第19話 ほんとはだいすき
「シンザキさん?息子から言いたいことがあるって」
「おじさんごめんなさい…」
「あぁ、いいんですよぉ?気にしてぇないですからねぇ?」
とスネを蹴られたシンザキさんだったが快く謝罪を受け入れた。
と言ってもこの人は元からそんなに気にも止めていないのだが、こういうのをちゃんとしておかないとまともに謝ることもできない大人になってしまう。
ダメなものはダメだとしっかり教える。
母と話したばかりだ。
「僕よりもサーバルぅ、かなり落ち込んでるみたいなのでぇ?」
「だってさクロ?正直に言えるか?」
「うん…」
サーバルちゃんは部屋の隅っこのほうでかばんちゃんに慰めてもらっているようだ。
これまではクロが照れて少し距離をとられているだけだった、つまりは反応が天の邪鬼なだけだったが。
今回は違う…。
ハッキリ面と向かい「嫌い」と言われたのだ、彼女の性格上ハッキリ言われない限りはそこまで堪えないが、完全に意思表示されると深いとこまで刺さってしまうんだろう。
それが例え年端のいかない子供の発言であってもだ。
彼女は相手が子供だろうが目線を常に合わせて接する、彼女にとっては子供も大人も一個人であり平等なのだ。
がそれ故にダメージも大きかったようだ。
「サーバルちゃん元気だして?子供の言うことだから?」
「うん…」ズーン
あんな顔久しぶりに見たなぁ。
クロ、女を悲しませ追い詰めてしまうとは罪な男なのです。←ブーメラン
「見ろよ、サーバルちゃんすごい落ち込んでるぞクロ?すぐに大好きに言い直した方がいい、できるだろ?」
「ん~…///」ブンブン
なぜ首を振る?さっき言えるって言ったじゃないか?本当は大好きなんだろ?
あぁそうか、クロくんおませさんだねぇ?
「なんだ照れてるのか?」
「…///」コクリ
可愛いやつめ、この場合なにが恥ずかしいのかな?みんなの前で言うのが恥ずかしいのか本人に面と向かって言うのが恥ずかしいのか… 両方か?
でも「本当は大好き」というのを俺に“こっそり”教えたんだから、みんなの前では言いたくないのは当たり前だよなぁ。
いっそズルしてみるか?
事があんまり重たくならないように、サーバルちゃんが好きすぎてヤキモチ妬いてるだけなんだよ話を聞いてあげてくれと本人に敢えて伝えてみるか?や、しかしそれはどうなんだ?
と少し離れたところで考えているとかばんちゃんがこちらに気付いて近寄ってきた。
「シロさんどうですか?クロわかってくれました?」
「ちゃんとシンザキさんに謝ったよ、なぁ?」
「うん、ママごめんなさい…」
「いいよ~?クロは本当はいい子なんだから、もうイジワルしたらだめだよ?」ナデナデ
これを俺が言うのも難だけども、妻は結局子供に甘いのだ、そりゃなにも怒りたくて怒ってる親なんていないだろう。
「サーバルちゃん結構落ち込んでるね?」
「面と向かってハッキリ言われたから、相手が子供でも辛いものは辛いみたいです… サーバルちゃんは子供達と特に仲良しなので」
抱き上げていたクロを下ろして俺は小声で妻に伝える
「クロ、本当は仲直りしたいんだけどみんなの前で本心を伝えるのが恥ずかしいみたいなんだよ…」コソコソ
「じゃあ… 二人っきりにしてみますか?」コソコソ
「それならそれでなぁ~… また天の邪鬼なこと言いそうでさぁ?」コソコソ
「じゃあ、僕たちも遠くから見てるのはどうでしょう?見えるところにいれば安心するかもしれませんよ?」コソコソ
なるほど… 聞いてないから行っておいで~って感じかな?さすがですようちの嫁さんは、ほんとすこ。
「じゃあクロ~?パパ達ここで見ててあげるからこっそり伝えておいで?コショコショって」
「そしたらみんなに聞こえない?」
「聞こえないよ、でもその代わり嘘つかないでちゃ~んと伝えるんだぞ?できるか?」
「うん…」
「ママも見てるから、頑張ってねクロ?大丈夫だよ?サーバルちゃんクロのことちゃんと好きだから」
顔が真っ赤じゃないか、あれが4才のする顔なのか…?
チラチラこっちを見ながらサーバルちゃんのもとに歩み寄ったクロはとうとう隅で丸くなるサーバルちゃんの前に立った。
それに気付いた彼女もフッと顔を上げてクロを見た… えらく不安そうな表情で見つめ合っている。
大丈夫かな?まったく、先日泣きながら「大きくなったらぼくが守ってあげる」キラッ☆とか言ってたくせに忙しい子達だよ本当に。
「あ、クロちゃん… どうしたの?」ドンヨリ
「あ、あのね?///」
遠目で見てると実に可愛らしい、あんなんシロサイさんだったら鼻血だして昇天してるわ絶対。
クロは背伸びしてサーバルちゃんの… やはり猫耳の方にコソっと伝えたようだ。
この距離だと俺のこの耳でも相当集中しないと聞こえないくらい小さな声で確かに伝えていた。
「本当は大好きだよ…?///」コソッ
それを聞いたとき彼女の耳がピョンと跳ね、目に光が戻る。
「うみゃっ!?ほ、ほんとにー!?」
と驚きのあまりがっしりと息子の肩を抱くサーバルちゃん、目をカッと見開いてクロに迫り寄る。
「ほんと…///」ボソッ
「よかったー!わたしクロちゃんに嫌われたと思ってすっごく悲しかったよ~!?なんだかよくわからないけどごめんね!」
「ごめんなさい…」
「いいよいいよ!わたしもクロちゃん大好きだよ!ほらおいで!ぎゅ~ってしようよ!」
「や~!」逃走
「え、えぇ~!?なんでなんで!?こっちおいでよ~!クロちゃ~ん!大好きだよー!」
年頃かな?照れてこっちに逃げてきたクロは俺の後ろに隠れて赤面したままサーバルちゃんを見ている。
上機嫌なのかにっこにこのサーバルちゃんは「でておいで~♪」とクロに合わせて左右に揺れる。
楽しそうで何よりだ。
立ち直りの早さが尋常ではない、やはりサーバル姉さんはこうでないと。
そんなとき妻がハッと思いだしたように言った。
「あ、そうだ… 子供達そろそろお風呂に入れてあげないと」
「そんな時間かぁ… 俺が入れようか?」
そういえば宴会が始まった為に時間が押してしまったな、子供達(とサーバルちゃん)はお昼寝してたし夜はなかなか眠らないかもしれない、これからハシャギだす前にちゃっちゃっと済ませてしまおう。
「あ!それならわたしがやるよ!」
「サーバルちゃんが入れてくれるの?ありがとう!じゃあクロ~?今日はサーバルちゃんとお風呂入りましょうねぇ~?」
「やぁだ!///」
「よーっし!じゃあクロちゃん!ユキちゃんと三人でじゃぶじゃぶしようね~?」ガシッ
「脱がさないでぇー!」←逃走
「待ってよぉ~?洗いっこしようよ!」
恥ずかしいかぁ… 恥ずかしいよなぁ?
でもなぁ息子よ?それができるのは今だけなんだぞ、いいから入っとけ入っとけ!許されるうちに初恋のお姉ちゃんを堪能しとけ!おっぱい触っとけ!←けだもの
「シロさん?」ジト
「なんだい妻よ?」
「目がエッチです、やらしいこと考えてるでしょ?」
いや、俺のことじゃなくてねかばんちゃん?クロの性長の… いや成長の為にこういうことも必要なのかな?って。
いや待てよ?子供達は先にお風呂に入るってことは!?閃いた!
「あぁ考えてるとも、子供達は任せたし
それじゃあ、お風呂いっしょに…入っても…いいかなぁ~~~~っ?かばんちゃん!?パパと久しぶりに…」抱きぃ
「えぇ!?シロさんダメですよぉ…///カコさんのおうちでそんな… ミライさん達もいるんですよ?」
「こんなチャンスは滅多に無い、また一緒にお風呂入ろう?俺達は夫婦だろう?」お尻サワサワ
「んもぉ!我慢してください!メッ!ですよ?」←だが満更でもない
固いこと言いなさんなぁ~うぇッヘヘヘヘ!とイチャイチャやっていると後ろから父の声が…。
「あ~…オッホン!ユウキぃ~?ツマミが切れたぞ~!」←全部見てた父親
なぁにがツマミだこの酔っぱらいども、俺は今つまみ食いに忙しいんだよ。
「あ、ほらシロさん!今はお料理しましょう?」
「これから君を料理しようと言うのに…」
「後で!後で好きにしていいですからぁ///」
ほぅ?あい分かった… ならばいいだろう、お風呂でも入った後でゆっくり“しよう”じゃないか?
「ユウキくんは毎年見せつけてくれますねぇ~?」
「まったく素面のクセにどっからあのテンションが出てくるんだ…」
「片腕の時からあんな感じよね…」
「ツチノコはあれを見てモヤモヤしないのですかぁ~?」
「いつものことだからな、正直なんとも思わん」
…
サーバルちゃんは華麗にクロを捕まえたあとユキを連れて仲良くお風呂に入った、ドア越しでもバシャバシャと楽しそうな音が聞こえた。
キャーキャー!バシャバシャ!ゴシゴシ
「うみゃっ!?くすぐったいよ二人とも~!お返ししちゃうからねー?」ゴシゴシ
「うぁーん!///」
「キャアハハハ!」
「わ~い!みんなで泡だらけになっちゃったね!」
「サーバルちゃんのおっぱいママより大きいね!」
「し~!ユキちゃん!それはかばんちゃんに言ったらダメだよ?シロちゃんが“おっぱいせーじん?”だから、とってもとっても気にしてるんだ~!あれ?ってことはぁ~?クロちゃんもおっぱいせーじんってこと?」
「ぼくちがうもん!」
「ユキもおっぱいせーじんになるー!」
「よーっし!みんなおっぱいせーじんだぁ~!」ムギュー
「ん~!」
「やわらかーい!」
いろいろ心外な発言があった気がするが、とにかくこの経験はクロにとって大事な思い出となること請け合い、果たして大きくなったとき4才の頃の出来事を覚えているかは疑問ではあるが、きっと将来似たような出来事が起きた時ふと思い出すに違いない。
っていうか母さんも聞いてるから変なこと教えないでお願い!
そしてドアの側にいるのはこの男達。
「いいですねぇ?僕もサーバルと洗いっこしたいですねぇ」
「まだ早いやんか?まぁ頑張るとええわ」
「ナカヤマさんはぁどう思う?」
「ジャガーさんとブラックジャガーさんに挟まれたいやんか」
「いいですねぇ…」
「ええやろ?」
お前らほどほどにしとかんとマジで頭蓋骨ごとガブリといくぞ?酒の席なら何でも許されると思うなよ?
ところで妻はどこかな?料理を持っていったきり帰ってこないが…
と気にしているとツチノコちゃんがやや慌てた感じにキッチンまでやってきた。
「おいシロ!頼む!何とかしろ!」
「どうかした?」
「スナネコがかばんに酒を飲ませてなぁ?そしたらなんか… とにかく来てくれ!」
彼女酒なんか飲めたっけか?飲んでるところなんて見たことないけど…。
まさか!?隠れた露出癖みたいなものに覚醒してあられもない姿になったとか!?
許せん!妻の裸は俺の物だ!
みんなの集まるリビングに着くとフニャフニャになった妻がこんなことを話していた
「かばんさん、大丈夫ですか?」
「その話しは2度目よ?」
「えへへぇ… それでぇ~シロさん僕にだけこっそり名前を教えてくれたんですよぉ!内緒だよ?って!知りたいですかぁ?教えてあげませーん!二人だけの秘密なんですぅ~!」←二周目
「知ってますよぉ~?普通にみんな呼んでますから~?」←二周目
「え… なんで?僕だけが知ってる秘密の名前のハズなのに…」←二周目
「落ち着けかばんちゃん、そもそもユウキと名付けたのは俺だから」←二周目
「わたしもナリユキくんから聞いてますし」←二週目
「ここに初めて来たとき普通に名乗ってたわよね?」←二周目
「僕だけのユウキさんが…」ウルウル
「「「また始まった…」」」
なるほどそんなに俺のこと好きなのかぁ~?お茶目で可愛い嫁だ…。
「まためんどくさいことに!おいシロ!早くなんとか… お前なにニヤニヤしてんだよ!なんとかしろ!」
もう少し可愛い彼女を眺めていたいが怒られてしまってはやるしかない。
かばんちゃ~ん?今介抱してあげますからねぇ~ん♪
「かばんちゃん、どうして泣いてるの?旦那さんに教えてごらぁん?」ネットリ
と俺は隣に座ると優しく彼女の髪を撫でた、彼女は泣いて真っ赤にした目を向けてこちらを見ると、俺の顔をペタペタ触りながら言った。
「ユゥキさぁん!僕のこと一人にしないでって言ったじゃないですかぁ~!」
「え?」
ずいぶん本気で悲しむんだな… ずっと側にいたはずなんだけど、なにか昔の悲しいことでも思い出したのかな?
「ごめんね?俺はここにるよ?ちゃんと側にいるから?」
「お願い… 抱きしめて?グスン」
「え~っと…///」
みんなの前で少し照れるがまぁやぶさかではない、みんなも酒が入って「やれやれ!」って感じだ。
それにしても彼女のこの目、俺が初めてジャパリマンのお供えに行くと伝えた時と似ている、不安で仕方ないって目だ。
ならばやることはひとつ。
「ほら、おいで?」
「ユウキさぁん!うぇ~ん!」ギュウ
泣き上戸というやつか、震えてるじゃないか?いったいどれくらい飲ませたんだよこの短時間に…。
「なんか珍しいな?かばんがこんな風になるなんて」
「昔のことを思い出したんだねきっと、よしよし… 大丈夫、もう決して離れたりしないからね?」グヘヘお尻サワサワ
「ふぇ…グスン…」
「そ、そうか… しかし一杯飲んだだけでこれだぞ?ミライは平気なのにさすがに弱すぎやしないか?」
泥酔してるじゃないか!弱すぎるだろ!弱いのは俺もだけど!
なんでもミライさんもお酒はあまり得意ではないが、立場上お酒の席にもよく顔を出すので少しは慣れたそうだ。
「昔はミライもこんな感じよね?あのフレンズさんと仲良くなってうれしーとか、前知り合ったあの子がセルリアンに食べられて辛いとか… 泣いたり笑ったり忙しそうだったわね?」
「そうだなぁ?急に歌い始めたりしてたよなミライさん」
そうだね父さん、それ撮ってたよね?あれたまに再生されるんだからね…。
ところど肝心のミライさんは。
「ウフフ… スナネコさぁん?お隣、座ってもいいですかぁ~?スキンシップをとりましょうねぇ?」ネットリ
「ボクにいけないことをするのですかぁ?ツチノコから先にやってください」
「おいぃ!?やぁめろっ!バカなこと言うな!?」
酔ってるじゃん、今もまったく変わってないじゃん、逆にフレンズ欠乏症で尚更ヤバイことになってる。
「あぁツチノコさぁん?元動物の姿のあなたにも是非会ってみたいです、あなたの仲間はどこにいるんですかぁ?体で教えてください?」
「あぁぁぁぁ!?近づくな!?おいシロ!こいつを縛り上げろ!」
「今手が離せなくって」
「ユウキさぁん、チューしましょう?」
「あぁ、いいよ?」
「他所でやれ!?」
酔ったかばんちゃん… いいなぁ…。
今度キョウシュウでも飲ませてみるか?
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