第21話 だいこうぶつ
サバンナちほー。
妻とサーバルちゃんの出身地と言えるだろう、ここにもたくさんのフレンズがいる。
有名どころだとやはり性戦士カバさんだろう、今日も水辺で自慢の体を濡らして悩殺ポーズをとっているに違いない。
あとはこの子達も…。
「サーバルちゃんあれなにー?」
「ナメクジー?」
「シマウマちゃんだよ!」
それから~?
「あの子はだれ?」
「なんで背中を向けるの?」
「トムソンガゼルちゃんだね!」
細かいこと言えばもっとたくさんいるがそこはまぁいいとしようか。
妻もサーバルちゃんも久しぶりのサバンナの風が気持ち良さそうだった、やはり地元の雰囲気が一番体に馴染むのだろう。
しかしサバンナも住みやすそうだなぁ、暑さに参ることもあるが逆を言えばあんまり寒くならないし、料理の設備はないけどそれはどうにでもできるさ。
サバンナに住む… か。
もしもサーバルちゃんがシンザキさんと結婚したら、やはりサバンナに住むんだろうか?
シンザキさんは飽くまでサーバルちゃんの意思を尊重するだろう、彼女がかばんちゃんと離れたくないと言えばどうにかしてしんりんちほーに住むだろうし、せっかくだからサバンナに住もうと言えばサバンナに住居を構えるだろう。
あの人はそういう人だ、それにサーバルキャットそのものに詳しいのであらゆる場面で彼女に合った選択を選べると思う。
正直、シンザキさんほど彼女に合った男はいないんじゃないだろうか?と俺は思う。
いやまぁこれは生物学的な話に置いてというか、そういう面でよく知る人物の側にいるのがもっとも良いという考え方なのだけど。
ただ、それは飽くまで彼女をサーバルキャットとして見た場合だ。
彼女はたしかにサーバルキャットだが、正確にはフレンズ、サーバルキャットのフレンズなのだ。
それは極端な話、サーバルキャットの能力を持った人間と言えるだろう、故に彼女は人としての心に大きく左右されることになる。
その証拠に彼女は自分の縄張りをあっさりと離れてかばんちゃんの側にいることを選んだし、今ではサバンナにも滅多に帰ることはない、本人の言った通りサバンナに来たのは久しぶりだ。
プロポーズを受けて満更では無さそうな感じではあったが、同時に自分の中の恋愛感情をうまく掴むことができずに混乱している様子だった。
彼女は優しいが、それはシンザキさんに対してだけではない、誰にでも優しく暖かい。
かばんちゃんはもちろん俺や子供たちにも同じように接してくれる。
妻は本当に良くできたみんなのお手本みたいな女性だが、彼女もまた違う形でそういう女性と言えるだろう。
人間誰しも苦手な相手や嫌いな人物がいるものなのに、彼女は何に置いても人のいいところ見る、人に上下をつけない。
もっともかばんちゃんだけは彼女にとっても特別な友人に思えるが。
でもそんなサーバルちゃんだから、自分の中の異性を好きになるという気持ちがよくわかっていない。
みんなを平等に見る彼女には自分が女性として男性を好きになるという気持ち… 即ち唯一無二の特別な存在を理解しかねている。
まぁ、動物には恋愛感情そのものが無いから急に物心ついたからってわかるもんでもないのだと思う、男性との関わりもここ数年でやっとできたんだし。
って… これ全部本人に聞きもしないで勝手に俺が思ってるだけなんだが。
…
バスで移動を始めると仲良く子供たちと歌を唄うサーバルちゃん、港で見せた儚げな表情が嘘のように元気いっぱいハジける笑顔、膝に乗せてもらってクロもご機嫌な様子だ。
「サーバルちゃん、どうするのかな?」
「結婚のことですか?まだ先の話ですから、なんとも言えないですよね」
そうなんだけど~…。
心の勉強とか言ってたよな?誰に教わるつもりだろう?恋心を教えてくれる人なんていたかな?
そうだ!ジャイアント先輩!
いやあの人な~んか胡散臭くてなぁ… でも的外れなこと言うわけでもないし、なんなのマジであの人。
それよりまぁとりあえず、こちらの方にご挨拶といくか。
「カバさーん、遊びに来たよー?」
「「カバちゃーん!」」
「はーいここよー?」ザバァ
ヌッと現れましたカバさん、今日もムチムチボディが水に濡れています。
「あら~!クロにユキ!久しぶりねぇ~?大きくなったのねぇ~?」
「ユキもう4才なの!お姉ちゃんなんだよ!」
「すごいわぁ~?じゃあクロもお兄ちゃんねぇ?子供は少し時間が経つとどんどん大きくなっていきますわねぇ…」ナデナデ
さすが、カバの姉御は母性たっぷりで子供の扱いも上手ですわ。
だが、二人がハシャいでみずに飛び込まないうちに捕まえて抱っこしておこう。
そうして俺が二人の相手をしている間にカバさんと久しぶりに談笑なんぞする妻とサーバルちゃん。
この時、サバンナの母であるカバさんの目はサーバルちゃんのわずかな変化も決して見逃さなかった。
「サーバル?あなたなにか悩んでるんじゃありませんの?そんな顔してますわよ?」
「え!?なんでわかったのー!?」
「カバさん、実はサーバルちゃんは…」
「あ!待って待って!?///」
慌てるサーバルちゃんは妻を止めるが、そんなことはお構いなしに話しは先に突き進む。
「シンザキさんにプロポーズされたんですよ?」
「サーバルがですのぉ~!?」
「うみゃ~///かばんちゃん!なんで言っちゃうのぉ~!?」
カバさん、わかるかな?なんでも知ってそうな雰囲気は出しているが果たしてそれが恋愛という未知の領域に踏み込んでいるのかどうか…。
「シンザキってあのほら、ですかねぇ?の男の人でしょ?へぇ~サーバルに?こんなおっちょこちょいのどこがよかったのかしら?」
「ひどいよ!でもわたしにもわかんないや!そういえばシンザキちゃんどうしてわたしがいいんだろう?ほかにもいろいろできて可愛い子はたくさんいると思うんだけどなぁ~?」
「まぁ、サーバルも十分可愛いとは思いますわよ?」
「そーお?えへへ!ありがとー!」
照れくさそうに頭を掻くサーバルちゃん、確かに俺個人の目で見ても可愛いとは思う。
「でもそれだけなら誰でもいいだろうし?もしかしてサーバル、料理とかできるようになった?」
「できないよ~…」
「わかりませんわねぇ?可愛いだけでおっちょこちょいのサーバルにプロポーズだなんて… なにがしたいのかしら?」
「ひどいよ!」
ただし、シンザキさんは可愛いからサーバルちゃんを選んだのではない、サーバルちゃんだから選んだんだ。
たしかに彼女は料理もできない、それどころか家事は何一つできない、いややったことがない。
掃除をしては余計に散らかすかもしれない、片付けようと物を運べば慌てて落とすかもしれない、洗濯すれば爪でボロボロにしてしまうかもしれない。
おっちょこちょいだ、確かにそうだが…。
「サーバルちゃんは素敵な女性です、優しくっていつも僕を支えてくれました
確かにおっちょこちょいなところはありますけど、僕が辛いときはいつも隣で励ましてくれましたし、危ない時は守ってくれました
子供たちとも仲良しで毎日嫌な顔ひとつしないで遊んでくれます、きっとシンザキさんにもサーバルちゃんのそんないいところがわかるんですよ?一緒にいると安心するんです、僕はそう思います」
「かばんちゃん!ありがとう!」
ビューディフォー… さすがはかばんちゃん、模範解答と言って相違ないだろう。
でも強いて言えばシンザキさんはサーバルキャット的な部分にもグッときてると思う。
「それで、何を悩んでるの?嫌なの?」
「嫌じゃないんだけど… その~恋?ってどんな気持ちなのかよくわかんなくて、ちゃんとお返事したいから今勉強中なんだ?ねぇカバ?なにか知らない?」
「難しい質問ねぇ… それはわたくしではなくて、かばんの方が詳しいんじゃない?」
「もちろん話しましたけど、僕だけでなくいろんな人の意見があった方がいいとおもうんです」
恋ばなか… 取り残されてしまったな、なぁ子供たちよ?ところでクロの前でそんな話ししてもいいのかな?
「パパ~?ママたちなんのお話~?」
ふむ、わかってないようだな。
4才の子にはさすがに難しいか、よく考えたらクロだって4才なんだから。
「大人のお姉さんにしかわからない話なんだよ?」
「大人のおねーさん?」
「え~!ユキもするー!お姉ちゃんだもん!」
「そうだよ~?でもごめんな~?ユキには少し早いかな~?もう少し大きくなったら入れてもらおうな~?」
邪魔してあげないほうがいいだろう、男が入っても仕方ないし、なので子供たちはパパに任せなさい!と思ってたんだけど…。
「じゃあユウキ!私の出番ですね?」ブワァ←変身
「あ、ちょっと母さん!用事もないのに娘を乗っ取ったらダメだよ!」
「あ!ユキにお耳があるよパパ!」サワサワー
「あらあらクロユキくぅん?お耳好きなの~?」
「…ユキ?」
あのクロがフリーズしてしまった、あまりの変化に驚いたのか、そうだろうな。
「ほらクロ、細かいことは抜きにしておばあちゃんだぞ?」
「おばーちゃん…?ユキは?」
「シラユキちゃんの中にいるおばあちゃんですよ?クロユキくんはかばんちゃんそっくりねぇ?可愛いですねぇ~?」ナデナデ
「ユキは… おばーちゃん?」
そうだよなぁ、わっかんないよなぁ?意味わかんないもんなぁ…?
「母さん、あれはサーバルちゃんの問題だよ?助言がほしい時は呼ぶから娘に戻ってくれる?疲れちゃうんでしょ?」
「ママに任せなさい!ママすごいんですよ!パパのために船に忍び込んだ大恋愛の経験者なんですよ?」
「知ってるよ、とっても尊敬してるけど帰ったときゆっくり聞かせて?」
「見てなさいユウキ!ママがすべて解決しますからねー!」スタター
「あ!ちょっと母さん!?邪魔しちゃダメだよ!」
走り出したユキ(母)はまっすぐ恋ばな中の三人の元へ、俺はクロを抱えたままそれを追いかける。
母さんったら何をそんなに張り切ってるんだ、余計な助言は彼女を混乱させるだけだぞ?も~!見栄っ張りなんだから!
「サバンナは懐かしいですねぇ~?カバさんは代替わりでどんな風に変わったのかしら?おひさー?」
「あれ?ユキちゃ… あれ!?もしかしてシロちゃんママ!?」
「ユキどうしたの~?一緒にお話し… お、お義母さん!?」
「二人とも何を言ってるの?ユキがどうかしたの? …あら?お耳と尻尾?ついにシロの遺伝が出ましたのね~?とっても可愛いですわぁ!」
「ふ~ん… 私の知っているカバさんよりも少し品がありますねー?以前はもっとエッチなお姉さんでした」
「何を言ってますの?」
あぁ~すでにテンションぶち上げで空気を掻き乱しているじゃないか、ていうか~?先代カバさんはもっとエッチなお姉さんだったのか?これ以上エロくしたらエロテロリストだぞ、いい加減にしろ。
「サーバルちゃん?恋愛の大先輩であるユキちゃんが教えて差し上げます!さぁなんでも言って?」
「本当!?シロちゃんママありがとう!じゃあ~?恋ってどういうことなの?かばんちゃんやみんなが好きなのとは違うの?」
「恋はねサーバルちゃん?ご飯に例えると大好物ということですよ?」
ユキちゃん(母)の恋愛論。
恋をご飯に例えると、初めて食べた瞬間どハマりして堂々の第一位に躍り出るとてもとても特別な物である。
つまりこれは、ジャパリマン大好きなサーバルちゃんはある日かばんちゃん特製のカレーを食べた瞬間今まで食べた何よりも美味しいと感じてしまい、大好きなジャパリマンをサッと追い抜きカレー大好きサーバルちゃんになってしまうみたいな状態である。
心も体もカレーでいっぱい「あ~あ~かばんちゃんのカレーたぁべたいなぁ~」←恋してる状態。
それからカレーを見るたびに目を輝かせ、匂いを嗅ぐたびに食欲が湧き、一口食べる度に「おーいしー!」と彼女を魅了した、そして何度もそれを求め、他に何もいらないとさえ思うようになる。
…
「えーっとぉ?じゃあジャパリマンもカレーも同じくらい好きなときはどうしたらいいの?」
「それはユウキに例えると大変わかりやすいです!だって経験sy…「アァァァァァァッ!!!」
余計な情報を引き出すんじゃあない!嫁さんの前だぞ!昔のことだよ!墓場まで持っていかせろ!
「ママ~!パパが怖いぃ~!」
「大丈夫だよクロ~?びっくりしたね?」
「母さん!すぐにユキに戻って!」
「はわわ~!?ユウキが反抗期になってしまいました!優しくて可愛い息子はどこへ行ったの?」
はわわ~!?じゃないよ!それはこっちのセリフだよまったく!
「はぁ… わかったよ大声出してごめんね母さん?とりあえず一旦戻ろうか?後でゆーっくりお話ししようよ?」
「もう、仕方ありませんね?ママは寂しいです、こんな風に子は親の元から離れていくんですね…」シュン
「そ、そんな顔しないでよ?ねぇ母さん?後で父さんとの馴れ初めでも聞かせて?」
母さんには余計なことを言わせないように少し引っ込んでいてもらおう。
開けてはいけない扉な気がするが父さんとのことを話せば機嫌がよくなるはずだ。
「聞きたいの~!?仕方ありませんね!じゃあ長くなると思うのでおやすみなさ~い!」
上機嫌で眠りに落ちた母、瞬間ユキの体から猫耳と尻尾がフッと姿を消し、もと娘の姿に戻った。
「…? パパ抱っこ~!」
「あぁ、おいでユキ?」
娘を抱き上げてじっと顔を見てみた、ポケっとこちらを見ている、間違いなく4才児にもどっているとわかる。
これには俺もニッコリ。
よし、とりあえず落ち着いたな。
「今のは何が起きたの?わかりませんわ…」
「ごめんカバさん、騒がせたね?わけありなんだ、複雑だから今度話すよ」
「…?まぁわかりましたわ?サーバル、何か参考になった?」
「うーん… 恋は大好物?かばんちゃんのカレー?シロちゃんのお寿司も好きだな~?あ、でも二人の作るものなんでも美味しいよ!もちろんジャパリマンも好きだし!あれ… 恋って美味しいの?」
余計ややこしくなってるじゃないか!でもなぜか母さんの説明でも理解できたよ俺は。
サーバルちゃんには例えで話すより簡単なことから一個ずつ教えていくといいかな?でも恋心は複雑だしなぁ、みんなはどんな意見をくれるかなぁ?
「サーバル、とりあえず食べ物のことは一旦忘れたら?恋って心の問題ですし、まずこう考えたら?“彼がいなくても自分は大丈夫かそうでないか” どう?」
「うーん… 会えないのはやだよ?それはみんなも同じだけど、シンザキちゃんともっといろんなことお話ししたい!」
「つまりそれは少なくとも好きってことよ?今はそれでいいんじゃない?」
「そっか!まだ始まったばっかりだもんね?」
カバさんのおかげで綺麗に収まったな。
そうだ、少なくともサーバルちゃんはシンザキさんをプラスで見ている、好きか嫌いならもちろん好きなのだろう。
とりあえずそこからだ。
…
さぁ行こう行こう!とカバさんにバイバイしてからバスに乗り込んだ。
次はジャングルちほーだ、でも今から入ると夜になるから、今日はゲートでキャンプしよう。
「シロさん?」
「なぁに?」
「ジャパリマンとカレー、両方同じくらい好きなときはどうしたらいいんですか?」ゴゴゴゴゴゴ
うぁやべぇ~… バレてるバレてる!なにか考えなくては!
よし!
「心を無にして目を閉じるんだ、その時に味とか匂いとか思い出… それらが先に思い浮かんだ方のご飯が本当の大好物だよ」
「えっと、それはつまり…」
「頭でわかってなくても心はすでに気付いてるもんだよ、ご飯も恋もね?」ウィンク☆
「もう、シロさん…///」
あ、照れてる!可愛い~!俺の大好物はもちろん君だよキラッ☆
よしなんとか切り抜けたぞ、知識や経験はやっぱり大事だね~?
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