第7話 せんせいはうれしい

「ちぇっちぇっ ちぇっちぇっちぇちぇいさ~♪っと…」トントントントン


「パパお昼ご飯は~?」

「おやつは~?」


 意気揚々とお昼ご飯を作る俺の元に現れた子供達に答える時、それもまた意気揚々と答えなくてはならない。


「今日は森林ライスだよ~?おやつはなにがいい?」


「「くっきー!」」


「ハチミツのやつかな?」


「チョコのやつがいい!」

「ユキもー!」


 まったく、子供はチョコが大好きだぜ!引き受けた!


「はいよー!チョコクッキーオーダー入りました~!」


「「わーい!」」


 最近は夜も充実してスッキリ(意味深)とした毎日を送っています、シロです。


 ノーストレスの毎日、美人でよくできた妻に可愛い子供たち、楽しい職場環境、充実した夜。


 いつも俺の料理を美味しいと喜んでくれる皆さんの笑顔、すくすく育つ子供たち、そして充実した夜。


 寝不足と修行漬けの苦しい毎日は終わりを迎えました、充実した夜のおかげです。


 最近ご無沙汰の夫婦もこの通り!そう、地下室ならね!



 と、俺の夜の生活の話はどうでもいいのだけど、最近は本当に何事もなく変化と言えば子供たちの成長くらいだろう。


 まずユキは高所恐怖症のくせに木に登りたがるようになった、サーバルちゃんのマネがしたいんだろう。


「キノヴォリ!楽しいよ!」

「ユキもつれてってー!」


 その後、木の上にて。


「高いぃ!恐いよぉ!降りれない~!うぇ~ん!パパー!ママー!」


「え、えぇ!?ごめんねユキちゃん!すぐ降りようね?」


 すいませんサーバル先生!うちの子誰に似たのかワガママで!ハハハ… 困ったものです、でもそこが可愛いんですよね!あーはー!


 お姉ちゃんのマネを何でもしたくなる年頃なんだろうな、俺も今だから姉さんがいるけど、小さいころそういうのなかったからほんのちょっと羨ましいね。


 そしてクロユキくんはですねぇ~?最近また知恵を付けてきたのか「抱っこしてー!」と自分から言わないんですよ。

 例えばサーバルちゃんを指をくわえながらジーっと見つめたりするとサーバルちゃんはそれに気付く。


「クロちゃんどうしたの?おいでおいでー!」


「わーい!」抱きぃ


「クロちゃんは甘えんぼさんだね!なになに?また耳が気になるの?優しく触ってね!あ、しゃぶっちゃダメだよ!」


 向こうから抱っこするように仕向けている気がする、向こうから誘ったから自分は無実とでも言いたいのか?

 しかも最近は朝しか俺の耳は触らないんだよねぇ、飽きたのかしら?やっぱり女の子のけも耳の方がいいのか?親父の耳なんて朝だけで十分だってか?もうオスの本能に目覚めたのかね?まったく誰に似たんだ、でもそこが可愛いんですよね!あーはー!




 そんな毎日を過ごしていると図書館にこんな声が響き渡った。


「アライさんが戻ったぞ~!なのだー!」

「フェネックもいるのさー」


 どうやらアラフェネさんが宛もなくフレンズたちに料理を作る旅から戻ったらしい。


「あ!アライちゃんとフェネちゃんだ!」「おかえりなさーい!」


「おまえ達!元気にしていたか?」


「「わーい!」」


「わ、わかったのだ!元気なのはわかったのだ!えぇぇ!?尻尾が痛いのだ!強いのだ!?とても子供の強さとは思えないのだ!?」


 早速ユキはアライさんのモフモフに目を付けて引っ張り回している、そして息子クロの眼光パンチは妻も認めるそのちょー可愛いと評判のフェネックイヤーに目を付けた。


「ジー…」指くわえ


「クロくんどうしたのー?お姉ちゃんに抱っこしてほしいのかい?」


「ジー…」コクコク


「あらあら可愛いねぇ?おいで~?」


「うん!」抱きぃ 


 なんという策士… すでに祖母に当たるミライさんよりもずっと取り入るのが上手い!しかし相手はあの切れ者フェネック姉さんだ、一筋縄ではいかないのだ。


「おーっとぉ… 耳はダメだよぉクロくん?いけない子だねぇ?」


「えー!どーして!」


「クロくん触るのとっても上手だからぁ?私のこの大きな耳が感じてしまうのさー」


 こら待ちなさいおすましフェネックさん、今なんて言った?三才の子供に余計な言葉を教えるんじゃない。


「かんじるー?」


「そうさー、だから代わりにアライさんの耳を好きにしたらいいよ~?」


「かんじるのはいやなのー?」


「気持ちがいいのさー」


「えー!じゃあなんでだめなの!」


「世の中良ければいいというものでもないのさー?よしよし~勉強になったねぇ?」ナデェ


「わかんないよ~」


 わからなくていい息子よ!そのうち嫌でも覚えなくてはならない時が来る!そしてそれは自主的に覚えることになる!


 そうしてアライさんの元にクロが放たれてもみくちゃにされている間にフェネックちゃんは俺に旅の報告するのである。


「今回はしばらくロッジでお世話になることが多かったよ~、あそこは料理の設備があるからやりやすいねぇ?」


「港も近いから食材もたくさんとれるしね?ロッジのみんなは何か言ってた?」


「タイリクオオカミがー?新作が書き上がりそうだから近いうちに来るってさー?」


 ギロギロの新作かな?あるいは何度言っても懲りずに執筆が進められる薄い本の方か?


 すでに博士たちの悪ふざけで地下室の奥の棚には本にされた薄い書物がいくつか隠されていている、形にされたら捨てるに捨てられないだろうが!

 

 しかしあんなものが子供の手に渡っては非常に良くない、もう誰がどう見ても内容が俺とかばんちゃんなので絶対に見せられない領域にまで到達している。

 絵で語るに十分な画力と内容なので読み聞かせも必要ないのが最大に厄介だ


 もし子供たちにあんなものを見られたら…。

 

 きっと余計な性知識を付けられて挙げ句に兄妹で妙な関係に… なんて事になるかもしれん、それはいかんまったく度し難い。


 それこそ薄い本の中だけにしてくれ…。

 いや、今のは忘れてくれ…。


 もしそうなったら俺はもうどうしていいのかわからん、考えるだけで頭が痛い。


「シロさんどうかしたのかい?難しい顔して?」


「いや、大丈夫… とにかくおかえり二人とも?今日は俺がご飯作るから二人はゆっくりしてて?」


「はいよー」


 さてと、二人には休んでいてもらわないと、アライさんを解放してあげよう。


「ほら子供たち~!お姉ちゃんを離してあげなさい!おやつの時間だよー!」


「「はーい!」」


「助かったのだぁ…」クタァ



 こちらのコンビはですねぇ…。


 俺たちが帰るまで図書館の料理番をしてくれたり家の掃除もやっておいてくれたとても優秀なスタッフです。


 二人は俺の弟子に当たるが料理の腕は相当なものだろう、俺よりもずっと上手いかもしれない。


 俺たち一家がキョウシュウに戻った時の二人の話をしよう。





 子供を見せると二人はとても興味深そうにクロとユキを眺めていた。


「「おぉ~…」」


「「キャッキャッ」」


「髪が黒い方が息子のクロユキ、白い方が娘のシラユキ… クロとユキって呼んであげて?」


「わかったのだ!二人に似て既に大物のオーラを放っているのだ!アライさんにはわかるのだ!」


「確かに二人によく似てるねぇ?でも耳と尻尾は生えなかったんだねぇ?」


 大物のオーラというのがどんなものなのか俺にはわからないが、この時点で耳と尻尾がないのはヒトの血が多いためだろう、でも前に話した通り少しだけクロとユキには身体能力に差が出始めた、それがフレンズ化の前兆かどうかは父達が来たときに調べてもらおう


「抱っこしてもいいのか!?」


「どーぞどーぞ?クロはすぐ耳を引っ張るから気を付けてね?」


「じゃあ~?私がユキちゃんを“抱いて”みようかな~」


 フェネ子さんそれ、変な意味ではないよね?


「クロはアライさんに任せるのだ!ふははは!見るのだ!もうすっかり仲良しなのだ!」


「キャッキャッ」耳グイシャブシャブ


「ふぁ~!?///なぜなのだ!?なぜ耳をしゃぶるのだ!?耳はおしゃぶりじゃないのだ!やめるのだ!」


「えぇ~ん!」


「うぇぇえ!?よしよしなのだぁ!?泣かないでほしいのだぁ!?」アタフタ


 耳しゃぶ中に引き離すと泣き出すクロにアライさんは翻弄され続けていた、耳を許せばアライさんにしては珍しい恍惚とした表情に、引き離すとクロは泣く… 成す術無し。


「アライさんやってしまったねぇ?ユキちゃんはおとなしいねぇ?おめめクリクリで可愛いねぇ?」


「ふぇ…」


「あら、泣きそうだねぇ?シロさんどうしたらいいのー?」


「尻尾を触らせると落ち着くよ?」


「へぇ~?ほらーモフモフ~」


「キャッキャッ」モフモフ


「おぉ~赤ちゃん可愛いいねぇ~?“私達”もほしいねぇアライさぁん?」


 えっとフェネックさんそれはつまりあなたひょっとするとあなたそれ…。←戦慄


「子育ては料理より大変なのだぁ…」クタクタ


 いや、当分何もなさそうだな。


 まぁそんなことはさておきだ。

 

 二人は俺たちが帰ってきたことにより長の料理番から解放されることとなった。

 故に俺やかばんちゃんがダウンしたりパーティーでやたら人手が欲しいとき以外は特に自由に過ごしてもらって構わないのだが、二人は既に料理人としてプライドのような物を感じ始めていたのか、やがてこんなことを言い始めた。


「アライさんは一ヶ所にじっとしていられないから~?パーク中のフレンズのために料理を振る舞っていく旅をしてみたらどうかなー?もちろん私も付き合うよー?」


「アライさんの腕の見せ所なのだ!」


 無理にそんなことをする必要はないのだけど、本人達がやると言って聞かないし普段動けない俺の代わりにみんなのために動いてくれるのはこちらとしてもやぶさかではない… “みんなの為に料理を”という気持ちは同じだ。


「じゃああの“ばすてきなもの”に道具を積んで置こうか?食材を集めれる場所の地図も… あと料理ができる設備のある場所もその地図に記しておくよ、フェネックちゃんに渡して置くからね?」


「アライさんではダメなのか!?」


「アライさんにはー?料理に集中してもらわないとさー?」


「なんだそういうことか!じゃあフェネックにはその辺任せるのだ!」


「はいよー」


 こうして放浪料理人の旅が始まった、彼女達は後にパークで伝説の料理人として名を馳せることになるだろう。


 しかしアライさんの妙なリスペクトのおかげで先に俺が伝説の料理人になり始めてしまった… 断じてそんなことはない、俺の腕などB級グルメの足元にも及ばんだろう。


 でもアライさんは各地でこう語るのだ。


「シロさんはなぁ!偉大なんだぞ!不可能と言われた料理の数々をパークで作り上げていったのだ!アライさんまだまだ全然敵わないのだ!あの偉大な師匠の背中に追い付けるようにアライさんいつもしょーじんを欠かさないのだ!… でもここだけの話、うどんだけは免許皆伝を頂いているのだ!ふははは!シロ師匠の弟子はこのアライさんただ一人なのだ!唯一無二の一番弟子とはこのアライさんのことなのだ!それに加えて…」以下略


 ここまで言われて悪い気はしないがそれは過大評価にもほどがある、たまに来る子達が「あの味を超える味… ゴクリ」みたいな顔で図書館に足を運んでくる、だから自分がそのプレッシャーに押し潰されないように逆に言ってやるのだ。


「アライさんはねぇ、スゴいんだよ?あそこにいるワガママフクロウにもできない火の克服をたった一日でやって見せてくれたし、手先も器用だから難しい動きもすぐ覚えるし、留守の間もずーっとここの料理番をしてくれたんだ?アシスタントのフェネックちゃんも優秀だからほぼ失敗はないし、俺は向こうで料理あんまりできなかったからきっと彼女はとっくに俺より上手に料理できるはずなんだよ、うどんだけじゃなく全部ね?ふぇ…アライざん…!グスン 立派になっだなぁ!先生嬉じぃ!」トントントントン←涙のみじん切り


 その話を始めにしたのはハンターの三人で、俺のそんな姿を見てヒグマさんから「おいおい… 指切るなよ?」と心配の言葉を頂き、キンシコウさんは「アハハ…」と若干や引き気味になり、リカオンちゃんに至っては「鼻水キツいですよ…」と完全なるドン引きを頂いた。



「それじゃ今日は頑張ってきたアライさん達のリクエスト聞いちゃうよ~何がいい?」


「私はアライさんの食べたい物でいいよ~?」


「あの!じゃあ一緒にうどんが作りたいのだ!」


 やれやれ休めと言ってるのに…。


「疲れたでしょ?先生にお任せなのだ!」


「違うのだ!アライさんは料理が好きなのだ!でもシロさんとはずーっと別で作ってるのだ、認められるのは嬉しいがたまには前みたいに一緒に作りたいのだ…」


 え、なぁんだよ… えぇ?照れるじゃんそういうの… なにぃ?もぉ~!←楽しげ


「そっか、じゃあ一緒に作ろうか?フェネックちゃんも手伝って?」


「はいよー」

 

「いいのかぁ!?」


「ダメなことないさ?早く終わるしうどんのプロが一緒に作ってくれたら心強いよ」


「やったー!なのだぁ!」


「よかったねぇアライさぁん!」


 あんな顔されたらさすがに断れないって。

 

 弟子以前に妹みたいなものだもの、思い出すなぁ、彼女と始めて料理を作った時のことを…。


 フェネックちゃんのために何か教えてくれと唐突に現れては「一時の迷いもないのだ!」と俺に言い放った。


 まだまだ未熟な俺だったが弟子ができることで恥ずかしくないようにもっと頑張ろうという気持ちになったんだ。

 

 彼女もみんなも俺を過大評価して伝説の料理人みたいな扱いをしてくれるが、そんな大層な物ではない

 彼女を育てたのは俺だけど、同時に俺が成長できたのも彼女のおかげと言えるだろう。


 毎日博士達のワガママに対応できるのもすべてその成長のおかげだ。


 ありがとう弟子よ、そしてよくここまで立派になった… これからも料理でみんなに笑顔を届けよう。


「えぇ… シロさんなんで泣いてるの~?」コネコネ


「ぶぇぇ…アライさん立派になったなぁって…グスン」コネコネ


「アライさん全然まだまだ教わることがあるのだ!でもここまでこれたのはすべてシロさんのおかげなのだ!どうもありがとうなのだ!」コネコネ


 その日のうどんは涙の味がしたが決して悲しい訳ではない。


 



 そんな賑やかなキッチンの風景を見てたのか、妻はその晩俺に寄り添い言った。


「ちょっぴり妬いちゃいます…」


 まぁ確かに、弟子と言えど他の女性と距離が近いのは妬かせる原因だ「ちょっぴり」と言ったのは相手がアライさんだからだろう。


 でも、そんな妻との仲も良好…。


「そう?じゃあ今度は二人で何か作ろうか?何がいい?ん~…やっぱり赤ちゃんがいいかな?」


「もう///料理の話ですよ~?」


 しかも夜も充実しているのだ。


 よきかな…。



 あぁよきかな!

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