Case1-2

一時間あまりのち、レベッカの携帯電話が鳴った。


丁度市警ビルの殺人課オフィスに戻ってきた時だった。


「レベッカです」


レベッカが電話に出る。


《レベッカ刑事、バンクオブニューヨークのフレデリックです》


マウントサイナイ病院を出て直ぐ、レベッカはマクレガー医師の送金先についてバンクオブニューヨークに確認の電話を入れていた。


その時電話に出たのがフレデリック氏で彼は「送金先が分かったら連絡をする」とレベッカに約束していた。


「確認がとれたんですね」


《はい》


「送金先はベガスに住むマクレガー医師の奥さんですか?」


レベッカが言った。


《違います。えぇと、確かここに………。あった。送金先はニューヨークの『ナタリア・メンデス』さんという方ですね》


「その方は頻繁に口座の利用を?」


《ちょっと待ってください》


フレデリックは言った。


《どれどれ、あぁ…。口座の利用はマクレガー医師から送金されたお金を引き出す時だけですね。他の利用はありません》


「そうですか、ありがとうございます」


レベッカはフレデリックに感謝の意を述べて電話を切った。


そして自分のデスクまで歩いて行って、引き出しに車のキーを放る。


その時だ。


「レベッカ ちょっといいか?」


聞き覚えのあるしゃがれ声にレベッカが振り返ると、そこには殺人課の課長ドーソン警部が立っていた。


「どうも警部、何か用ですか?」


ドーソンは「あぁ」と頷いた。


「ヨークアベニューの安アパートで変死体が見つかった。行ってくれ」


「けど私にはマクレガー医師殺害の捜査が」


レベッカが言うとドーソンは


「担当を変える。その件はマック警部補とリッキー刑事に引き継いでくれ」


「そんな!何故です」


レベッカはドーソンに詰め寄る。


「マクレガー医師は有名な医師だ。当然世間の注目を集める。だから君より経験豊富なマック警部補に任せたいんだ」


ドーソンが言った。


「分かってくれるな」


分かるわけない!と今にもドーソンに飛び掛かりそうな剣幕のレベッカだったが、揉めても結果は変わらないと悟り


「分かりました」


と言葉を絞り出した━━━━━。





ヨークアベニューの安アパート

その一室で女は死んでいた。


ベッドに半裸で横たわり、右足はベッドからはみ出してカーペットに着いている。


血は見えない


痣も見えない


今のところ死因は不明だ。


レベッカは部屋のドアの前に立つ警官の前を通り、死体の検死を行っていたローランドの隣に立った。


「1日に2度も現場で会うとは」


手袋をはめるレベッカにローランドが言った。


「3度目が無いことを願うよ」


レベッカは言い、死体から離れて室内を見回す。


気になったのは一ヶ所、半開きになっている窓だけだ。


「それで、死因は?」


「警官の聴き込みによると被害者は一人だったようだし、自殺か病死のどちらかだと思うね」


「もし誰か部屋にいたら?」


レベッカは窓の前に立って言った。


「もしそうなら他殺の可能性も出てくるが、どうしてそう思うんだ?」


ローランドが訊くとレベッカは窓の外に置かれていた灰皿を手に取り、数本分の吸殻を見せた。


中にはまだ火が消えていない物もあった。


「安アパートにはそぐわない高級な煙草よ。被害者以外の誰かがこの窓の前に立って吸ってた」


「その誰かが殺したと?」


「そうかもしれないし、違うかも」


「成る程、では他殺の可能性も考えて解剖を行おう」


「頼みます」


言ってレベッカは吸殻を証拠品袋に入れ、ドアの方へ足を向けたがふと思い出して


「そうだ被害者の身元は?」


と訊ねる。


「ナタリア・メンデス 学生だよ」


ローランドの発言にレベッカは愕然とした━━━━━。




つづく

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Rebecca ムラにゃすฅ(。•ㅅ•。ฅ) @mura1967

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