第17話 いつかのはなし
クロユキとシラユキ… 4才になったばかりの俺とかばんちゃんの間に産まれた双子。
息子クロユキ。
元から似ているが最近ますますかばんちゃんに似てきた、髪のクセとか発想力に富んでいるとことかフレンズの耳好きなとことかもそうだ、ちなみに尻尾に興味が無いわけではなくユキに譲ってるだけである。
そして4才でサーバルちゃんに恋をするおませさんめ、シンザキさんとも仲良くしてくれるといいんだが。
娘シラユキ。
一方こちらは更に俺に似てきている、その白い髪も去ることながら、父さんが言うには元気に走り回る姿は小さい頃の俺とそっくりらしい。
そして身体能力が一般の4才のそれを遥かに凌駕していると父とミライさんは語る。
さらにフレンズ化、即ち野生解放。
普段は人の姿をしているユキに耳と尻尾、爪と牙が生えて師匠に襲いかかったのだ、その時は落ち着かせてどうにかした。
…が次にフレンズ化したときユキは。
俺の母、ホワイトライオンのフレンズの“ユキ”として現れたのだ。
俺はこの時思ったんだ、ユキは俺ではなく母に似ていたのかと…。
母さんと会えたのは素直に嬉しい、死んだはずの人物とまた会話ができたのと相違ない状態だ、でも…。
言い方が良くないが、母さんが娘の体を乗っ取った状態である事実。
この辺を詳しく知るのと同時に解決策を考えなくてはならない。
俺達はカコ先生に事情を詳しく話した。
…
「シラユキちゃんの体に… ユキちゃんが?それは本当なの?」
「まるで信じられる話ではないが事実なんだ先輩、俺達は実際にユキと話した、小さなシラユキの中にいるユキと」
こうなった原因や可能性として…。
まずは俺の蘇生、そしてかばんちゃんの妊娠出産、ユキが最初にした野生解放。
母から離れたサンドスターと意識は俺を通して娘へ、そして野生解放により意識が覚醒した… という仮説。
それは2度目以降の野生解放から母が現れたからこその理由だ。
「まず、ユウキくんの事例から自我を失うほどの野生解放がユキちゃん覚醒のキーになっている、この可能性は非常に高いと思うわ」
ここは先生も同じ意見だが。
“フレンズ化すると人格が母に切り替わる”という、乗っとるような表現の部分に対しては訂正を加えられた。
「乗っとるのとは違うと思う、野生解放したらユキちゃんが表に出てくるんじゃなくてユキちゃんが表に出るには野生解放しなくてはならないのよ」
「なるほど、それはつまりシラユキ自身も野生解放自体は可能だと?」
「そうよ、そもそも肉体はシラユキちゃんのものだし、現に最初の野生解放はシラユキちゃんの意思によるものだった…
そしてそうだとすれば、ユキちゃんが野生解放時の体を乗っ取るのではなく、シラユキちゃんの代わりに野生解放を制御している… と私は思うの」
つまり母さんが娘を手助けをしている?
話しによると母さんが最初に出たのはみんながセルリアンに挟まれた時、みんなを守るため娘の体を借りたんだとすれば辻褄は合う、当たり前だがユキなら何もできなかっただろう。
その後は父さんの浮気防止しかしていないので私利私欲に溢れている気がするが、つまりまた暴れないように娘の代わりに野生を飼い慣らしているのか?
「シラユキちゃんはまだ4才よ?どちらかと言えば人間の血が濃いあの子はこれまで普通の女の子として生活していた、でも強い怒りで自分の中の獣が出てきてしまった
小さな女の子にライオンがどういう生き物か詳しく話したってよくわからないだろうし、もしシラユキちゃんが今後怒る度にフレンズ化して暴れてしまったら大変よ?ユキちゃんはしばしば現れてはサンドスターを消費して暴れないようにしてるのかもしれない」
「う~ん… あるいは、力の使い方を体に覚え込ませている… というところでしょうか?」
「確かに、ユキは優しいからそれくらいやっていてもおかしくはないが… それをした後はどうするんだい?シラユキがちゃんと力を使えるようになったとして、そしたらユキは?出てくのか?そんな簡単に出たり入ったりできないだろう?」
真意のほどは本人に聞かないとわからない。
つまり最終的には先日ミライさんが言ったように二人の“分離”が必要になるのではと言うことだ。
もしかすると役目を終えると今度こそ母さんは消えてしまうのかもしれない、だって肉体は俺を蘇生したときに離れてしまったんだから。
まぁこれは飽くまで仮説、なぜ出てくるのか?これは本人に聞いてみないことには理由はわからない。
でも母さんにだって今何が起きてるのかわからないはずだ。
…
というわけで、お昼寝中の二人だったがユキだけ連れてカコハウスのリビングにきた
「じゃあ僕はクロを見てますね?起きた時一人だと不安になっちゃうかもしれないので」
「うん、ありがとう」
クロのもとには妻に加えサーバルちゃんにも残ってもらった、二人でおしゃべりでもしててもらおう。
リビングにいるのは俺と父さん、それからカコ先生とミライさん… そしてユキ。
ツチノコちゃんはスナネコちゃんとその辺を散歩してくると言っていた、久しく会えたのだから何だかんだ積もる話もあるのだろう。
さてと…。
「じゃあ、いくよ?」
俺は気持ち良さそうに眠るユキに向かい語りかけた。
「母さん?みんなが話したいって、聞こえたら出てきて?」
「…Zzz 」
くっそ熟睡してる娘… 可愛い~!天使じゃーん!
なんてデレデレしてると急にユキの目がパッと開いた。
「あ、起きた?」
と言うと間もなくサンドスターの光を放ち耳と尻尾が発現。
出てきた、母さんだ。
「自分の息子に抱っこされるのもなかなかいいですねー?」ニコニコ
「おはよう母さん?ほら、カコ先生だよ?覚えてる?」
「もちろん覚えてますよー?カコさーん!会いたかったですー!」
「おはようユキちゃん?私も会いたかったわ?」
小さな足でテトテトとカコ先生に駆け寄る小さな母、先生はそれを笑顔で受け入れて優しく抱擁を交わす。
仲が良い、そんな二人が初めて出会った時にこんなことがあったらしい。
…
ある日のジャパリパークの研究所はとても忙しかった、それ故に普段は外でフレンズと触れ合い生体調査など行う父も研究所に缶詰状態であった。
そんな日々が数日続いた頃、寂しくなった母はミライさんにこんなことをぼやいた。
「ユキちゃんどうしたんです?元気がありませんねぇ?」
「ミライさぁん?最近ナリユキさんが会いににきてくれないんですー… 嫌われてしまったのでしょうか?」
勿論ミライさんは「そんなことはありませんよ?」と励ました。
当然のことそんな事実はない、本当に忙しくて父も参ってたそうだ。
だが母は嫌われてもないのになぜ来ないのか?と余計に不安になった。
「もしかして怪我をしたとか風邪をひいたとか!?」
「私が先日会ったときは“仕事が片付かなぁ~い!”って参ってましたよ?彼は出世したので仕事が増えてしまったんですね、特に今は人手不足ですから…」
「え~!?ミライさんは会えるんですか!?なんでですか~!?」
「研究所に用があったのでせっかくだから顔を見に行ったんですよ?忙しそうだからすぐに帰りましたけどね?そんなに心配なら伝えておけばよかったですねぇ、ごめんなさい…」
「研究所… あの建物ですかぁ…」
研究所には基本フレンズは入らない、入れないわけではないが薬品の匂いが苦手らしく滅多なことでは建物に近寄ろうともしない。
だがこの日の母は気合いの入りようが尋常じゃなく、ならばたまにはこちらから会いに行かなくてはと思い立ち、父の為に鼻をつまんで研究所に向かった。
「ナリユキさんに会いに来ました!」
研究所の前に来ると守衛の人が大層驚いた顔で母を見ていたそうだ。
コソコソ話しているので聞き耳をたてると、どーも父はしばらく外に出ていないらしい
なんでもその頃父は主任になったそうで、それで前主任の残した仕事を片付けるのにバタバタしていた「アイツほんと許さん」と父は今も根に持っている。
前任者はだらしない人だったんだな。
それから守衛さんは… 「今研究所はとても忙しくて手が離せないので、ナリユキ主任本人に来たことは伝えておくので今日はお引き取り願います」という感じでとーっても丁寧に伝えると、母は仕方なくすぐに折れた。
が、それはその時だけでまったく諦めてなかったのだ。
母はその白く目立つ姿で研究所内部に潜入した、なぜか上手いこと入ることができた。
「ナリユキさんはどこでしょーか?ここは変な匂いがキツくてナリユキさんの匂いがわかりません、はわわ~参りましたー」鼻ツマミ~
そして人にみつからないようにコソコソ移動しているところでカコ先生、当時は副所長に見つかってしまったのである。
「あら?フレンズさん?こんなところにくるなんて珍しい… 健康診断でもあったかしら?」
「み、見付かってしまいましたぁ~!?はわわ~!どうか見逃してください!私はナリユキさんに会いに来ただけなんです!」
「いや、別に追い出したりしないわ?安心して… ってナリユキくん?あぁ、あなたはもしかしてホワイトライオンのユキちゃん?」
これが二人の初対面であった。
カコ先生はこの時「今呼び出してあげる」と、母の片想いに協力的だった。
仲良くなった二人は来るまでおやつでも食べて待ちましょうとガールズトークに洒落混んだ。←先生は忙しくないのか?
それから二人はわりと仲良し、母は「ご飯をくれる人に悪人はいないのよ?」とキッパリ言っていたが、その考えだとすぐ騙されてしまう… しっかり見張っててくれ父さん。
…
「間違いなくユキちゃんね?驚いたわ、また会えるなんて」
「カコさんは船にいなかったから、さよならも言えませんでした…」
「わけありなの、ユキちゃんと同じね?」
ひとしきり話した後、母タイムは限られているので本題に入ることとなった
「私とシラユキちゃんの分離…」
「まだ何も決まっていないけど、もしかしたらユキちゃんを復活させてあげられるかも、そうすればまたナリユキくんに抱き締めてもらえるはずよ?」
「よしてくれ先輩、息子の前で…」
「はわわ~///本当ですかー!?だけど…」
父の照れ顔も新鮮だが… 意外にも母はそう言うと続けて答えた。
「しばらくは… シラユキちゃんの中にいさせてもらえませんか?」
「え?」と皆母の意外な言葉に驚きを隠せなかった。
なぜ…?まだ決まったわけではないが分離できれば母は復活できるんだ、娘の体を借りる必要などない。
「この子が暴れて友達に怪我をさせないように、私が力の使い方を教えてあげたいんです… ユウキには何もしてあげられなくて辛い目にあわせてしまったから」
カコ先生… 当たりだ、さすがと言わざるを得ない。
母さんは俺が“あの子”を怪我させた時のことを言ってるのか?あれは別に母が悪いわけではない、俺が危険だっただけだ。
でも母は言った…。
そういうことを教えてあげるために親が見てなくてはならないと、危ないことは危ない、ダメなことはダメだと…。
確かに娘が誰かに怯えた目を向けられて避けられるのは親としても辛い、でもいつもベッタリついてやれるわけでもない。
「この子がもう少し大きくなったら直接話しかけて教えてあげたいんです、危なくなったら代わってあげられるし、それでもしちゃんと自分の物にできたら… もう悔いはありません、そうしたら私は潔く消えたっていいんです…」
消えたっていい、そんな言葉に俺たちは胸が締め付けられた。
消えるだなんて… せっかく会えたのに。
「ユキ、なんでそんなこと言うんだ?」
「本当はナリユキさんといたいです、立派になった息子もその奥さんもいて、可愛い孫が二人もいる… ミライさんともカコさんとも離れたくないです…」
「でも…」と母が続けて言った言葉には思わず父も表情が暗くなっていった。
「今更生き返ってナリユキさんやみんなが先に逝ってしまうのを見るのが… 私には辛くって…」
父も年をとった…。
もう50過ぎだ、ミライさんもそうだ…。
カコさんだけは例外かもしれないが、俺だってもう世間一般で言う成人男性だ。
母さんがどんな状態で復活するかは定かではないのだけど、フレンズの“死”というものが曖昧なために母さんは先に最愛の人を失い、下手したら俺の方が先に逝くだろう。
「ごめんなさい… 私やっぱりワガママですね…?」
「いや、すまないユキ… 俺がもっと早くなんとかできていたら、君がそんなに悩むこともなかったんだが」
「ナリユキさんが悪いわけじゃ…」
違う、二人は愛し合っていただけ。
俺のせいではないか?
事の始まりは俺の甦生なんだから…。
…
暗い話になってしまったが… 分離可能かどうかはまだ定かではない、理論上は入れたんだから出ることも可能だろうとざっくりしたものだ。
もしかしたら時間が経てばそのままサンドスターとしてユキの体に溶けてしまうかもしれない、あるいはまた眠ってしまい次の世代に覚醒するのか。
ただカコ先生が言うにはこうだ。
「シラユキちゃんからユキちゃんの部分だけを抽出して、そのサンドスターをユキちゃんの元の体の一部、牙や体毛、なんでもいいわ?ユキちゃんの遺伝情報があるものに当てれば、元の体が再構築されないかしら?つまり再フレンズ化… 記憶を有した代替わりというとこかしら?」
これはカコ先生の仮説、飽くまで可能性の話だが…。
この人が言うと猛烈に説得力があってなんとかなるんだってそんな気になってしまう。
「ユキ、焦らなくていいんだ?まだ時間はある、俺だって簡単には死にゃしない!もし君も生き返ることができるなら、また一緒に暮らそう?俺たちは夫婦だろ?」
「ナリユキさん、嬉しい…」
父も母は、何も離れたい訳ではない。
本当は一緒にいたいんだ、夫婦だもの。
でも父さん、その時はどこに住むつもりだろうか?俺としては正直“向こう”でなければどこでもいい、うちを増築しまくって一緒に暮らしたっていいんだ。
そう、向こうでなければ。
「じゃあ、それまでに私の方で分離と肉体の再生を調べておくわね?」
「帰っても忙しくなりますねナリユキくん!」
「そうだね、世話になるよ先輩?ミライさん?あとそれからユウキ、しばらく母さんを頼むぞ?子供たちと嫁さんもしっかり守ってやれ?」
「言われなくたってそのつもりだよ」
とにかく子供たちがスクスク育つのが最優先として… それからは母さんの復活を目的として話を進める。
何年越しになるのやら… 一大プロジェクトだな。
「はわわ… 時間みたいです、みんなおやすみなさい?」
「おやすみ母さん?娘を頼むね?」
「ママに任せなさい!あの… あとナリユキさん?」
「どうした?」
ウトウトとして目をトロンとさせながらも、母は父に向かい幼女の姿でありながら乙女のような表情で言った。
「大好きです…」
父も小さく笑い答えた。
「俺もだよ、おやすみユキ?」
父がそう返すと母は安心したように目を閉じた、それと同時に耳と尻尾は消えて娘シラユキに戻った。
連れてきた時同様に可愛らしい寝顔でスヤスヤと眠っている、かばんちゃんも心配してるかもしれないのですぐにクロのとこにつれてってやろう。
…
「ただいま、クロは?」
「おかえりなさい?ふふ、見てください?」
言われた通り目を向けるとサーバルちゃんに添い寝されてぐっすりと眠っていた、この幸せ者め。
「一度起きたんですけどサーバルちゃんがついててくれたのですぐ寝ちゃいました、そしたらサーバルちゃんも一緒に… あの、お義母さんはどうでした?」
「先生の理論上では分離可能だって、でも母さんはユキがちゃんと野生をコントロールできるまでは自分が助けてあげたいって」
「そうですか、ってことは二人が大きくなる頃には?」
「うん、家族が勢揃いするかもね?」
毎年二人の誕生日には家族写真を撮るのだけど、いつか母さんもそこに入るのかと思うと… まぁ楽しみだ。
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