第3話 おばちゃん

「パパー!あれやってー!」

「踊るやつやってー!」


「いいよ~?ラッキー音楽かけてー?」


「任セテ イツモノデイイカナ?」


「うん、いつでもいいよ」


 今日のお昼はオムライス、家族が多いのでフライパンひとつでは足りません。

 そんな時はこれ、歌って踊って楽しくケチャップライスが作れます。


 右手にケチャップライス左手にケチャップライスで交互に炒めましょう… せーの!


「Let'sホップステップみんなあーつまって~♪」シャンシャン

「ジャンプジャンプすっごいいいかんじぃ~♪」シャンシャン


「「きゃあハハハハ!」」


 今日も平和ですね、二児の父シロです。


 両利きにしておいてよかったよ、じゃなきゃこんな炒め方はできない。


 今日はお昼を食べたらへいげんちほーの城を目指します、俺の姉のとこに子供たちを連れていかないとならない。


 姉さんは威厳たっぷり百獣の王でしっかりものだが、意外と子供っぽいとこもあるのでたまに顔を見せないとふて腐れてしまう


 続柄でいうと子供達にとって我らがライオン姉さんは叔母に当たる、まだまだ若くピチピチの姉さんだが子供たちには「ライオンおばちゃーん!」と元気よく呼ばれている、がもっとも姉はそんな呼び名に対し…。


「おぉ~オバチャンだぞ~!おいで二人とも~!」


 と満足気な様子だったのでなにも問題はない、何より家族を大事にする姉さんなのでそう呼ばれるのが逆に嬉しいのかもしれない。

 まぁ予想通りといえばまったくその通りの反応だ、俺としては部下の皆さんの反応のほうが面白かった、がそれは後で話そう。





「じゃあかばんちゃん、晩御飯までには戻るからあと頼むね?」


「はい、任せてください!二人ともワガママ言っちゃだめだよ?」


「言わないよ?」

「いい子にしてるもん!」


 というわけで、図書館ラッキーを運転席に設置してジャパリバス発進、帰りに牧場で玉子と乳製品を回収しつつ子供たちにワタアメを作ってあげよう、なので俺はザラメを持っていく。


「ラッキー!お歌うたってー!」

「うたってー!」


「任セテ ドライブニピッタリノ曲ガアルンダ」 

ピピピピピ

『丘を越えて山を越えて谷を越えてゆくんだ~♪』


 運転もできて音楽も聞ける、お子さまのいるご家庭に是非一体どうでしょうか?ガイドロボットラッキービースト!

※個体により性格が異なります、特に腕時計タイプ。





「ふぅ~!とうちゃーく!降りておいで~?」


「「わーい!」」


 と二人を両腕に抱くと俺はまっすぐ城の入り口に着いた、そこにはやはりあの二人が待っている。


「あ!おとーとさん!おはようっす!」


「おはようございます弟さん!」


「おはようオーロックスさんオリックスさん、ほらちゃんと挨拶しなさい?」


「「おはようロックスちゃん!ラビラビちゃん!」」


「おはようお嬢に若、今日も元気だね?」ナデナデ


「でかくなったっすね!お嬢!若!」


 姉さんの部下の皆さんは子供達をそう呼ぶのだ、前からか思っていたがなぜここの人達はこう任侠じみた感じになっているのだろうか?そんなに厳しい世界じゃないでしょ、大将はあんな感じだし、ツキノワさんは普通だ。


 ちなみにオリックスさんの“ラビラビ”と呼ばれる理由は子供達が覚えてくれないからとツキノワさんがぶっちゃけた名前だ。


 こんな事があった。


 まだ俺たちがキョウシュウに帰りたての時だ、子供が生まれましたと姉さんのとこに挨拶に行くことにしたのだ。





「かぁわいいなぁ~!二人ともお前達にそっくりじゃないかぁ!甥っ子と姪っ子かぁ~!ほーれよちよち!オバチャンだぞ~?」


「「キャッキャッ」」


「なんだー?ニコニコして本当に可愛いやつらだなぁ~?どーれオバチャンのおっぱい飲むか~?」ヌギ


 その時姉、母性が振り切れて脱ぎ始める。

 俺たちは焦ってそれを止めた。


「「ストップストップストーップ!?」」


「ん?」


「やめてよ姉さん!そこまでしなくていいから!」


「お姉ちゃん!それは僕の仕事ですからぁ!っていうか出ないですよね!?」


「アッハッハッ!冗談だよ~?ビックリした?」


 嘘つけ!なんで寸前までいった!?


 という具合で甥っ子姪っ子フィーバーした姉さんは完全に叔母バカと化していた。


「ほらお前達も抱いてみなよ?可愛いぞー?」


「うん、みんなも抱いてあげて?たくさんの人に抱っこされないと人見知りになっちゃうから」


 と部下の面々にも二人を抱かせてみるとツキノワさんはまぁ普通だったが、ただ門を守る二人が… まず割れた腹筋が素敵な角美人オーロックスさんの場合。


「す、すげぇ小さいっすね!オレなんかが抱いてたら怪我させそうだ!」


「キャッキャッ!」


「まてまて!なんで暴れるんだ!?角か!?角はあぶねぇ!尖ってるんだ!あぁ待て待て待て!やややべぇよぉ!?どうやって止めたらいいんだよぉー!?」


 オリックスさんはと言えば。


「やっぱりおとーとさんにそっくりだね?へぇ… 可愛いなぁ」


「えぇ~ん!!!」


「あ、あれ!?ごめんごめん!?なんでだぁ!?わっかんないぞ?あれぇ!?よしよし!泣き止んでー!?」


 慣れない幼児に振り回されその日はくたくたのライオンズであった。

 そして呼び名の件だが、子供たちが言葉を喋り始めのころこんな事があったのだ。


「ライオンおばちゃんだぞー?」


「らいおおばちゃ!」

「おばちゃ!」


「おぉ~!よくできました~!」


 二人もよく姉さんになついてキャッキャッと笑うことが多かった、そして部下の面々もやはり同じで子供たちを可愛がってくれる。


「ツキノワグマ!」


「ツキグマ!」

「ワグマ!」


「あはは!まだ難しいかな~?」



 それからやはりダブル門番は…。

 


「オーロックスだ!」


「ろっくしゅ!」

「ろくしゅ!」


「アラビアオリックスだよ?」


「あらば…りくしゅ!」

「ろくしゅ!」


 門番の二人は名前が複雑故にだんだんと混ざり始めた、そして最終的にこうなってしまった。


「「おーりくしゅ」」


「やべーよ合体しちまったよ…」

「やっぱり難しいのかな?どうしよう…」

 

 子供達の中で名前がフュージョンしてしまった二人はやや焦り気味だった… このまま自分達はセットで呼ばれ続けるのだろうか?と、しかしそんな危機を救ったのが面倒見のいいツキノワ姉貴である。


「いいこと考えた!ほーらこっちのお姉ちゃんはラビラビだよー?」


「「らびらび!」」


「ラビラビっておい!ツキノワ!」


「「らびらび~!」」


「ラビラビで… いいか…///」


「可愛いと思うぜ!ラビラビ!」


「「ろくしゅ~!」」


「お、おう///」


 珍しくオリックスさんとオーロックスさんの照れた顔が見れたので良しとしよう、小さな子供というのは身内を妙な略称で呼ぶものさ。


 ということがあり子供たちのなかではライオンおばちゃんのとこはみんな遊んでくれるから楽しいしツキノワお姉さんとロックスとラビラビであると定評があるのだ。





「姉さん、来たよー?」


「「きたよー!」」


「おぉ~!よく来たなお前達~!」


 と部屋に入るなり、子供たちと絡み合う姉さんは早速耳と尻尾を引き回されるがそこはさすが姉さん、まったく動じない。


「お前はほんとに耳が好きだなぁクロ?おばちゃんもクロの耳好きだぞ~?それこちょこちょ~」

「きゃあハハ!くすぐったーい!」


「ユキはまた尻尾引っ張ってるのか~?ずいぶん強くなったなぁ?おばちゃん尻尾抜けそうだぞー?ほれぐーるぐる~」

「きゃあ~!もういっかーい!」


 お耳でキュンキュンしてるクロと尻尾でブンブンに振り回されるユキの楽しそうなこと、だが楽しいからといってあまり姉さんを振り回してはいけないよ、来て早々クタクタになってしまう。


「クロ、ユキ、おばちゃん疲れちゃうから離してあげなさい?」


「「きゃあハハハハ!」」


 聞いちゃいません。

 こらー!はしゃぎ過ぎよ!


「いいんだよシロ!私も楽しいからさぁ~!可愛い子達だなぁ本当に!」


 と子供達がひとしきりはしゃいだ後にようやくゆっくりと話に入ることができる、と言っても改まって話すようなことがあるわけではない、近況報告のようなことをするだけだ。


「元気そうだね姉さん?」


「姉ちゃんはいつでも元気さ、子供もヤンチャ盛りで大変そうだね?」


「目が離せなくてさぁ、まぁ大変だけど元気ならいいかなって」


 とまぁ、正月に親戚が集まった時みたいな会話を繰り広げるわけだ、その間子供たちはボールに夢中だ、猫かっつーの… ん?あぁ猫か?


「子供はいいなぁ、癒されるなぁ… ところでなぁシロ、パパさんは今度いつ頃来るのかな?」


「その流れで父さんのこと聞かれるのなんか複雑なんだけど」


「なんだ~?ヤキモチか?お前もまだまだ可愛いやつだなぁ!」


 じゃなくてあなたがシレっと俺の母親に昇華しようとしてる節があるのが複雑なんですよ姉さん?頼むから姉さんは姉さんのままでいてくれ、この歳で弟か妹ができるのもなんかあれだ。

 しかももしそんなことになったら奇妙な話だが… 生まれる子供は血縁上クロとユキの叔父か叔母になるな、やれやれ「一日だって忘れたことはない!」とドラマのようなセリフを吐いておきながら、父親がちゃっかりやることはやる証拠見付けるのはさすがに辛いぜ。


「そうだ!」


 とその時姉さんが思い出したように俺に言った、もちろんパパさんの件とは別件だ。


「少し大事な話があるんだったよ」


「長くなる?」


「子供たち退屈するかな?まぁ待て… ツキノワ~!」


ス…

「はい大将!」


 姉さんが名前を呼ぶとすぐ近くにいたのかすっとツキノワさんが現れた。


「あ!ツキノちゃんだ!」

「ツキノちゃんおはよー!」


「お嬢~!若ぁ~!おっきくなったね~?」


「少し子供達の相手をしてやってくれるか?弟と大事な話がある…」リーダーボイス


「例の件ですね?了解です!おいで二人とも~?お姉ちゃんと遊ぼー?」


「「わーい!」」


 例の件?なにか面倒事でもあっただろうか?





 その頃ジャパリ図書館


「そういえばかばんちゃん、どうして着いて行かなかったの?」


「アライさんたちもいないし、誰かがここで家事をやらないとって思って、帰ってくる頃には晩御飯を用意して待ってないとだし」


「かばんちゃん、すっかりお母さんだね!」


「えへへ、それにね?サーバルちゃんともたまにはゆっくりしたくって?」


「ほんとー!?かばんちゃん!ずっとずっと大好きだよ!」


 そんな健気な妻かばんを見て長は気付いた、なにか違和感を感じる… まさか二人は今不仲なのではないか?そんなよくない憶測が頭を過った。


「変… ではないですか?」


「何がです博士?」


「いえ、別に我々など放って行くこともできるのです、料理は作り置きもできるのですから」


「なるほど確かに… なにか理由があってかばんが残ったと?」


「そうです助手、二人のことで最近気付いたことはありませんか?」


「二人のことで…」


 長はその明晰な頭脳をフル回転させて考えた、普段と違う様子はなかったか?よそよそしくはないか?目を見て話しているか?など細かなことにも記憶を探り思い出そうとした。


 そして気付いた、二人はとてもおかしいことに気付いた!

 

「助手!」

「博士!」


「気付きましたか…」


「はい博士、二人は…」


「「夜がご無沙汰なのですっ!?」」←衝撃事実


 そんなはずはない… と再度考え直したが、少し前まで確実に毎晩聞こえていた何とは言わないが何かの軋む音や、どんなとは言わないがかばんの声が聞こえなくなった、二人の荒い息づかいもだ、長の耳に立体的に捉えられていた艶かしい音が明らかに欠落していた。


「いったいなぜ…」


「可能性としてあげられるのが、シロもやっと子供に気を使えるようになったとか?」


「急にですか?一因の一つではあるかもしれませんがアイツはそんなに辛抱強くないのです、もし本気でやるなら地下室で寝るくらいのことをやる男です」


「確かに… では、かばんがアレの日なのでは?」


「長すぎます、だからこそ我々も違和感として気付いたのです」


「フム… ということは気持ちの面が原因なのでしょうか?」


「「ッ!?」」


 その時、長に電流走る!


「「飽きた…!?」」←先入観


「ま、まずいのです!きっとシロがかばんでは満足できなくなったのです!」


「シロ… 野生の次は性欲に振り回されるとは憐れなやつ!」


「きっと今回かばんが残ったのもシロが指示したのです!」


「博士!つまりそれは…!?」


 二人は不安を隠しきれず冷や汗を流し、顔を見合わせるとお互いの苦を表すような表情につい目を逸らした。


 そして二人は結論を口にする。


「「浮気…」」←先入観


 長ッ!!! 暴走ッ!!! 


「し、しかし… 子供達を連れていったのです!決めつけるのは早計では?」


「どこに連れていったか覚えているでしょう助手?」


 シロは子供達に言っていた。


「ライオンおばちゃんに会いたいか~!」


 と、そして子供達は答えた。


「「あいたーい!」」


 この時はなんとも思わなかった、身内に顔を出すなんて律儀なやつです程度の考えであった… しかし。


「まさか、子供を預けて?」


「そうです助手、全てカモフラージュです… しかも帰りにどこに行くと言っていたか忘れた訳ではないでしょう?」


「ハッ!?」


 シロは言っていた。


「子供達がワタアメ食べたいみたいだからザラメ持ってくね?牧場寄ってから帰るよ、ついでに食材もらってくから」


「あ、はい!お願いしますね?」


 夜がご無沙汰、妻を置いて子供と姉の元へ、帰りに牧場へ… これらの証拠から長の二人には全てお見通しだった、その相手とは。


「「フリシアンッッッ!!!」」←勘違い


「シロはおっぱい星人でした!」


「あの魔乳でたぶらかされたに違いありません!」


 ガクリとその場に手をついた二人は思った。


「これはダメですね」

「ダメなのです」


「何か対策をとるのです」

「ですね、一度整理しましょう」


 二人はかばんの作ったシュークリームを食べながら考えを巡らせた。


 子育て奮闘中でもシロを女難の相が襲う。

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