最近いろいろあったでしょ?なんだかこんなの久し振りな気がして…」


「君は本当に、いつまでも可愛いまんまなんだね?」


「そんな~///もう… シロさんも素敵ですよ?」


 しばらく見つめ合うと俺たちは唇を… 一回だけ、短めのやつを一回だけにしておいた。

 あんまり調子に乗ってチュパチュパやってると盛り上がって我慢できなくなってしまうからだ。


「今夜は我慢ですよ?」


「わかってるよ~!はぁ… サーバルちゃんの結婚式上手くいくかな?」


「大丈夫ですよ」


「幸せになれるといいね?」


「あの二人なら、なれますよ?」


 まだなーんにも準備はしていないが、サーバルちゃんとシンザキさんの結婚式の成功を願った… 本人たちに話してすらいない、ドレスはどうしようか?どんな料理を出そうか?ケーキの味は?会場はどこ?決めることは山積みだ。

 

 これは追々だな…。


 しかし今日はお預けか、夜はスナネコちゃんが泊まっていくからなぁ、しかしあの子は今夜眠らないだろう。


 しかも彼女はオオカミさんの刺客疑惑があるからな、今夜は地下室は固い決意を持って封印だ。


 スナネコちゃんはどこで見てるかわからな… スナネ… あ…。


 ドアの隙間からチラリと覗く目見える。


 上から順に。


「おぉ~… また図書館を揺らすのですかぁ~?」

「聞きましたか?今夜は熱くなりそうですね助手?」

「はい博士、盛り上がってきたのです!」

「パパとママは仲良しでいいですねぇ~?ねぇクロユキちゃん?」

「…Zzz 眠いよぉ… お布団はー?」

 

 コソコソ


 ~!!!///くそ~!全然気付かなかった!こんなときフレンズの能力が恋しい!


「えーい!散れ散れ!見せもんじゃないぞ!夫婦仲良くして何が悪いと言うんだ!クロはもう寝なさい!母さんもユキに戻りなさい!ほら早く!」


「なんだぁ… せっかく生で揺れる図書館を体感できると思ったのですがぁ‥」

「数日泊まるのですよスナネコ」

「夜は寝てるフリをするのです」

「ユウキ!そんな言い方はママに向かって失礼ですよ!」

「Zzz …」


 まったくもう… この人たちは本当に。


「シロさん?」


「ん?」


「僕はこーんなに幸せですよ?えへへ///」


 腕をぐーっと広げてこんなに大きいぞというのを表現してくれた。


 ほんっと君っていつまでもたっても可愛いにもほどがあるよね?




 俺はもっと幸せだよ…?





 それから翌日、式を挙げるにあたり役割を分担することになった。


 俺はもちろん料理だ、四皇ビッグみんみの為に最高のウェ~ディングケェ~キ!を作ってやろうではないか、アシスタントにアラフェネを呼び披露宴の料理も作っていく。


 アライさんの受け売りだが、まさに“無敵の布陣”と呼べる状態にしておきたい。


 長は本人たちに聞いてから島中で通達、そして妻は?




「あの!だったら僕に是非やらせてほしいことがあるんです!」




 と自信満々やる気いっぱいに手を挙げてくれた妻… 「聞きましょう」と長達が許可を出したところで妻は答えた。




「サーバルちゃんのドレス!僕が作ります!」




 ドレスを… 作るだって?


 君ってやっぱり最高だなかばんちゃん?

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