④
「あの……大丈夫ですか?」
「? ええ、こう見えても料理は出来る方だから」
いや、僕が心配しているのは料理が出来る出来ないの方ではなくて……さっきから厨房の台などの角に足をぶつける、冷蔵庫に足を挟む……などなど、おっちょこちょいではすまないほどの行動をずっとしている事に対してだ。
正直、あれだけ足をぶつけたり挟んだりすれば、こっちも心配になる。
「あっ、でもお菓子作りはあまりした事ないかも」
「そうなんですか?」
「ええ、いつもお菓子作りはヘンゼルがしていたし……なぜか私が作ると失敗しちゃうのよね」
「……」
なかなか
「あの、具体的にどんな失敗を……?」
「うーん。でも初歩的なモノよ? 例えば『卵を一気に入れて分離』したり……あっ、『ダマになっているのに型に入れ』ちゃったり……とか?」
正直、かわいらしく「とか?」で済まされそうにない失敗ばかりに感じる。
なんて僕の心配をよそに、グレーテルさんは「まぁ、なんとかなるわよ」とか言いながらレシピが書かれているノートの上におもしを置き、のぞき込むような形で、レシピを見ながら作り始めた……。
「えっと、まずは
「あの……グレーテルさん。本当に料理した事あるんですか?」
そう尋ねてしまうほどグレーテルさんの包丁の使い方……というか、切り方があまりに不安の残るモノだった。
「だっ、大丈夫よ。ちょっと押さえるのを忘れただけで」
「……」
そう、なぜかグレーテルさんは巨峰をまな板の上に置くと、特に巨峰を
グレーテルさんは笑っているが、見ているこちらは、全く笑い事ではすまされない。
「次に鍋に、水、グラニュー糖、レモン汁を入れ火にかけ、
「なるほど、ワザと皮ごと煮るんですね」
ただまぁ、何とか『包丁で切る』という作業が終わってしまえば、後は簡単に作れるらしい。
しかし、先ほどの話ではお婆さんに命令されてヘンゼルさんに料理を作っていたのだから、包丁を使う事以外の『味付け』などは一応、出来るのだろう。
ヘンゼルさんが無理して食べていなければ……の話だが。
なんて思いながら僕はグレーテルさんが火にかけている鍋の様子をジーッと見つめていた。ただ、熱いので少し遠目ではあったけど……。
「沸騰したら弱火にして、十分間コトコト煮る……と」
「あっ、何か浮いてきましたね」
「えっと、しばらく煮ていると、今度は皮と種が浮いてくるので、種と皮を取り出したらザルにあげてこす……」
「だっ、大丈夫ですか? なんかプルプルしていますけど……」
先ほどまで弱火とはいえ、熱していた片手鍋を片腕で持つのは危ないとグレーテルさんは判断したらしく、両腕でその片手鍋を持った。
ただ意外に重かったらしく、その腕はプルプルと振えていた。
「いっ、今は話しかけないで!」
「あっ、はい」
でもそういった状況で『人間』に話しかけるのは、どうやら『ご
「ポイントは、皮のまわりについている美味しいエキスをしっかりとる事……みたいね」
「それで、さっきこしたものを容器に入れて冷凍して、 固まったらスプーンなどでかき立ててそれを器に盛りつけて、最後にぶどうを一粒のせて完成……と」
「……かき立てる?」
これまた聞きなじみのない言葉だ。
「えーっと、例を挙げるとしたら、爪をたてる……っていう感じね」
「……なるほど。それでは、さっそく冷凍庫に入れましょう」
「そうね」
グレーテルさんと僕はそんなやりとりをしながら、ザルでこした巨峰の液を容器に入れた後、
◆ ◆ ◆
「コレ……で、よしと。とりあえず、コレは私たちが食べて、残りはヘンゼルに食べさせるとして……」
「?」
「さっさと食べて、夕飯を作らないとね」
「あっ、そうですね」
チラッと壁の時計を見ると、あっという間にいつもヘンゼルさんが夕食を食べる時間になっていた。そこで、グレーテルさんは簡単にパパッと料理を作り上げた。
この手際の良さを見ると……あの最初に見た包丁を
ただ、グレーテルさんが作りあげた『夕飯』にもやはり『小麦粉』は使われていない。
「……今はまだ無理だけど、いつかは……って思っているわ」
「それを僕に頼まれても……」
「……そうね」
「でも……」
「ん?」
「僕もヘンゼルさんに助けてもらった身ですから、ヘンゼルさんを助けるのも
僕は思った事を言っただけだった。でも、グレーテルさんは「その思いだけで十分よ」と小さく笑ってくれた。
やはり、
ちなみに……グレーテルさんが作った『巨峰グラニテ』を見たヘンゼルさんは「えっ、姉さんが作った?」とものすごく驚いていた。
しかも、さらに続けた言葉が「大丈夫かな……」だったからなのか、グレーテルさんはヘンゼルさんの頭を軽く
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