第18話 りゅうせいぐん

「なぁ、スナネコ…」


「なんですかぁ?」


「今、旅してるんだってな?」


「ツチノコのいない地下迷宮に一人でいてもつまらないですからね」


 夜のゴコクエリア、カコハウス周辺をかつての砂漠コンビが歩いていた。


 特に理由なんか無い… ただ久しく会った友人とゆっくり二人で話したい、お互いにそんな気持ちだったからこうして歩いていた。


「帰ってないのか?」


「島を一周するごとに立ち寄ってます、誰かが迷って困ってるかもしれないし、それに戻る度に期待しちゃうんですよ?ツチノコが帰ってるかもって…」


「すまないな、ずっと顔も見せずに…」


「いいんです、おかげでいろんなところに行くことができて飽きませんから?ツチノコだって色々知りたくて“ちょーさ”というのをするのですよねぇ?同じようにやってみたら夢中になってしまいました、見たことのない新しい物をみるのは楽しいですねぇ~?」


 数年経ってもツチノコの知ってるスナネコとそう違いはなく、その気の抜けるような話し方を聞いているとどこか懐かしくなった。


 ツチノコにとってそんな彼女の声は耳に心地良い、ただ恥ずかしがり屋の彼女はそれらの気持ちを本人に伝えることはせず、深く被ったフードにニヤけた顔を隠した。


「でも来るならもっと早く来たってよかったんじゃないか?シロ達は子供の誕生日には毎年来るんだ」


「ボクはあまり一ヶ所に長居しなくなってしまったので、クロとユキの顔を見たら満足して次のちほーに行ってしまうんですよ?今回はなにやら面白いことになっていたので泊めてもらって、そしたらシロから誘いを受けたので来たんです、ゴコクエリアもいいところですねぇ~?」


「飽きっぽいのは変わらないみたいだな?」


「もしかして、もっと早く来てほしかったのですかぁ~?ツチノコは人見知りのクセに寂しがりですからねぇ~?」


「う、うるっせぇ!別にそんなんじゃねぇぞぉ!?ヴォレェ!キシャー!」


 一方スナネコも、こうしてツチノコをからかいムキになるところを見るのが懐かしく、嬉しく感じていた。


 ただ彼女の場合は、ツチノコのように隠したがる訳ではない、彼女は元々表情や声にはあまり感情を乗せないタイプである。

 なのでやはりこの時も変わらず、必要以上に表情や声に出して嬉しさを表現することはなかった。


 だけど、お互い心の中は跳んで喜んでいる… そんな心境だった。


 ツチノコは一人置いてきてしまった友人をずっと気にかけていたし、スナネコは船出を見送る際珍しく号泣してしまうほど寂しさに溢れ、今までも彼女を気にしていた。


 そして今こうしてやっと再会できた友人が昔と同じ調子で話せることに、お互い嬉しく思っていた。


「ツチノコはまだシロにホの字なのですかぁ?」


「フゥアハッ!?なんだよ急に!?///」


「その反応は図星ですねぇ?」


「そ、そんなんじゃねぇよバカ野郎!?アイツはなぁ!その、今でもいい友人で弟みたいなもんだ、杯を交わしたからな…」


「シロから聞きました、“きょーだいさかづき”というやつですねぇ?いいですねぇ~!ボクもツチノコの妹にしてくださいよ~?」


 ツチノコも少々呆れてしまうほどスナネコは会話の内容がコロコロ変わる。

 でもそれもいつも通りだった、呆れてはいるがそれが懐かしくツチノコは上機嫌だ。


「ならオレの秘蔵のやつ… 飲むか?///」


「おぉ~!昔ツチノコのゲロまみれになってたやつですねぇ?」


「アレはもう捨てた!… ったくシロのやつ受けるならもっとあっただろうが!…ってそれはいい!まぁ~お前がどうしてもやってみたいって言うなら、いいぞ?」


「あ、はい…」


「飽きてんじゃねぇよ!? …チッ!もういい!そろそろ帰るぞ?毎年ナリユキがいい酒を持ってきてくれるんだ」


 進む足を返しカコハウスに向けて歩き始めるツチノコだったが、続く足音が聞こえないことに気付くと気だるそうに「はぁ…」っと溜め息をつき振り向いた。


「おい!なにしてんだ?帰るぞ!」


「見てくださいツチノコ~!なんですかぁこれ!?きれぇ~い!」


 空を見上げるスナネコ…。


 星意外になにがあるんだよ?とツチノコも空を見上げた、すると。


「ほぉ?流星群か…」


 満点の星空にはいくつも流れ星が流れ、ツチノコもその美しさについ目を奪われた、隣でキラキラと目を輝かせながら空を見上げるスナネコはまるで無邪気な子供のようだ。


「こんなにたくさんの流れ星は初めて見ました~!」


「願い事を言っとけ」


「願い事ですか?」


「流れ星に願い事を言うと叶うんだそうだ、なにか無いのか?」


 ツチノコ自身は口に出さず願っていた。



 また来年もみんなに会えますように。



 そして隣からは、スナネコが願い込めた言葉を口にする声が聞こえた。


「またツチノコと流れ星を見れますよーにぃ…」


「な、なんだよそれ!///そんなんでいいのかよ!」


「ツチノコとは滅多に会えませんからねぇ?本当は早く帰ってきてほしいですが、そんなことはないと思うのでまた並んで星が見れるだけで満足です」


 “だったらお前も一緒に住めばいい…” とツチノコは思ったが、自分のワガママに付き合わせるのもどうかと思いとても口には出せなかった。

 勝手に出ていって、挙げ句こっちに移り住めなんてことを押し付けるのは彼女の本来の優しい性格では言うことはできなかったのだ。


 さすがに勝手が過ぎる、とても言えなかった。


「寂しそうですねぇ~?」


「言ってろ… ほら、もう行くぞ?流星群は終わった」


 今度こそ帰路につこうと背中を向けたとき、スナネコは言った。


「ツチノコ…」


「なんだよ?」


「“おとなしく待ってろ”… そう言いましたよね?」


 それは彼女が船に乗るとき、泣きじゃくるスナネコに向けて放った言葉だった。


「だからボクは、ちゃーんと待ってますからねぇ?」


「へっ!いつになるかわからんぞ?!」


「ツチノコは約束を破るような悪い子なのですかぁ?」


「さぁな!」


 そんなやり取りの後、二人は肩を並べ帰り道を歩いた。








 

 母との話しも済んでしばらく… ツチノコちゃんとスナネコちゃんがなかなか帰って来ないのが少し気になる中、こちらでは若干や問題が発生していた。


「クロ!なんであんなことしたの!」


「…」プイッ 


「こら!ちゃんと聞きなさい!」


 妻が息子を叱りつけているのには当然理由がある


 先程流星群が見えたそうだ、俺と妻は残念ながら皆さんの酒のツマミを用意している最中で見れなかったが、シンザキさんがサーバルちゃんを誘い少し外にでて二人で空を眺めていたのだ。


「サーバルぅ?ちょっと外、来ませんかねぇ?」


 とシンザキさんは流れ星が飛び交う空の下へ愛しの君を誘い出したのだ。


「え?なになに~?」


 とノリノリに着いていくサーバルちゃん。


 外に出るとなんとロマンチック… そう何度も見れるものではないだろう流れ星の大群が夜空いっぱいに広がっていたそうだ。


「すっごーい!とっても綺麗だね!なにこれー!」


 と両手を広げくるくる回りながら彼女はハシャいでいた。


 するとシンザキ氏は眼鏡を外し今年最高のキメ顔で言ったそうだ。


「サーバルのほうが、余裕で綺麗ですね」


 おい、それは俺がよくかばんちゃんに言うやつだぞ… というのはさておき。


 そんなことを不意に言われてはさすがにサーバルちゃんも頬を赤く染めてモジモジとしていた。


「うみゃ!?急になに言い出すの?///」


 サーバルちゃんにそっち系の誉め言葉が通じるのか?と少し疑問ではあったが、彼女も長いこと俺とかばんちゃんのイチャイチャしてるところを見ていたしあと耳も大きいのでベッドの軋みも聞こえるようにぃ… それにより恐らく恋愛とは如何なるものか?というのをそれとなく理解し始めていたのだろう。


 そのまま困惑するサーバルちゃんの側に寄り彼は手を取ると続けて言う。


「サーバルはですねぇ、基本的には僕にとって特別な存在でして?若干やぁその笑顔に心を奪われてしまうのでそういったところでサーバルぅあの、細長い個体で… あととても明るいのでぇ?いつでも元気ぃ貰えるようにぃ… 聖母力ぅですかねぇ?誰にでもスッと優しくできる女性でして、僕もその優しさに一回や二回は余裕でぇ救われてますね…」


「えぇー!?つまりどういうこと!?」


 それは告白なのか?そうなのか?え…?これはちょっとわかんないぞ!?


 というわけで告白が変化球過ぎて伝わりきらなかったらしい、もっと普通に言えばいいのに渾身の告白だったのかキメ顔のままのシンザキさんあの、細長い個体で…。


 そんな二人はどんな願いを流れ星に願ったのだろうか?


 するとそこで、見つめ合う男女の元に小さな男の子が近寄って来ました、はい息子のクロユキでございます。


 母から戻った娘シラユキはそんな双子の兄に声を掛けますが。


「クロー?どーしたのー?」


「…」ムスッ


 聞いちゃいません。


 完全に日が沈みきった頃にはお昼寝から目覚めていた子供達。


 膨れっ面で早足のクロを娘ユキは不思議そうに眺めていた、そして目的地に到着するとクロは…、


「ッ!」ゲシッ!


「痛っ!?基本的にはそこを弁慶の泣き所と言いましてぇ!?」


 クロはヤキモチがピークに達したのかシンザキさんのスネに一発蹴りを入れた。


「うわぁ!?シンザキちゃん大丈夫!?ダメだよクロちゃん!どーして意地悪するの?シンザキちゃんに謝ろう?」

 

 サーバルちゃんも決して怒鳴り付けたりはしないが、それはいけないことだとその行為を咎めた… だがクロは彼女に向かい言ったそうだ。


「サーバルちゃんなんて嫌い!」


 子供ながらにその光景を見て失恋と受けとってしまったのかもしれない、それを見ていたユキは「いーけないんだ~!」と俺達にチクりにきたのだった。


 現在に至る。


「あ、かばんさん?僕は平気なのでぇ…」


 シンザキさんは基本怒らない、温厚なのだ。


 タイミングがあれだったので残念そうにしているが、子供のやることだと対して気に止めていない様子… なのだけどぉ?こちらとしてはそういう訳にもいかない、叱るときは叱らないと。


「自分も蹴られたら痛いでしょ!どうして人に痛いことするの!」


「…」プイッ


 納得がいかないのかクロ?だがお前のやったことはワガママなんだ、4才の子供に相手の気持ちが云々と言っても完全に理解することはできないのかもしれない、だって大人になると更にわからなくなるのだから。


「もう!いい加減にしなさい!」


 と妻にしては珍しく強く怒鳴りつけ始めた

 

 時にそういうのも大事だとは思うが、勢いで手を上げる前に一旦落ち着いてもらおう、クロの言い分もあるだろうし、泣かれる前にしっかりと話したい。


「待ってかばんちゃん?俺が話すよ」


「でもシロさん…」


「大丈夫、任せて?」


 よし、ラッキーの「任せて」とは違うところを見せないとな。


「クロ、おいで?」


「…」


「パパは怒ってないからおいで?ちょっとお散歩しよう?」


「うん…」


 と言うと歩み寄るクロを抱き上げて星空の下を歩いた。

 後ろから「ユキもー!」と聞こえてきたがかばんちゃんに連行されたようだ。


 ま、たまには男同士で話したいこともあるのさ?


「クロはサーバルちゃん好きか?」


「嫌い」


「本当かな~?内緒にするからパパにだけ教えてくれないか?男の約束だ」


「…本当は大好き」


「そっか、サーバルちゃん優しいもんな?」


「うん…」


 クロはサーバルちゃんに恋をしている。


 生まれた頃からすぐ側で優しくしてくれた母親意外の女性に母性みたいなものを感じてそう思ってるのかもしれない。


 それから今までずーっと一緒に暮らして毎日遊んでくれる大好きなサーバルお姉ちゃんだもの。


 まだ小さなクロはそんな彼女の愛情を独り占めできなくてワガママになっているんだろう。


「じゃあシンザキさんはきr」

「嫌い」←食い気味


「そ、そっか… でもなクロ?サーバルちゃんはシンザキさん好きなんだぞ?」


「やだ」


 やだて…。


 つまり俺はが言いたいのは、サーバルちゃんはみんなのことが大好きだからクロのワガママで独り占めしてはいけないということを伝えたかった… んだけど~?

 これはシンザキさんのみに対する嫉妬心なのでなだめるのが難しい。


「いいかクロ?さっきシンザキさんに痛いことしたな?あれはよくないぞ?シンザキさんもだけど、サーバルちゃんが一番傷つくんだ」


「どーして?サーバルちゃんにはなにもしてないもん」


「それは、サーバルちゃんがクロのこともシンザキさんのことも好きだからだ、大好きなクロが大好きなシンザキさんに酷いことするから、サーバルちゃんは今二人分悲しいんだ、わかるか?」


「…」


 本当はわかってるからバツが悪くて何も言えないのかもな、この子は頭がいいから。


「クロ?パパは好きか?」


「好き!」


「よしよし… じゃあパパがサーバルちゃんに痛いことしたら、クロはどう思う?」


「やだ…」


「じゃあ後は分かるな?お前はママに似て優しくて頭がいいから、本当はあんなことしたらダメだってわかってるんだろ?」


「ごめんなさい…」


「パパはいいよ、じゃあクロはいい子だから、ちゃんと謝らなくちゃならない人も誰か分かるな?」


「うん…」


 よしよし、今のはかなり父親らしいこと言えただろ?

 俺なんてまだまだだけど、子供達にはみんなの手本になるような大人になってもらいたい、頭が悪くても運動ができなくてもいいから…  どうかそのまま優しい大人になってくれ?

 

「パパどうしよう…」


「ん?どうした?」


 涙目と震えた声で息子は俺に尋ねた、どうしたんだ?お漏らしでもしたか?


「サーバルちゃんに嫌いって言っちゃった、きっとぼくも嫌われちゃった…」


 やっぱり、4才にしちゃあ悩みが大人っぽいんだよなぁ…。


「大丈夫だよ?多分サーバルちゃんもクロに嫌われた~って落ち込んでるから、ちゃんとごめんなさいして本当は大好きって言えば仲直りできるさ?」


「ほんと?」


「本当さ、なんだ緊張してるのか?ならパパの耳を触って落ち着きなさい、ほら肩ぐるm」

「いい」


 なんだよ… 結構傷付くじゃねぇか!


 そんなやり取りをしつつカコハウスに向かい歩いていると長い散歩から帰ってきた砂漠コンビとばったり会った。


「おいおい、二人してなに同じ顔してんだ?なんかあったか?」


「だって… いやそれはいいや、おかえり二人とも?流星群見えた?」


「見ましたよぉ~?スゴく綺麗でした~!あんなの初めてです~!」


「スナネぇちゃんの耳ぃ~!」


 おいちょっと待て!

 なんて声… 出してやがる!クロォ!?


「クロはボクのことが好きですかぁ?」


「好き~!」ニコニコ


「じゃあ大きくなったら結婚しましょうかぁ?ボクの耳を好きにしてください」


「なっ!お前!?」

「あんまり息子を混乱させないでよ~?」


「考えとくー!」


 こいつ!?キープしやがった!?


 しかしわからんなぁ?落ち込んでるかと思えばこれだよ、好きなら好きでサーバルちゃんを貫いてもらいたいが、サーバルちゃんからすればクロは親友の子供だからなぁ。


 正直シンザキさんに軍配が上がるだろう、サーバルちゃんもアタックされて満更でもなさそうだし…。

 

 だからスナネコちゃんはどうだい?って勧めることもわざわざしないのだけども。


 それにしても、この辺も何年か後に決着つくのかなー?でもシンザキさんったらたまに積極的なのに照れ屋さんだからへんな言い回しするしなぁ。


 頑張ってね二人共?



 とりあえず今の俺ができるのは、傍観することだけか

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