第29話 さいえん

  仮面フレンズ。

 

 その単語を聞いた時、常にしかめっ面だったはずのホワイトタイガーさんは急に子供っぽく無邪気な表情に変わった。

 

「実は今日来たのはその事なんだ!お前は知ってるのだろう?仮面フレンズのことを!」


 知ってるも何も俺なんだよなぁ…。


 聞いてみると、俺がまだ独身で恋に悩める青少年だったあの時。

 

 そう忘れもしない仮面フレンズ本番のあの日のライブ会場に彼女はいたらしいのである。





「いい加減にしろ!我はアイドルなんぞ興味はないと言っているだろ!」


「憐れなホワイトタイガー… オレの話を聞け?一度でいいからPPPを見ろ、お前のそのガチガチに凝り固まった頭もPPPを見ればたちまちほぐれていくだろう、そうすれば次の会議も有意義に進むはずだ、そして振り付けも覚えろ」


「誰がやるかそんなこと!」


「ヒグマはやってくれた」


「ハンターに迷惑をかけるな!?」


 このようにブラックジャガーさんの押しに負けて結局会場まで来てしまっていた彼女はしぶしぶ客席に着き、ただじっとPPPが来るのを待っていた… っていうかヒグマさんにやらしてたのブラック師匠だったんかい。


「おいブラックジャガー!まだ始まらんのか!もうずいぶん待っているぞ!」


「落ち着きがないな、心を水のように落ち着かせ彼女達が来るのを待つんだ?これも修行の一環だとわからんのか?まったくお前はいつもそうだからライオンに怒鳴られるんだ」


「うぐぐ… い、いいだろう!待てばいいのだろ待てば!」


 口が上手いのかホワイトタイガーさんがちょろいのか知らないが、ぎゅうぎゅうでザワザワする客席にイラつきながらもPPPの出番を待っていた。


 少しするとマネージャーのマーゲイさんが出てきて「もう少々お待ちください!」と挨拶があった… そしてこの挨拶こそがヒーローショー開始の合図である。


 ブラックガオガオ軍団の登場「ハーハッハッ!」と高笑いしながら現れた姉さんたちにホワイトタイガーさんはぎょっとした。


「おい!なにか始まったぞ!?あれはライオンじゃないのか!?」


「フム、こんなことは初めてのことだ、ブラックガオガオ軍団、いったい何者なんだ?」


「どう見てもライオンのとこのやつらだろ!あいつら!役目を忘れジャパリマンを独り占めするだとッ!このホワイトタイガーが受けて立つぞ!」


「待て、ライオンがこのようなことをするとは思えん、タイミングも妙だ… なぜわざわざPPPの会場に?一旦様子を見るんだ、人違いかもしれん」


 まずは状況把握から。


 ブラックジャガーさんの冷静な判断により正義感だけで突っ走るホワイトタイガーさんは足を止めた。


 しかしご存知の通りこのあと人質タイムが始まる、この時人質には彼女たちもよく知る人物が混じっているのだ。


「わーい!人質人質~!」

「人質ってさぁ?楽しいもんじゃないよね?もっとこうさ?ビクビクするんじゃない?」


 それはじゃんぐるちほーの頼れるお姉さん、ジャガーちゃんである、彼女はコツメちゃんの付録として人質を強いたげられていたのだ。


「おい!?あれはジャガーじゃないのか!?」


「さすが妹だ、より確実に状況を把握するためにわざと人質になるとは、とりあえず妹に任せてオレたちは待機するとしよう」←なんとなく察した


「我にはそんな風に見えんぞ!」←察してない


 もちろんジャガーちゃんはそんなことわかってない、とりあえず来て座れと指示されているだけだ。


 彼女もまた「ヤバそうならやろう」くらいの認識だったのだろう。


 奇しくもその場には現存するチーム百獣の王が九割方集まっているという奇跡を起こした、サーベルさん早く来てくれ。


 そして人質集めにわちゃわちゃした後マーゲイさん筆頭の「助けて!」コールが響き渡る、ホワイトタイガーさんはその時思った


「何を言ってる、都合よくヒーローなんて来るわけ…」


「仮面フレンズッ!ホワァイッ!(ホワイト)」←本作の主人公


「えぇ!?」


 あっさりとライオンズを倒し、姉さんと互角に渡り合う仮面フレンズ(俺)を見てホワイトタイガーさんは思った…。


「なんて正義感に溢れた強い戦士なんだ…」ウットリ


 ショーが終わりみんなで“演技”でした挨拶をして、PPPがさらに盛り上げてもホワイトタイガーさんの興奮は冷めることはなかった。

 ブラックジャガーさんが逆にウザそうな顔で見てくるレベルでハマったそうな。





「その時から我はたまにライブ会場に足を運んでいるのだが、あれから仮面フレンズを見ることはできなかった… ブラックジャガーもあれから見ていないと言っている、おかげで振り付けを覚えることはできたがしかし、仮面フレンズ… いったい何者なんだ…!」


「仮面フレンズ?それってシロちゃnモガモガ!?」

「正体は誰にもわからないところがまさにヒーローって感じですよね?ねぇサーバルちゃん?」ナイショニシヨーネー?


「プハッ… あ!そ、そうだね!だ、だ、誰だろ~?」アセアセ


 俺やで?キラッ☆


 別に知ってる人は知ってるし隠してるつもりはないんだよね、子供たちには夢を与える為に内緒にしてるが。


「仮面フレンズ 検索中… 仮面フレンズハ ジャパリパークノヒーローダネ 初代ヲ務メタノハ 研究員ノナリy」

「ラッキーさん!」

「… 二代目ハsアワワワワワ」カチャポイー


 綺麗な放物線を描き、ラッキーは妻の腕から離れ宙を舞う… 口は災いの元だぞラッキーさんよ?


「キャッチ」

「アリガトウ」


 図書ッキーはやはり有能だった。





「博士たちさぁ?なんか言ったんじゃない?そうでしょ?」


「我々は助言してやっただけなのです」

「アイツはなぜか仮面フレンズをガチのヒーローだと思っているのです」


「え、なんで?演技でした~ってみんなで仲良く手を繋いで伝えたじゃない?」


「興奮して聞いてなかったのでしょうね」「思考が子供たちとそう変わらないのです」


 博士たちの助言とはなんの事はない、詳しくは本人に聞けと投げただけである。



 その日ホワイトタイガーさんは途中現れた長仮面のことを聞きに図書館に現れていたらしく、おふざけが好きな長は答えた


「あれが我々だとよく気付きましたね?」「褒めてやるのです」


「長仮面とか仮面博士とか仮面助手とか一切隠す気がないのに気付くもなにもないだろうが?」

 

 至極当たり前なその発言に対し、なんで数年前のことを今さら聞きにきた?と二人は彼女を問い詰めた、するとホワイトタイガーさんはキッパリと答えた。


「前にあのシロに負けたときに思った、あの強さは絶対仮面フレンズと関係があると!」


 なんでそうなった。


「博士、こいつ仮面フレンズを演技だと思ってないようです」

「底抜けにバカなのかハマりすぎて美化しているのでしょう」


 俺が関係あるとこまではいくのに俺が仮面フレンズだという発想になぜなってくれないのだろうか?ちょっと考えれば俺だってわかるはずなんだけど… え?なに?今の俺はそんなにヒーロー感ないわけ?子供たちといい、なぜ俺をこぞって悪党にしたがるんだ。


 続いて二人は言ったのだ。


「よくその事実に辿り着きましたね?」

「シロと仮面フレンズについて知りたいのですか?」


「やはり関係があるのか!?頼む!教えてくれ!ヤツはどこだ!」


「今シロはゴコクにいるのです」

「数日したら戻ります、真実は本人に聞くのです」


「チッ!タイミングの悪い!」



 


 そうして現在に至る。


 さて、どうしようかな?どうやらホワイトタイガーさんは仮面フレンズと会って話したいようだ、いやもう会って話してるんだけどさ?


 まさか以前気まずいことになった相手がその正体と知ったらどんな顔するだろうか?

 例えばそれは、なんとかランドのなんとかマウスの中からおっさんが出てきたくらいの衝撃を受けるんじゃないだろうか?


「知っているのだろう?同じ白き者のよしみで教えてはくれまいか?なにか条件があるなら言ってくれ!」


「いや~そういうのはないんだけど…」


 どうすりゃいいのさ…。


 俺があからさまに都合が悪いですって感じで誤魔化していると、それを知ってか知らずか純粋無垢なうちの双子が追い討ちをかけるようにこんなことを言い放つ。


「パパ仮面フレンズとお友達なのー!?」「ユキも仮面フレンズ会いたーい!」


「え!?」


「頼む!この際我の為ではなく子供たちの為でいい!仮面フレンズと話をつけてくれ!」


「パパお願ーい!」

「お願ーい!」


 子供たちぃ…。


 聞いてやりたいがこの状況でそれがパパだと知ったら「パパは嘘つき」みたいな感じにならないだろうか?サンタ服を隠す父さんを見たときの俺と同じ気持ちになるはずだ。


 めちゃめちゃ面倒なことになったなぁ、長助けてよ長… お願い?


 俺がアイコンタクトをすると二人は何かを感じ取ったのかこそこそと相談してるのが見えた。


 そうだ長ぁ!俺を助けろぉ!早く助けてくれぇ!


 二人は相談が終わるといつもの無表情で子供たちとホワイトタイガーさんに言った。


「お前たち、ワガママを言って困らせてどうするのです?」

「ホワイトタイガー、お前まで子供と一緒になって恥ずかしくないのですか?」


 長ぁ…///

 

「仮面フレンズは神出鬼没な上どこにいるか誰にもわからないのです」

「シロはやつの友人ですがそのタイミングはシロにもわからないのです」


 よし!いいぞ!流石長!


「クッ!ここまで来て叶わぬというのか!」

「会えないの~?」

「なんだぁ~…」


「ですがシロは仮面フレンズから一方的に連絡を受けとることができるのです」

「確か近くブラックガオガオ軍団の残党が攻めてくるとか言ってませんでしたか?」


 長ぁ…!?


「なにぃ!?それは本当なのか!?」


「えぇ、マーゲイもブラックガオガオマークの手紙がきたと言っていたのです」

「パークの危機には必ず駆けつけるでしょう、ライブ会場は要注意です」


 なんてこと言ってくれやがる!長ぁ!!!


「ブラックガオガオ軍団来るの~!?」

「どうしよー!?」


「聞け、幼き子らよ?その心配はいらん、なぜなら仮面フレンズが来てくれるからな!」


「「わーい!」」


 打ち解けんな!いやいいことだけど!今はその話で同調すんな!


 長の機転と言う名の無茶ぶりで何が起きたかというと、今この時に仮面フレンズの再演が確定した瞬間である。


 やってくれたな、まんた練習しなくちゃいけないじゃないか。


 今サーバルちゃんの料理指導で忙しいんだがね?どうしてくれるんだい?えーっとまずは姉さんたちに声を掛けて…。


「パパ仮面フレンズいつくるのー?」

「はやく会いたいな~」


「我も気になるところだ、教えてくれ」


 くっそ楽しみにしやがって!

 

 もうやるしかないじゃないかこんなん、まぁ子供たちにまで言われたら今さら来ないなんて言えないしな。





「来るのは次のライブの日なのです」


 長がそう告げるとホワイトタイガーさんはウキウキしながら図書館を後にした。


 子供か!という突っ込みは口に出す前に飲み込んだ。


 それはともかく、彼女は雪山の守護担当だったな?


「ホワイトタイガーさんこれ!」バサッ


「なんだ!…ん?これは?」


 俺は投げたのはマントだ。


 スナネコちゃんが着てるのと似たようなやつ(かばんちゃん作)、雪山をあの薄着で活動するのは辛いだろう。

 確かに性格に難のある子だが要は仕事熱心なのだ、ならせめてその助けくらいはしよう。


「ゆきやまちほー担当なんでしょ?寒いから大変かなー?って」


「ふん!余計な真似を!だがありがたく使わせてもらうぞ!また会おう!」


 笑ってる…。


 これで少しは打ち解けたんだろうか?しかしまさかあの人が仮面フレンズファンだとは、意外とミーハーなところもあるんだな?ブラック師匠のPPP好きといい、百獣の王シリーズには妙なギャップがないとダメなのかな?


 もしかすっとサーベルさんにもなにかあるんだろうか?例えばほら、めっちゃ不器用でしかも寝相がやたら悪いとか、あるいはめっちゃエロい下着を履いていて見えるか見えないかの瀬戸際を楽しんでいるとか…。


 サーベルタイガーさん…。

 要注意だな!←偏見







「シロさん大丈夫ですか?」


「うん、なんとかやってみるよ?なんだかんだ言って俺も子供達の笑顔には弱いね」


 その晩、眠る二人の髪を撫でて子供たちに見せても恥ずかしくないヒーローでないといけないと気を強く持った。


 だが安心したような寝顔を見てるとこちらが安心してくる、日頃の疲れも気にならないというものだ。


 そのときキュッと背中から妻が抱きついてきた、俺が「どうしたの?」と尋ねると。


「シロさんはシロさんのままでも、ちゃんと僕のヒーローですよ?きっと子供たちにもそれはわかります、パパはヒーローだって」


 そんな優しい言葉を俺に掛けてくれた。


「ありがとう、汚れて傷だらけになってカッコ悪いヒーローかもしれないけど… どんなになっても家族を守れるようなそんなヒーローになるよ?きっと父親ってそういうものだからね」


「カッコ悪くなんかないです、シロさんより素敵な人なんていません、みんながカッコ悪いって思ってても、僕は世界一カッコいいと思ってます!」


 だから俺はこの世界一のヒロインを必ず守らなくてはならない、もちろん子供達もだ。

 

 これは俺の義務や使命、そして生き甲斐と言っていい。


 それくらい家族は大事だ…。


 家族の元が俺の一番の居場所でもあるのだから。


 



 ところで…。


 つい盛り上がって情熱的なキスをかましてしまった。


 ギュッと抱き寄せて唇を奪い、舌を絡め、彼女の甘い吐息を聞きながら次第に手は服の中へ… 肌に触れるとくすぐったいのか「ン…」という小さいが艶のある声を聞かせてくれる、抵抗はしてこない。


 これは今夜OKのサインだな。


 ゆっくりと唇を離すと、頬を赤く染めトロンとした目で俺を見つめる妻が目の前で息を荒くしている。


「ハァ…シロさん?///」


「ごめん、気分じゃなかった?」


「気分になっちゃいましたよ?」


 それは良いことだ、さぁ続きは地下室で。


「あの… シロさん?なんかあの… お義母さんが…」


「母さん?」


 ふと子供達の方を向くと、耳を生やしてニコニコしているユキがこちらを見ていた。


 即ちそれは母である。


「あ、お構いなく!どうぞ続けて?」


「子供はもう寝る時間だよ」


「ママは大人よ?」


「今は子供でしょ!さぁ寝た寝た!」


「はわわ~!?いいところだったのに!せっかくの出番が…」


 どうせ地下室まで行くんだが、母親の前でおっ始めるイカれたことできるかっつーの!まったく出鼻を挫かれたぜ!



 まぁ結局するんだけどさ!

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