第22話 なれそめ

 ジャングルちほーのゲート、そこには一人のフレンズがいた。


 彼女はなにか理由があってここに来たわけではない、ただ何となく昔ここで自分に何かあったのだと… そんな気がしてフラッと足を運んだのだ。


 だがそれは間違いだった、彼女はここに来るべきではなかった。


「きゃあー!?」


 ゲートにはセルリアンがいた、彼女はこの時にうっすらと何かを思い出した。



 あぁそうだった。

 私、前もここでセルリアンに…。



 がその時だ。


「ホォウワァーッ!」ドゴンッ


 何やら甲高い声をあげる白いヤツが現れると、自分の三倍はあろうセルリアンを殴り飛ばしたのだ。


 腰を抜かし地面にへたりこむ彼女は聞いた。


「あ、あなたは…!?」


 白いヤツは答えた。


「この世にセルリアンがいる限り、フレンズの怒りが俺を呼ぶ!破裏拳ハリケンホワイト!ここに参上!」カゼェーキルゥーテッケンー♪


 お馴染みの白いヤツ、主人公である。


 彼は子供の前でカッコいいところを見せたかったのだ。× 悪ふざけ○


「地獄のセルリアンよ!受けてみろ!ホォォォウ!!!」


「シロちゃん!石は背中だよ!」

「待ってください!今紙飛行機を!」


 しかし彼はその必要はないと一人で敵に立ち向かう。


「大丈夫だ!行くぞ新技!幻影!ホワイトハリケェーンッ!!!」


 説明しよう、幻影ホワイト破裏拳ハリケンとは…。


 サンドスターコントロールの応用で高速移動の際に残像を残し、敵を翻弄する技である。←めっちゃ疲れる


 その場に残るサンドスターの残像に驚いたセルリアンの隙を逃さずに彼は一撃をお見舞いする。


「ハァーッ!リィェーッ!ケェーンッ!」


 バシンッ!とブラックジャガーよろしくの鋭く早い無駄のない一撃がセルリアンの石を砕いた。


 パッカァーンッ!!!


「きゃーシロさぁ~ん!///」

「すっごーい!」

「パパつよーい!」

「パパかっこいいー!」


「えへへ///」←ご満悦



… 



 そして激戦一方的な暴力が済むと。


「あの、どなたか存じませんがありがとうございます!」


「いえ、当然のことをしたまでですよ!」ビッシィッ!


「は、はぁ…?」


 またパークの平和を守っちまったぜ、ところでこの子は誰かな?あまりみない顔だ、今年の噴火で生まれた子かな?


「それじゃあ失礼します、いつかお礼をさせてください?」


 そう言って駆けていく彼女の後ろ姿を見ていたサーバルちゃんはなにやらハッとした表情でその背中を見送っていた。


「サーバルちゃん、あの子はだあれ?」

「シマウマー?」


「あ… あの子はね?」


 いつものように笑顔の彼女だが、このときはやけに遠い目をしていて、子供たちにこう答えていた。


「アードウルフちゃんだよ?」




 

 カバさんの水辺を後にしてゲートへ。


 頻繁にとまでは言わないが、ゲート付近はセルリアンが出やすいんだろうか?やけに話を聞くし実際よく遭遇する。

 でも確かにここには人工物が多いから、サンドスターも反応を起こしやすいのかもしれないな…。

 

 まぁ返り討ちにしてやったんだが?←ドヤァ



 それはそれとして。


「今夜はここをキャンプ地としまーす!」


「「わーいキャンプだー!」」


 とはしゃぐ子供達、いつもはゴコクから帰るとまっすぐ火山を経由して図書館へ帰る。

 

 …が、いつもは会えない人達にも会えるし今日は正規ルートを使おうと思う。

 子供達も大きくなってきたし、図書館以外のちほーも見せてあげないとなるまい。


 明日はジャングル、それから高山のカフェ、ユキはロープウェイに乗れるだろうか?





 夕食のジャパリマンを食べたりしているとあっという間に日は沈み、夜がやって来た。


 子供達も遊び疲れて気持ち良さそうに眠っている、ジャングルやサバンナはこの季節でもそんなに寒くないのが救いだ。


 ところで。


「おはようユウキ!ママが起きましたよ~?さぁみんなハグして?」


 お茶目な母が眠るユキの体を借りて再度覚醒したようだ。


 忘れていたが父さんとの馴れ初めを話してくれるんだった、昼間の例えはあれだったがこっちの話ならまだサーバルちゃんの参考になるかもしれないな。


「お義母さん、おはようございます」

「おはようシロちゃんママ!」


「おはよう二人とも~」ムギュゥ~


 嫁と母親の仲がいいと安心するな…。



 クロも寝ているし、恋愛相談には丁度いい時間だろう、それではお願いします。


 ホワイトライオンのユキさんで…。



 “初恋”



 それは、まだパークにヒトが沢山いる頃であった…。


 サバンナちほーに白く美しい女の子が一人、それはホワイトライオンのフレンズ。


 後にユキと呼ばれるフレンズである。


 彼女は今日もゴロゴロしたり子ライオンと戯れていたりした、セルリアンもでないし特段何もすることがないときは食っちゃ寝を繰り返す… 彼女にとって至高の時間であった。


 そこに男が一人。


「サバンナちほーは暑いなぁ… あ、シマウマちゃんがいるな?マジでちょーサバンナって感じする」


 現れたのは生体調査に現れたナリユキ研究員その人である。


 その時彼女は木陰でゴロゴロとこんなことを考えていた。


「はわわぁ~お腹が空きましたー…」←通常運転


 友人のフレンズと話すうちに子ライオン達からも離れ、やがて友人もその場を離れるとまた一人木陰に寝転がっていた彼女。


 その時、たまたま通りかかったナリユキは木陰でうつ伏せに倒れる白い女の子を見つけた。


「うわ、なんだあれ!?熱中症かな?」


 近寄るにつれて彼女がフレンズなのはすぐに気付いた、彼は思ったのだ「このくそ暑いサバンナでそんなコート着てるから倒れるんだよ…」と。

 

 パークのスタッフとして困ってるフレンズを放っておく訳にはいかないので彼は白いあの子のもとへ駆け寄った。


「おーい?大丈夫?どうしたの?」


 声を聞いた彼女はむくりと起き上がり目の前の男性、ナリユキを見た。


 新しいガイドさん?それとも飼育員さん?


 と初めはその程度の印象だったそうだ。


 そんな彼女に対しても礼儀正しく紳士な対応を忘れないナリユキは、キョトンとしている彼女に尋ねた。


「具合でも悪いのかい?なにか飲む?」


「お腹が空きましたー…」


 彼にとっては斜め上の発言であった「行き倒れかよ!」と、そんなツッコミが脳裏に浮かんでいた。


「お兄さんはガイドさん?」


「いや俺は研究員、ナリユキでいいよ?よろしく、君はなんのフレンズかな?」


「ホワイトライオンですー」


「へぇ珍しい、ただでさえ珍しいホワイトライオンのフレンズ?こりゃすごい!」


 と興奮気味に何かメモを取ったりしているナリユキ、置いてきぼりのユキはそれをただボーッと眺めていた。


「あぁごめん、仕事でね?つい夢中になってしまった、お腹が空いて動けないのかい?これ食べる?」


 手渡されたのはナリユキのお昼ご飯である、オニギリが3つ。


 ユキはその物体、初めて見るオニギリという食べ物に興味津々だった。

 

 これはなんだろうか?お米は知っている、しかし三角の形に固まった状態のものを見たのは初めてだった、海苔も見たことがない、とてもいい匂いだがしばし食べることを忘れた。


「ナリユキオニギリ三種の神器スペシャル、略してナリギリだ!どーぞ?遠慮しないで食べて?」


「よくわかりませんが… じゃあいただきまーす… !?」モグモグ


 その時、ホワイトライオンユキに電流走る。




 お、おーいしー!?なんですかこれー?中に何か入っていますよー!?はわわぁ~!新感覚ですぅー!


「あ、もしかしてオニギリ初めて?気に入った?」


「…!!!」ガツガツバクバクムシャムシャ


 うわ、すげぇ勢いで食ってる!?さすがは大型肉食獣… 要チェックだ!カキカキ


 

 そんな風に二人は、お互いに妙な印象を受けていた。


「…ンッ!?んー!?」


「あ、つまった!?勢いよく食べすぎるから~?はいお茶?」


 水筒の麦茶を手渡すと、ホワイトライオンユキはそれを見るなり勢いよくゴクゴク飲み干した。


「…プハァ」


 この時、大変幸せな気分になったそうだ… 見ず知らずの自分にこんな美味しい物をくれるナリユキさんとは何者なの?と。


 きっとこんな美味しい物を作れるんだからこの“けんきゅーいん”とか言う人達はそういうところで働いてるのだと思い込んだ。


「全部食われちゃったな… まぁいいか、帰りにラーメン食べよ、チャーシューも付けちゃえ」


「はわわぁ~!とっても美味しかったですー!満足しましたぁー!特に最初に食べた中の黄色いやつが気に入りました!」


「それは玉子焼きだよ、3つのうちで俺の一番好きなやつでね?ナリギリ占いスタート!一つ目に食ったやつがそれの時は… 大吉!ホワイトライオンちゃんの今日のお昼はいいことがあるでしょ~!超ラッキー!」


「本当ですかぁ~!?やったー!」


「ラッキーカラーはその美しい白だ… 今日は暑いから熱中症に気を付けるんだよ?そのコート脱いだら?暑いでしょ?」


 コートを脱ぐ?考えたことがなかった…。


 それを言われてハッとしたユキは言われた通りコートを脱ぎ捨てた。

 するとその中には女子高生の夏服みたいな服を着ており、それを見たときのナリユキのコメント。


「ひゅー!いいね!かぁわいい~!」


「へぇ~涼しいですねぇ?教えてくれてありがとうございます!あの、ナリユキさん?」


「うん、なんだい?」


「また会えますか?///」


「仕事でそこら中ぐるぐる回ってるから、君がいつもサバンナにいるなら、また会えるかもしれないね?んじゃまたね?今度は俺の分のオニギリも残しといてね~?シクヨロでーす」チャラチャラ


「はい!ごちそうさまでしたー!」


 そのまま研究員ナリユキはなにやら研究員っぽい装備を持ち出し仕事に戻った。

 去っていく彼の背中を見ながらこの時彼女は思ったのだ。


 ナリユキさん…。


 美味しいご飯をくれる優しいお兄さん…。

 

 素敵な人…///




 

「ということがあって、ナリユキさんを待ち伏せしてお弁当をもらったりしているうちにいつしかご飯ではなくナリユキさんに会うことが楽しみになりました

 ご飯ももちろん好きですけど、その頃にはいつもご飯をくれるナリユキさんの優しさのほうが嬉しくって!はわわぁ~///思い出しただけで胸がキュンキュンしてしまいます~///」


 OK俺の意見を聞いてくれるかな?





 餌付けだそれ!?





 別の意味で知りたくなかった!母さんが積極的に餌付けられにいっただけじゃん!俺はオニギリ欲しさの延長で生まれた子だったのか!なぁにがナリギリだよ!このスケコマシ研究員!


「わぁ~!素敵ですね義母さん!」

「二人のきっかけはご飯だったんだね!すっごーい!」


 え、えぇ~!?素敵か!?

 

 切っ掛けと言えば聞こえはいいけど、母さんだってタダ飯したかっただけじゃん?どのようにして今みたいなヤキモチ妬くようになったか知らないけどさ。


 なんだかとっても複雑な気分にさせられた二人の馴れ初めだが、母は最後にサーバルちゃんに向かうとこう尋ねた。


「どうですサーバルちゃん?なにか参考にはなりましたか?」


「え~っとぉ…」


「ふふ、わかりませんか?切っ掛けは些細なことなんですよー?その時は違ってもだんだんその人が気になっていって、いつのまにか心の中で大きくなっているものなんです」


 なんだか急にまともなことを…。



 続けて母が言ったことは。

 

 恋をすると、彼はどこで何をしてるの?と気になったり、空の星が綺麗ならあの人も同じ空を眺めているの?とか、珍しい物を見つけると今度教えてあげようとか、急に身なりが気になったり可愛いと思われたい思うようになる…。


 どう思われているか不安だが会うときになるといつも楽しみで、褒められると嬉しくてその時を思い出すと何もないのにニヤニヤ笑ってしまい友達に気味悪がられることもある。


 他の子と妙に仲がいいと不安になってヤキモチ妬いたり、辛く苦しい思いをすることもあるがとても楽しいものだと。


 それが恋なんだとサーバルちゃんに話した。


「あ!私のことじゃないけど、かばんちゃんにはそんなこともあったよね!今思えばやけに図書館に顔を出したがったのはシロちゃんに会いたいからだったんだね?すごく機嫌がいい日が続いたかと思ったら急に落ち込んでご飯も食べなくなったり、それに急に泣きだしたりで心配だったよ~!」


「あの~、えへへ… ごめんね?御迷惑お掛けしました…」


「大丈夫だよ!でも心配して聞いても“平気”とか“大丈夫”しか言わないからモヤモヤしちゃったよぉ~…

 私じゃ解決は出来ないけど、一緒に悩むことくらいはできるから!なんでも言ってねかばんちゃん?」


「うん!ありがとうサーバルちゃん!」


 やるじゃないか母さん?なんで初めからそう説明しないんだ、なんでも食べ物に結びつけるからややこしくなると言うのに。


 これでサーバルちゃんも理論的?には理解しただろうか?恋愛に置いて理論的な物がいかに頼りないかというところなんだが、とにかくこれで分かったはずだ。


 辛いことも多いがそれでも人は恋をすると。





 妻とサーバルちゃんが仲良く話している間、俺は母さんの相手をしていた。

 

 親子水入らずというやつだろうか、まさかこうして面と向かって話す日がくるなんて未だに信じられないよ。


 まぁ見た目は娘なんだが。


「どうユウキ?ママさすがでしょ?」


「うん、恐れ入りました… でもちゃんと説明できるのになんでいちいち食べ物の話に置き換えるのさ?」


「単に食べることが好きなのもあるけど… やっぱりパパとの出会いはご飯から始まりましたからね?ママには初恋もゴールもパパ一人なのよ?パパのくれたご飯はどれも美味しかったし、一緒に食べるご飯特別美味しかった… ユウキが生まれて三人で食べるご飯はもっと美味しかった!ご飯を食べるっていうのはママにとってすごく特別なことでもあるんですよー?」


 そうか、やっぱり母さんは単に食い意地が張ってるんじゃない。


 食べることを通じて絆を感じていたのかもしれない、そして奇しくも俺は長の専属料理人だ。


 だったらなかなか会えない父に代わり、俺が暖かい家庭料理を提供していかないとな。


「じゃあ母さん、食べたいものなんでも言って?俺がなんだって作ってみせるよ?」


「あら?頼もしいですねぇ~!じゃあママも手伝っちゃおっと!」


 なに?母さんの手伝いだって?


 悲惨な過去が脳裏を駆け巡る。


「それはいいや…」


「なんでそんな顔するのー!?ママのサポートが心配なの!?」


「ごめんね母さん?気持ちだけ受け取っておくよ」


「はわわぁ~!?こんなことならもっとお料理頑張っておくんでしたー…」


 なんか急なことでビックリしたけど、やっぱり母さんがいるのは嬉しいな。




 ありがとう母さん。

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