②
「いえ……注文を受ける事は悪くありませんし、作るのは僕じゃなくてヘンゼルさんですから」
だから、その注文を受けて困るのは僕ではなく、ヘンゼルさんである。
しかし、ヘンゼルさんもそれくらいは理解した上で受けたはずだ。だが、ヘンゼルさんは必要以上に抱え込み、頑張ってしまうところがある。
もちろん。頑張る事自体が悪いとは言わない。お客様のご要望のために頑張ろうという気持ちも理解できる。しかし、それで倒れられても困る。
「とりあえず1回作ったら寝ますよ」
「えっ」
「……なんですか? 何か間違った事言いましたか?」
「いっ、いや。まっ間違ってはいないけど……」
やはり、ヘンゼルさん的には1度作ってみて色々試行錯誤をしたいだろう。だが、ここ最近のヘンゼルさんは僕から見ても頑張り過ぎている。
もちろん、僕だって鬼ではないからヘンゼルさんのお客様にいいモノを……という気持ちは分かる。
でも、いつもの量をさらにを増やして、しかも営業する。そんな毎日を送っているヘンゼルさんを見ている僕としては一刻も早く寝てもらいたい。
「僕だって、多少はヘンゼルさんの気持ちも理解しているつもりです。でも、ヘンゼルさんに倒れられると、『お菓子』自体が作られなくなって営業なんてとても出来なくなるんですよ?」
「……それは困るね」
「一応、少しは
「そうだね。もう俺一人の問題じゃなくなってきているんだもんね」
ヘンゼルさんとしてはあまり引きたくはなかったと思う。しかし、僕が必死に説得をして、ヘンゼルさんは納得してくれた様だ。
◆ ◆ ◆
「……ところで、このご注文をされたのはどんな方なんですか?」
「あー、前に『キャラメルりんごパンケーキ』を作ったよね?」
「? はい……。確か、『白雪姫』様でしたよね。覚えていますよ」
「えっ、覚えていた? 本当に?」
「ヘンゼルさん……」
「いっ、いや。ほら、俺は毎日営業する度に
その時なぜか、ヘンゼルさんは僕から視線を逸らし、自分の腰に片手を当てて鼻歌を歌っていた。
でも、ヘンゼルさんがこの行動をしている時は完全に何かを
「それにしたって……ですよ」
「いや……、完全に忘れていた訳じゃないよ?」
「……忘れていなかったら今のような反応はしませんよ」
「言われてから思い出したんだから、まだ大丈夫だよ」
相手に言われて思い出している辺りの一体どこに「大丈夫」の要素があるのだろう。
「あの、じゃあご注文をされた方ってその……」
「あっ、うん。お知合い……というより、ご友人だって言っていたよ?」
「じゃあ、白雪姫様から聞いて今回ご注文を?」
「……そういう事になるね」
しかし、あの『キャラメルりんごパンケーキ』を作り、ここで振舞った事は
つまり、この話を知っているのは「
「後は、王子様くらいだろうね。でも、俺たちが何か悪い事をしたわけじゃないから、広まった所で何も問題はないんだけど」
「そうですね」
僕たちはただ注文を受けて、その注文に沿ったお菓子を作り振舞っただけである。
「それで、白雪姫様のご友人とは?」
「ああ、確か『シンデレラ』って言うお姫様だよ」
「……お姫様ですか」
「うん。なんでもかなりご苦労を重ねられてきたお方だとか……」
「? 苦労ですか?」
「そうなんだよ。お姫様になる前は、いつも床の掃除とか洗濯とか家族の人に押し付けられていたみたいで」
「えっ、自分たちの事全てですか?」
「そうみたい。しかも、お城で開催される舞踏会もその『シンデレラ様』には参加すらさせなかった……って聞いたよ」
会ってすらいないけど、なぜか聞けば聞くほどその『シンデレラ』姫の苦労が、分かってきた。
……でも、この話をヘンゼルさんは一体どこで聞いたんだろうか?
「まぁ、色々あって結果的に何とか舞踏会に参加することが出来て、その時王子様が惚れたみたいでさ。でも、シンデレラ姫は、そのまま急いで帰っちゃって、その時にガラスの靴を落として……」
「落として?」
「その舞踏会の後で、ガラスの靴の持ち主を王子様が探して……」
「シンデレラ姫を見つけた……という事ですか?」
「そういう事みたいだね」
「……」
そんな夢のような話が本当にあるのか……。
そう思ったが、今までの苦労が舞踏会に参加した……という出来事のおかげで『シンデレラ姫』は誕生出来たのだろう。
だが、こういった話なら、世間ではすぐに広まるだろう。でも、それはこの間の『白雪姫様』の件で経験済みである。
……そう考えると『お姫様』は全員。
今までどういった生活をしてきた……とか色々、その国の住人は、知られている。いや、本人の知らないところで広まってしまうのかも知れない……。
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