hide creature26

 部屋の中に軽やかな電子音や衝撃音が響く。小型のテレビには互いにこぶしをぶつけ合う二人のキャラクターが写し出されている。


 そのテレビから伸びたコードの先はわりと最近に発売されたテレビゲーム機が接続されており、さらにそこから伸びたコードはコントローラーに繋がっていた。


 そのテレビの前でアギリとミズキはコントローラーを握りテレビの中のキャラクターを操っていた。


「よっ……ほっ…………」


 ミズキはたびたびそんなことを呟き、ガチャガチャと音を立てながらコントローラーをいじっている。一方のアギリは無心でコントローラーをいじっている。慣れているのか動きに無駄がない。


 そんな二人の後ろではハルがぼんやりと二人を眺めている。


「くらえっ!やぁーっ!」


 ミズキの操るキャラクターが必殺技の波動弾を放つ。だが相手はそれを難なく交わすと一気に距離を積めてきた。


 アギリの本番はここからだ。


 まず、コマンド技の足技で相手のバランスを崩す。この技をくらうとサブスキルで一定時間操作不能に陥る。素早くまた操作を繰り返し、操作不能になった相手を今度は上へと蹴りあげる……


 そしてそこからアギリの容赦ない連続攻撃が始まった。

 ひっきりなしに衝撃音と連打するボタンの音が部屋に響く。ミズキは唖然とし、コントローラーをもったままなすすべなく画面を見ていた。


『K.O!!!!!!』


 テレビからそういう音がした。


 画面には空になったゲージと殆ど体力の減っていないゲージ。「K.O」の文字の下には「99hit!!!」の文字が出ていた。


 アギリはそれを見るとコントローラーを置いた。それと同時にミズキは「ああーっ……」と言いながらコントローラーを投げ出し床にねっころがった。


「ねぇ、何でそんなに強いの?これで私十連敗だよ?」

「え、もうそんなにやってたっけ?」



 アギリはとくに何回やったかなんて気にしてなかった。そう言うとミズキは「してるよぉー!」といいながらガバッと起き上がった。顔には悔しさが滲み出ている。


「なんで強いかって言われてもなぁ……ずっとちょこちょこやってたくらいしか………」

「そんなちょこちょこでhitこんなにきめれるものなの?………ねー、ハルも一緒にしようよ?これ四人までできるし」


 ミズキがハルにコントローラーを差し出す。が、ハルは首を横に振った。


「ぼ、僕はいいよ……得意じゃないし………」


 こんな格闘ゲームよりハルはじっくり遊べるパズルゲームの方が好きらしい。ハルが断るとミズキは「えー」とつまらなさそうにいった。ミズキとアギリはパズルゲームは得意ではない。二人でやってもハルに完敗をきしてしまうほどそっち分野は下手だった。


「ねーアギリちゃんー。今度はこっちしようよ」


 そう言ってミズキが取り出したのはシューティングゲームだった。パッケージには宇宙空間と飛ぶスタイリッシュなロボットがかかれている。ゲーム世で見た事のない人間はいないほどの人気シリーズだ。


「ん、いいよ」


 さっそく機械にソフトをいれてロードさせる。画面にぐるぐると回るビビットブルーの輪っかが表示され、下にNow Loadingの文字が浮かんでいた。


 まもなくローディング画面は終了し、タイトルが表示される。ミズキはコマンドを動かし、二人協力プレイ形式を選び、アイコン選択の画面に移った。


「そういやさーアギリちゃん」

「ん?なに?」


 互いにアイコン選択をしているときミズキが問いかけてきた。


「この前さ、あそこ………なんだっけ、クリなんとかかんとか……」

「クオリィティフェイションカレッジ………」

「そう!それ!!」


 ハルの助け船にミズキはパチンと指をならした。


「そこでさぁ、いきなり実技授業やったっていってたじゃん?あれって何したの?」

「実技?あー……」


 たしかに、この前の授業でいきなり実技授業をしたことをアギリは思い出した。




 着替えを済ませたアギリたちは、あのあと学校によくある体育館のような所に案内された。


 そこにはアギリほどの背丈の人形のようなものが四、五体あった。


 そこでなにを摺るのかたと人形をひとりまじまじと眺めていたのだが、周りはそうでもなかった。他の生徒の中には「あれかぁ…」と呟く生徒もいた。


「まあやったことある人が殆どかもしれませんけど……この人形を能力で攻撃してください。一度みなさんの能力を確認します。対生物のみ有効の生徒はいないようですが、何かあれば私やそこにいるスタッフに知らせてください。ダミーは4つあるので別れて並んでくださいね。」


 どうやらこの人形を的にして能力を披露するということらしいのだ。生徒達は指示を出されるなり、別れてダミーの前へと並び始めた。


「あのー………」

「はい?なんでしょう?」


 そんな中で、アギリはセドの方に 近寄りこんな質問をしたのだ。


「これって壊しちゃっても大丈夫ですか……?」


 アギリの中にこの前の失態がいまだに尾をひいていたので訊ねた。セドは頷いてこう答えた。


「ああ、大丈夫です。思いっきりやっちゃってください。壊れにくい素材でできてますし、消耗品ですから」


 セドはにこやかに微笑みながらそう言った。


「そうですか…」

「じゃあ、あらかた用意できたので……スタッフの皆さんお願いします………





「へぇ、そんなことしたんだー………で?」

「?」

「人形の方は?」

「ああ…………」


 コントローラーを握り互いにインベーダーを打ち落としながらアギリはぼそりと答えた。


「…………壊した……」

「あはははっ!やっぱりかぁ!!デストロイヤーだね!!」

「笑わないでよ!」


 アギリはミズキの妨害を始めた。持っていた麻痺アイテムをミズキに向かって発射した。


「わっ!ごめんって!妨害しないで!!」


 慌てるミズキの悲鳴をお構い無しにアギリはガンガン妨害していく。麻痺したことでミズキのアイコンは移動速度が半減となった。


 あのときアギリは言われたまま思いっきりあの人形を殴り飛ばした。


 人形はきれいにふっ飛び、大きな音をたてて体育館の壁に激突した。人形の腹部は大きく凹み激突した壁にも凹みができていた。あの人形は消耗品ではあるが結構頑丈らしく、その光景にアギリを含むその場の全員が呆然としていた。


 その後からやけに自分の方に目線が向いていることが増えた。


「ぎゃー!ちょっと!もうやめてー!」


 容赦なく妨害していたらミズキはまともに敵の攻撃をうけて体力ゲージがもう殆ど残ってなかった。


「これ協力プレイだよ?!」

「笑った罰」

「ひっどーい!…………あ」


 ミズキは攻撃を受けゲージが空になりゲームオーバーとなった。低く下がっていく音が機械から発せられた。


 こっからアギリのソロプレイとなった。

 アギリはものすごいコントローラー裁きでどんどんインベーダーを打ち落としていく。


「わぁ…すごい……」


 ミズキとハルはアギリのプレイに見いっている。そしてボス戦もなんなく撃破しゲームクリアとなった。


「アギリちゃんめっちゃ強いじゃん!」

「うん、どっちかというと普段やってたのはシューティングゲームだったしね…」


 しかもよくやっていたのは普通に年齢制限がかかるようなゾンビをガンガン殺戮していくようなものだった。ああいうのをすると何かとスカッとする。

 さすがにそれは言えない。


「ねー?アギリちゃん?」

「…………へ?なに?」


 ゾンビのことを考えているとふいに声をかけられた。


「このゲームアーケード盤もあるんだよねぇ……」

「ふーん……」

「え?知らなかった?」

「うん、ゲーセンとかはそんなに行ったことなかったから……」


 へぇ、とミズキが呟くと少し間を置いて話を切り出した。


「今度さどっか遊びに行かない?なんならゲーセンとか行こうよ。あんまり行ったことないんでしょ?」


 ミズキの言葉にアギリは頷いた。それに加えて、最近休みは特にに遊びに行くこともなく家でごろごろしていたりぼうっとトマトを眺めているかの二卓だった。


 そして、友達とどこか出かけるというのは本当にいつぶりになるのだろうか。久しぶりにそれもいいかもしれない。


 ミズキの提案をアギリは悪くは思ってなかった。


「いいね……どこ行く?」

「最近ねおっきいショッピングモールができたんだ。そこ行こうかなって………」

「へぇ……ハルはどうする?」


 アギリがハルにそう訊ねた。ハルは困ったように視線をしぱしぱさせる。


「……僕はい「はい!行くね!」


 ハルの言葉を遮りミズキがそう言った。


「!?」

「うん、ハルも行きたいって」

「僕そんなこといってないよ!?」


 ハルが珍しく声をあげた。


「まあいいじゃんいーじゃん!いこ?ね?ね?ねっ?!」


 なにかをいいたげだったがミズキに詰め寄られてハルはなにも言えなくなってしまった。


「………別に嫌ならいいけど……」

「…………いき、ます………」


 アギリがぼそっと助け舟を出したが逆効果だったようで、ハルは諦めたように答えた。

 そのときの声はほとんど死にかけていた。


「はい決定ー!日付けとかはまた決めよー!」


 ハルのそんな声と対象的な、にこやかで溌剌とした声を上げるミズキに対してアギリは苦笑い、ハルは今にも泣き出しそうな顔をしていた。





 ***




 日はとっくにおち町も闇に染まる丑三つ時。三日月がうっすらと辺りを照らす。


 寂れた町の路地裏。そこでうごめく二つの影。


「うーん……最近楽しいことないよねぇ…」


 少女は八つ裂きにされた死体を見下ろす。彼女の手にはベッタリと血がついている。


「まあ、しばらくはこれで我慢です。もう少しすれば楽しいこともありますよ」


 少女をなだめるように男が声をかける。彼は眠るように絶命した男の頭を軽く蹴飛ばした。


「え?!楽しいこと?!どんな!?」


 少女はパッと目を輝かせる。男は口元に立てた人差し指を持ってきて微笑んだ。


「まだ秘密です。さ、帰りましょう。彼が待ってる」


 そう男が言い歩きだした。その後に少女もついていく。血を踏んだ足跡が2人分その道に刻まれた。


 そして怪しい影は暗く真っ黒な路地裏の奥に溶けるように消えていくのだった。

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