第6話 ししおうぎ

 へいげんちほー、その外れにあるジャパリ牧場という施設。


 今日ここにはかばんとその子供たち、そしてサーバルと長の二人を乗せてジャパリバスが訪れている。


「今日は皆さんお揃いで~?クロくんユキちゃんこんにちは?」


「「おっぱいのお姉ちゃんこんにちは!」」


「あらあらまぁ?フフフ」


 もちろん遊びに来たわけではない、その理由はやはり長の暴走によるものだ。


「フリシアン、茶番はいいのです」

「シロがいるでしょう?さっさっと吐くのです」


「シロさん… ですか?いえ、先日のワタアメの時来て以来ですが?なにかございました?あ、忘れ物とか?」


 当然浮気などしていないので彼はここにはいない、もちろん彼女もしらばっくれているわけではない、しかし今の長にそれは通じない。


「ネタは上がっているのですよ!」

「隠すのならば、探してやるのです!」


 バサバサとフリシアンの向こうへ飛び立ち長の牧場散策が始まった、その場にはかばんと子供たち、そしてサーバルが取り残された。


「あぁ、行ってしまいました… かばんさん?シロさんどうかされたんですか?」


「いえちょっと… それにしてもフリシアンさんはやっぱり胸が大きいですよね?僕と違って」


 かばんは悲しみも去ることながら夫を奪った対象(勘違い)を前に怒りの感情も覚えていた。

 

 忘れてはいけない、彼女は嫉妬深いのだ。


「か、かばんさん目が光ってますよ?」


「いいですよね…?大きい胸…」


「えっと… ほら!かばんさんも初めて会われたときよりずいぶん大きくなられましたよね?」


「子供もできましたから… でも、それでもあなたほどでは…!」ギリギリ


「ひぃ!?なにか怒ってませんか!?」


「「ママ恐い~!えぇ~ん!」」


「か、かばんちゃん!子供たちが泣いてるよ!?抑えて抑えて!」


 それから…。


 ありとあらゆる場所を探し回ったがシロのいる痕跡はない、痕跡どころか気配もない、となれば同然匂いもなければ不信な音も聞こえない… あるはずがない、即ち。


「シロはここにはいない…?」

「バカな、我々が読み違えるなど!」


「モォ~!いないって言ってるじゃないですかぁ~!」


「かばんちゃんよかったね!やっぱり誤解だったんだよ!シロちゃんはかばんちゃんを裏切ったりしないよ!」


「はぁ… そっか… そうだよね!シロさんはそんなことしないよね!子供たちもいるし!かならず僕のとこに帰るって言ってくれました!もぅ博士さんたち!また早とちりしましたね!」


「そんなはずは…」

「ならなぜお前の誘いを受けず我慢を貫くのでしょうか?」


 長達はそれだけが疑問で仕方なかった、確かにほどほどにしろとは言った… だがあのシロが言ったところで毎晩懐にいるかばんを前に一切手を出さない?そんなことが可能なのか?

 

「サンドスターをコントロールして別のことに変換してるのかもしれませんよ?」


「サンドスターで性欲をコントロールしてると?」

「本当ならもっと早くやりやがれなのです」


「そんなことよりみんな!確かめるならお城に行こうよ!フリシアン、急にごめんね!また牛乳飲みに来るよ!」


「なんだかよくわかりませんが… お気をつけてくださいね?クロくんユキちゃん、またね?」


「「またねおっぱいのお姉ちゃん!」」


 かばん一向はすぐにお城を目指すためバスに乗り込んだ。





 その頃百獣の王会議はホワイトタイガーの失言により、言うなればまさに“一色触発”の雰囲気であった。


「シロ、落ち着け?いいな?姉ちゃんの目を見ろ、抑えろよ?… おいホワイト!お前いい加減にしないか!」 


 姉さんが俺をなだめてくれるが、ここまで言われて黙っておけるほど俺は大人ではない… このメス猫め、まるで子供たちを失敗作のように言ってくれたな?許せるはずもない、失敗してんのはテメーの思考回路だ。


「俺のことはいい… 半端者なのは自分でもわかってる、でもよく知りもしないくせに噂だけで母さんのことを悪く言うのはやめろ、それどころか子供たちまでバカにされて黙ってる親がいるとでも思ってるのか?」


「知っているぞ、ツガイはあのかばんとか言うヒトの女だろう?息子は黒髪で母似だそうだな?そして娘はお前と同じ… だが髪が白いだけ、どちらもホワイトライオンのなりそこないではないのか?選らんだ相手が悪かったな、そこのライオンならきっともっと強い子が生まれ…ッ!?」


 バギャオン!


 豪快な音が鳴り部屋の壁を破りながらホワイトタイガーのヤツは外へ落ちた、ここは2階だ… まぁ手練れのフレンズならこの程度なんてことないだろ、猫科だし問題ない。


 問題はここからだ、タダじゃあすまさねぇ!


「おまえぇ…!これ以上家族をけなすなら!二度とその減らず口叩けねぇように舌ぁ抜いてやるからなぁッ!!!」


「止せシロ!」


「シロやめて!頭冷やしなよ!」


「どいてくれ!母さんや子供たちだけじゃない!嫁さんのことまで言われたんだ!なにが誇りだ!そんなもんクソ食らえだ!離せ!」


 バンッ!


「うぁなんだ!?なんかに弾かれた!?」「イタタ… これはちょっと厳しいぞぉ…」


 ちょうどいい、修行の成果をみせてやる。





 バギャオン!


「わぁ!?なんですかあれ!?」


「誰か落ちてきたよ!?」


「今、一瞬大きな物が見えませんでしたか?」

「えぇ、光る… 手のような物が?」


 落下の最中ホワイトタイガーは思っていた。



 なんだ今のは!?あんなものは見たことがない、殴られた?いやヤツとはもっと距離があったはず、遠くもないが手が届く距離でもない。


 いったいこの力はなんだ!?



 ドサッ!

 そして彼女は地面にその体を強く打ち付けた。


「ぐぁ!クッ!我としたことが油断した!」


「お前はホワイトタイガー?」

「いったいなにが起きたのです?」


「長の二人?なぜここに?それにおまえ達は…!」


「大丈夫!?すごい音がしたよ?」


「お怪我はありませんか!?」


 彼女に休む暇はない… 上から見下ろす男が自分に追い打ちをかけようと下に落ちてくる、すぐに体制を立て直し迎え撃つ必要があるだろう。


「なんだかわからんが!半端者が我に勝てると思うな!」


「あ、あれはシロさん!?今のはシロさんがやったんですか!?」


「なんだかすごく怒ってるよぉ!?なんでぇ!?」


「近寄るなおまえ達!でぇい!」ブンッ


 ガギィン!


 爪を振り下ろしたホワイトタイガーだったがなにやら彼の手の平に出現した小さな光の壁のようなものに阻まれてしまった。


「なんだそれは!?」


「歯ぁ食いしばれ!」


 ゴォンッ!


 今度は皆の目にもハッキリと見えた、それはフレンズ一人分はある大きな握り拳、光輝く拳は容赦なくホワイトライオタイガーを捉える。

 彼が腕を振り下ろすとその拳は同じ動きでホワイトタイガーを地面に沈める、彼が真っ直ぐ伸ばす本当の拳のその先に、大きな光の拳がボゥっと浮かんでいるのだ。


「くぅっ…!なんて力だ!」


「どうした!俺の家族を散々けなしてくれたわりには大したこたぁないな!半端者が許せねぇんだろ!立てぇッ!気がすむまで叩きのめしてやる!」


 ドゴォ!


 同じように彼はまたホワイトタイガーに追い討ちを仕掛けた、彼女は最早立ち上がる暇もない。  




 気が立って仕方がない、もともと寝不足なのもあるが自分よりも身内のことでここまで頭にくるなんていつ以来だろうか?だがどうでもいい… ありったけ叩き込むだけだ、謝ったら許されると思うなよ!


「くぅ…!妙な力を…!」


「おら!もう一度いくぞ!」


 立ち上がるホワイトタイガーにもう一度殴りかかった時だ、ぐっと後ろから体を引っ張られた後すぐに声がした。


「シロさんやめてください!子供が見てるんです!」


「ッ…!?」


 ハッと正気に戻り振り向くと妻後ろからがっしりと俺の体に抱きついていた、さらにその後ろでは子供たちが酷く怯えた顔でこちらを見ている。


「あ…」


 しまった、なんてことを…。


「ダメですよシロさん?友達に酷いことしたら…」


「パパどうしたの?」

「パパ怒ってるの?」


 ダメだ、子供にこんなとこ見せちゃ…。

 相手を力で捩じ伏せるだなんて。


  とすぐにそう思うとスーッと血の気が引いていき冷静になっていくのがわかった。


「ごめん… 少し熱くなった」


「はぁよかった、いつものシロさんに戻ってくれた…」


 妻にも申し訳ないし、子供達は俺を怖がるはずだ。


 こんな風に力を使ってはいけない。


「ごめん… 二人ともおいで?もう怒ってないから?」


「「ほんと…?」」


「本当だよ?パパもう恐い顔しないから?許して?頼むよ…」


「「ぱぁぱぁ~!」」ギュウ


「よしよしごめんごめん、怖かったな?」


 子供を守るはずの親が一番子供をびびらせてしまうとはなんたる失態、普段あまり怒鳴り付けたりしないだけに酷く怯えさせてしまったことだろう。


 すまない子供達、どうかこんなダメな父親を許してほしい。


 ガキだな俺…。

 昔と何も変わっちゃいない。





「おまえ達!大丈夫か!?」


 すぐに姉さんや他のメンバーが降りてきた、しかし俺が無傷なのに対してホワイトタイガーさんはボロボロ、ここまで一方的に女性を痛め付けるなんて男としてもいい行いとは言えない、俺はまだまだ子供だ、しっかりしてたつもりなのに。


「ホワイト、お前はいつも堅いんだよ!なぜいつもそう形式ばった考えしかできないんだ!」


「我はただ… 自分の立場に誇りをもっていただけだ、中途半端な気持ちで参加してもらいたくはないし混血のヤツはハンデがあると思ったからな… しかし、とんでもない… あんな力は見たことがない」


「誇りとか力なんてどーでもいいから謝れ!… シロ、すまなかった!コイツはこういうやつだから友達が少ないんだ?ガチガチな言い方しかできないんだよ?多目にみてやってくれ?頼むよ!」


「いいよ… いや、俺がやり過ぎた… ごめんなさい」


「パパいい子いい子!」

「ちゃんとごめんなさい言えたね!」


 あぁ、ダメだ子供にこんなこと言わせてるようじゃ…、


 もっと精進します、立派な父親になります。





 このような騒ぎを起こしてしまったからには大人しく帰ることにした、その日の百獣の王会議はお開きになり後日改めて開かれることとなったが、正直もう行きたくないので断りを入れた。

 姉さんの顔に泥を塗ったことにもなるしなによりホワイトタイガーさんを叩きのめしたのだ、既に顔向けできたものではない。


 ところで…。


「みんななんで集まってたの?」


「「…」」


 そうだ、皆揃ってどうしたのいうのだろう?説明を求む。


「なんで黙ってるの?かばんちゃんも無理しないでよ?身重なんだから!」


「え?ラッキーさん僕妊娠したんですか?」


「シテナイヨ」


「「え?」」


 まてまて~?なんかおかしなことが起きてますねぇ?誰の仕業かな?


「博士達がね?シロちゃんがフリシアンと浮気してるって言うから確かめに行ったんだよ?」


「サーバルおまえ!」

「口は災いの元なのです!」


 なるほど大体わかった。←超絶理解力


 つまりここ数日かばんちゃんがやけに色気を振り撒いていたのもすべてこの賢い子達の入知恵だったのか。


 こそっと概要すべてを教えてくれたかばんちゃんとサーバルちゃんには丁寧にお礼を伝え子供たちがまた怖がらないように室内に逃げてもらった。


 そして俺は数年ぶりの獅子奥義を発動させるために指をバキバキと鳴らす。


「夜がご無沙汰なのも二人に注意されたからだし、近頃寝不足なのも二人が余計なことをしたからだし、かばんちゃんを悲しませたのもお皿とティーカップが割れたのも子供たちを怖がらせたのも全て二人のせいだね?ついでにフリシアンさんに迷惑までかけて」


「我々ほら… ほんの軽い気持ちでほどほどにと言ったのですよ」

「ま、まさかめっきりご無沙汰になるとは思わなかったのです」


「それで俺が浮気してると?心外にもほどがある」


「そ、それならさっさとかばんの誘惑に乗ればよかったのです!」

「そうなのです!かばんだって寂しいのになにも言えず悶々としていたのです!」

「これはおまえ達のためなのです!」

「冷えた夫婦仲を修復してやろうと!」


 それでは問題です、こんな気づかいを素直を喜べる人はいるかな?


 いない!


「さぁ、お仕置きの時間だよベイビィ?」


「あぁ!?」ガシッ

「いやぁ!?」ガシッ


「獅子奥義!アイアンクロー!」ギリギリ


「「あぁぁぁ!?痛いのですぅ!?」」


 苦しめ!苦しめ!俺達の痛みはこんなもんじゃねー!


「しかし芸のないやつですね!イタタタ!」

「相も変わらずアイアンクローとは!イタタタ!」


 そうかそうか、じゃあ新技を試さなくてはなりませんねぇ?


「からのぉ…」


「「え!?」」


 喰らうがいい… 両利きになり均等な力が加わった新たなるアイアンクロー。


 名付けて!


「新獅子奥義!スピニングアイアンクロー!!!」


 説明しよう!新獅子奥義スピニングアイアンクローとは!

 アイアンクローの状態で両腕を大きく広げ!竜巻の如く回転を加えることにより長の二人を更なる苦しみへ誘うのだ!


「「アァァァァァー!?!?!?」」ギュルルル



 事後。



「ず、頭痛がするのです…」

「吐き気もです…」


「まったくこの早とちり変態フクロウめ、夫婦の問題に首突っ込むなっての…」


 ちゃんと考えていたんだよ俺だって!ちょろっとロッジまでいってやっちゃおうとかさ!なかなか暇がないだけで!


 やはり子供が寝たらちゃちゃっとするしかないか?


 週一とかなら!いや月一とか…?





 数日後。


 いろんな人に謝ったり、城に空いた穴の修理をしたり忙しかった毎日だ。

 

 結局寝不足もあってご無沙汰なままだし。


 なんて思っていると博士と助手がよそよそしく俺にこんなことを言ってきた。


「その~シロ?最近はやはり…」

「ご無沙汰が続いてますね?」


「おかげさまでね」ムスッ


「そ、そう怒らないでほしいのです!」「我々さすがに申し訳なかったのでプレゼントを用意したのですよ?」


「プレゼント?」


 一体なんだ?と案内された先は地下室、そこで俺の見たものとは…。


「えぇ!?いつのまにこんな!?」


「これならバッチリなのですよ!」

「声を殺す必要もありません、好きなだけ騒ぐのです!」


 若干や無理のある感じと思われた地下室にはダブルベッドがねじ込まれているではありませんか!?


 つまり子供が寝静まったらここで思う存分励み、その後何事もなかったかのように寝室に戻れと言うのだ。


「ま、まったく余計なことを!」ワーイ!


「照明もいい感じにいじれるのです」

「やはりピンクがいいですかね?」


「いや… なんかありがとう…///」


「当然の配慮です」

「この島の長なので!」



 なんだよ長ぁ!気が利くじゃあねぇか!一生着いていきます!←チョロアマ



 その晩の地下室…。


「な、なんだか緊張しますね?」


「ここは本当に縁のある部屋だね?… そんなことよりごめん、もうさっきから我慢できないんだハァハァ」押し倒し~


「アン…食べてくださぁい?///」

  

 その晩は抑え込まれた性欲が爆発し俺と妻は体力の続く限り愛し合うこととなったのであった。


 ゴトゴトゴトドッタンバッタン


「図書館が揺れている気がするのです…」「夜の獅子奥義なのです…」


 アァン!シロサァンスゴォイ!オカシクナッチャァウ!モウダメェアァハァン!


「かばんちゃん凄い声… こ、これじゃあわたしたちが気になって眠れないよぉ///」





 しかし翌朝のこと、体力を使い果たした俺達はうっかりそのまま地下室で眠ってしまった、そして…。


「「ぱぁぱぁ~!まぁまぁ~!どぉこぉ!?うぇぇえん!?!?!?」」


 と泣き叫びながら走り回る子供たちに気付き飛び起きることとなった。


 夫婦仲も大事だけど、ちゃんと子供が寝てる間に寝室に戻りましょうね?とそんなことを学んだ事件でした。


 チャンチャン!

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