第33話 はなことば
「サーバルにママユキさん!油はアッツアツなのだ!揚げ物を作るときは細心の注意を払うのだ!」
「ちょっと跳ねただけで火傷しちゃうからー?入れる時もゆっくりねー?あと燃えるからねー?」
「「はーい!」」
アライグマとフェネックはサーバルたちの姉弟子としてそこそこいい感じに天ぷらの作り方をレクチャーしていた。
油は恐ろしい… 二人はそれをよく知っているのである。
「よーし!いっくよー!」ジュウワァ~!
サーバルが煮えたぎる油にこれから天ぷらになるであろうエビを投入、独特の揚げ音と共にパチパチと油が跳ねた。
それに驚いたサーバルが「うみゃ!?」と声をあげぴくりと体を震わせる、注意深く様子を見ていたアライグマとフェネックはすぐさま声をかけた。
「だ、大丈夫か!?火傷してないのだ!?」
「あ、うん大丈夫だよ!急にビックリしただけ!あげもの?って面白いね?」
「サーバルさぁ~?本当に気をつけてよ~?それ落としたら火傷じゃ済まないからねー?ママユキさんも小さい体で無理して入れようとしないでね~?」
「わかってますよぉ!」
二人がここまで焦るのには理由があり、実はまだまだ修行中のころ大失敗をしたことがあるためである。
…
それは今回同様揚げ物をシロに教わっていた時のことだった、準備ができたら注意して入れるようにと指示を受けほんの一瞬シロが目を離していた時のことだ「投入するのだ!」とアライグマが材料を煮えたぎる油に放り込んだ。
ボジュワ!
大きな揚げ音と共に油が数滴アライグマの腕に付着してしまった。
「アツッ!?」ガツッ!
その時高温の油がグツグツと煮えたぎる鍋に手が当たり鍋が落ちてしまったのだ。
ガコーン!と音をたてひっくり返った鍋は油を流しながら下へ
本人はとっさに下がったので大火傷にはならなかったが、無論下には火がありその流れた油に火が移る。
ボォウ!
「「わぁぁぁぁ!?!?!?」」
普段見ることなどない大きな火が図書館の厨房に出現した
「燃え広がるのだ~!?フェネック逃げるのだ~!?」
「と、とりあえず水かけようか~?」
強烈な炎に怯え、珍しく取り乱したフェネックが水をかけようとしたときだ、異変に気づいたシロは物凄い勢いでスコップ片手に駆け寄ってきて叫んだ。
「待て!水はダメだ!」
「「シロさぁん!?」」
そのままその辺の地面の土を火元に放り込み始めた。
「油に引火した火は水で周りに流れるかもしれない!土だ!とにかく土で埋めて!」ザックザック!
「了解なのだー!?」
「穴堀るよー!?」
結果… 周囲は穴だらけな上に厨房を土まみれにして火は無事鎮火した、二人は注意が甘かったと深く反省し泣きながらシロに何度も謝った。
「怪我はない?火傷してない?」
「大丈夫なのだぁ…ごめんなさいなのだぁ…うぇぇ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいホントにごめんなさい…」ガクブル
「よかった、なんでもなくてよかったよ?はぁ、焦ったぁ… 怖かったでしょ?二人とも中で休んでて?あとやっとくから?」
シロは怯える二人を咎めることをせず、とにかく図書館の中で休ませた。
…
「軽くトラウマなのだ!」
「シロさんが来てなかったら~?今頃厨房は焼け落ちていたねぇ?思い出すと今でも震えてくるよ~」
「怖いよ!油ってそんなに燃えるんだ!?ごめんなさい、もっと注意するよ!」
「はわわ… でも自分の息子と思うと誇らしいですね、私も気を付けます!」
二人も改めて火の恐ろしさを認識すると慎重に揚げる作業を進めていった。
…
一方温泉では…。
「お前たちの仲がいいのはよくわかった!」クドクド「だが時と場所を弁えようとは思わんのかっ!?」クドクド
「ごめんなさい…」
別の理由でアツアツだった、無論それは温泉だからという理由だけではない。
「かばんちゃん何も見えないよ?手をどけておくれ?」
「ダメです」←早口
そう、俺達夫婦は温泉で盛り上がってきたところを全裸タイガーさんに目撃されてただいま全裸で説教を受けているのである。
もちろん俺はお湯から出られません、この状態はふっくらだと心の中のギンギンギツネさんが注意喚起をうながしているからです。
シロキツネ!先に抜くの! え~この状況じゃ無理ィ~!また二人きりになってからぁ~!←発情エンジン全開
いいか?この状態は妻といいことをしていたからだ!キツネさん達ともホワイトタイガーさんとも無関係のふっくらだ!
しかしタイミングが悪かったねあらゆる意味で?こんなに早く現れるとは、でも本番が始まる前でよかったね?
「あの、ホワイトタイガーさん?」
「なんだ!」
「あ、いえその… 一旦出ませんか?この格好だとその…」
なるほど一旦外に出ようと言うのだね妻よ?君は天才だね?←IQ低下
視界は妻に塞がれなにも見ることはできないが、今ホワイトタイガーさんが全裸で仁王立ちして俺達を怒鳴り付けているのはわかる… きっと妻のツッコみでホワイトタイガーさんもこの状況の把握ができたはずだ。
「なっ!?~/// おのれ!すぐに出るんだぞ!まだ話は終わっていないからな!?」
ペタペタと遠ざかる足音を聞きホワタイさんが戻っていくのを確認できる、視界から消えたためか妻は俺の目元から手を離した。
「ビックリしたね?ギンギツネさん貸し切りって言ってたのに」
「そうですね、見ました?」
「本当はもう少しゆっくりして部屋でもベタベタしたいけどそうはいかなそうだね」
「そうですね、見ました?」
「えっと…」
「見ました?」ゴゴゴゴゴ
「少しだけ…」
だって急に来たじゃん!しゃーないじゃんあんなの!例えばすれ違い様にいきなりスカートがめくれ上がったらどうあがいてもパンツ見ることになるじゃない?それと同じだよ!
「スタイルいいですよね~?ホワイトタイガーさんって…」ゴゴゴゴゴ
「うん、確かに… あ、いや!湯気でハッキリとは!?」
「もぅ!先に出てますからね!」プイッ
「まぁってよぉ~!?」
く、くそ!妻を悲しませるとは許せんぞホワイトタイガー!エロい体しやがって!せっかくいい雰囲気だったのに!←逆恨み
服を着て戻った俺達はそこで待つホワイトタイガーさんに会う前にギンギツネさんに謝罪を受けた。
「邪魔しちゃったわね?隣のお風呂って言ったんだけど」
「いや、いいんだ… 俺が悪いんだ、全部俺が男なのがいけないんだ…」
「なんか本当にごめんなさい…」
まぁ、かばんちゃんは続きは部屋でって言ってたし、いい歳して我慢できなかった俺が悪いよね?でもね、俺もまだ若いのよ?かばんちゃんとかいう最強のヒロインと混浴してたんだよ?しゃーないやんけあんなん。
「シロ、混浴どうだった?」
「ホワイトタイガーさんが来るまでは最高だった」
「おい!聞こえてるぞ!そこに座れお前たち!」
じゃあ、お説教再開といきますか…。
…
「ねーはかしぇとじょしゅ?森にいこーよ?」
「また草花を見に行くのですか?熱心ですね」
「では二人してここを空けるわけにもいかないので私が同行します、博士はお留守番でもよろしいですか?」
「いいでしょう、では助手?クロを任せるのです」
「はい博士、クロ?共に行きますよ?」
「わーい!お空とんでー!」
クロユキは天気の良い日はよく図鑑片手に森を歩く
サーバルが同行することもあればかばんやシロが一緒に行くこともあるのだが、今回は両親の不在とサーバル達は料理番のため長のどちらかが教育係となっている、大変稀なことだが長の二人も子供達が好きなのでやぶさかではないのである
「お前たち、捗っていますか?」
「あ、助手!順調だよ!今日は天ぷらなんだ!」
「ぼく天ぷらすきー!」
「えへへ!今作ってるから待っててねクロちゃん!」
サーバルに頭を撫でられたクロユキはとても機嫌が良さそうに笑っている。
本当にサーバルが好きなのですね?と口にはしないものの、助手は興味深そうにクロユキを見た。
「十分気を付けるのですよお前たち?またボヤなど起こないように」
「注意に注意を重ねているのだ!」
「そろそろ信じてよー?」
例のボヤが起きてから助手も博士もアライグマ達が揚げ物をする日は常に注意をうながしていた
ここがなくなったら料理が食べられないのです、それは困ります… と長も躍起になっているのだ
「そして母親?その体はユキのものです、お前の見栄で傷など残さないように」
「はわわ~!?また見栄っ張りだと思われてます!?私だって大事な孫娘を傷物になどさせませんよ!」
シロの母親…。
精神はどのフレンズよりも成熟しているはずなのにこの溢れ出るポンコツ臭はなんなのでしょうか?火は克服しているが料理は… とシロは言っていました、シロが母親から遺伝したのは見た目と見栄っ張りなところだけのようですね。
なんて小バカにしたようなことを助手はユキを見て思っていた、確かに島にいるフレンズとそう変わらなそうな感じが見てとれる。
「これからクロと森に入ります、昼食の完成もそろそろのようなので少ししたら戻りますが、問題があったときは博士に聞くのです」
「「はーい!」」
皆の元気な返事を聞くと助手はクロユキを連れて森に入った。
…
クロユキはとても好奇心旺盛な子だ。
この花はこれでこれはこういう植物だ、この虫がよくいる、この木にはこんな虫が集まる… などと楽しそうに助手に話す。
「あ!みて!お花畑だ!」
森にはこうして自然にできた花の群落のようなものが多い、白い可愛らしい花がその場にたくさん咲いていた。
「綺麗ですね?これはなんという花なのです?」
「えーっと… ノコンギク!」
すぐに図鑑を開くとピタッとページを止め名前を言い当てた、挿し絵とページが頭に入っているのかもしれない。
だとするなら、恐ろしく高い記憶力だと助手は感心した。
「ノコンギクはねー?『しゅご』と『ちょーじゅ』と『こーふく』… あと『しどー』と『わすれられないおもい』だって?」
「なんですそれは?」
「花言葉!でも難しい言葉ばっかり… だから帰ったらじしょで調べるんだー!」
助手はそれよりもその言葉の数々を読み解くことができるのか?4才で?と驚きを隠せなかった、助手自身そこまで文字をマスターしていないからだ。
読み解く力は既に同列か上にいるということですか?しかし言葉の意味なら知識でカバーできます、私も賢いので。
助手も少しは聡明なところをみせてやろうと知識を披露することにした。
「いいですかクロ?『守護』とは何かを守ることを言います」
「じゃあパパのことだー!」
「そうですね?そして『長寿』とは長生きのことで『幸福』は幸せです、つまり幸せに長く生きろということですね」
「長生きは幸せなの?」
「必ずしもそうではないですが、皆幸せなら長く生きたいと思うものです… それで『指導』とは何かを教えることを言います、かばんのお勉強やシロがサーバルに料理を教えているのも指導です」
「じゃあ、はかしぇとじょしゅもだね!」
私が指導?確かに訪ねてきたフレンズにはいろいろ知識を授けますが、かばんに文字を教わっている手前最近はあまり偉そうなことが言えないのです、と少し謙遜気味の彼女はクロユキの言葉に少しハッとした。
「だって難しいことなんでも教えてくれるもん!花言葉の意味も教えてくれた!」
「お前は優しいですねクロ?素直に嬉しいのですよ」
助手にしては珍しいニコやかな笑顔をクロユキに向け、そして頭を撫でた。
「ねー?じゃあ『忘れられない思い』ってどんな思いなの?」
聞かれることは予想していたが、さすがの彼女もこの質問には困った。
子供にその複雑な心を教えるにはなんと言えば良いのやら?博士とともに賢き島の長を自称しておきながら子供の質問に満足に答えられない… やはりヒトと比べては自分も獣に過ぎないのかと少し自己嫌悪になった。
では潔くシロとかばんの言葉を借りるとしましょう、この際仕方ありません。
「クロも大きくなれば、その意味が自然とわかるのです…」
人これを、丸投げと呼ぶ…。
「そっかー?早く大きくなりたいな~…」
助手はそんなクロユキの言葉に少し罪悪感を覚えた。
…
「クロ?何をしているのです?」
「サーバルちゃんに花冠作ってあげるんだ!ママに教えてもらったんだー!」
その群落、クロユキはノコンギクの側ににしゃがみこみいくつか摘み始めると丁寧に編み込み作り上げていく。
「クロは本当にサーバルが好きですねぇ?どんなとこがそんなに好きなのです?」
「えぇ~!内緒にしてね?///」
「約束しましょう」
意外… 「そんなんじゃない!」とムキになるかと思ったがクロユキは教えてくれるというのだ。
「優しくていつも遊んでくれて可愛いくて~?いろいろだよ!ぼく大きくなったらサーバルちゃんと“けっこん”するんだー!」
その言葉を聞いたとき助手は思った…。
結婚とは大きく出ましたね?ただの面食いではなさそうなのです、なるほど『忘れられない思い』ですか…。
クロ、お前は大きくなったらその気持ちを忘れてしまうかもしれません、なにせサーバルは婚約しているも同然ですからね?
ですがもしそのサーバルに対する想いを大きくなっても胸に秘めていると言うのなら、きっとその想いはクロにとっての『忘れられない“想い”』になることでしょう。
淡く切ない恋心… 中でも初恋は実らないとよく言われているのです
「…?」
おや?クロはどこへ?
少し考え事でボーッとしてしまった助手は先ほどまでここにいたはずのクロの姿がないことに気が付いた。
しかしワシミミズクは目も耳も抜群に良い、このしんりんちほーではその能力が余すことなく発揮されるだろう。
すぐに捜索!だがその時だ。
「わぁ~!?た、た食べないでぇ!?」
クロの声!こっちですか!?
すぐさま駆け付けるとクロの右手に吸い付く小型のセルリアン、その大きさは例えるならサッカーボールほどでセルリアンの中でも小型中の小型だが、しっかりとクロを右手から補食しつつある。
「うぇーん!食べられちゃうよ~!?!?」
恐怖で顔を歪ませて右手をブンブンと振り回すクロを見付けると助手は急なことにやや青冷めた
くっ!少し目を離した隙に…!
ギリッ… と歯ぎしりをして音もなくセルリアンに飛びかかった助手は、瞬く間にその石を破壊した。
パカーン!
大きさが大きさなので弾ける時も控えめ、すぐクロの右手は解放された
「クロ!怪我はないですか?痛いところはありませんか!?」
「うぇ…グスン 大丈夫…」
見たところ外傷はない、手もしっかり動くようだし、具合が悪いなどといった異常も見られないように思える。
間一髪、無事なようですね…。
「柔らかいボールみたいなのがあるって思って拾ってみたんだ?そしたら手から離れなくって… グスン」
「よかったのです、もう大丈夫ですよ?私が着いていながら怖い思いをさせましたね?すまないのですクロ… ではそろそろ帰りましょう?お腹がすいたでしょう?サーバル達が待っていますよ?」
「うん…グスン これじょしゅにあげる?」
助手が渡されたのは先ほどクロがサーバルの為に作っていた花冠である。
「これは?サーバルにあげるんじゃ?」
「でもじょしゅは守ってくれたもん、いろんなことも教えてくれるもん、はかしぇと一緒に幸せに長生きしてね?」
助手がその場に屈むとクロユキは花冠を助手に優しく被せてあげた。
彼女はその時、なんとも言えない温かい気持ちを覚えた。
フム…。
これは私にとって忘れられない思い出になりそうなのです。
少し目を閉じそう思うと、クロユキの涙を拭い抱き上げると頭を撫でた。
ありがとうなのですよクロ?
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