第12話 あしどめ

「クロは久しぶりですねぇ?ボクのこと覚えてますかぁ?」


「スナネェちゃん!」


「おぉ~?満足…」


 なかなかの不思議空間だ、スクッと抱き上げられたクロは例の如くスナネコちゃんの耳にちょっかいをだし始めた… がしかしさすが満足さん、まるで問題はない。


「クロは本当にお耳が好きですねぇ?飽きないのですかぁ?」


「スナネェちゃんのお耳好きだよ!」


「じゃあ気が済むまで撫でますかぁ?ボクも気持ちいぃので」


「かんじるのー?」


 こらこらほらー!なまじ物覚えがいいばっかりに余計な言葉を覚えちゃったじゃないか!女性に向かって「感じるの?」はまずいだろさすがに!


「クロはエッチな子ですねぇ?シロにそっくりです」


「パパえっちなの?」


「ド変態です、三度の飯より女の子の匂いが好きで夢はおっぱいに挟まれること、特技は女の子を押し倒すのと自慢の爪で服を引き裂くことですからぁ」


 もうやめてよ!またあることないこと言って!服を引き裂くとか誰に聞いた!?地下室の件じゃあるまいな!?


 なんで子供にそういうこと言うの!あとなんでそんなに早口なの!初めて聞いたよそんなに早くしゃべるとこ!


「スナネコちゃん!子供にいい加減なこと言わないの!」


「満足ぅ…」


「パパえっち?」


「や、ちがうぞクロ!パパは人並みだ!」


「人並み外れてますねぇ?」


「パパはヒトナミー!」


 どうしろってんだよ、今の話ママに言うんじゃないぞクロ…。


 俺が好きなのは三度の飯よりかばんちゃんの匂いで夢はかばんちゃんのおっぱいに挟まれることだ!いい加減にしろ!←叶わず








 一方港に着いた一行は、丁度船から降りてきたミライ達との合流を済ませていた。


「「ミライさーん!」」


「かばんさんにサーバルさん!お久しぶりですね!」


「ばーば!」


「まぁユキちゃん!?大きくなりましたねぇ!おばあちゃんですよ~!」


 祖母(血縁上?)との感動の再会であった。


 その後からもぞろぞろと船から特別調査隊の面々が降りてきた。


 今回もやはり少人数、それはサンドスターの影響が何を及ぼすか向こうの世界ではハッキリとしないからで、被害があったときに最小限に抑えるためである… とざっくり国からのお達し。


「やぁ二人とも、ユウキはどうしてるかな?」


「あ、シロちゃんパパ!」


「お義父さん、ご無沙汰しております… 彼は今パーティー用の料理を作ってて手が離せなくて」


「おぉこれはご丁寧に、君も元気そうで何よりだ、まぁアイツはいいかどーせ元気なんだから」


 シロの父ナリユキ、彼も当然この調査には参加している。

 彼自身の目的もあるが、フレンズの生態を調べサンドスターの研究もしてきた彼はこの調査には不可欠な存在だろう。


「じーじ!」


「おぉシラユキちゃ~ん!じーじのお迎え来てくれたのかぁい?ありがとうねぇ~!いっぱい遊ぼうねぇ~?」デレデレ


「きゃ~!お髭いたーい!」


 孫フィーバーは続いていた。


 するとミライとナリユキの二人はさっそくクロユキの姿が無いことに気付き、それを不思議に思うとすぐにかばんに尋ねた。


「実はこういうことでして…」


 ざっくりとだが、クロユキ本人の意向であることを話す。


「なんだ来てくれなかったのかぁ… まぁすぐに会えるし構わんさ?」


「そうですね、ちょっぴり寂しいですがパパから離れたくないってそんな年頃なのかもしれませんね?」


 理由を聞いて少し残念がった二人だったが、子供なりに何か考えがあってのことだとそれを飲み込んだ。


 それよりも、ナリユキはどーも聞く限りサーバルと関係しているようなのだとすぐに察した、息子よりも察しがいいのだ。


「クロちゃんも一緒に行こー?って言ったんだけど、パパといる~って言ってそっぽ向かれちゃって、なんだかわたし最近避けられてるみたい… はぁ…」


「なんでかな?多分照れてるだけだと思うんだけど…」


「わたし、何かしちゃったのかなぁ?」


「なるほどな… いやなに、素直になれないだけさ?サーバルちゃんには特にな…」


 サーバルは不思議で仕方なかった、前はあんなに仲良くしていたのに急に距離をとるようになった小さな男の子。

 特別傷つけるようなことをした覚えもないし、シラユキばかりを構ってないがしろにしていたとかそういうこともない。


 しかし近頃のクロユキは図鑑を持って草花ばかりを見ている、前のように三人で追いかけっこなどをしなくなっていた。


 そんなサーバルの落ち込んだ顔を見て一人の男が声を掛けた。


「サーバルぅ… 元気だしてほしいですね、やっぱり笑顔が似合うので」スチャ←眼鏡外し


「あ、シンザキちゃん!大丈夫だよ!また会えて嬉しいよ、ありがとう!」


 サーバルの彼氏(気取り)である調査隊隊員シンザキの登場、自分が原因のひとつとも知らずに。


「みなさん、早よ行きませんか?ジャガーさん待ってますやんか?」


 続いて同じくナカヤマも現れ図書館への移動を急かした。


 しかしジャガーは別に待っていない、残念。


「あぁそうだ、シンザキくんナカヤマくん?どちらでもいいんだが例のやつテストがてら乗ってきてくれないか?」


「じゃあ僕が、よかったらサーバルぅ、後ろに乗れるようにぃ?」


 とシンザキが持ってきたのはシロのジャパリバギーだ。


「あ、シロさんのバギー?ってことは…?」


「やっと改造が済んだんだよ、これで動けば問題なしだ… じゃあシンザキくん、頼む」


「了解です」


「わーい!これでいいのシンザキちゃん?」ギュウ~

「バッチリぃ、ですかねぇ?///」デレデレ


 バギーは前とは違う“ヒュゥゥゥン”という音で走り出す、後ろにはサーバルががっしりとしがみついた。


 残りの一行はジャパリバスに乗り込み、図書館を目指す。






 

 さっき妻からラッキー越しに通信があった。


 合流してこちらに向かってるそうだ、みんな船酔いもなく元気そうなのでこちらとしても安心だ… あとは無事に帰ってきてもらうだけ。


「クロ、じーじ元気だってさ?」


「ばーばも?」


「もちろん、早くクロに会いたいって?クロはどうだ?」


「ぼくもー!」


 そうかそうか、ということは~?父さん達に会うのが嫌な訳ではないから、やっぱりうちのおねーちゃん方が言うようにサーバルちゃん絡みなのか。


 4才だぞ?おませさんだねぇ本当に。


 今の時点でサーバルちゃんの“見た目”年齢が女子高生くらい、即ち16~18歳くらいになるからそれはつまり…?


 少なく見積もっても見た目が12歳差のカップルになるのか?


 でもサーバルちゃんは他のフレンズ同様に姿が変わらないだろうから、クロが年頃になる頃でも今と変わらないのか?


 あれ?でもおかしいなぁ… かばんちゃんは成長してるじゃないか?髪も伸びたし顔も大人っぽくなって可愛いから美人に、体つきも女性らしくなって初めて会ったときよりさらに俺のこと誘ってくる、しかも胸が掴めるくらいには大きくなってる。←ここ大事


 フレンズは見た目は変わらないんじゃ?いや、これも俺の憶測に過ぎないんだけど。


 でも年老いたフレンズは見たことがない、オオカミさんは「あの頃は若かった」みたいなこと言ってたし、やっぱり精神的に老いることはあっても肉体的に老いることはないと考えるべきだ。


 やっぱりかばんちゃんがヒトだから?あるいは、フレンズは“認識”によって体のいろんなことが変化するらしいじゃないか?


 例えば耳なんかは無いと強く思えば消せるとか… 服だってかばんちゃんが指摘するまで体の一部と思い込んでいたらしい。


 人は歳を重ね老いるものだ、もちろんそれは生き物全てに言えることだけど。


 あるいは、成長につれて体も変わると認識すればフレンズでも見た目の年齢が変わるんじゃ?


 かばんちゃんは妊娠もしたし、それもすべて認識のせい?子作りを理解したから?



 今から変なこと言うけど…。

 


 例えば、フレンズの体を持つかばんちゃんが俺との夜を過ごした時に…「あぁん!これ絶対授精しましたぁん!シロしゃんしゅきぃ!///」と心に強く刻み込むことで、生物的にもサンドスター的にもちょいちょいが起こり妊娠するとか?うちの双子ちゃんができたのも結婚後一年たった頃だし、うまいこと心と体の条件が合うのにタイミングがいるのでは?

 言うなれば、想像妊娠の要領も必要だということだ。


 でも~… かばんちゃんなかなか次の妊娠しないしなぁ?今の子育て大変だから望んでないのかなぁ?


 …って。


 脱線したが、つまり俺が言いたいのはサーバルちゃんもクロもその時にその気ならこの恋は実現可能ということだ。


 夢のある話だ、あと10年も待てば子供たちも年頃なんだから。


 あ… 待てよ?じゃあユキがお嫁に?


 辛いッ!!!


「パパ泣いてるの?」


「クロぉ~?ユキは将来どんな男連れてくるのかなぁ?不安になってきたよ…」


「今はじーじのお迎えじゃないの?」

※食い違い中


「じーじはダメだよナンパ野郎だもん」

※食い違い中


「ナンパやろー?」


「いろ~んな女の子にちょっかいだして恨まれる男のことだよ、クロはそんな男にならないで、心に愛する女はただ一人にするんだぞ?パパみたいにな!」←ドヤァ


「ぼくパパみたいになるよ!」


 よし、たった今黄金の精神が継承されたな… フレンズ讃歌はユウキの讃歌だ。




… 




 一方、港から図書館を目指すジャパリパスがとある一本道に入った時だ、一旦その足を止めてしまった。

 

「かばんちゃん、どうかしたかい?」


「お義父さん、あそこに…」


 前方にうごめく青いやつ、皆それが何か知っている。


「セルリアンか…」


 かばんは前方に中型セルリアンを確認してバスを止めたのだ。

 娘を怖がらせてはいけないと思い尋ねる義父には小声で事実を伝えた。


「ミライさん?ナカヤマくん?あれ…」


 ナリユキの指差す先には不気味にうごめく青いセルリアンが目視で3体確認できる


「どうしましょう?ここは一本道…」


「通常兵器も効かんしぃ?専門家も都合よくおらんしぃ?」


 そう、彼らは丸腰だ、そして戦闘に長けたフレンズも都合よくその場にはいない。


 一度歩を止めるしかなかったのだ。


「あれ?シンザキちゃん、バス止まっちゃったよ?」


「トラブルぅ…ですかねぇ?」


 バギーをバスに横付けさせて二人が尋ねると、すぐに目線の先にセルリアンがいることにすぐに気付いた。


「セルリ…!?モゴモゴ!」


「サーバルちゃん!しーっ!ユキがビックリしちゃうから…」


「プハ… ごめんね、どうしよう?結構大きいね?たくさんいるし…」


 この時、各個撃破ができれば… とサーバルは思っていた、無闇に自分が突っ込んでも囲まれて補食されてしまうし、そしてそれはみんなの存在を相手に知らせることになる。


「わたしがもっと強かったら…」


「大丈夫だ、君のせいではないよ?とりあえずユウキに連絡しよう、頼むラッキー」


「任セテ」





ピピピビ

「シロ 救難信号ヲキャッチシタヨ」


「救難信号… まさか向こうでなにかあったのラッキー?」


「道ノ先二セルリアン数体ヲ確認 安全ノ為二待機中」


 無理にでも着いていくべきだったか!それか姉さんに着いていってもらうとかもできたはずだ!


 クソ!悔やんでも仕方ないな!


「伝えてくれラッキー!すぐに行くからそのまま待機するように!」


「任セテ」


「どうかしたのですかぁ?」


「スナネコちゃん、みんなのとこにセルリアンが現れたらしいんだ… 助けに行くからクロを見ててほしい、頼める?」


「わかりました」


 まずは博士たちに伝えた、ラッキーに道案内を頼み二人に飛んでもらう。

 幸い姉さんも師匠も来てくれたので、ここのガードは問題ない。


 他にも腕利きのフレンズがいる、仕事もアライさんがいる。


 だからここは大丈夫、すぐに向かわなければならない。


「話しはわかりました!」

「すぐに出るのです!」


「シロ!私達の力は必要か!」


「大丈夫だよ師匠、運ぶのにも限界があるしここも守らないと… 姉さんもクロとみんなを頼むね?」


「任しときなー!」


「では行くのです」

「飛ばしますよ?」


 さぁ行くぞ… 意気込んだその時、俺を引き止める声がした


「パパ!セルリアンがでたって… ママは?ユキは?みんなは平気なの?」


「大丈夫だよクロ?パパが全部やっつけてくるから」


「ほんと?」


「パパ強いんだぞ?心配するな、すぐ帰るからな?パパに任しとけ?」


 コクリと頷くとスナネコちゃんのもとでぐずることもなくおとなしくしてくれた、良くできた子だと我が息子ながら関心する。


「待てシロ… オレを連れていけ」


「ブラックジャガーさん?」


 いつからいたの?ってそんなのいいや!

 なんでも彼女は俺の戦いに興味があるらしく、着いていきたいそうなのだ。


「ホワイトタイガーを倒したあの技に興味がある、心配するな足を引っ張るつもりはない」


「急いでるんだ!掴まって!… って訳だから頼むよ博士たち!」


「まったく長使いが荒いのです」

「礼は弾むのですよシロ?」


 俺はブラックジャガーさんと空を渡りジャパリバスのもとへ急いだ…。





「ママどうしたの?どうして止めちゃったの?」


「あ、ユキ… なんでもないよ?ラッキーさん疲れちゃったから休憩してるだけだよ?」


 シロはあとどれくらいで来るだろうか?その間にもし気付かれてしまったらうまく切り抜けられるだろうか?

 

 かばんは不安ではあったが大丈夫だと信じている、彼はすぐに来る… 決して嘘はつかないと。



 しかし時に現実は非情である。



「ヒッ… !?」


 と小さく声を挙げたのは娘シラユキだった、かばんは正面を向き直しバスの前方に目を向けた。


「ッ!?こっちを見て…!?気付かれました!」


 前方のセルリアンは無機質な視線を向けブヨブヨとこちらへ向かってくる。


「かばんちゃん!あれお願い!」


「うん!」


 サーバルがそう伝えセルリアンを引き付けると、かばんもすぐに何か準備を始めた。


「えい!」シュッ


 それは紙飛行機… キラキラと小さな輝きを散らせながらフワリとフワリと宙を舞う。


 それを見たセルリアンは目で紙飛行機を追い続けやがて背中の石を見せた


「みゃーみゃみゃみゃみゃァァアッ!!!」


 パカーッン!

 

「紙飛行機を囮にして石を砕いたのか?やるじゃないか!」


「すごいですね!ほら、大丈夫ですよユキちゃん?こっちにいらっしゃい?」


「ふぇぇ~ん!」ギュウ


 ストン!とバスの上に着地したサーバルは叫んだ。


「バスをだして!すぐに次が来るよ!?」


 機転でその場は切り抜けたが、後ろからはまだセルリアンが近づいている


 その数… 2体。


 騒ぎに気付いたのか離れていたセルリアンも集まってきたようだ。


 素早くバスを方向転換させて来た道をもどる一向、シンザキもすぐにバギーを走らせた


「一旦港まで戻りましょう!ラッキーさん!」

「任セテ」


 がしかし…。


「前からも出てきましたやんか!?」


「挟まれたのか?まったく次から次へと!足の早いセルリアンでもいるのか!」


「どうしましょう!?後ろからも!」


 その時、ミライは自分の懐にいる4才になったばかりの女の子に妙な感覚を覚えた。 


 かばんとシロの娘、シラユキはミライに向かい言ったのだ。




「腕を避けてミライさん?あれくらいなら倒せますから」


「え… え?」


 とても流暢に話していた…。


 いつものシラユキのように舌ったらずだが元気のよい話し方ではない。


 丁寧に、落ち着いて、だけど自信たっぷりな、そんな口調だった。


 それはまるでパークを護る強きフレンズ、百獣の王の血族を思わせるような…。


「ユキちゃん?… え!?お耳と尻尾!?」


 瞬間その場の皆が見たのは、バスを飛び出した小さなホワイトライオンのフレンズが前方のセルリアンの石を素早く砕く姿だった。


 パッカーン!


 と弾けたセルリアン… その場に残るは白く美しい髪を揺らす小さな女の子シラユキ… のはずだが。


 しかしその様子は明らかに“シラユキ”とは違っていた。


「はわわ… この小さな体で無茶はできませんね…」


 そう言ってペタリと座り込んだシラユキ?

 発現した耳と尻尾は消えてその場で気を失ってしまった。

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