第11話 たんじょうび

「カバン シロ 子供ノ誕生日マデ アト3日ダヨ」


 え!?もうそんな時期!?





 歳をとると時間が経つのが早いですね?


 パークでは暦がわからない、故に父さん達が来たときに年月日を教えてもらうのだが子供の誕生日だけは違う。


 二人が産まれたときミライさんがポンと思い付いたように言ったのだ。


「かばんさん!ラッキーに記念すべき今日という日を覚えておいてもらいましょう!」


 ラッキーに日付を登録してもらい近くなったら教えてもらうという、そういう方法をとることになったのだ。


「あ、誕生日ですもんね!ラッキーさん、お願いできますか?」


「任セテ 一年経ツ毎ニ 残リ3日カラ声ヲ掛ケルヨウニスルネ」


「ありがとうございます!」


 この際俺の誕生日なんてどうだっていいんだが子供の誕生日はしっかり覚えていないといけない、何歳か分からないなんて親としてどうなんだって感じだ。



 それからプレゼントを用意しないとな。



 二人は4才になる、今まではケーキとお菓子で誤魔化してきたがさすがに物欲というものがあるだろう。


 3才になってから子供達は妻の指導のもと文字を習い始めた、それによってユキは絵本を自分から読むようになったし、クロはよく図鑑を開くようになった。


 クロはやはり頭がいいようで、葉っぱの形とか花の色とかを見て「これはこれ!それはこれ!」とよく聞かせてくれる。

 俺も料理の材料を探すのに植物には少し心得があるし、今度山菜採りにでも連れていこうかな? 

 それとも虫眼鏡でもあげたら喜ぶだろうか?でもクロは虫が怖いようだ、トンボが顔に特攻かけてきてから“虫は容赦ない”みたいな恐怖を感じているのかもしれない、カブトムシは好きらしいが。

 ちなみにユキはトンボを捕まえてシーチキンしようとするから少し叱らせてもらった。


 クロはいいとして、そのユキは… 何がいいんだろうなぁ?


 女の子の欲しいもの?分からないな、ぬいぐるみとか?そういうのはナリユキじーじが嬉しそうに持ってくるし、というかパークで一般的に言う女の子の欲しいものが該当するかはハッキリしないな、お転婆だし。


 なんか悔しいが、今年もプレゼントはじーじとばーばに任せるか… なんか毎年この悩みを抱えている気がするが仕方のないことでもある。





 準備として。

 飾り付けは夜のうちに、お料理チームは朝の早くからごちそうの数々を作ることになっている。


「ごめんね~二人もとも急に呼び戻して?」


「二人の誕生日と聞いてすっ飛んで来たのだ!アライさんに任せるのだ!」


「ドンとこいさー?」


 アライさん、フェネックちゃんだ、頼もしくって先生もう涙が…! というのはグッと我慢しよう、めでたい日だからね?


 今日分け合うのは困難ではなく楽しみだ、楽しんでいこうじゃないか?


 ところで今日の俺は子供達より早起きでね、子供達はいつも自分達が起こしているはずの父親がベッドにいないと気付くとこうなった。


「「ぱぁぱぁ~!!!」」号泣


「ふぇ!?どーしたの!?」←寝起きのママ


「パパどこぉ!?」

「パパいないぃ!?」


「大丈夫だよ?おいで?パパは今日いつもより早起きしたんだよ?」


「「どーして?」」


「それはねぇ~?さて今日はなんの日でしょうか~?」ニコニコ


 結局「わかんない!わかんない!」と騒ぐので妻があっさりと教えてあげると、さっきまで泣いていたはずなのにこれもまたあっさりとハイテンションに戻った、それにしても子供というのは寝起きなのに元気だねぇ。


 現在、二人はいつも通りサーバルちゃんが相手を勤めている。


 パパも構ってやりたいが今大量に料理を用意しなくてはならないのでダメなんだ、代わりと言っては難だがおいしい物をたくさん作ろうと思う。


「クロちゃんユキちゃん!今日でいくつになったのかわかる?」


「「4才!」」


「すっごーい!おめでとう二人とも!」


「サーバルちゃんはー?」

「サーバルちゃんいくつなの?」


「え~っとぉ… わかんないや!」


 そんな会話が聞こえてきた。

 

 よく考えたら妻やサーバルちゃんだけではない、みんな何歳なんだろうか?


 見た目よりずっと歳上の子も多いはずだ。


 フレンズの成長、老化に関しては調べたことがなかったが、代替わりというのがあるということは寿命はあるんだろう

 見た目はそのままにいつかぱったりと倒れてしまうんだろうか?


 でもカコ先生はサンドスターで究極生命体になってるしフレンズは人間よりずっと長生きなんじゃ?サンドスターで細胞が活性化し続けるってこと?でもそれならなんで父さん達の世代のフレンズはいないんだろう?それほどセルリアン大噴火事件というのは最悪な異変だったということか?フレンズを根絶やしにしてしまうくらい最悪な…。


 やめた… 子供達の誕生日に何を殺伐としたことを考えているんだ俺は。


「シロさ~ん?また考え事しながら料理してるのかい?気を付けた方がいいよ~?」


「え?あぁごめんごめん… 子供達4才だよ、時が経つのは早いなぁって思ってね」


「本当なのだ!どーりでアライさんも包丁が上手くなったと思ったのだ!」トントントントン


 お、俺の十八番を!?さすがだな、だがこれはできまい?


「やるねアライさん、では次の奥義を見せてやろう」


「つ、次の奥義!?お願いしますなのだ!」


「ラッキー!アゲアゲのやつで頼む!」


「任セテ 音楽ヲ再生スルヨ」


 俺は両手にフライパンをもち音楽に身を任せ交互に炒める、そういう技術を弟子に見せつけた。


「みんな輪~にぃなぁってぇさわごぉう♪ジャパリパーク!君とジャパリパーク!♪」シャンシャンシャン


「うぇ~!?スゴいのだ!?倍の早さで炒飯を炒めることができるのだ!?」


「でもそれって~?歌って踊る必要あるのー?」


 もちろんある、リズムに乗ることで… えーっと乗ることで… たーのしー!←語彙力低下


「見ているのだフェネック!アライさんもやってみるのだ!」


「やめた方がいいよー?」


「いくのだ!… ちょっとお腹ぁ~が空いたらぁ~あ♪ジャパリマ…!アァッツ!?熱いのだ!?」シャンシャンシュア~!


 フェネックちゃんは次に「アライさんまたやってしまったねぇ?」と言う!


「アライさぁんまたやってしまったねぇ?」ハッ!?


「ごめんなさいなのだ…」

「よしよ~し」


 とまぁこんな風に沢山の料理を作るのも誕生日パーティーを開くからだ。


 これに関しては身内のことなので特に周りに声を掛けるとかはしないのだが、いつのまにか話が広まり結構いろんなちほーから二人の為にフレンズが集まってくれる。


 ありがたい限りだ、子供たちもみんなに祝ってもらえて嬉しそうだし、料理も作りがいがあるというものだ。


 それにどこをほっつき歩いているのかわからなくて滅多に会えない“あの子”もこの日だけはキッチリ来てくれる… と思う。


 あの子は変わったな、本質的にはそのままだがやたら行動力が増した。

 飽き性の彼女が何に夢中になるでもなくナワバリを離れてパーク中を旅して回っている、図書館にもたまぁ~にくるが、しばらく顔を見てない、元気にしてるだろうか?





「シロさん、ミライさんたちそろそろ上陸みたいなので迎えに行ってきますね?」


「うん、気を付けてね?子供達はどうする?」


「ユキもいくー!」

「ぼくお留守番する」


 意見が別れたな?珍しい、大抵二人で行動するんだが。


「クロ、じーじに会いに行かなくていいのか?サーバルちゃんも行くんだよ?」


「パパのお手伝いしたい」


 まぁ…!?なぁーんて可愛らしいんでしょ!?おいで!?


 「そっか~」と俺はつい顔を綻ばせながら息子を抱き上げた。


 単なる善意かな?なんて思うのは親バカなんだろうが、それでもいいじゃないか。


「でもなぁクロ、今日はクロとユキが主役だからお仕事しなくていいんだよ?」


「いいの!お手伝いするの!」


 いや待てよ?これは理由があってムキになった時のやつな気がするな、なんだろ?


「クロちゃん?一緒に来ないの?ミライさんもシンザキちゃんもナカヤマちゃんもくるよ?」


「行かない、パパといる…」


「そっかぁ… じゃあまた後で遊ぼうね?」


「うん…」


 サーバルちゃんの少し寂しそうな顔は珍しいがそれ以上にクロユキくん、君はなにかあったのかな?


「クロ、サーバルちゃん行っちゃうよ?本当にいいのか?」


「行かない…」


 ん? ん~?

 3才… いや4才の子供がずいぶん複雑そうな表情をするじゃないか、これは何に対するもの?誰に対するものなんだ?


「ははーん… なるほどねぇ?クロくんはおませさんだねぇ?」


「フェ姉さん、なにか知ってるのかい?」


「パパさんは鈍いねぇ?大好きなお姉ちゃんがたまに来るおじさんと仲良くするからヤキモチやいてるんだよねぇ?クロくんはかわいいねぇ?」ニヤニヤ


 えぇ~!?つまりぃ!クロユキくん君ってサーバルちゃんにホの字なのかいぃ~!?←裏声


「その通りですよシロ」

「お前は子供をもっとよく観察するのです」


 割り込んできた長によるとここ数日のことで急になったらしい、そういえばサーバルちゃんがかばんちゃんに言っていた気がする。


「最近クロちゃん、わたしが抱っこしようとしたら逃げちゃうんだよ~… 嫌われちゃったのかなぁ?」


 ははーん… なるほどねぇ?クロくんはおませさんだねぇ?←今理解した


 あれか、初恋は幼稚園の先生みたいな感じかな?クロは赤ちゃんの頃からサーバルちゃん(の耳)が好きでしょっちゅう抱っこされてたからなぁ。


 シンザキさんにヤキモチってことか、シンザキさんはサーバルちゃん好きすぎて久しぶりに会うときは眼鏡外してカッコつけるからな、その概念がフレンズに適用されるかは別として。


 でも初めて向けられた男性からのあからさまな好意にサーバルちゃんも満更でもなさそうな感じがしないでもない、やっぱりサーバルちゃんも女の子ってハッキリわかんだね?


 そうかだからクロはシンザキさんに抱っこされると泣いてたのかぁ…。


 オスの本能によるささやかな抵抗だったのかあれは、細胞レベルで嫌われてたら仕方ないな、ごめんシンザキさん。


 ちなみにユキは1才半くらいから眼鏡を面白がって笑うようになったので大丈夫だ。


「そっかぁクロ~?サーバルちゃん好きなのかぁ?」ニヤニヤ


「違うもん!///」プイ


「お前はデリカシーがないのですシロ」

「幼子と言えどそういうことにはもっと気を使うのです」


「それを二人に言われるとは夢にも思ってなかったよ… どういう意味かわかるね?賢いんだから」


「さぁ?」

「なんのことか~わからないですねぇ?」


 く…ッ!このTORI!忘れたとは言わせんぞ!フルル事件とラブレター事件!それから浮気疑惑の件もなぁ!



 ところで。



 バスは走り去り双子は離ればなれに、どんな感覚なんだろう?必ず隣にいる兄妹がいない状態というのは。


 クロは平気そうだがユキは大丈夫かな?泣いてないかな?


 しかしクロ、可愛いやつめ… いっつも遊んでくれるもんなサーバルちゃん、いっつも笑ってて年がら年中お日様みたいだもんな?


 よく考えたら彼女はかばんちゃんの相棒だもの、彼女によく似たこの子がそういう気持ちになるのも当然と言えば当然にも感じるな。


 そんなとき、やけに力の抜けるこんな声が聞こえてきた。


「もうパーティーは始まったのですかぁ?」


 この声は…!

 

「お前… 久しいですね?」

「前の誕生日に来て以来なのです、のたれ死んだかと思いましたよ」


「ボク、強くはないですが逃げるのはこの数年で上手くなりましたからぁ?簡単にはやられませんよぉ?」


「まぁ、騒ぐほどのことでもないね?そうでしょ? “スナネコ”ちゃん?」


「シロはわかってますね」


 どうやらフラフラと宛もなく旅をする彼女も噂を聞き付けて来てくれたようだ。

  

 スナネコちゃん。


 彼女がこうしてフラフラするようになったのはそもそも俺たちがキョウシュウに帰ったとき、彼女は真っ先にこう聞いてきた。


「ツチノコはどこですか!」


 彼女にしては珍しい大きな声だった、死ぬほど言いにくいが向こうからも伝言を預かった以上伝えなくてはならない。


 俺は言った…。


「ツチノコちゃんはね、ゴコクに残ったんだ?もっといろんなとこを見たいって言ってさ? “すまない”って君に…」


「そうですか…」


 一瞬だけだが、あまり大きく表情を崩さない彼女の顔が暗く落ち込んだ風になった。

 

 が、その後すぐにあっけらかんと言った。


「でもまぁ… 騒ぐほどでもないかぁ…」


「そう?俺は結構騒いだんだけど」


「ツチノコらしいじゃないですか?人見知りのクセに好奇心は強いので」


「それもそうだね…」


 どこか遠い目をして笑っていた、そんな彼女の顔は少し大人に見えた…。


「一人でも大丈夫?」


「大丈夫です… この子達がシロとかばんの子供ですか?」


「そうだよ、こっちがクロユキ、こっちがシラユキ… クロとユキって呼んであげて?」


「安直ですね」


「いいじゃん分かりやすくて…」


 始めにクロを抱いた彼女はボーッと眺めた後に、「キャッキャッ」と笑いながら耳を触りたがるクロに言った。


「ボクの耳を触りますかぁ?」


「キャッキャッ」


「可愛いですねぇ~?」ニッコリ


「ごめんね?クロはやたら耳を触りたがるんだ…」


「触りたがる箇所が違うだけでシロと同じですねぇ?」


 待て… 俺そんなに露骨に触りたがってないよ?変なこと言うのやめて?どの部位のこと?←胸ダヨ


「ボクはスナネコです、よろしくね?」


 と言うとビックリ、彼女はクロのおでこにチュウをしたのだ。

 

「んん…」チュウ


「うぇひひ!」


「やはりシロに似てますねぇ?」


「判断基準を聞こうか?」


「まぁ騒ぐほどでもないかぁ~…」


 そうだけどさ!


 その後ユキを抱いてやると泣いてしまったが、彼女特有の気の抜けた雰囲気に当てられたのかボーッとし始め、やがてすぐに打ち解けていた。


 その後、何を思い立ったのか彼女はさばくちほーを出てフラフラといろんなちほーに顔を出すようになった。


 もしかしたらスナネコちゃんなりにいろんな場所を見てツチノコちゃんの気持ちを知ろうとしたのかもしれない。


 おかげで神出鬼没、その性格故に一ヶ所に長くいようとしないからだ。


 でもこうして子供の誕生日には顔を見にフラッと来てくれる。


 彼女の本質的な優しさが見えた気がした。


「ユキとかばんはどうしたのですかぁ?シロに愛想を尽かして出ていったのですかぁ?」


「やめてよ!?港に父さん達を迎えに行っただけだよ!」


「そうしてかばんとユキは船に乗り込むと」「二度と帰ってくることはありませんでした… めでたしめでたし」


「やだやだやめて!?なんで二人まで不安な気持ちにさせてくるの!?」


「ママとユキ帰ってこないの…?」


「だ、大丈夫だよ!クロのこと置いてくわけないだろう?」アタフタ


「取り残された男二人… 辛いねぇ?」


 ふぇ… かばんちゃん早く帰ってきて?みんながいじめるの…。


「こっちもそろそろ手伝ってほしいのだぁー!?」


「あぁ~ごめんね~アライさぁん?忘れてたよ~」


「ぱぁぱぁ…? ママとユキはぁ?」ウルウル


「すぐ戻るよ!よしよし!パパがついてるぞ!心配するな!男の約束だ!信じろ!」



 


「二人でやろうかアライさぁん?」


「子育ては気を使うのだ…」

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