第28話 ヒーロー

「じゃあサーバルちゃん、やってみて?」


「はーい!」


 新たな弟子サーバルちゃんを迎えた俺だったが、特に急ぐ必要もないのでスローペースで教え込んでいくことにしている。


 黄色のエプロン(かばんちゃん作)がよく似合っているね、シンザキさんに見せてやりたいよ。


 スローペースとは言ったが、火の克服がすでに済んでいる彼女はその行程をすっ飛ばせるので思っていたよりも事が早く進むだろう。


 あとは自分がサーバルキャットだということを忘れて、ヒトのように手先を巧みに使い料理をしていけばいいのだ、フレンズはヒトの姿をしているのでそれをフル活用すれば実質人間を超えることなんて容易い。


 味付けは俺がきっちり見てるし、見た目以外は大丈夫なはずだ… ちゃんとできたらの話だが。


「よーっし!ひっくり返すよー!」


「うん、じゃそのフライ返しを…」

「みゃーみゃみゃみゃーッ!」ヒョーイ


 オムレツを作っております…。


 無理そうならスクランブルエッグでいいと伝えたしちゃんと道具を使って慎重にやればわりと簡単に引っくり返せることも伝えたんだ。


 しかしそれは叶わずオムレツは宙を舞う…。


「あれー?落ちてこないよ?どこにいったのー!?」


「よーく探してごらん?近くにいる人の頭の上とか…」


「え~っと… あ!?」


 サーバルちゃんまたやってしまったねぇ?俺いますっごく頭頂部が熱いよ?でも我慢してるんだ。


 怒ってないよ?ぜーんぜん怒ってない。


「ご、ごめんなさい!?大丈夫!?あっついよね!?大丈夫!?」


 すっと手のひらを前に出し待てと言うようにサーバルちゃんに向けた、俺は至極冷静な表情で彼女に言った。


「俺のこの大きな耳も~?熱を逃がすのさー?」←虚勢


「え、えぇ~!?嘘だよね!?そんなに大きな耳でもないよ!」


 俺は頭の黄色い物を皿に移してフォークで口に運んでみた。

 

 ほーら?味は悪くないだろ?


「さて、失敗した理由に心当たりはあるかな?」モグモグ


「え、えっと… またお話し聞いてませんでした…」


「そうだね、“これ”使おうね?空中でひっくり返すのまだ難しいだろうから」


「はい… ごめんなさい…」


 あぁ、やっぱり今回もダメだったよ、彼女は話を聞かないからなぁ…。

 あぁ、今度はこれを見てるやつの頭にも、オムレツ落下させるよ。


 どうやら技術云々より落ち着いて話を聞くことを覚えさせたほうがよさそうだ、この辺はアライさんとそう変わらない、かばんちゃんに優しく諭してもらおう。


 はぁ~俺もうお腹いっぱいになっちゃった、今度は頭に皿でも乗っけておこうかな?空中皿キャッチを覚えたほうがいいかもしれない。


 少々骨は折れるが、サーバルちゃんもちゃんと話を聞いて一個づつ作業をすませていけば十分に料理を覚えることは可能だ、ここ数日でそれだけはわかった。


 つまり望み薄というほどどうしようもないおっちょこちょいではないってことだ、君がその気な限りはきっちり教えるつもりだよ俺は?さて頭洗ってくるか。





「サーバルはどうですかシロ?」

「難儀してるようですが?」


「アライさんと比べてるならそれは当然だよ、あの子は視野が狭いだけでとんでもなく器用で行動力は無限だから?でもサーバルちゃんもすぐ覚えるよ、火も既に使えるし、ねぇ二人とも?」


「バカにしてませんか?」

「火が怖いからなんだと言うのです!」


 二人は相変わらず火を克服できない… というか開き直ってもうその気がない、まぁ本能に抗ってるのだから克服できないのが当たり前なのかもしれないが、アライさんは気合いで乗り越えたしサーバルちゃんだってしれっと使ってみせてくれる、それに今日はサーバルちゃんが火起こしをしてくれたのだから。


 残念だったね長?


 ところで二人はこれらとは別件で話があると俺に話しかけてきたのだ、その内容とは?


「言い忘れていましたが、先日ホワイトタイガーが訪ねてきたのです」


「えぇ… あの人が俺に何の用なのさ?」


「知らないですよ、数日帰らないことを伝えるとなにも言わずにさっさと帰ったのです」

「お前に以前叩きのめされたときのことを根に持っているのではないですか?」


 勘弁してよ、リベンジマッチでもしたいのか?言っとくが前回のは不意討ちだぞ?まともにやりあったら切り刻まれてるかもしれない、なにせあの集まりはみんなジャガー姉妹くらいの強さはあるってことなんだから。


 姉さんは俺を強いと買ってくれるが、ブラック先生には正直勝てる気がしないし、つまりホワイトタイガーさんだって本来は少なくともそれに準ずる強さはあるということ。


 困ったなぁ… 以前はカッとなって戦闘になったが別に戦いたい訳じゃない、子供たちにも見せられないし。


 はぁ、やれやれ…。


 ところでだから何だ?って話なんだが、ホワイトタイガーさんはゆきやまちほーを任されてるそうだ、あんな格好で寒くはないのか?雪山ナメてると死ぬぞってキツ姉さん達が言ってたよ?


 なんか結構近くに住んでたんだな、サバンナとかにいるのかと思ってた。





「はかしぇお話してー?」

「ぼくヒーローのお話がいい!」


「フム… いいでしょうでは助手、あの話をしてやりましょう」

「あれですか?そうですね、まさにヒーローの話なのです」


 その晩なかなか寝付かない子供たちの為に博士達はいつものように寝る前のお話を聞かせることにしていた。


 ヒーローの話か…。


 きっとあれだな、俺が飛行機セルリアンから間一髪ツチノコちゃんたちを助けたときの人生屈指のヒーローエピソードをヒーロー感2割増しくらいでしてくれるんだなさすが長!


「「“仮面フレンズ”の話をしてやりましょう」」


 そっちかぁ…。



 “仮面フレンズ 作:島の長“


 昔… パーク中のジャパリマンを独占し、言うことを聞かない子はごはんにありつけないという状況を作り出した極悪非道の冷血動物達がいました。


 やつらの名はブラックガオガオ軍団、メンバーは皆腕っぷしの強さに自信のある連中で逆らう者は返り討ちにあってしまいました。


 ごはんを食べれずに皆本来の力が出なかったのです。


 やつらは言いました「ハーハッハッ!ジャパリマンを食いたければ言うことを聞け!」「手始めにラッキービーストからジャパリマンを根こそぎ奪ってやるぜ!」「ジャパリマン狩りだー!」「工場も押さえてやるぞ!」


 えぇそうです、酷い連中なのです。

 やつらは悪党なので。


 そしてとうとうブラックガオガオ軍団はPPPのライブも乗っ取りに来てしまいました、マネージャーのマーゲイも恐怖のあまり膝が笑って司会どころではありませんでした。


 え?いや膝が笑うと言うのは怖くてガクガク震えるという意味です、比喩なのです。

 実際に膝が笑うなど気味が悪いでしょう?


 オホン… そしてマーゲイは願いを託し叫びました「助けてヒーロー!?」。

 その悲痛な叫びは客席のファンにも届き、今度はみんなで呼びました「助けてヒーロー!」。


 大きな声で三回ほど呼んだ時です、空の彼方に踊る影… その白い姿を見たとき悪党は言いました。


「誰だ貴様は!」


 白いやつは答えました。


「ブラックガオガオキラー!仮面フレンズッ!ホワァイッ!(ホワイト)」


 仮面を被った謎の白いフレンズ“仮面フレンズホワイト”は正義のヒーローで、向かってくる筋肉質で角の生えたやつもその横にいる白いやつも薙ぎ倒し、さらに向かってくるクマみたいなやつも返り討ちにしました。


 仮面フレンズはとても強いのです、ヒーローなので。


 そうでしょう?カッコいいでしょうクロ?憧れるでしょう?

 ユキもヒーローになりたいのですか?そうですね、いい子にしてれば二人ともきっとなれるのです。


 そして… とうとう百獣の王ような見た目をした悪の親玉と直接対決となりました。


 しかしさすが親玉は一筋縄ではいかずとても強かったのです、仮面フレンズも苦戦を強いられました…。


 だから皆で応援したのです


「頑張れヒーロー!」


 皆の想い受け取り仮面フレンズはとうとう親玉を追い詰めました、しかし「覚悟しろ!」と必殺技を出そうとしたその時、吐き気催す邪悪な親玉は人質をとったのです。


 これでは手が出せません、ヒーロー足るもの一人の犠牲も出せないのです。


 どうなったと思いますか?


 フフフ、わからないですか?そうでしょう?実はヒーローには味方がいたのですよ!


 二人の味方、それは長仮面!仮面博士と仮面助手だったのです!


 え?さぁどうでしょうね?我々は基本図書館から出ないので、別人かもしれませんよ?フフフ…。


 そして華麗に人質を救出したヒーロー達は合体技で親玉を倒しました。



 こうしてパークに平和が戻ったのです。



 めでたしめでたし…。





「「かっこいいー!」」


「さぁ今日はここまでです」

「もう寝るのです」


「「おやすみなさーい!」」


「えぇ、おやすみなさいです」

「おやすみなさいです」


 いい話だなー… でいいのかな?若干や膨張された表現があったところもあるような?

 俺空から舞い降りた訳じゃないし、バギーでステージに乗り上げたんだ。

 

 いやお話の範疇ならカッコよさ無限大だな。


 子供たちよ、仮面フレンズはカッコいいか?それパパなんだぜ?大きくなったら教えてやるからな、二人の憧れたヒーローはパパなんだぜ!ってな!きぃーもちぃー!

 


 翌日から子供たちは仮面フレンズごっこに明け暮れていた、なぜか本物であるはずの俺は悪の親玉にされた。


 そんなヒーローブームのきた子供たちとの日々を過ごしている俺の前にとうとう現れやがったのだ


 森の彼方に踊る影… 白い姿のホワイトタイガーさんである。


「し、シロさん?ケンカしちゃダメですよ?僕たち何でもないですからね?」


「仲良くしてね!?絶好仲良くしてね!?」


「大丈夫だよわかってる、暴れたりしないよ?あのときはほら、寝不足だったんだ」


 妻とサーバルちゃんも思わず焦って釘を刺してくるレベル、二人の白が相対するってか… 向かい合った俺はとりあえず前回のことを水に流したことにして軽い挨拶をした。


「よくきたねホワイトタイガーさん、俺に何か用かな?」


 と少しトゲのある言い方に変換されるのは水に流しきれていない証拠である。


 そんな俺に対しホワイトタイガーさんは言った。


「まず、前回のことは我に非がある、お前の家族を侮辱したことを素直に謝罪する…」


「あ、いえこちらこそ…」


 いきなり謝られるとは… 少しほっとしたのとモヤモヤした部分が少し楽になった。


「今日はお前に頼みがある、だからこうして恥を忍んで訪ねてきたのだ、どうか我の話を聞いてはくれないか?」


 それまさかリベンジマッチの話じゃないだろうな?


「物騒な話じゃなければ…」


「いや、探し物みたいなものだ」 


 ふむ… 腕力な話ではなさそうだ、だったら聞くだけ聞いてみるのもいいだろう。

 そしてそれならそれで相応しい場と言うものがある。


「わかった、ところでこれからお昼なんだけど、よかったら食べていく?」


「いいのか?」


「俺が料理をするのはなにも家族や長を満足させるためだけじゃない、みんなに喜んでほしいからだよ?それにホワイトタイガーさんあなた言っていたじゃないか?“一度あやかってみたい”と」


「フッ… お人好しめ!ならばお言葉に甘えるとしよう!」ジュルリ


 なんか超かっこいい感じな雰囲気だしてるけどヨダレのせいで台無しだぞホワイトさんよ?


 お昼はサーバルちゃんにアシスタントに回ってもらい料理を用意することにした。

 今日のお昼も洋食でいこうと思う、ホワイトタイガーさんは箸を使えないだろうから。


 オムライスとパスタどっちがいいかサーバルちゃんに尋ねると。


「今はごはんものをずっと作ってるからいきなりパスタになるとこんごらがっちゃいそーだよ~… あれ?そういえばパスタってあんなに細長いものがいっぱいなのにあんまり絡まらないよね?不思議~!」


 とのことでオムライスに決まった。←?


 長にも訳を話した後ホワイトタイガーさんには食卓に着いてもらった、丁度ティータイムだし楽にしててもらおう。


「ホワイトタイガーさん?紅茶を淹れたんですけどいかがですか?」


「あ、いや… 構わん、そんなに世話を焼くことはない」


「出されたものは少しくらい口にするのですホワイトタイガー」

「礼儀を知るのです」


「むぅ… わかったいただこう」


「あの、熱いので気をつけてくださいね?」


 彼女も案外気にしてるんだろうか?姉さんが言うには確か性格があれだから友達が少ないみたいなこと言っていたし、ただ不器用なだけ?ツチノコちゃんみたいだな、本当は仲良くしたいのかもしれない。

 真面目系ツンデレかな?立場を重んじていて自分の力に責任を持っている風だった、それでしばしば暴走すると言っていたが。





「「じ~!」」


「…?我の顔になにかついているか?」


 料理を運ぶと丁度子供達がホワイトタイガーさんにガンを飛ばしているところだった、そんな顔でどうした?


 あ!まーた耳と尻尾を狙っているのか?ダメだよ気難しいんだから怒られるぞー?


 俺は二人が変なことをする前に子供たちを注意しようとした、がその時二人はいくつか彼女に質問を投げ掛けたのだ。


「おねーちゃんは強いの?」


「ん?我はホワイトタイガー、それ相応の力はある、そしてこの力はパークの為に使う、日々鍛練も欠かさない」


「悪者と戦うのー?」


「我の正義の理念に基づいた上でそれを悪とみなせば、例えそれがセルリアンでなくとも全力で対処するつもりだ」


「わぁー!やったー!」

「じゃあやっぱりそうだー!」


 なにやら楽しげな子供たち、ホワイトタイガーさんにも失礼とは思われていないし、放っておいても大丈夫かな?いったい何がしたいんだ子供達は?もう少し様子を見て…。


「「おねーちゃんが仮面フレンズだー!」」


「なに?」


 違ぁう!?


 仮面フレンズはパパだ!確かにホワイトタイガーさんは白いし腕っぷしにも自信があるのかもしれない、アミメさんもビックリの名推理だよ子供たち!でも仮面フレンズはパパなんだ!


 あぁくそ!言いたい!教えたい!


「お前たち!」ガタッ


 うわ、やべえ地雷だったかな?あんなお遊戯と一緒にするなって?

 っんと気難しいなぁ… 子供の言うことに本気になってほしくはないのだけど。


「ほら二人とも、失礼だからやめなさい?」


 と俺が子供たちを少し咎めようとした時だった。


「仮面フレンズを知っているのか!?」キラキラ


 おや~?意外な反応ですね?


 まさかこの人…。

 

 その時、その姿を見て長がニヤリとしたのを俺は見逃していない。


 さては俺の留守中に何か吹き込んだな?

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