②
この『お菓子屋』は『木』で出来ていた。しかも、ペンキはあまり使われておらず、木の香りすら感じられる。
ある場所には『木製の椅子やテーブル』が置かれており、ここで購入した『お菓子』を食べることが出来る様だ。
ただ、この時。店内には僕たち以外誰もいなかった。
この事を尋ねると、「ああ、今日はもう閉店したから」と普通に言われた。そして今、僕たちは『厨房』にいた。
「ところで何を作るおつもりなんですか?」
そもそも僕たちの様な『自然界』で生きている動物と、人間の住む世界はお互いの生活を
いや、犬や猫。牛や馬などの家庭や飼育などで飼われている動物は、十分接点はある……か。
「えっと、『フロランタン』を作ろうと思っているよ」
「お風呂……とランタン?」
僕は最初にこの人から『作る物』を聞いた瞬間。頭には、『お菓子』どころか『食品』ですらない名前が
「あー、そこで区切り入れると変になるよ」
「えっ、あっ……違いました?」
「その区切り方だと……って、何を考えていたの」
「いっ、いやぁ」
これから作る『お菓子の名前』の話だったはずが、なぜか『風呂』と『ランタン』が浮かんだのかは……言葉の雰囲気のせいだろう。
「あっ、あのそもそも『フロランタン』とは一体なんでしょう?」
「……君が何を考えたのかは、この際追求はしないけど」
「……助かります」
「で、『フロランタン』の話だったよね」
「はい」
「えっと、『フロランタン』はフランスという国のお菓子で、ドイツという国では、『フロレンティーナ』と呼ばれているお菓子の事だよ」
「へぇ、元々はフランスという国のお菓子なんですか」
「うん、どちらも「フィレンツェの」という意味で……」
「? どうしました?」
突然その人は動きをピタリと止めた。
「えっと、なんだったかな……」
「えぇ。忘れたんですか」
「いや……。あっ、そうだ。確か、嫁ぐ際にイタリアから伝えた……とか 、パリの製菓職人が考案した……とか、そもそもイタリアとは何の関わりもない菓子という説もあるとか……」
「……つまり諸説ありってことですか」
「そうだね」
「……」
サラリと言われて一瞬戸惑ったが、お菓子に限らず『歴史』は今でも解明されていない事が多い。
しかも、今まで解明されていた事が違う……という事も実はある。
その理由は『記録』する物が少なかった……という事もある。ただ、どんな時代でも『漏れなく全て』を記録する……という事は出来ない。
だからこそ、こういう事態が起きるのだろう。
「それで、この『フロランタン』はクッキー生地にキャラメルでコーティングしたナッツ類を使って……」
「えっ、ナッツですか?」
それなら今、僕の横にその袋が置かれている。
「いや、この多くは『アーモンドスライス』をのせて焼き上げて作るから、そのナッツは使わないよ」
「そうですか」
「ちなみにコレはドイツ、オーストリアという国の方面で好まれているんだ」
「ふむふむ」
「……そのナッツ美味しい?」
「ふぁい」
「それはよかった」
「むぐむぐ」
この『フロランタン』が『アーモンドスライス』を多く使うと聞いて安心し、僕はさらにナッツを
◆ ◆ ◆
「さて……と、そんじゃ始めようかな!」
「えっ、ちょっ、ちょっと待ってください」
「ん? どうしたの?」
「あの……バターと小麦粉、それに卵すらないじゃないですか」
僕たちの前に並べられた材料の中に、僕が思うお菓子作りでよく使われる物がない。
「えっ、なくても作れるよ?」
「……えっ」
驚いている僕をよそにその人は「代わりに……」と、『
「後は……豆乳かな」
「豆乳? ですか?」
これまた、お菓子作りではあまり聞かないモノだ。
「うん。俺の作る『お菓子』にはそういったバターとか小麦粉とかあまり使わないんだよ」
「そうなんですか」
「そっ、だから『アレルギー』のある人とかよく買って行ってくれているんだよ」
「アレルギーですか」
その言葉は聞いたことがあった。
僕の記憶が正しければ、ある特定の『食材』や『材木』、他にも『花粉』などなど……その『アレルギー』と言われるモノは色々な種類がある。
「じゃあ、あなた自身が『アレルギー』をお持ちなんですか?」
「ううん。俺はそうじゃないんだ」
「じゃあ、なぜ?」
「昔……ちょっと色々あってね」
言いにくそうにちょっとだけ笑い、その人は不思議そうに首をかしげる僕をよそに早速『てんさい糖』と書かれた袋を持った。
そして分量を量った後、ボウルに入れ、『フロランタン』を作り始めた――。
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