第39話 またおいで
昨晩張り切りすぎたために俺が上半身裸でシャツを回収しているところを図書館で眠る三人に目撃された、ご丁寧に畳んで机に置いてあるところはまるでエロ本見つけたお母さんのやつみたいだ、いやごめん本当に申し訳ない。
因みに脱ぎ散らかされたのはほとんどかばんちゃんの物で俺のは上だけだ、つまり今妻は地下室のベッドに下着姿のままシーツにくるまっているのだ。
想像しただけでもう一回戦イケる気がしてくるがやめておこう、心のテンションに体が着いてこないこないこともある。
さて、このままここで眠りたいけれど家に戻って寝ないといけない。
仲直りして、また心と体を一つに。
俺達は今回で絆をより強いものにできたことだろう。
…
深く愛し合った夜を過ごした二人、子供たちの眠る家に戻るとかなり遅めの就寝に入った。
そうして翌朝もかばんは心地よい微睡みに身を任せ夫の腕の中で眠っていた、二人は今まるで子供のように無邪気な安心しきった顔で眠っている。
そして…。
そんな二人の左手の薬指にキラリと光る結婚式指輪、お互いの絆をより強固なものとして繋ぎ止めるそれはまさに夫婦の証。
周りにはこれ以上ないほど仲の良い夫婦と言われ、その通り本人たちも当然良すぎるほどに仲が良い。
やがて自分達にそっくりな双子を授かり、昨日のような大きなトラブルも滅多に無く、とても幸せな毎日を送っている夫婦。
この上ない幸せ…。
そう、シロとかばんはとても幸せだった。
特に寂しい幼少期を過ごしたシロにとっては家族が増えるのが嬉しくて仕方ないことであった。
「あ、パパだ!」
「起こしちゃダメなんでしょ?」
この日子供たちは昨晩かばんに言われた通りいつのまにかベッドで泥のように眠るシロを見つけても無理に起こそうとはしなかった。
「「しー…!」」
とお互い顔を見合わせ、人差し指を前に持ってきた。
それから子供たちはクスクスと笑いながら家を出て博士たちのもとへ朝の挨拶へ向い駆けていく。
その時のパタンというドアの閉まる音で母かばんも目を覚ます。
朝…?起きないと…。
そう思い寝惚けた目をうっすらと開くと、気持ち良さそうに寝息をたてる夫の寝顔を見て少し笑顔がこぼれる。
早く子供たちを追いかけないと… と思っているのだが昨晩の疲れはかばんの体にもややのしかかる、受け身とは言え夫のすべてを受けとめているのだから当然である。
それでも体をゆっくりと起こして母の勤めを果たそうとするかばん。
がその前に、互いの薬指の指輪を見ると。
「えっへへへぇ///」
となんだか自分でも本当にだらしないと感じるほどのニヤケ顔になってしまった、彼女自身こんな顔をみんなに見られたらどんなことを言われるだろうか?と恥ずかしい気持ちもあるので、一呼吸終えるとキリッと気を取り直し着替えなど身仕度を済ませる。
シロさん疲れてるだろうからもう少し寝かせてあげようっと。
彼は起こさず、自分だけ皆の元へ向かうことにした。
「じゃあいってきます、ゆっくり休んでくださいね?」
そう言ってドアに手を掛けながら彼のほうを向いてニコりと小声で伝えた時だ。
ザザ… と例えるならノイズのようなものを感じた、ふと見ると彼は体を起こし窓の外をじっと眺めているのに気付いた、なぜだか周囲がボヤッとして見える。
あれ?
大きく違和感を感じたが昨晩の出来事で大変機嫌の良い彼女は気に止める訳でもなく彼に話しかけた。
「起きたんですか?もう少し休んでても…」
「…」
返事はなかった。
寝ぼけているのかと思い彼女はまた話しかけようとドアから離れてベッドの彼に近づいてみた…。
その時彼女は違和感の正体に気付いた。
あれ?窓、開いてたっけ?シロさんが開けたの?いつの間に?それになんだかシロさん様子が… ボーッとしてるというか、目が開いてるのにまるで眠っているみたい。
あれ?お耳もない… 髪も昔よく見たフレンズじゃない時くらいの量に減ってる。
なにかおかしい。
「シロさん…?」
だんだん様子のおかしいその風景に彼女は恐怖を覚えた、よく見ると彼は力無くただ外を見つめているだけではない、その目には光が無く外と言うよりは虚空を見つめているという感じだった。
少し痩せたようにも見え、起きているのにピクリとも動かない。
言うなれば、そこに“いる”というよりそこに“ある”。
まるで置物みたいに動くことはない。
その姿はまさに… “廃人”。
「え… シロさん?どうしたんですか?シロさ… !」
ザザ…。
彼に触れようとしたその瞬間またノイズのようなものを感じた、すると風景は自分が起きた直後と同じものになっていた。
戻った?
窓は閉じられておりベッドにはぐでっと横になり寝息をたてる彼の姿が… もちろん猫耳もある。
「あ… れ…?」
気のせいだったのか、白昼夢というやつだろうか?否、今は朝… 寝起きである。
「スー…スー…」
彼は眠っている、昨晩と変わらない彼だ。
なにが起きたの?
「なに?今の…」
「カバン ドウシタノ?」
「ラッキーさん、今の見ました?」
「ボクニハ 普段通リノ朝ニ見エタケド 寝不足デ疲レテルノカモネ 仲ガ良イノハワカルケド 夜ハユックリ眠ルヨウニシテネ」
「あ、はい…」
かばんは眠る夫の頭を撫でて彼は確かにここにいると存在を噛み締めた、さっきのはなんだろうか?なにかよくないことでも起こるのだろうか?なにかの暗示ならあんな質の悪いもの冗談じゃない、不安な気持ちが頭を過るが…。
「ん… もう朝?」
その時彼が起きた、彼女もハッと正気に戻り「まだ寝てていいですよ?」と伝えると、よほど眠かったのかまたすぐに目を閉じて数秒もしないうちに寝息をたて始めた。
きっと自分も寝ぼけていたのだ、気のせいだろう。
そう思い直すと、かばんは彼の頬にキスをして朝食の準備に取りかかった。
…
「うわっぷ!?今何時!?」
時間はわからない。←時計がない
だが寝過ごしたのはわかる、しまったのぜ!ジーザス!早く朝ごはんを!
大慌てで服を着替え寝癖でハネッハネの頭のまま外へ飛び出した、すると…。
「あ、起きたんですか?ご飯できてますよ?」
「パパお寝坊さんだー!」
「早起きしないとサーモンを食べれないんだよパパー!」
妻が朝食を用意してくれたようだ、あと早起きは三文な?いい加減覚えなさいよ僕のシュガーマフィンちゃんよ?
「おはようかばんちゃん、疲れてるだろうに俺の代わりにごめんね?」
「…」ジー
ん?そんなに見つめてどうかしたのかな?あ、キス待ちかな?
「どうしたの?変な顔してた?」
「え?あ… いえ…」
「なんだやっぱりキスしてほしかったのか、フフフ可愛いやつめ…」肩抱きぃ
「もう!朝ごはんですよ!シロさん疲れてるみたいだから、僕とサーバルちゃんで用意したんです」
ありがてぇ…。
昨晩は最k…大変だったからね、彼女も眠いだろうに申し訳ない限りだ。
食卓につきみんなで朝食を囲んでいるときに自分の左手の薬指と妻の左手の薬指を見るとつい笑みが溢れた。
「ンッフフフ!」
「何をニヤついているのです気持ち悪い」「食事中に変な顔をするなですよ」
長からの辛辣な発言も気になりません、だって結婚指輪つけてますから!いやー俺ってほんと既婚者!こんなに既婚者なやつが他にパークにいるかなぁ?フフフ… いない!
妻も機嫌が良さそうだ、アイコンタンクトを送ると「…?エヘヘ///」と笑ってくれるんだ?可愛いにも程がある、絶対孕ませてやる。
そんなふうにこれ見よがしに二人で指輪を主張していると、妻の大親友サーバルちゃんがその小さいが大きな変化に気付いてくれた。
「あれ?かばんちゃんそれはなになに?指になにか付いてるよ?キラキラしてるね!」
「エヘヘ///」
「パパも付いてるよー?」
「僕わかるよ!指輪でしょ?」
せいかーい!さすが我が息子よ、観察眼と知識が素晴らしい。
「それは結婚指輪ですよサーバル」
「シロが浮気できないようにかばんが飼い主だと主張するためのものです」
「夫ね?」
「へぇーそうなんだ!綺麗だねー?」
やっと用意することができたんだと意気揚々と話し、それはそれはとても賑やかな朝食となった。
しかし仲直りしたから決着ではない、大仕事がひとつ残っているのだ。
それは朝食が済みお昼が近づいたころの時に起きた。
「あの、おはようございます…」
「アードのお姉ちゃんだ!」
「アードちゃんおはよう!」
アードのお姉ちゃんに俺のことを諦めてもらわなくてはならない、なんで急にモテるんですかね?困りますよ私既婚者なんですから。
はぁ… そうだね?八方美人だね?
「サーバル、クロ、ユキ… 我々と来るのです」
「3人は大事な話をするのです」
「あ… わかったよ!二人とも!行こう?」
「まってーサーバルちゃん!」
「アードのお姉ちゃんと遊んだらダメなの?」
「クロちゃんはわたしと来るの嫌?」
「いくー!」←ちょろアマ
5人は行ってしまった。
だが敢えて結果を言おう、丸く収まった。
まぁ一番ヤバかった部分は昨日解消されたたから、あとはアードちゃんに理解してもらえばこの件は解決なのだ。
そして意外にも彼女は「ごめんなさい!」という第一声を放った。
話を聞くにどうやら博士達が何か言ったようだ、彼女は自分が夫婦の間に割り込もうとする大胆不敵な悪女だと自己嫌悪に陥ってしまっていたのだ。
「いやそこまでじゃないよ」
というのが俺と妻の率直な意見だ。
「あの、アードウルフさん?僕達のお話を聞いてくれますか?」
「はい…」
妻が話したのは…。
自分はとても独占欲が強く夫を誰かと分け合うなんて寛大な心は持てない、あなたが悪いフレンズでないこともわかっているし出会うタイミングが違えばあなたと夫が一緒になっていたかもしれない。
聞くに俺は押しに弱いところがあるそうだ
だからどうか自分から夫をとらないでほしい、自分はもはや夫がいなければ生きていけないほど弱くなってしまった、かと言って俺を誰かと共有もできない。
だから夫を独り占めさせてほしいと伝えていた、そして妻は最後に…。
「でも“けものはいてものけもの”はいないんです、良ければお友達としてみんなでお付き合いしていきませんか?」
妻もアードウルフちゃんのことは嫌いではないんだろう。
性格とかちょっと似てるし、それこそタイミングが違えば二人は仲のいい友人になれたのかもしれない。
「アードウルフちゃん、俺もかばんちゃんを愛するのに精一杯で何人も嫁さん抱えるような器ではないんだよ?それに昔から決めているんだ、愛する女性は心に一人だけって… だからごめん、君はいい子だけど第二夫人にはできない」
俺もきっちり伝えさせてもらった。
かばんちゃんの後だと便乗したみたいになるけどそう、お友達としてならいつでも遊びに来たらいい。
その時はご飯も作るしお茶もおやつも用意する、そしてこの子は子供たちとも仲がいいんだ、良ければまた遊んであげてほしい。
「お友達になってくれるんですか…!?」
その時彼女は泣き出してしまった、いったい俺はこれから何人の女の子の涙を見ることになるんだろうか?
そして彼女の問いに対し俺達夫婦は「もちろんだよ」と答え頷いた。
「ありがとうございます…!私ってオドオドしてて皆さんに迷惑ばっかりかけてるんです… 実はサバンナから出たのも初めてで勢いで来たはいいけど怖くて帰れなくなっちゃったんです、知らないちほーでひとりぼっちでセルリアンに食べられちゃったらと思うと不安で不安で、それでユウ… じゃなくてシロさんの側なら安心かな?って思ったんです」
なるほどそんな求婚秘話があったのか、じゃあ俺のことを好きなんじゃなくて俺の力が好きなのか?
ん…? なんか複雑だな… いや、まぁとにかくだ。
「そういうことならサバンナまで送ろうか?バギーの後ろに… あっ」
「…」ゴゴゴゴ
「バスで行こうか」
「いいんですか?お仕事があるんじゃ?」
っぶね… ま、とりあえず料理のことはいいだろう、長が我慢すれば良いのだ。
アライさんが帰ってくるのが一番だが出て何日も経っていないからな、せいぜい来月辺りに帰ってくるだろう、仕方ないね?
ではお昼を食べたら出発だ、今日のお昼はなにがいいかなー?
「パスタを所望するのです」
「味は任せるのです、さっさと作るのです!」
「はいはい… アードウルフちゃんは辛いの平気?」
「へ?はい少しなら」
「それではシロの気まぐれパスタ、今日のメニューは… 娼婦風スパゲティー!」
娼婦風スパゲティとは、娼婦が適当に作ったら意外とうまかったからとかそんな由来だった気がする、漫画で言ってた。
「パパしょーふってなに?」
「勝負するの?」
「あー… そうだよ?男の人と勝負して勝つ女の人のことだよ」←ベッドの上で
「そうなの!?じゃあししょーのことだ!」
「え!?なに言ってんだクロ!違う違う!」
「なんで!でもししょーはパパと勝負して勝つじゃん!」
「そうだけど違う!ししょーに勝ったことはないけどししょーは違うの!さぁほら!向こうで遊んできなさい!」
「「ししょーはしょーふ!ししょーはしょーふ!」」スタタタ
あらぬ誤解を招いてしまった、今度から変な言葉は料理でも使えないな、何が娼婦風スパゲティだもっとましな名前はなかったのか
「シロさん?しょーふ?って僕もよくわからないんですけど…」
「あ、私も知りたいです!」
「わたしもわたしもー!」
「世の中知らないほうがいいこともあるんだよ…」
「えぇー!?でもお料理の名前なんでしょ?教えてくれてもいいじゃない!」
くそ!大人が寄ってたかって…!
「まったく何を騒いでいるのですか?」
「モタモタしてないで作るのですよ」
「シロちゃんがしょーふ?っていうやつのこと教えてくれないんだよ~…」
「しょーふ?あぁ娼婦のことですか?」「娼婦というのはヒトの世界でオスに対してメスが行う売春という…」
「やめろ!それ以上言うな!」
「「ばいしゅん?」」
あぁ~!?!?!?
その後、俺はかばんちゃんにそっと辞書を差し出し“娼婦”と“売春”のページを見せた。
「子供の前で変な言葉使わないでください」
…ってちょっと怒られた。
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