hide creacher 34
都心のとある高層ビル。無数の人々が慌ただしく出入りしていく。ジャスティーはそれを横目に眺めながら、入ってすぐのロビーに規則的に並べられている黒いベンチに腰掛けて携帯をいじっていた。
過度のブルーライトによりしぱしぱする目を擦り、画面を絶えることなくタップしてはアルファベットとよく似た文字を打ち込んでいく。おそらくこの場でこの文字を読解することが出来るのはジャスティーだけだろう。
送信先はとある離れた地に住む権力者である。
表向きでは偉業を成し遂げた人物として皆から尊敬されているが、なにかと裏には黒いものも溜まっている。世界規模の密輸入なんてこともしているらしい。
それをジャスティーは黒狼と同時並行で調べていた。
黒狼のほうはとんだ激務になっているが、こちらはこんな早くとうの本人に行き着いてしまったわけでこの仕事は早々に終わりそうである。
あとはゆっくりと情報を抜き出すのみ。
ぱっぱと文章を書き連ね送信を押し、送信完了の文字が映し出されるのを見届けるとジャスティーは席を立った。
ひっきりなしに昇り降りを繰り返すエレベーターはスルーして、人気のない非常口に入った。
上へと続く階段が目の前にあるがそれは使わない。
ジャスティーはおもむろにその場の無機質な壁に触れた。
すると触れた壁のところがずぶりと沈みこみ、カチッというスイッチが入るような音がした。
その瞬間には一本の黒い筋が壁に入り、扉か静かに開いていく。
そこに現れたのは無機質な通路。白い壁が蛍光灯の光を反射している。
ジャスティーがそこに入ると扉は完全に閉じられ、そこは元通りのただの壁となっていた。
廊下はそこまで長いものではなく、少し歩くとまた無機質な扉がある。ここは専用のカードキーでなければ開けられない。
ジャスティーはドアのすぐ横に取り付けられている小さなモニターにカードキーを翳して扉を開き、中へと入った。
しばらく続く通路を抜けると、一つの部屋にたどりついた。
部屋には温かみのない会議用の大きなテーブルが置かれている。たしか中にはホログラムとかモニターとか色々な機能が埋め込まれているハイテク品だったはずである。
「遅かったですね。」
入口から一番遠い席に腰掛けているルーシーが口を開いた。
既にジャスティー以外のメンバーは揃っている。…………一人を覗いては。
「時間はまだでしょ。それにあと一人いないし。」
「その人は欠席よ。ちょうど他のことと重なってしまってね。」
空席の真向かいに座っているグランデが緩いウェーブのかかった髪を指先でくるくると回した。彼女の癖である。
ジャスティーはグランデの隣の席に腰掛けた。
目の前には能力ランクづけの会議で出席していた老人や女の姿もある。
「連絡が突然だったのに集まってくださった皆様には感謝します。早急に今後の方針を決めなければならなくて……。」
「それは…………あのテロのことですかな。」
立派な髭をはやした老人の言葉にルーシーは頷いた。
「はい、事前にこういう傾向を感知していたため死亡者は奇跡的にゼロに抑えられましたが………迂闊でした。」
「まあ、本格的な監視を始めた瞬間にこれだったからねぇ………。多分相手もタイミングを見計らったのよ。」
「監視などの件に関してはあなた方に感謝しかありません。」
ルーシーがグランデに向かって頭を下げた。グランデはにこやかに微笑んだ。
「そんな私は大したことしてないわよ。ただ情報を提示しただけ。一番感謝されるべきかのは彼よ。」
グランデは空席を指さした。
「今もあそこ……黒狼で何とかしているそうよ。ただ、ここに居られるのも時間の問題かもってね。連絡が来ていたわ。テロの時に設置されていた爆弾がいくつか作動しなかったことに疑問を持たないわけないわ。」
「やはりそうですか………。ジャスティー。あなたがたの方はどうですか?」
「いや、ダメだね。前々から送り込んでいた一人と通信が途絶えた。それを気に………こっちは全滅だ。多分粛清されたか監禁されてるか……ともかく新規で送り込むことは不可能だよ。」
そうですか、と。ルーシーは間を開けて呟いた。
「しかし………今回のテロの目的は一体………。犯行声明も出されていません。」
「自分たちの………権力誇示ということでは?復権を目論んでいるならそれの可能性もありますな。」
目元に奇妙な刺青を入れた女が額に手を当てて、手元に置かれていた資料を手に取った。
「たしかに…………なにせ、わざわざアビス監獄から脱獄した死刑囚まで動員させているわけですからね。公には報道していませんが。」
女が資料を他のメンバーにも回した。せっかくモニターとかが机に埋め込まれているのに、どうして使わないのかとジャスティーは思った。
「すみませんね、紙媒体で。こういう重要情報はどうも紙じゃないと安心できなくて……。あ、完全に個人のこだわりです。」
ジャスティーの疑問を読み取ったかのように女が答えた。
やはり、ここのメンバーは何かと曲者揃いである。
ジャスティーは回された資料を手に取った。
アイシャ・ラドワール
写真付きの資料にはこう名前が書かれていた。
「彼女が恐らくあのアビス監獄から脱獄した死刑囚です。目撃者からの証言から割り出しました。彼女はかつてないほどの殺人鬼です。」
女の言葉と共にジャスティーは資料を読み進めていった。
アイシャ・ラドワール 生年月日ともに不明。
身長 145cm。
世界各地で大量殺人を繰り返し、2***年アビス監獄収容。7年前の襲撃事件の際に脱獄。
「能力も単純ではあるものの強力なものです。今後これに対する対策を練っておく必要は十分かと………。」
恐らくアギリ達が遭遇したテロリストのうちの一人なのだろう。
ジャスティーはざっくりと読み終えるとひとまずその資料はその場に置いておいた。
「…………たしか、もう一人いたって聞いたはずなんだけど。そっちは?」
「そちらは、だいたい絞れている所にはいますが……まだハッキリとはしていません。恐らく黒狼内部の人間かと思われます。」
「なるほどね…………。その男に関して気になることがあるんだけど。」
ジャスティーは話を続けた。
「その男の能力………まあ、直接見てないからわからないんだけど、話を聞く分に血を摂取することでの身体強化なんだよね?」
「ああ、たしかに。だいたいそういったものだろうと推測していますが。これがどうかしまひた?」
ルーシーが読んでいた資料から目を離した。そして、メガネをすこし上にかけ直した。
「ちょっと似たような能力を見たことがあるというか……………まだ不確定要素がおおいから確定ではないけど、多分それはもしかしたら普通の能力ではないかもしれない。」
「ほぅ……………それであなたはどのような仮説を?」
問いかけられるとジャスティーは仮説を並べ始めた。
会議は刻々と進んでいく。
***
「とにかく、仮説の件は全てあなたに任せていいのですね?」
「多分あの人と一番コンタクト取りやすいのは僕だし。彼も一応取れるけどたぶん僕より忙しいでしょ。」
ルーシーと、ジャスティーが同時に部屋から出てきた。最後の後片付けをしていたのだった。
「突然すみません。あなた今すっごく忙しいはずなのに………。」
「いーよいーよ。黒狼以外のことはもう時期終わりそうだから。」
「ああ、あの密入問題のね……。年々ブースト薬の密輸入量が増加しているのであれで少しでも減ればいいのですが。」
「多分それで時期に国内での密造が増えてくるよ。黒狼もそれ売ってるっぽいし。」
二人は無機質な廊下を歩いていく。
ジャスティーがこんなことを口にした。
「昔は極道って言われていたやつらも今じゃほとんどがテロリスト扱いか………。ちょっと違うような気もするけどね。」
「今指定で監視しているのが黒狼の他に………九十九、ブラックバレッタ、京極の三つですか。」
「そこは大人しくぼそぼそしてるっぽいけどね。黒狼との接点もなさそう。」
そこから二人はとくに何も話すことは無かったのだが、入口付近に来たところでルーシーが立ち止まった。
「少し聞きたいんですが………。」
少し前を歩いていたジャスティーは振り返る。
「あなた、今回のテロの目的………黒狼の復権についてどう思ってます?」
「それはどういう意味で?」
「…………復権を誇示するのは、もちろんあると思うのですが他にこう意図があるかと……。」
ルーシーはメガネ越しの深い緑色の目でこちらを見ている。まるで、広く世界を見渡す、しかし全てを逃すことなく捉えるような目で。
ジャスティーはしばし間を置いて口を開いた。
「多分ある、いや………もう答えは見えてるかもしれない。」
「…………hide creacherの。」
ルーシーの答えにジャスティーは頷いた。
「そもそもピンポイントにあの二人とコンタクトを取ってきたんだ。しかも連行しようってね。あの子の証言だよ。信用性はバッチリ。」
「………やはり連れ戻しですか。」
「そうだろうね。復権のためには優秀な人材を集める。企業だって会社を立て直すためにあちこちからヘッドハンティングしたりするでしょ。そんなもんだよ。」
ジャスティーはまた歩みを進み始めた。ルーシーは黙ってついていく。
彼の話し方はどうもこうも緊張感がないが、いつもの事だ。
「向こうは多分こちらの存在に気づいている。これは一種の脅しと捉えた方がいいのですかね?」
気づけば廊下の入口まで二人は進んでいた。ジャスティーは懐からカードキーを取り出して扉を開けようとしていた。
「一種どころか…………しっかりとした脅しだよ。いくら本人に詰め寄っても脅しが通用しない人はいくらでもいる。ただ…………自分との関わりが親密な人をこういったふうに巻き込むのはどれだけ強い人でもやっぱり不安に呑まれる。…………特に彼女はね、そう言う人間なんだよ……。」
彼の動作には何の変化もない。しかし、何気に懸念の色がルーシーには感じられた。
それと同時に、カードキーが認識されピッという軽い音と共に扉が開いた。
二人はその扉を出ていき、だれもいなくなった廊下はぷつりと照明を落としたのだった。
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