第5話 百獣の王会議
お風呂に入ったし歯も磨いた。
あとは寝るだけだ。
しかし…。
「フンフフフンフフフンフフフン♪」
それは無理だ… なぜか今日は妻が俺を試してきてる気がする。
鼻歌なんて歌いながらクシで髪を解いている、フワリといい香りがして濡れた髪が色っぽい、それに気のせいかもしれないが胸元のボタンもいつもよりひとつ開いている気がする、なぜだ?
なぜ、なぜそんなことをするんだかばんちゃん?子供達に悪影響だから我慢しますと言ったじゃないか?しかも君は妊娠したんだろ?←してない
なぜ邪魔をするんだい?俺の覚悟を試しているのか?たまたまなのか?あのイベントたちがたまたま?そんなことがあるのか?
「シロさん?」
「え?はい」
「修行… いつも疲れませんか?ちゃんと眠れてますか?あまり無理しないでくださいね?」←聖母の輝き
そんなことも… たまにはあるよね!←思考停止
その挑戦受けてたってやる、俺はそれでも耐えてやる。
そしていつのまにかサンドスターを使いこなしてサンドスターライオンになって師匠に勝てるようになるぞきっと多分限りなく0ではない可能性としてな。
あ、そうだ… そんなことより例の件を話さないと。←気を紛らわしたい
「かばんちゃん、今日姉さんから言われたんだけどね?」
「はい?なんですか?」
「なんか百獣の王会議ってのが三日後の朝にあるんだって?参加しないかって言われたんだけど、どうしたらいいかな?こっちの仕事もあるし断ってもいいんだけど」
「百獣の王会議…?ですか?なんの集まりなんですか?」
ざっくりとしか聞いてないのでうまいこと説明できないが、聞いた通り大型猫科フレンズが集まりあれこれ話すんだと伝えた、具体的に何を話すのか?それは知らん。
「そんなのがあったんですね?あ、だからお姉ちゃんは平原の城を任されてるんですね?行ってみたいんですか?」
「いや、俺は半端者だしどうかな?って、あんまりこっちのことかばんちゃんに任せきりもよくないし」
と、この時についいつもの感じで彼女の髪を撫でた。
やや濡れた髪をするりと指が通り紅潮した頬に手が触れた。
柔らかく、そして温かい。
あ、しまった。
いけない、こんなことをしては…。
静まれ静まれ!
すると彼女は頬に当たる俺の手に触れて照れくさそうに頬擦りをしながら言った。
「僕なら大丈夫ですよ?お姉ちゃんの顔も立てないとなりませんし、行ってあげたらどうですか?」
「そ…ぉ?」
「それとも…」
うっとりとした表情のまま潤んだ瞳を向けた妻は俺に言う。
「止めないと、シロさんはまたどこかへ行ってしまいますか?」
そんなつもりはない。
もちろんそんなつもりはないが…。
「俺はどこに行ってどんなことになったとしても必ず君のとこに帰るよ?約束する…」
なんで?
なんで今日に限ってそんなに色っぽい顔をするの?
我慢しないと、本当はそのパジャマを今すぐひっぺがしてやりたいがダメだ、しっかりしないと。
子供達が寝てるからって甘えてはいけない、そうだ!お腹の子の為にも!←勘違い
でも…。
「はい、信じてます…」
先ほどまでソワソワとしてた彼女だがどこか寂しげな表情で笑いそう呟いた。
なんだろう?なにか不安なことでもあるのかな?
俺のせい?俺、なにかしたかな…?
「ねぇ、なにかあった?」
「え…?」
「なんだか今日変だよ?悩みごと?」
「いえそんなことは… 大丈夫です」
それが大丈夫な顔か、やはり俺のせい?
「夫には言えない悩み?」
「そ、そんなんじゃないですよ!本当に大丈夫です!大丈夫ですから!でも、あの…」
「ん?」
「ずっと、一緒にいたいです…」
やはり不安にさせていた?
なるべく家族四人は離れない方がいいということだろうな、今度から多少無理にでも彼女を連れていこう、それがいい。
「それじゃ、逃げないように首輪でもつけようか?」
「もぉ… つけないとどこかへ行っちゃうんですか?」
「行かないよ、でも不安なら首輪でも手錠でも何でもどうぞ?ってこと」
そんな会話で彼女は笑顔を取り戻したが、もしかしたら妊娠して気持ちが不安定だったのかもしれない、クロとユキの時もそんな傾向があったし…。
そんな時は激しい夜を過ごしお互いに発散するのが同時に気持ちの確認にも繋がるのだが、今はそうはいかん。
「じゃあいつものやってから寝るよ、おやすみかばんちゃん?」
「え、あの…」
「どうかした?」
「いえ、はい… おやすみなさい」
誘惑に打ち勝つためいつもより長めにサンドスターコントロールに勤しんだ。
…
翌朝…。
「かばん、結果は聞かずとも分かるのです」
「我々は耳がいいので…」
「いい感じの雰囲気にはなったんです、でも…」
「どうしたの?」
「キスもできませんでした…」
聞いたとき、本格的にヤバイのです!と長は青冷めた。
まさかあのシロがかばんの猛アピールを受けながらも夜を過ごさないとは思わなかったのである。
二人の見立てだと、すでに愛人と一戦終えているために所謂賢者タイムとかいうのに入り性欲が薄かったのではないか?という結論に至った… が無論勘違いである。
当のシロと言えば、昨晩の猛攻撃故にまったく眠れず寝不足気味であった。
とうとうユキの尻尾を引く力に負けてベッドから落下するほどに。
そんないつもより悶々とした日々が過ぎあっという間に例の三日後が訪れた…。
「「百獣の王会議?」」
「うん、姉さんの立場もあるだろうし行くだけ行ってくるよ?ふぁ~…ねむ…」
「一人で行くのですか?」
「うん、だってなんか真面目そうな集まりだしみんなを連れてっても仕方ないでしょ?」
「「ほう…」」
「なにさ?」
なんだ… なんかイライラしてきた、ここ数日まともに眠れなくって大変だよ。
だってかばんちゃんいちいち可愛いから萌え死にそうだ、なんで抱いたらダメなの?もういいじゃん、パパとママは仲良しなんだ。
あぁもう~だめ!今夜ムラムラしたら我慢する自信ない!存在が既に俺を誘っている!
「それじゃいってきまーす…」←ゲッソリ
「あ、シロさん?どれくらいで帰ってきますか?」
「ん~…わかんない、晩御飯まではかからないと思うけど…」
「じゃあこれ、お弁当です!良かったらお昼に食べてください?」
なんか泣きそうになってきた… もう行くのやめようかな?今日は1日かばんちゃんにくっついて過ごしたい、膝枕が恋しい… あーんいっらっしゃいのチューして?
でも行かねば… 行かなくては。
…
城に着くなり姉さんは俺に言った。
「なんだシロ!?酷い顔だな!?」
三日の合計で1日分も寝てないもの、そりゃあそうだろうさ。
「ところで、どんな子達がくるの?」
「お前もよく知ってる子ならジャガーだね、それとその姉ちゃんのブラックジャガー」
へぇ~?ジャガーちゃんくるんだ?
っていうかジャガーちゃんってお姉ちゃんいたんだな。
あと来るのはどこか親近感が沸くホワイトタイガーさん、それからハンターもやっているサーベルタイガーさん
絶対みんな俺より強いよねそれ、サーベルさんとか絶対手も足もでない、そしてその中で一番強い姉さんは本当になんなんだ、意味がわからん。
…
一方図書館では長の二人が相も変わらず暴走推理を続けていた、この三日間で頑なに手を出さなかったシロの浮気が確定したと項垂れているのだ。←無実
「決まったのです…」
「決まりましたね…」
二人は思っていた…。
「「なぁにが百獣の王会議ですか!」」
最もらしい理由を述べて行くのは結局平原ではないか、ライオンのとこに行くと言いつつ牧場に行くに決まっている… と二人はそう考えていたのだ。
「やむを得ません、かばんに伝えるのです」
「しかし、博士!」
「いえ、実際確定と言って差し支えありませんがかばんには飽くまで可能性として伝えるのです」
「なるほど、それでも相当のショックを受けるでしょうが… 仕方ありませんね?」
朝食が終わり子供達の相手をサーバルが引き受けている… その間洗い物しているかばんの元に現れた長達は、とうとうぶっちゃっけてしまったのだ。
パリーン!
「えぇ…ッ!?浮気ッ!?」
その時の彼女の顔は絶望に絶望を重ねたまさにそう、シロリアン事件並に絶望した顔だった… と後に長は語る。
「か、可能性の話なのです!」
「まだ慌てる時間ではないのです!」
「嘘ですよね…?嘘に決まってます!シロさんはそんなことしない!」
「ひ… ま、まだ確定ではないのです」←シュッと細くなる
「お、落ち着くのですかばん!野生解放は必要ありません!」
ボウッと目に光を灯し鬼気迫る表情で細い博士に掴みかかかる彼女を助手がなだめた。
冷静になるかばん、すると勢いは消えて見る見る元気を無くしていき、やがて彼女は泣き崩れてしまった。
「どうして…?どうしてなのシロさん…?」
それに気付いたサーバルと子供たちも駆け寄った。
「なになに!?かばんちゃんどうして泣いてるの?」
「ママどうしたの?」
「どこか痛いの?」
普通に大事なのです。
家族の危機なのです。
まったくシロのやつ!
と、あらぬ誤解を招いたまま話は進んでいった。
これでは子供達が不安になるとサーバルには二人を連れて少し外してもらい、その間長の二人は飽くまで可能性の話だと前置きをしてかばんに例の件の概要を話した。
「ということなのです、いえ!もちろん可能性の話ですよ!?」
「そうなのです!事実確認がいるのです!」
パリィン!
「「ひぃ!?」」
「なんですか今のは!?」
「触れてもいないのにティーカップが割れたのです!?」
「だから僕との夜はもう過ごしてくれなかったんですね…グスン 僕、どうしたらいいんでしょう?捨てられちゃんうんでしょうか?子供たちはどうしたらいいの…?」
マジヤバイのです…。
シャレにならんのです…。
しかし!
ならばやることはひとつであった!
「かばん!何をぼさっとしているのです!」
「ならば確かめに行くのです!」
「でも… それで本当に浮気だったら僕…」
「その時はとびきりキツい処罰を考えるのです!」
「この島の長の名に置いてお前たち家族は我々が守るのです!」
「博士さん… 助手さん…」
チームジャパリ図書館は、子供たちまで引き連れて彼がいる筈もない牧場まで足を運ぶのだった。
…
「皆、集まったな?」リーダーボイス
場所は平原、我が姉であるライオンの城。
そこに数人の手練れが集まっていた。
「じゃあ会議を始める前に私から紹介しよう… 知ってるやつも多いと思うが弟のシロだ、シロにはホワイトライオンとして参加してもらったが、異論のあるやつはいるか?」
「えー… というわけで、シロです」
き、緊張するなぁ… なにが柄じゃないだ思いっきりリーダーシップ発揮しちゃってさぁ?姉さんったらもう、このカリスマ!
「シロー!よろしくね!」
「よろしくジャガーちゃん」
顔見知りいるのは本当に助かるな。
それから…。
「ブラックジャガーだ、お前の話はよく耳にする… よろしく頼む」
こちらの物静かで硬派なお方がブラックジャガーさん、ジャガーちゃんの姉。
いかにも手練れという感じで気難しそうだが、どうやら彼女は歓迎してくれるらしい。
「サーベルタイガーです、歓迎するわ?よろしくね?」
サーベルタイガーさん…。
名前の通りその手には武器のサーベルが握られている。
名前が由来で刃物の武器が具現化するなんて、さすがというべきか?
そして最後にこちら。
「我は見ての通りホワイトタイガーだ、シロとやら!お前にひとつ言わせてもらう!」
なんか強烈な子が現れたな…。
「お前を認める訳にはいかない!」
ホワイトタイガー… 彼女はビシッと指を差し俺に言い放つ。
ほら見ろよ姉さん?だからアカンと言ったんだ俺は、彼女を見ろよ?まるで平成ライダーを認めない昭和ライダーだぜ?
だが隣の姉や周りの子達を見ると「やれやれまたか」と言わんばかりの空気が漂っていた、どうやら彼女はこの集まりの問題児らしい。
「ホワイト、弟のなにが気に入らん?」
「まずその弟だからといってこの誇り高き会議にシレっと参加するのが許せん、血の繋がりもないのに弟だと?笑わせる!」
仰る通りですはい… それを聞きジャガー姉妹も動揺を隠せないご様子。
「えぇ~… それ言ったら私たちもさぁ?ねぇ?お姉?」
「そうだな… 少し胸に刺さる」
「お前たちはいい!今はこの男のことだ!」
なるほどつまり俺がどうしても気に入らないと言うのか、女性専用車両に男が乗ってしまった感じと似ている気がする。
姉さんに「ほら~」って目配せしてみると「気にするないつものことだ」と言うような呆れた笑いを浮かべていた。
「お前の行い自体は構わん、フレンズの為にりょーりとやらを振舞っていると聞く… それは良いことだと思う!是非我もあやかりたいものだ」
「どうも」
「だが、それとこれとは別だ!聞けばホワイトライオンとヒトの混血だそうだな?そのような半端な者に百獣の王の勤めが果たせるとは思えん!」
半端者… 半端者か…。
確かにそうだ、否定はしない、俺自身そう思ったから始めは断った。
ただ少し胸に刺さるな、パークに来て初めて差別的な発言を受けてしまった。
尤も彼女は何も「このハーフ野郎出てけ」と言ってる訳ではない、百獣の王として不完全な俺には不適切だと言っているのだ。
「そう?じゃあ帰るよ、家族を置いてここまで来てるんだ?早く帰って顔が見たい」
「おいシロぉ?気にすんなよもう少しいろよぉ?」
「ねぇシロ… さん?あなたが気に入らないのはホワイトタイガーだけよ?お気になさらなくても…」
「そうだよシロ!」
「同意だ」←便乗
みんなは歓迎してくれるがどーもあのホワイトタイガーさんだけは俺を許せないようだ、この集まりに参加することという立場?にかなり重きを置いているとお見受けする。
別に俺は無理に参加しなくても…。
「そもそも、噂に聞くホワイトライオンがここに参加すること自体が我には疑問だ」
なんだって?ちょっと耳にピクッときた。
まさか今ホワイトライオンそのものを否定したのか?ホワイトライオンだって立派なライオンなんだぞ。
「噂ではホワイトライオンはぐーたらで食い意地が張っていて二言目には腹が減ったなどとぼやくだらしないフレンズだったそうだ」
ん~… いやまて、聞こう… 半分同意。
「そんなヤツが我々に匹敵するほど強いはずがない、それは日々鍛練を重ねる者に対する冒涜だ!」
そりゃ確かに、普段頑張ってる人とそうでない人ならそうだろうなぁ…。
「おいホワイト… 噂は噂だ、そういう言い方はやめろ」
「姉さんいいよ、概ねその通りだから」
「でもシロお前…」
母のことを言われると少し頭にくるが仕方ない、確かに母はあまり勤勉に働く方ではない。
が、ぐーたらは言いすぎだ、ちょっとのんびり屋さんで食事に対する感謝が人一倍強いだけだ。
だが… 勿論あまり言われるとキレそうだ、寝不足でイライラしてるんだ俺は。
母さんだってダラダラしてただけではない、母さんは俺や父の為に慣れない家事を覚えてくれたんだ。
恐かったであろう火を克服して料理をしてみたり、何枚も皿を割りながらも洗い物をしてくれたりしたんだ。
フレンズでありながら、ヒトの生活に馴染もうと。
「果てはヒトのオスの為にその責務を忘れパークを捨てたのだろう?そんなフレンズの為の席など用意する必要はないと我は思うが」
何も知らねぇくせに、言ってくれるな…。
ギリッ と奥歯を噛み締め怒りを堪えたつもりだが、母のことを偏見でまだ言うのなら俺は黙ってはいられない。
「母さんはパークを捨てたわけじゃない、それに噂ほどだらしなくもない」
「お、おいシロ…」
声や表情に出たのか姉さんは珍しく慌てた様子で俺の肩に手を置いた… が。
「どうだろうな?どの道そんなだらしないフレンズの半端者のお前には何かを守る力などない、“さらに半端な子供”のとこへ帰るがいい… 何、心配しなくても我々とハンターがいれば…」
「おい…」
俺は言葉を遮りホワイトタイガーの前に立った、今のはさすがに聞き捨てならない。
偉そうに喋りやがってこの白猫め、俺や母さんだけじゃない、子供たちのことまで言いやがった。
「俺の子が… なんだって?」
空気がピリピリと張り詰めた。
上等だ、噂通りか確かめさせてやる。
ホワイトライオンってやつをな。
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