hide creature27

 開店して間もないショッピングモール。どの店の中も人は少ない。ゲームセンターも例外ではなかった。しかしここは様々なゲーム機器の音で開店してすぐでも騒がしい。


 そんな中、朝っぱらからゲームセンターの奥にあるシューティングゲームをする二人組の男の姿があった。

 警察の特殊部隊をモチーフにしているらしく、二人は次々と迫り来るテロリストをどんどんと銃火器で撃ち抜き倒していく。


「おい、人質うってるじゃんか」

「いいのいいの、ゲームだからさ」


 KPの指摘を無視してジャスティーはプレーを続ける。マシンガンでどんどん人質混じりでテロリストを殺戮していく。人質を撃つ度、ペナルティーでスコアが減っているのだが彼は気にしてないようだった。


 ジャスティーは機関銃といった高火力のを好む。が、雑なプレイで人質を撃ったり玉の減りが早い。


「あ!それ俺の弾丸!」

「知らなーい」


 テロリストがドロップした弾丸を横取りすると同じくプレーしているKPからヤジが飛んでくる。


 弾丸を手にいれたはいいものの、やはり量が足りない。ジャスティーは弾丸不足となったところをやられてゲームオーバーとなった。ジャスティーはコントローラーを置き、ソロプレイとなったKPを眺めた。


 KPはジャスティーとは違い一人一人ヘッドショットで確実に仕留めていく。人質も一人も誰一人と撃っていない。


「うまいね」

「そりゃどーも」


 飛んできた手榴弾を撃って弾き飛ばしたところでタイムアップとなった。


「ふー終わった……」


 銃の形をしたコントローラーを乱暴におきKPは大きく延びをした。


 そんなKPを横目にジャスティーは画面に目をやった。そこには過去にプレイした人物のスコアがランキング化されていた。二人のスコアはその1位、二位にランクインしていた。


 再びジャスティーが画面から目を離してみるとKPは再びコントローラーを手に取りまじまじとそれをながめていた。


「どうしたの、そんなながめて」

「いや、本当そっくりだなーって…モデルはM1911だなこれ」

「へぇ……なんでそんなことまでわかるの」


 そんなジャスティーの言葉は無視してKPはひたすらコントローラーをながめている。


「けど軽すぎるな、もうちょっと重たくないと標準がずれる」

「あたかも本当の重さを知ってるかのようだね」

「この時代銃の所有が合法になってんだから別に普通だろ?」


 まあたしかにKPのいう通りなのだが……。ジャスティーの疑問はもうひとつあった。


「で、何?こんな朝早くにゲーセンに呼び出しって」


 ジャスティーは早朝に呼び出しを経験したことがないわけではないがだいたいどこかの喫茶店とか飲食店などが殆んどだ。朝っぱらにゲーセンにこいと言われたときは思わず二度聞きしてしまった。


「まあ新しい情報が入ったからね、それを伝えようかと思って」


 KPはジャージのポケットをあさりガムを取り出し封を切った。


「それだったらゲーセンじゃなくてよくない?」

「いーじゃん人の好みなんだし」


 ジャスティーになんとも適当な返答をしKPはガムを口に放り込んだ。オレンジの甘い匂いが漂ってくる。


「んで黒狼に関する追加情報ってなに」


 この前のあのファイルの情報だけでもかなりの量だったのに更に追加とは。この男はいったいどんな情報網を持っているのだろうか。そもそもいつもどこで何をしているのかも謎だった。


 KPがにちゃにちゃとガムを噛みながら話を続けた。


「ちょっとまえにさぁ……各地の刑務所が一斉襲撃された事件あっただろ?」

「うん、あの「アビス監獄」まで襲撃された事件…」


 何年か前に突然世界各国のありとあらゆる監獄が襲撃される事件が発生した。ジャスティーがテレビをみていると突然画面が替わり各国の監獄の映像が流れ始めたのだ。その中でも大きく取り上げられたのが「アビスの監獄」だった。


 アビスは深淵を意味するabyssからつけられたもので宗教的な深淵は地獄を連想させることがしばしばあるらしく、まさに罪を犯した人間がいきつく地獄に相当するような、世界最高峰の監視下の中、死刑すら生ぬるい超凶悪犯が収監されている。


 この監獄もその事件の被害を受けた。そのときのメディアの騒ぎようといったらとんでもないものだった。連日チャンネルを変えても四六時中その内容ばかりで、どこの新聞も一面まるまるその話題だった。


「それがどうしたの?」


 ジャスティーがKPに視線を向けるが、彼はガムをどこまで膨らませるかでジャスティーの話を聞いていないようだ。その態度にいらっときてKPを睨むジャスティーだったがそのイライラがガムに通じたのだろうか。


 ガムがポンッとタイミングよく弾けた。かなり大きく膨らんでいたためKPの顔にガムがへばりつく。KPはあわててガムを剥がしだした。


「うっわぁ………ベトベトだ……」

「いいきみだね、で、それがどうしたのって聞いているんだけど」


 ジャスティーがそう言うとKPが「え、あぁ……それね…」とガムを剥がしながら言った。


「その事件に黒狼が関与してたって話がある」

「へぇ……」

「しかも、そのアビスの監獄から一人、脱獄者がでている」


 その言葉に二人の会話に沈黙ができる。外のゲーム機器の音もどこか遠くにあるかのように聞こえる。


 その沈黙を破ってKPがガムを噛みながら

「これ極秘だからな」と付け加えた。


「へぇ……すごいこと教えてくれるんだね」

「だって情報がほしいんだろ?お前だから教えられるんだからな?」


 KPがそういってガムを膨らませた。膨らませたガムは今回は直ぐに引っ込めてしまった。


「こっから考えられることは?」


 KPがジャスティーにそう問を投げ掛けた。そして、またガムをぷくりと膨らませた。


 ジャスティーはしばし考えこんでひとつの結論にたどり着いた。


「…………脱獄者が黒狼に匿われている可能性か…」


 ジャスティーの言葉に答えるかのようにKPのガムがポンッと音を立てて弾けた。


「今後調査を続けるなら気を付けたほうがいいよ」


 KPは追加でガムを口に放り込んだ。


「そうだ、ね……で、今日はそれだけ?」

「うん、また追加で入り次第呼ぶかもしれないからヨロ」


 ジャスティーが尋ねるとKPはそう答えまたガムを膨らませた。ガムは前よりも大きく膨らんでいる。


「次呼び出すときはゲーセン以外でね」


 ジャスティーはそれだけいうとゲーム機を後にした。


 ジャスティーの背中を見送った後KPはそこにあった休憩用の椅子に腰かけた。タッチパネル式の携帯を開いて時刻と連絡内容を確認した。


 今日は仕事の都合でここに丸1日いなければならない。それを考えるとかなり今の時間帯は暇である。


 KPは膨らませたままのガムをしぼませ、ポケットから小銭を取り出しゲーム機に投入した。ピロリンと音がしてモード選択に切り替わる。カーソルをいじってモードを一人用に選ぼうとしたときあることを思い付いた。


「………これもしかしてダブルプレーできるかなぁ……」

 KPボソッと呟きポケットの小銭を確認した。100円玉があと一枚残っていた。それを見るとためらいもなく追加で小銭を投入しカーソルを二人用モードにあわせて決定を押した。


 ロード画面に切り替わりKPはコントローラーをそれぞれ手に取った。

 トリガーを引いてみたりしているとゲームスターとのカウントダウンが始まる。


 それをみてKPは構えに入る。2丁拳銃は暫く使ってないためどこまでいけるかはわからない。が、構えるとなんとなく感覚が戻ってきた。


 KPが目を瞑り軽く息を吸ったと同時にゲームスタートのブザーが大きく鳴り響いた。

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