第32話 みずいらず

 ゆきやまちほーへ行こう。


 目的は温泉!と言うわけではない、だがついでに行こうとは思っている。


 真の目的は“お詫び”である。


 これはホワイトタイガーさんの純粋なヒーローへの憧れを結果的に弄ぶことになってしまったことに対するお詫びだ。


 彼女だって会議の件に謝罪をくれたのだ、ここは俺もひとつ頭を下げなくてはならないと思っている。


 子供たちに偉そうにごちゃごちゃ言わなきゃならない立場としてはしっかりしないといけない。


 こんなこと考えるなんて俺ってばマジで父親!←自画自賛


「というわけでお弁当でも作ろうかな~?って思って、かばんちゃんせっかくだからデートしない?」


「どっちがついでですかー?」


「弁当に決まってるじゃないか」


「そ、そこはデートがついででいいですよ!なんて… 嬉しいんですけど///」


 なんでこんなこと言うかってそれにも理由があって、実は結婚記念日が近いんだ。


 どこかでチャンスと口実を見付けて夫婦水入らず的な状況を作り出したいとそう思っているわけだ。


 子供たちとの日々は大事だ、しかし夫婦の時間も同じくらい大事だ。


 仕方のないことだしそれが苦というわけではないが、やっぱり子供が生まれると子供優先の毎日になる、特に我が家はヤンチャな双子なので大変だ。


 片方はいっちょまえに恋なんぞしてるしもう片方は母さんだし。←哲学


 おまけに耳フェチ尻尾フェチときた、まったく困った天使たちだ。


 なので、記念日くらい若いカップルみたいにイチャイチャベタベタしながら過ごしたいなんてことを考えている。


 そして!


「そんな大変丁度良いタイミングで優秀な弟子たちが帰ってきた、アライさんにフェネックちゃんだ!二人ともあとよろしく!」


「アライさんにお任せなのだ!」

「代わりに料理番をしてー?サーバルにも教えてあげればいいんだねー?」


「よろしくね二人とも!… ねぇシロちゃん?子供たちはどうするの?」


 そう、仕事はこれでいいとは言っても子供たちが駄々をこねるかもしれないのだ、そんなときはいっそのこと一緒に連れていこうと思う、この際家族で温泉も悪くないじゃないか?


 なので実際に聞いてみた。


「「みんなとあそぶー!」」


 楽勝だった… それはそれで寂しい。


「まぁ我々もいるのです、たまには気にせず励んでくるのです!」

「我々は“三人目”ができるのを楽しみに待っているのです!」


「やめてよ子供の前で~///」サンキューデース!


 よし、そういうことなら早速準備しようか。


「それでは問題です、極寒のゆきやまちほーで温かいお弁当を渡すにはどうしたら良いでしょうか?」


「“カイロ”ですね?材料は用意してありますよ?」


 言わなくてもわかってくれる妻は実に可愛らしい。


 懐炉かいろとは、化学発熱体や蓄熱材等を内蔵し携帯して身体を暖めるもののことを云々かんぬん。


 カイロには灰式とか白金触媒式とかあるんだが、やはりお手軽な使い捨てタイプがいいだろう。

 他には電子レンジ式とかあるんだけど、あいにくうちにはそんな便利道具はないのでやはり使い捨てタイプがいい。


 砂鉄に木炭、それから塩水を用意します。


 それを混ぜれば完成だ、簡単だろ?


 なんでも砂鉄の酸化反応の熱を利用するとかなんとか… ってここで温めて向こうで効果が切れては本末転倒だ、細工しとかないと。





 準備が済むと俺はバギーを出した、なかなか乗れないのでこういう時にこそ使わなければせっかくのサンドスターエンジンが台無しだ、バスに実装するにはこいつで試験運転して父さんに結果を報告しないといけないし、ちょこちょこ乗るようにしないと。


「じゃあパパ達行くけど、本当にお留守番してるんだな?」


「遊んでるー!」

「アライちゃんの尻尾捕まえるのー!」  

「なにぃ!?」ガクブル


「みんなに迷惑かけたらダメだよ?いい子にできる?」


「できるよー?」

「フェネちゃんの尻尾も捕まえるのー!」

「優しくしてねー?」ゾクゾク


 不安だなぁ…。


「サーバルも慣れているし、我々もいるのです」

「なんなら一晩泊まってよろしくやってくるのです」


「あの、ユキはピーマンが苦手だから細かく刻んであげてほしいんだけど?」

「クロは図鑑を持って森に入ったりするから一人にならないように見ててあげてほしいんです…」


「大丈夫だよ!さぁ行っておいでよ!後はわたしたちに任せて!」


 そんな頼もしい言葉を受けて俺たち不安感限界突破状態で雪山を目指した、防寒着も忘れずに。




 


 バギーは以前と違う「キュゥゥゥン!」という独特の音を挙げ道を進む、普通のエンジンと比べればずいぶん静かだ…。


「なんか静かですねー?大きな音も揺れもないし、前とはすごい違いですよね?」


「普通のエンジンと違ってサンドスターを軒並み電力変換して動かしてるからだよ」


「でも、そんなの関係ないですけどねー?」ウキウキ


「上機嫌だね?」


「それはそうですよ~!みんなのおかげで久しぶりにデートできますし!子供たちもいい子にしてくれてるし!僕たちも楽しまないと!」


 そうだ… 俺達夫婦の教育は間違ってなかったんだ。

 これからも愛情たっぷりに子供たちに接してやれば俺達家族の平和は、続く…!


 ドドドドド ←セルリアン登場


「ウォォォォオッ!」パッカーン!


「シロさん… 僕のために///」ウットリ


 俺は負けねぇからよぉ?


 このように死亡フラグもバッキバキにへし折りながらゆきやまちほーを目指しバギーを走らせる。

 ホワイトタイガーさんはゆきやまちほーのどこにいるか知らないのでまっすぐ温泉を目指すことにしている、彼女のことはきっとギンギツネさんたちも知ってるだろう。

 ところで二人は彼女と仲がいいのだろうか?キタキツネちゃんなんてあんまり相性よくなさそうだけど。





「あら?シロとかばんじゃない?」

「いらっしゃい、今日は二人?」


「おはよう、ちょっと用事ついでに温泉デートにね?」

「子供たちはみんなで見ててくれるから二人でいってきたら?って言ってくれて!」


 ギンギツネさんは「あらそうなのね?ゆっくりしてって!」と笑顔だが、キタキツネちゃんは少し残念そうにしている。


 というのも、彼女はうちの子ととても仲が良いのだ。

 実はキタキツネちゃんだけではなくうちの子達には数人そういう久しぶりに会うのにやけになついているお姉さんたちがいる。


 スナネコちゃんもそうだし、意外にハンター組にもよくなついている、あの中だとリカオンちゃんが特になつかれていた。


 確かあの時… キタキツネちゃんは子供たちと初めて会った時どう接したら良いのか困惑していた。




「可愛いのね~?二人にそっくりじゃない!クロ~?ユキ~?ギンギツネよー?」


「キャッキャッ!」


 ギンギツネさんは言わずもがな面倒見が良いので積極的に子供たちに絡んでくれていた、クロが耳引っ張ってもユキが尻尾をしゃぶっても「くすぐったいわよ~!ウフフ!」って感じ、楽しそうだった。


 一方キタキツネちゃんは


「キタキツネも抱っこしてあげなさいよ?」


「ぼ、ボクはいいよ~落っことしたら大変だよ…」


「大丈夫だよ、いいかい?そこに座って、ゆっくり腕に抱いてあげて?」


 彼女が先に抱いたのはクロの方だった。


 恐る恐る小さな男の子をその腕に抱くと、あまりの軽さに驚きまた困惑していた。


「わわわ…!凄い、温かいんだね?」


「キツネチャ!」


「え?今ボクのこと呼んだの?」


「喋りはじめなんだ、教えたら言い返してくれるよ?」


「へぇ~… クロ?キタキツネ!」


「キタチュネ!」


 そんなちょっちゅねー的な呼ばれかたを聞いてニコニコするキタキツネちゃんは母性に目覚めかけていたが、やはりクロの耳しゃぶの餌食になった。


「耳?耳が好きなの?触る?」


「あぁ自分から触らせると…」


 ハムハムハムハムハム


「んぇ~!?なにするの~!?///」


「ほら耳しゃぶはやめなさいクロ、ママに抱っこしてもらいな?」


「ブー!」


 怒るなよ!


 続くユキは初め不安になったのか泣いてしまったが…。


「うぇ~ん!」


「シロ~!どうしたらいいの!?」


「尻尾を触らせてあげて」


 モフモフモフ

「イヒヒヒ!」


「はぁ、よかった…」


 まったく欲望に素直な子供たちだ。


 そんなことがあってキタキツネちゃんはうちの子に会うとゲームどころではなくなるし、ギンギツネさんは三人のイタズラに引っ掻き回されるのである、がんばれキツ姉さん。




 無事到着、早速尋ねてみた。



「ホワイトタイガー?えぇもちろん知ってるわ?この前もセルリアンをやっつけてくれたし!」


「悪い子じゃあないんだけど、なんか暑苦しいとこがあってギンギツネみたいに口うるさいんだ、僕ちょっと苦手…」


「口うるさいってなによ!もう!」


 予想通りの仲みたいだな。

 

 なんでもギンギツネさんが働いてる間に自分はダラダラして恥ずかしくないのか~とか言ってくるそうだ、立場を重んじる人だからね?任されたからにはしっかりしろと言いたいんだろう。


 まぁキタキツネちゃんもまったく働いていないわけではない、たしかに怠け癖はあるがやるときはやる子だ、磁場が云々って勘もいいし。


「それでそのホワイトタイガーがどうかしたの?」


「いや、この前少し迷惑かけちゃってね?お詫びにお弁当でもと思って」


「シロのお弁当?ボクも食べたい!」


 耳がピョコンと跳ねて目を輝かせるキタキツネちゃんは「くれくれ」と言わんばかりに尻尾を振っている。

 ギンギツネさんは「図々しいからやめなさい!」と咎めるが問題はありません、そうくると思って用意してある、これシロの鉄則。


「皆さんの分もありますよ?よかったらお昼に食べてください?」


「なんか悪いわね?」


「やった!ボク料理久しぶり、アライさん達も結構前に来たっきりだし」


「今図書館にいるから帰ったら寄ってあげて?って伝えとくよ」


 なんでもホワイトタイガーさんは最近になってちょこちょこ温泉に入りに来ようになったらしい、多分今日も来るとのことなのでゆっくり待たせてもらおう、一晩泊まることになるなぁ~?“お部屋”用意してもらわなくっちゃあなぁ~?


 ギンギツネさんはお弁当のお礼に快くハネムーンの時の部屋を用意してくれた。





 その頃、ジャパリ図書館ではサーバルたちが料理に勤しんでいた。


「じゃあ~?今日は天ぷらを作ろうねー?」


「「はーい!」」


「ん~…」


「アライさぁん?どうかしたのかい?」


「いや、なんかユキが変なのだ…」


 面食らったのも無理はない、今彼女はシラユキではない!シロの母、ホワイトライオンのユキである!

 パークを周りながら料理をしている彼女達はこの事実をまだ知らなかったのだ。


「アライグマさ~ん?お願い私にもお料理教えて?息子にできるんだぞー!って見返してやりたいの!」


「ホントだー… なんか変だねぇ?」


「シロちゃんママだよ!」


「「シロちゃんママ~?」」


 よくわからないのが普通だろう、シロの娘であるシラユキの中にシロの母親であるユキがいる… これはなかなかのパワーワードだ、常人には理解しかねるだろう。


 サーバルの説明をうまいことまとめたフェネックは結論を出した。


「つまりー?ユキちゃんに耳と尻尾があるときはユキちゃんじゃなくてシロさんのママになってるんだねー?」


「よくわからないのだ!」


「えーっと~… ひとつのお皿をユキちゃんの体としたらー?シチューとカレーが半分ずつ盛られてるみたいな感じかな~?」


「なんだかわからないが!つまりさっきまでシチューで今はカレーを食べてるということだな!?」


「概ねその通りだねー?」


「え!?天ぷら作らないの!?」


「私カレーも好きです!甘口のやつ!」


 結局料理が始まるまで小一時間かかった。


 図書館内で読書に興じている長はその様子を見て「フッ」と鼻で笑っていた。


「良いですかクロ?お前はかばんとよく似ています、賢くあるのですよ?」

「そうですクロ、知の道を極めるのです」


「ちのみちー?」


「とっても賢くなる道のことです、極めればその知識でみんなを助けられるのです」

「皆お前を頼るでしょう、そしてそれもまたヒーローと呼べるのです」


「ほんとー!?ぼくちのみち極める!」


 クロは、頭脳派に育成されつつあった。





 そして温泉宿ではまだ昼間にも関わらず夫婦が混浴に興じていた。



「子供たち大丈夫でしょうか…?」


「心配だね?料理の邪魔して怪我とかしなければいいけど…」


 わがまま言って困らせてないかな?

 ケンカしてないかな?


 せっかくの混浴中に二人して子供のことで頭がいっぱいだなんて俺たちはすっかり親になってしまったんだなぁ?なんて感慨深い気持ちになっていた。


 でもせっかくの二人の時間だ、楽しまなきゃ損だろう。


「かばんちゃん、心配だけど今はほら?二人でいることを楽しもうよ?」


「あ、はい!せっかくのデートですもんね?混浴なんて久しぶりですね?あの… あの日以来… ですよね?///」


「温泉ではね?新婚の時はよく一緒に入ってたじゃない?」


「そうですけど!初めてした二人きりのデートでしたし、初めてその… “しちゃった”のも…///」


 なぁるほど、あの日を再現したいんだね?ボクニ任セテ。


「じゃあかばんちゃ~ん?“あの日”みたいに仲良くしようか?」


 ピタリと体を密着させると肩を抱き瞳を覗き込んだ。


「アッ…もうシロさんったら、あの日はこんなに積極的じゃなかったですよ?お互い恥ずかしくって背中を向けたりしてました」


「じゃあ、離れようか?」


「もう… イジワル…///」


 湯に浸かりながらも妻は俺に向かい合うように股がり俺の唇を奪った、ゆっくりと口を離すと恍惚とした表情で俺を見つめていた

 

 体は頼りないバスタオル一枚だけで身を包み、その濡れたタオルは張り付き体の線を露にしている…。

 あの頃よりもすっかり長くなった黒く美しい髪を濡らし、温まった肌はやや紅潮して色っぽさを際立たせた。

 そして胸は当時と比べればかなりの成長を遂げている… 大きいとも言わないが、前は優しく撫でるだけにとどまったその慎ましい胸も今はこうして掴むこともできる。


「シロさん…?続きはお部屋でしましょうよ?」


「ここまでしておいてそれはひどいよ」


 と我慢の効かない悪い悪いホワイトライオンの俺は左手はそのまま胸に右手は背中に回してグッと抱き寄せると、今度はこちらから彼女の唇を奪った。


 ピチャリ… ピチャピチャ… と濡れた音が鳴るのは何もここがお風呂場だからというわけでもないだろう、口の中では舌同士が絡み合い唾液が混ざり合う。


 一度口を離し息を切らせながら向かい合うと、俺達はもう引き返せないとこまで来ていることをお互いに認めた。


「はぁ…シロさん好き、大好きなの…」

「俺の方がかばんちゃん大好き… ハァ…」

「僕の方が、もっと好きなんです…!」


 とすっかりその気になってお互いにのぼせ上がってしまったその時だ。



 ガラガラガラ!



「やはり鍛錬の後は温泉に… ん?なんだ先客がいるのか?」


「「あ…」」


 あ、ホワイトタイガーさんだ!自慢の体が湯気でよく見えないやざーんねん。←悟り


「お、おまえたち…!何を…!?」


 何って… ねぇかばんちゃんさん?ナニってねぇ?


 フルフルと震えながら俺達を指差すホワイトタイガーさんは怒気満載な声で叫んだ。



「神聖な風呂場で何をやっているかぁぁぁっ!!!???」



 いや、ですからナニを…。



 えーすいませんですはい。

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