②
「それで、この
『はい』
ヘンゼルさんがお茶を出しながら尋ねると、小人のおじさんたちは全員声を揃えた。今度は一糸乱れず
ただ寝不足な人を除いて……。
ちなみにその人は、椅子に座っていながらも相変わらず頭を上下させており、たまに倒れそうになっては隣にいる人が支えていた。
今、この小人のおじさんたちは全員店内の椅子に座って話をしている。それは、ヘンゼルさんが「立ち話も悪いから……」と言って案内した結果である。
「ただ……」
「ちょっと問題が……」
「問題というか……」
「トラウマ?」
「トラウマというか……」
「事件だろ。あれは」
「うーん」
「……」
「……」
小人たちは相変わらず、お互いの顔を見合わせながら、色々言い合っている。
でも、ありがたい事に今は一人ずつ話しているので、誰が何を言っているのかはすぐに分かる。
ただ、ここまで
僕とヘンゼルさんも顔を見合わせていたが、こちらは笑いを
「……あのー」
「どうかされましたか?」
「いえ、失礼致しました。ところで、先ほど『事件』と仰っていましたが……何かあったのですか?」
気を取り直して、今の会話から疑問を一つ投げかけた。
「はい」
「実は……」
「美味しい
「はぁ……」
「よかったです……ね?」
「まぁ、出来た……はいいが、わしらだけでは食べきれない」
「そこで、この
「何か問題でも?」
「いや、その相手が……」
おじさんの一人が『その相手』という言葉を言った後、なぜか
「その……お相手が?」
しかし、黙ったまま何も話さないのでヘンゼルさんは不思議そうに尋ねた。
「実は、昔。
いつも寝不足の人を横でサポートしている人が話した瞬間……
「……一度、亡くなりかけたんです」
何の前触れもなく寝不足の人は目を開き、一言だけそう言って、また目を閉じた。
「……亡くなりかけた?」
「…………」
僕はその言葉の意味が分からず尋ねた。しかし、ヘンゼルさんは何やら心当たりがあるらしく、両腕を組み、片手で
「……その人は、
「……基本、なんでも食べる人なんだけど」
「それ以来、
「だから、王子がいつも食べているって」
「でも最近は、出してすらいないらしいぞ」
「えっ、そうなのか」
「まぁ、残されてしまうくらいなら」
「仕方ない……かな」
どうやら、この人たちの言う通り。その人にとって『
「でも、僕たちとしてはせっかく作ったモノだから『
「トラウマになっているけどね」
「だけど、あの人はちゃんと生きている」
「こんなにおいしいモノを食べられないのはもったいない」
「俺たちの自己満足だとは思っているんだけどよ」
「でも、このままは嫌だよ」
――確かに、おじさんたちの気持ちは分かる。
しかし、嫌がっているのに、果たして無理やり食べさせる事がその人の為になるのだろうか……。そんな思いが頭を
「……あっ、飲み物がもうありませんね」
「……」
だが、ヘンゼルさんは今までの会話が聞こえていなかったのか、思い出したようにサラッとそう言った。
「マシューさん手伝って」
「えっ? へっ、ヘンゼルさん!?」
そして、ヘンゼルさんは驚いている僕をよそにヒョイッと僕を掴むと、そのまま
◆ ◆ ◆
「あの、ヘンゼルさん」
「何?」
「何? じゃないですよ。何ですか突然」
「……ちょっとね」
「……ひょっとしてお知り合いだったんですか?」
「いや、直接面識があった訳じゃないよ。ちょっと噂を耳にしただけだよ」
「そうだったんですか」
「うん……。でも、そうなるとちょっと聞きたい事があの人たちにあるんだよね」
「……? 聞きたい事ですか?」
「そっ」
ヘンゼルさんはコーヒーの入ったポットと新しい七つのティーカップを持ち、おじさんたちの元へと戻った。当然、僕もその後について行った。
◆ ◆ ◆
「お待たせいたしました」
「ああ、よかった」
「突然どうしたのかと思いましたよ」
「俺は逃げたのかと思ったぞ」
色々と言ってはいるが、突然僕たちが厨房へ行った事は気になっていた様だ。
「あはは、ここはお店兼自宅ですよ。どこに逃げるというんですか」
そういう事を言っている訳ではないと思うが、どうやらヘンゼルさんはあまり気にしていない。
「それにしても、あなた方の話を聞いて思ったのですが……」
『何か?』
相変わらずこういう時の返答は
「あなた方が『
ヘンゼルさんが『白雪姫』と言った瞬間。おじさんたちは……かなり驚いていた――。
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