第41話 初めてのおつかい

「準備はいいサーバルちゃん?難しいと思うけど辛そうにしててね?」


「わかったよ!かばんちゃんも上手くやろうね!」


「我々の理由はもっとましなやつがなかったのですか!」

「さすがにポンコツ過ぎるのです!バレるに決まってるのです!」


「いいからいいから、はい作戦開始!」






 シロのその言葉を合図に子供達の自立心を試す“初めてのおつかいプロジェクト”が始まった。


 まず慌ただしく家族の元へ駆けてきた母かばんが叫ぶ。


「大変です!」


 緊急事態であることを伝えるが家族は至極冷静にその様子をうかがっている。


「どうかしたのかいマイスイート?」

「「ママどうしたの?」」


 尋ねると意外や意外、かばんははこんなことを仰るのだ。


「サーバルちゃんが熱を出しました!」


「うみゃんみゃ… お熱がでたよぉ~辛いよぉ… ハァハァ///」←迫真


 まさか!?あの太陽の申し子サーバルちゃんが!?とシロも子供達も驚愕を露にしていた、彼女は滅多に熱など出さないのだ。


 さらに事件は続く。


「ぐぁぁぁ!?」

「いぇぁぁぁ!?」


「はかしぇとじょしゅどーしたの!?」

「痛いの!?どこか痛いの!?」


「小指をぶつけたのです!」

「痛いのです!痛すぎるのです!」


 すれ違い様に足の小指同士をぶつけた長の二人はその場にうずくまり行動不能となってしまったのであった。


「どうしますかシロさん!」


「氷をとってくる!」


 シロがそう言ってわちゃわちゃと雪山を目指し、かばんもわちゃわちゃと三人の看病を始めた、そしてそれを見た子供達も心配そうな顔で三人を見ていた。


「「大丈夫…?」」


「うみゃあ/// ハァハァ」


「ダメなのです」

「これはダメですね」

「長の仕事に支障が出るのです」

「もうダメかも知れないのです」 


「「どうしよう…」


 こんなに一度にたくさんのことが起きては困るのも当然である、かばんはあれやこれやと準備に忙しい、そのせかせかと動く姿を見れば「大変なことが起きている」と子供たちにもすぐに理解できた。


「ハァハァかばんちゃんハァハァ晩御飯はなに…?」


「温かいシチューだよサーバルちゃん?待っててね!早めに用意するからね?」


「頼むのですかばん」

「シチューを食べれば治るのです、なぜかそんな気がするのです」


 それを聞いた子供達は「早くシチュー作って!」と焦り気味に騒ぎ立てている、がここでかばんはあることに気づいてしまったのである。


「牛乳がない!?」


 そう、主な材料である牛乳が無いのだ。


「どうしよう!」

「シチュー作れないの?」


 そしてこの時!子供達に任務を伝える瞬間がやって来たのだ!


「どーしよう… シロさんはいっちゃったしみんなを置いて牛乳を取りに行くことはできない、看病もしないと…」チラチラ


 チラチラと助けてほしいオーラを出しつつそれを伝えると、子供達もまたわたわたと不安そうにしていた。

 

 そしてとうとうかばんは言ったのだ。


「そうだ!二人とも、おつかいに行ってきてくれる?」


「「おつかい?」」


「そうだよ?ママはサーバルちゃんたちを看病しないといけないから二人に行ってきてほしいの?フリシアンさんのところで牛乳をもらってきて?ビン3つでいいから?」


「できなーい!」

「こわいよー!」


 やはり子供達は口々に不安を漏らした。


 普段子供達だけで遠くまで出歩くようなことはないし、これまでは少し出るだけでも誰か保護者がついていたのだから。


 それなのにこの状況下で4才の子達はおつかいに行けと言われているのだ、恐がるのも無理はないのである。


 なのでかばんは予め用意していた策を使うことにした。


「おつかい行ってくれたらママすごい助かるなぁ?パパも凄い喜んでくれると思うなぁ?サーバルちゃんも博士さんたちもきっと二人のことすごいすごいって褒めてくれるよ?」


「「いくー!」」←ちょろアマ


「わぁありがとう!困ったら近くのフレンズさんかラッキーさんに頼むんだよ?」


 かばんは子供達の身支度を済ませ、注意するべきことや向こうで伝えること、二人で協力すること、ケンカせず仲良く助け合うことを伝え二人を送り出した。


「じゃあこの道をまっすぐね?」


「「はーい!」」


「困ったらどうするんだっけ?」


「「近くのフレンズさんかラッキーに聞く!」」


「着いたらどうするのかな?」


「「おっぱいのお姉ちゃんに牛乳をビン3つくださいって言う!」」


「フリシアンさんね?… ビンは割れるからあんまり揺らしちゃダメだよ?」


「「はーい!」」


「じゃあいってらっしゃい!気を付けてね?転んで怪我しないようにねー?」


「「いってきまーす!」」


 子供達が仲良く元気に歩きだすところを見送るかばん、その表情には不安… とにかく不安しかなかった。


 そしてその光景を眺める二つの影があった。





「シロさん、自分達も行きましょう」


「御意…」


「いいですか?付かず離れずですよ?心配かもしれませんが基本は見るだけです、いいですね?」


「御意…」


「ふざけてんすか?」


「ごめんごめん!いや真面目です!行こうリカオン隊長!」


 護衛チーム シロ、リカオンペア出動。


 二人は木の上を巧みに跳び移り子供たちを追跡している。

 いまのところ順調、前日のハンター大掃除につき小型のセルリアンすら存在しない。


 森の中は少々薄暗いが移動に問題はない、道路のように道が開けているので迷うこともないだろう。


 ここでは森の中を図鑑片手に歩くことで慣れているクロユキが先導を勤めているようだった。


「木がたくさんだね!」


「森だからね!」


「ねぇクロ!カブトムシだよ!取ろうよ!」


「カブトムシもご飯の時間だからダメだよ!樹液を吸ってるでしょ?」


「なにあれー?美味しいのー?」


「虫のご飯は食べないでくださーい!」


 ご覧の通り勉強熱心なクロユキは常識を弁えていた、シラユキは子供らしく目を引くものにちょくちょく興味を示しキラキラと目を輝かせている。


 子供は子供らしくはしゃぐのが正解でもあるが、常識を弁えしゃんとするのもまた正解ではある。


 クロユキが大人びているのもシラユキが子供らしいのというのもまったくおかしくはない。

 なんにせよ、その光景を見るシロにとってそれは「可愛いからどちらでも許せる!」に他ならないのである。


「クロはしっかりものですね?かばんにそっくりです」


「だろう?自慢の息子なんだ」


「ユキも元気でいいですね?見てるこっちまで元気になります」


「だろう?自慢の娘なんだ」


 そんな時だ、シラユキがつまづいて転んでしまったのである。


「ユキ!?」ガサッ


「シロさん!ダメです…!抑えて?我慢です!様子をみましょう!」ガシッ


 心配で不安でたまらない… この企画でもっとも不安なのは子供たちではなく両親なのかもしれない。

 シロは歯を食い縛り助けにいけないもどかしさに耐えた。


「大丈夫?」

「平気!ユキ強いもん!」

「よかったー!じゃー行こぉー!」


 普通に立ち上がり、二人は手を繋ぎ先へ進んでいく。


「ほら見ました?大丈夫みたいですよ?ってなんで泣いてるんですか…?」


「二人とも偉い… グスン」


「えぇ…」



 そう泣くには早い、まだ前半戦である。



「無事に森を出ましたね?」


「子供の足では森を出るだけでも疲れるだろうけど、ここまでくれば牧場まですぐだ!二人とも頑張れ!」


 森ではこれと言って問題はなかったが、親としてはなんでもかんでもヒヤヒヤしたシロである。

 このまま順調に行ってもらいたいがそう上手くいくものなのだろうか?


 口では頑張れというシロだがどうにも過保護になってしまう。


「自立心か…」


 子はいつか親の元を離れ、自立して自分の力で歩く。


 そしてどんな動物でもそれは同じである。


 ヒトだろうと猫だろうと最後は自分の力で生きなくてはならないのだ。


「もしかすると、俺が子離れできないだけなのかもしれないな…」


「なんですか急に?」


「いや、子供って成長早いんだなってさ…」


「フレンズになるとピンとこないけど、4年や5年っていうと獣ならとっくに一人立ちして子供がいてもいいくらいです… だからと言ってあの子達に当てはめたりはしないですが、でもきっとそれくらいあっという間なんだと思いますよ?親から見た子供の成長って?」


 シロのどこか寂しげな表情にリカオンが返すと「言うようになったねぇ?」とまるでからかうように彼も言い返した。


 そう、リカオン自身もいつまでも新人ハンターではない。


 ヒグマとキンシコウから見ればまだ彼女は後輩なのかもしれないが、すっかりベテランハンターとして活躍しているのだ、彼女にとっての後輩だっている。


 時と共に成長する。


 それはヒトもフレンズも同じだ。






「「おっぱいのお姉ちゃんこんにちわ!」」


「あらあらクロくんにユキちゃん?今日は二人で来たんですか?」タユンタユン


「おつかい頼まれたんだよ!」

「えーっと… なんだっけ?」


「牛乳、ビン3つだよ!」

「そうだー!3つくださーい!」


 無事に牧場に付きかばんに言われた通り牛乳を注文した子供達、シラユキはすでに失念していたがクロユキが一言一句覚えていたため事なきを得る。


「まぁ!えらいですねぇまだ小さいのに!はい、用意してありますよ?ビンが割れないように気を付けてくださいね?」


「「はーい!」」


 元気よく返事をするとユキのリュックにビンを詰めていく


「大丈夫かなー?」

「んと… これをこうして… これなら割れないと思う!」


「あらあらまぁ?とっても頭がいいんですねクロくんは?」


 なんとクロユキはビン同士の間に柔らかい… 例えばタオルなど挟み衝撃を吸収するようにしたのだ、確かにこれなら暴れない限り割れることはない。


「ユキ大丈夫?重くない?」

「平気だよ!ユキ強いもん!」


「気を付けて帰ってね~?」


「「どうもありがとー!おっぱいのお姉ちゃん!」」


「あらまぁ…」


 ここまでが中間地点、二人は適材適所を駆使し持ち前のコミュニケーション能力で難なく牛乳を回収することに成功した。


「偉い… グスン」


「またですかぁ?っていうかおっぱいのお姉ちゃんて…」


「何度言っても直らないんだよねあれ?あとでフリシアンさんに謝っとかないと…」


 子供達はへいげんちほーを突き進みしんりんちほーの森へ再び帰る、そこに試練が待っているとも知らず。





 森は変わらず静かだった…。


 先程と違うのは夕方も近付き行きよりも太陽が傾いているというところだろう、順調ならそれこそ夕方には帰ることができそうだ。


 そう順調なら…。


「ひ…」

「ユキどうしたの?」

「あれ… あそこに変なのいる…」


 ユキが指し示すその方向にいたのは。


「フフ、私はセルリアンだよ…」バーン


 頭にだけセルリアンみたいな被り物をしたタイリクオオカミ先生その人である。

※セルリアンマスク 作かばん。


「あれってオオカミさん?見ないと思ったらあんなところで何を…」


「あんなの子供だけでどう対処するっていうんだ!仕方ない!“奥の手”を使う!」


「え… え?なんですかそれ!?」


 リカオンが尋ねたころシロはもう行動を起こす寸前であった。


「やだぁ!こわいよー!」

「あっちいけよ!セルリアン!」


「フフフ、牛乳の匂いだねこれは?牛乳を奪うセルリアンなんだよ私は、さぁそれをもらおうか?」


 またタイリクオオカミの悪ふざけが始まった… その姿は完全に変質者のそれである。


 牛乳好きの顔だけセルリアンオオカミはジリジリと子供達ににじり寄る、恐怖した二人は態度こそ強気だが泣き出す寸前である。


 しかし、ここでクロユキ男を見せる。


「ユキは先に帰って!パパをつれてきて!」


「クロはどーするの!?」


「ぼくが戦う!」


「そんなの無理だよ!クロは弱いもん!」


「男は家族を守るんだってパパが言ってた!だからぼくも家族を守るんだ!」


 その言葉に場にいた大人たちは胸を打たれた、特に父であるシロはいつのまに息子はそんなに強い心をもった男になったのかと驚きを隠しきれず、また涙した…。


「じゃあユキも一緒に戦う!」


「ダメだよ!」


「ユキの方がクロより強いんだよ!二人でやれば勝てるよ!」


 子供たちは恐怖を克服したわけではない。


 だが二人は思ったのだ、目の前のセルリアンよりも家族を失うことのほうが恐ろしいと。


 無論4才の子供が何か策を練って敵と相対しているのかというとそうではない、二人ともどちらかを見捨てるくらいなら立ち向かうことを選んだのだ。


 ちなみにシロの母であるユキは出てきてはいけないとシロに念を押されているので大変もどかしい思いをしている。


「いいねぇ?勇気を題材にした正統派バトル漫画もいいね?いい表情頂き… さて、どうするのかな?フフフ」


「でもクロ、どうやってあんなのやっつけるの?」


「セルリアンは石を砕けばいいんだよ、でも僕たちじゃ無理だと思う…」


「えー!じゃあ帰れないじゃん!」


「やっつけなくていいんだよ!えっと…」


 どうやらクロユキには何か策があるように見受けられた。

 

 ユキのリュックをガサゴソと漁り、目の前にいたオオカミもそれを興味深そうに眺めていた、同時にシロとリカオンもその子供達の勇姿に動きを止めている。


「何をするんでしょう?」


「わからない、でも親が信じないで誰が子供達を信じるって言うんだ…」


 クロユキがリュックから取り出したものそれは?


「これ!」

「えー!なんで牛乳を持ってるの!?」

「これをこう!」ブン!


「…!?」


 クロは牛乳ビンを1つだけ投げた。


 オオカミもその姿に驚愕したのか一瞬だけ怯んでしまう。


「それあげるからこないで!ユキ走るよ!」

「でも牛乳いいの~!?」

「ぼくが怒られるからいいの!逃げるよ!」

「逃げろー!」


 一目散に図書館の方へ駆けていく子供達を追わずに見送るオオカミ、その場に降り立つシロとリカオンも二人の背中を見送った。


「驚いたよ、私が牛乳に固執していたことをしっかり覚えていたんだね?」


「あの場だと戦うしかないと自分達なら思いますけど… そうですよね?オーダーは“おつかい”だから倒す必要はないんですよね」


「妻にそっくりだ… 二人とも怖がりだったのに、強くなったんだな…」


 とても嬉しいがやはりどこか寂しい。


 これがいつかくる親離れかと思うと、シロ自身も父親として成長する必要があると感じた、そんな出来事だった。


「シロさんにもよく似てましたよ?」


「そうだね、君が家族を守るとこもよくみていたんだよ二人は? …ところでそれはなんだい?」


 シロの手には謎のマスクが握られている… そう、それこそが“奥の手”である。


 彼は子供達の前に出るしかないときそれを被ればいいと妻から渡されていたのだ。


「これ?変装マスクだよ… えーコホン

 ボクハ ラッキービーストダヨ ヨロシクネ?」スッ

※ラッキーマスク 作かばん


「「ブハッ」」


 顔だけラッキービーストのシロのモノマネが炸裂した。


「ふふ、似てるね?上手いじゃないか?」


「生態系ノ維持ガ原則ダカラネ」


「ぜんっぜん!可愛くない!そんなボスやだ!キツいですよ!」


「リカオン ソンナ言イ方 酷インジャナイカナ?」


「ちょ!ふふふふ、もうそれやめ… ふふふ!なんでそんな上手いんですか!もう!さぁ帰りますよ!」


 森に残されたリカオンと変なヤツ二人はゆっくりと図書館に向かい歩き出した。





「「まぁまぁ~!」」


「二人ともおいで!」


 そして森を駆け抜けた子供達は帰りを待っていた母の胸に飛び込む。


 元気そうな二人を抱き締めたかばんはとにかく無事に帰ってきてくれたことに安堵した。


「おかえり… よく頑張ったね?」

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