第40話 じりつしん
アードちゃん事件も落ち着きしばらく経ったある日のことだった。
オオカミさんが原稿を持って図書館に現れたのだ。
「やぁシロくん?みんなも元気にしてたかい?」
「いらっしゃいオオカミさん、地下室にいかがわしい本がある以外は万事良好だよ?」
「フフ、手厳しいねぇ?でも“何か”の役にはたってるみたいだとお見受けするよ?」
「…?まさか、俺には必要ないよ?」
俺がオカズにしてるとでも言いたいのか?本物を前にしてなぜ敢えて偽物を選ぶ必要が?
「いや君とは言ってないよ?例えば… サーバル?なんだか色っぽくなったねぇ?なにか“特別なこと”でもしてるのかな?」
なにやら意味深な発言がされサーバルちゃんに皆の視線が集まる。
何に気付いたと言うのか?サーバルちゃんと薄い本なんて世界が違いすぎる組み合わせがまさかあるもんかい。
「え!?えっと!え~っとぉ!な、な何もしてないよ!オオカミの描いたエッチな漫画なんて知らないよ!」
「なにも私は“エッチな漫画”の話をしているわけではないよ?なんだか随分メスの魅力が増したように見えるから、なにか美容に気を使ったりしてるのかと思ったのさ、え?あれを読んだのかい?」
「…!?みゃあ~!よ、読んでないよ!///ホントだよ!」
え、読んだのか…?あれを?
メスの魅力ってなんだ、フェロモンが出まくっているとでも言いたいのか?言われてみれば確かに綺麗になったかな?とは思うが、それは恋をしてるからでは?それに待て、読んだからなんだ?そもそもサーバルちゃんにあれを読みきることができるのか?
フッとサーバルちゃんの方を見直すと、顔を真っ赤にしてモジモジと少しうつむいている、単純に内容を思い出してのそれなのか?まさか!いやそんなはずはない!
「あの… シロさん?この話は終わりにしませんか?」
「うん、そうだね?忘れるよ」←忘れない
「フフ、いい表情いただいたよ?」
まったくこの人はまた余計なことを発掘してくれたね、というかかばんちゃんなにか知っているのね?
…
そんなやべー事実がオオカミさんの手によって解放されかけた今日、それはそれとして他愛ない会話を続けているとオオカミさんが俺達夫婦に言ったのだ。
「二人とも、子供達が大事なのはわかるけどあまり過保護なのもいけないんじゃないかな?親として可愛がるのも当然だけど、やっぱり立派に大人になってもらうにはちゃんと“自立心”も持たせないとね?」
それは確かにそうだ。
パークには子供がクロとユキしかいないので少し甘やかされがちである、危ないものからは事前に両親である俺達と周りのお姉さん達が守ってくれる、安全を確保してると言えば聞こえはいいがそれでは一歩間違えれば無知な方の怖いもの知らずに育つだろう。
だからと言ってわざわざ危険に投げ入れる訳にもいかない、だからしっかりと「それは危ない」「気を付けろ」と教えなくてはならないのだ。
まぁセルリアンの恐怖は二人とも十分味わっただろう。
もちろん間違っていれば注意するし叱るときは叱るのだけど、なんでもかんでも大人がやってあげてたらそういう子になってしまう。
とは言え、二人ともなんでも自分でやりたがる年頃だし最近は手を出すと逆に怒ることもあるんだが…。
「自立心かぁ、それならおつかいでも頼んでみようか?」
「でもセルリアンが…」
「あらかじめハンターに頼んで周囲の安全を確保してもらったらどうだい?目的地を決めてそのためのルートも作っておくんだ、心配ならバレないように後からついて行けばいいのさ?」
オオカミさんがやけに協力的… というかごり押ししてくるな?
多分漫画のネタに使えそうだとウキウキしてるに違いない、あの落ち着いた雰囲気で尻尾を振ってるじゃないか、そんなところが性格のわりにお茶目だ人だ。
でもおつかいと言ってもなぁ?何を頼めばいいんだろうか?まさか子供の足でちほーを股に掛けさせ重たい荷物を持たせて歩いて往復させろと言うのか?でも頼めそうなおつかいなんて乳製品くらいだぞ?
それは正直子供にはキツすぎる!ユキは力があるがすぐいろんなものに興味が移るから前に進まないし頑固だし、クロは逆に体力が並みの子供だからユキに着いていけないかもしれないし頑固だし、もし途中でケンカでもして道中二人が泣いたりしたらそんなところを親として放っておけるだろうか?答えは否!断じて否!
はわわ~… 心配!パパ心配!
「まぁまぁ、二人とも気持ちはわかるけどもっと信じてあげたらどうだい?子供達は二人に似て思いやりがあるからね、両親が困ってると知ればちゃんとやってくれるかもしれないよ?」
確かに、この人がどこまで本気で言ってるかは別としてまともなことをおっしゃる。
親が信じてやらねば誰が信じてやるのか、でもまだ4才だぞ?
すると、そこで何か思い立ったように妻が立ち上がった。
「やりましょう…」
え!?急になに言い出すのママンちゃん!?本気なの!?
「お、いいねぇ~?ママさんはわかってるじゃないか?奥さんはこう言ってるけど、パパさんはどうするのかな?フフフ…」
でもでもでもでもでもでも…。
「シロさん、僕は信じています… 二人ともいい子ですから?きっと協力してやり遂げてくれますよ!」
かばんちゃんさん… 君がそこまで言うなら俺も信じねばなるまい、シロャーンが信じねば誰が信じる!ピッキーン
「OK!と言うわけで設定を考えてみたんだ、どうかな?」
“初めてのおつかい 脚本 タイリクオオカミ”
まずこのような状況をあらかじめ作り上げる…。
「たーいへーん!サーバルちゃんが熱を出して博士さんと助手さんがお互いに足の小指をぶつけ合って三人とも要看病の状態なそんな時に限ってシロさんがみんなを冷やすために雪山に氷を取りに行ってしまって牛乳を取りに行けなーい!これじゃあシチューが作れなーい!どーしたらいいのー!?」←早口
「ハァハァ… かばんちゃん、わたしの体こんなに火照ってるよ?ウミャァンわたしどうしちゃったのぉ?///」←恍惚とした表情
「くっ!痛いのです!」
「痛すぎて思考がまとまらないのです!」
「晩御飯のシチューさえ食べれば!」
「シチューさえ食べれば治るのですが!」
あまりの激痛にうずくまる長達。
かばんちゃん困る、サーバルちゃんハァハァする、長行動不能に陥り仕事に支障でる、そして俺は不在… 実は氷が云々といいながら隠れて観察しているのだ。
そしてかばんちゃんがここでわざとらしく思い付いたように子供達に言うのだ。
「二人ともお願い、ママの代わりに牛乳持ってきて?ビン3つ分もあれば足りるから?」
きっと子供たちは不安になり嫌がるだろう、そんな遠くまで子供だけで歩かせたことはないし、きっと不安で不安で泣き出してしまう。
でも脚本内ではそのままストーリーが進む。
森を抜けてまっすぐへいげんちほーを目指し、牧場で牛乳を頂いたら割らないように気を付けて持ち帰りましょう?勿論フリシアンさんには仕掛人に回ってもらいます。
森を抜ける時はあらかじめハンターの皆さんに大掃除をしておいてもらうが、俺もバレないようにこっそりと護衛を勤める。
さらにハンター達には先回りしてへいげんちほーでバレないように護衛を勤めてもらう、追跡のプロとしてリカオン先生には俺と来てもらおう、二人一組で動けばよい。
平原は姉さん達もいるだろうしセルリアンは早々に対処されている、こっそり護衛はするが森さえ抜ければ安全で円滑にことが進むだろう、でも… 一応ね?
で、牧場に着くとフリシアンさんがタユンタユンと現れ子供達にこう言うのだ。
「いらっしゃませ~?あらあら今日はクロくんとユキちゃん二人で来たんですか?まぁおつかい!?偉いですね!今用意しますね!はいどーぞ!ビン3つ分です!割らないように気を付けて?パパとママによろしく言っておいてください!」
ここまでが中間地点、これから子供達は牛乳を持って帰らなくてはならない。
ビン3つくらいならそこまで重くはないが4才の子供がずーっとかばんに背負って長い距離歩くのは肩にくるだろう。
ユキなら平気だろうがあの子ははしゃぎ回って飛び込み前転とかで全部ぶち割ったりしないか不安だ、現に先日逆立ちを覚えたかと思ったら逆立ち歩きもすぐに始めるしハンドスプリングもやっていた、またおパンツ丸見えになるのでスカートはやめてズボンを履かせたほうがいいな。
それは置いといて、つまり割れると牛乳まみれになる以上に割れたビンで怪我をするだろうし濡れるし臭いしシチューは作れないし誰も得しない状態となる。
おつかいも失敗、二人は責任を感じて自信を無くすだろう。
あるいは「ユキが暴れるから!」ってクロが責めたりしたら負けず嫌いのユキは「なによ!クロが弱いからでしょ!」ってケンカになりそうだ、そこは是非お互いに無いものを補い合って進んでほしいと思う。
あぁ不安をあげたら切りがない!二人とも自慢の子供だが大丈夫だろうか?
はぁ~不安っすねぇ…?
まぁとにかく、この不安を抜きにすればそのようにして二人がまた森に入り帰ってくる手はずだ、諦めてしまう可能性もあるが。
でも…。
成功すればまさに自立心の成長に繋がるだろう、自信もつく。
やらせてみるか?
「ところでかばんちゃんや?」
「あ、はい?なんですか?」
「サーバルちゃんは地下のマル秘本を読んでいったい何を…?」
「それはサーバルちゃんの名誉の為に言えません… でも、シロさんならそこまで聞いたら何をしているかもうわかってますよね?」
か、確定した…。
つまり迫りくる結婚初夜に向けてシンザキさんと二人で床についた時の為の勉強をしているわけだ、かばんちゃんが出した教材が地下室の薄い本だと言うのか…。
単刀直入に言うとサーバルちゃんはみんなの目を盗み地下室のベッドでヘルスケアを?
いや、いやいやいや!
それは言い過ぎでは?
と、とにかく彼女も結婚を控えているんだし!そういう好きな人に対して健気なところがあるんだろう、思考が女性らしくなったと考えればまぁオオカミさんの言う色っぽくなったってのもわからんでもない。
さぁそんなことより準備準備!
「あ、ヒグマちゃんとキンちゃんとリカちゃんだー!」
「あーそーぼー!」
「まぁまぁ待てお前たち… っておいおいおい!尻尾をつかむな!」
「元気そうですね?二人とも、いい子してた?」
「伝言受けとりました!しんりんちほーのパトロールとセルリアンの殲滅ですね?」
数日後にはハンターに森の大掃除を依頼、経過は上々だ。
仕事が済むと皆さんクタクタになったようなのでなにか力のつくものをごちそうしようと思う、おまけに子供達にもみくちゃにされてハンターも形無しだからね。
「ねぇねぇヒグマちゃんとパパはどっちが強いの~?」
「ヒグマちゃんはさいきょーなんでしょ?ししょーより強いのー?」
「なに?いやどうだろうな、最強ってなんだろうな?」
「シロさんですか… 私とリカオンだと勝てなそうですよね?二人がかりならなんとか?ん~でも最近は普通の戦い方と違うし…」
「あ、自分も見ましたよ!あの飛び出すやつですよね?あんなの急に使われたら避けられないですよぉ…」
なにやら子供たちが少し失礼な質問をしたかな?と俺は食後にお茶なんぞ出すついでに子供達に代わりにフォローを兼ねた謝罪をしておく。
「こら二人とも?ヒグマさんの方が強いに決まってるだろ?本業だぞ?」
「「えー!」」
「ふふふ、そうですよね?やっぱり強くてカッコいいパパがいいですよね?」
「でもまともにやりあったらどっちが強いんだろ…?」
「二人までやめてよ?俺は師匠に勝てないし多分姉さんにも勝てないから、当然そうなるとヒグマさんにも勝てないよ」
謙遜でなく、マジで勝てないだろう。
ハンターという生業上強いのは確かだが、そもそもヒグマという元動物が強い。
そしてフレンズとは元動物より強い、サーバルちゃんがサーバルキャットより力持ちで更に高く跳び足も早いのがいい例だろう。
だか俺にホワイトライオン以上の能力を引き出せているかは謎だ、なぜなら俺は元動物が人間… というか人間の素体にフレンズとしてホワイトライオンの能力が付加されいるからだ。
でもヒグマさんはそもそもヒグマ、その能力をすべて引き出した上で更にそれよりも高い能力を引き出すのだから当たり前に強い。
姉さんが強いのも師匠が強いのも当たり前ということだ、もちろんこれは他のみんなにも言えることだ。
「だが正直興味深いな、シロ?お前今どれくらい強いんだ?」
ヒグマさんの目がキッと鋭くなった。
あれは警戒や威嚇ではない、戦闘者として相手を見極める目だ。
「この前師匠に負けたばかりだよ」
「ショーのやつか?私にはもう一息に見えたがな?」
見てたのか…。
「ヒグマさん良くないですよそういうの?」「穏便にいきましょうよ?」
「ん?なんだよ暴れたりしないぞ?ちょっと興味が湧いただけさ?しんりんちほーを守る百獣の王にな…?」
「大袈裟だよ、まぁ都合上任されてはいるけど、俺が守ってるのは飽くまで家族なんだ」
戦闘開始にはならなかったが、意外にヒグマさんにも師匠みたいなところがあるんだなと思った。
仕事柄無駄な戦いは避けているが、本当は自分の強さをもっと追求したいのかもしれない… 例えば師匠は抑えの利かない戦闘狂だが、ヒグマさんは抑えの利く方なのかも。
…
ともあれ準備は整ったな、明日はオオカミさんの筋書き通りに子供達におつかいを頼むことになる。
ハンターと俺は護衛チームとして二つに別れることにした。
1 ヒグマ キンシコウ
2 シロ リカオン
こんな感じだね、俺のとこにはオオカミさんも同行する手筈だが基本護衛は俺とリカオンちゃんがする。
ヒグマ、キンシコウペアは先回りして驚異の排除、俺とリカオンちゃんは追跡と護衛という形になる。
「見つかったらダメですよシロさん!」
「お、オーダー!了解です!」
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