hide creature25
テーブルに突っ伏すジャスティー、コーヒーを手に取り啜っているヒスイ。二人はhide creatureの協同スペースにいた。
テーブルにはいくつかの紙や端末が転がっている。転がっている端末は全てジャスティーのだ。彼は仕事に合わせて携帯を4台ほど所有していた。ジャスティーは自分以外の人間がこんなに携帯を持っている姿を見たことがなかった。
「しかしこれだけ調べてもこれだけとは………向こうの情報規制能力はとんでもないものだな」
ヒスイがテーブルの上の紙を手に取りそう言う。
「まだまだ途中なんだけどね………この段階でこんだけは後先どうなるかわかんないよ………」
絞り出したような声と共に起き上がったジャスティーの顔にはくっきりと隈が出ていた。
ここ数日、ジャスティーは黒狼の情報をあのてこのてでかき集めていたらしく全く寝れていないらしい。多少やつれてもいる。
今の隈の濃さなら不眠症のガクトにも負けてないとヒスイは思った。
「ひどい顔だな。少しは寝たらどうだ」
あまりにも美しすぎる顔がジャスティーの方を真っ直ぐ向いている。世界中の人間のいい顔のパーツを厳選して集めてきたようだ。
人間の究極の容姿とはこういうことなのだろう。そのくらいヒスイは美しい容姿をしている。
ただ、彼は自分の容姿を褒められることを好んではいなかった。これを口に出そうなら眉間に常に寄っているシワがさらに深くなっているだろう。
そんなに美しい容姿と、自分の薄顔が並んでいいものかと、思いながらジャスティーは話を切り出した。
「いーや、まだ寝れないね。君に聞きたいこともあるし……ね」
ジャスティーは軽く伸びをした。
「聞きたいこと……前に言ってた能力が現れ始める年齢についてか…」
「うん、アギリの能力についての違和感をちょっとでも緩和できたらなーって。時期に自警団の資格も取ると思うからその前にどうにかしてあげたいんだ」
たしかに自警団に入って能力を頻繁に使うようになる前に自分の能力のことを把握しておいた方がいいだろう。
「で、そのアギリってやつの能力は?俺はそいつと顔も会わせたことないんだが」
ヒスイが空になったカップをテーブルに置き尋ねた。何故か流れている空気が全く違うように感じる。
「まあわかっているのは力の増幅とか、身体強化の類……けど多分ただの増幅とかではないんだよね……」
ジャスティーはそう言って眠そうな目を擦りながら置いてあったパソコンの電源をいれた。いくつかの操作をし、あの動画を再生し始めた。
ヒスイはただそれを眺めている。
この姿を切り取って芸能事務所ホームページの所属俳優一欄の写真に混ぜても全く違和感がなさそうである。
「……………………」
動画が終わった後もヒスイはしばらく画面を眺めていた。顎に手を当て、何か考えた後口を開いた。
「なるほどな………って起きろ」
ヒスイは机に突っ伏して脱落してしまったジャスティーの頭をカップで小突いた。
ゴン、とすこし重い音がしジャスティーが「う」と声をあげる。
「…あぁ…ごめん寝ちゃった……で、どうだった?」
「まあお前の言うとおりだな。たしかに素人にすれば動きが良すぎる。能力も慣れなければうまくは使えこなせないだろうな。だが、これも能力の一環なんじゃないのか?」
「最初はそう思ったよ。けどそれなら昔からある程度は気づいていてもよくない?本人は最近になってこの感覚を感じ始めたんだってさ」
ジャスティーはさっき叩かれたところを掻きながら答える。
「最近か……それでお前はこの仮説を立てたわけだな」
「うん、多重所有で5歳以降の能力出現の可能性……」
普通ならそう考えるのが自然であろう。だが、いろいろ調べてみてもなにも出てこないのだ。5歳以降の能力出現例が。つまり今までの例はゼロということである。
これに至ってはガクトも同じであった。
「で、多重所有者の俺に聞こうと……」
真っ直ぐとこちらを見据える翡翠色の瞳にジャスティーは頷いた。
hide creatureには他にも多重所有者はいるのだがわざわざヒスイを呼んだのは訳があった。
「君は多重所有者だけど特別。だいたいの多重所有者が能力を2つ持っているのに対して君は3つも持っているんだしね」
ジャスティーはテーブルの上の紙を集め、とんとんとまとめながらさらに続けた。
「しかもそのうちの1つは「不滅」……この能力で君は600年の時を生きる人になったわけだ。そんなに生きてれば噂でも聞いたことあるんじゃない?」
ジャスティーの言葉の後に暫しの沈黙。
その沈黙の後にヒスイが口を開いた。
「ああ。たしかにこの能力のせいで俺は600年この世界を彷徨い続けてる」
「不滅」__この能力は朽ちない体を得る。つまり不死になるというなんともファンタジックな能力だ。ヒスイはこの能力のため見た目は二十代前半ながら600年近く生きている状態を保ち続けている。
だが、本人いわく完全な不死ではないようで致命傷を受けると死んでしまうらしい。
初めてこの能力を聞いたときジャスティーやルーシー達は能力のランクをつける際、この能力だけに丸1日の時間を要した。完全でないといえど、死なないとなるとそもそもの自然の摂理を逸脱しているのであの時はだいぶ参った。
ヒスイはこの能力について話す時、その美しい顔がどこか物憂げになる。ジャスティーはそんな気がしていた。
「だがな、そんなに生きててもやっぱり聞いたことないものは聞いたことない。どの時代も能力の出現は5歳までとされていた」
「ふーん………じゃあ質問を変えるね」
ジャスティーはテーブルの上に転がっていたペンを回した。
「ヒスイはさ、自分の能力の出現時期とか覚えてたりする?まあそんなに生きてたら忘れちゃっててもおかしくはないんだけど………」
「能力の出現時期か……「不滅」以外の2つはたぶん5歳以下だな………」
「やっぱりか。で、その「不滅」の方は?」
その質問にヒスイはしばらく考え込んだ。
「ん?覚えてない系?」
「いや…そうじゃない………」
ヒスイはかなり考え込んでいる。口元に手を持ってきて熟考している様も絵になっている。美しすぎる美貌とは本当にとんでもないものだった。何でも絵画にしてしまいうる。
「出現時期は覚えてないのではなくて……記憶にない……本当に。何かが覚えてないとは感覚が違う」
「え、なにそれ。どういうこと」
ジャスティーは顔をしかめた。
「自覚したときはいつのまにかって感じだったな……」
「………それって5歳以降に出現した可能性ありありじゃないか!?」
ジャスティーは思わず立ちあがりテーブルをバンっと叩いた。カップが倒れテーブルから落ちそうになる。
「おいおい……落ち着け」
ヒスイにそういわれてジャスティーは「ごめん…」と言い座った。眠気が吹っ飛びそうだったのでついそうしてしまったのだった。
「聞いてるかぎり5歳以降に出てきたにしか聞こえないんだけど」
「うーん、まあそう聞こえても仕方ないな……けどこれもおそらく5歳以下だ」
「ふーん。……そういえる根拠は?」
ジャスティーはそう尋ねた。ヒスイは特に表情を変えることなく、続けた。
表情は変わってないもののやはりどこか物憂げなものは出ていたような気がした。
「……俺のこの「不滅」……まあ死なない時点で十分人間味に欠ける。その他にも欠けているところはある」
「例えば?」
「そうだな、お前三大欲求全部言ってみろ」
「え?」
突然言われてジャスティーはフリーズした。
「早くいえ」
ヒスイの眉間のシワが濃くなる。彼の容姿の欠点といえばこれだろうか。
「え、うん……えーと……食欲、睡眠欲………色欲…」
「そうだな。他の説もあるが基本的にはそれだ」
「で、これがなんなのさ……」
ジャスティーはいきなり言わされて意味がわからない。
「これらは人間にとって生理的な欲求だな。この欲を抑え続けては生きていけない。……だが俺はこの内の1つが欠けている」
「ふうん…なにが欠けてるの?」
「食欲」
食欲が欠けている……そう言われてもいまいちぱっとイメージができない。
「………食欲が欠けてるって、君普通に食べたり飲んだりしてるじゃん」
現にさっきヒスイはコーヒーを飲んでいた。
彼の眉が軽く動いた。「面白いところに気がつくんだな」と、言うと話を続けた。
「まあ、こう飲んだり食べたりはできる。けど別に食べなくても空腹を感じない」
「………で、それがなにと関係があるのさ」
別にこれが5歳以前の発動を証明するものではない。ジャスティーは渋った顔で言いは放つ。が、ヒスイは淡々と続けた。
「つまり俺は空腹という感覚がどのようなものなのかを知らない。生まれてこのかた空腹を感じたことがない…………これがどういうことかわかるか?」
暫しの沈黙。
ジャスティーは一つの結論に至った。
「なるほどね………つまり生まれたのと同時にこの能力が発動しだしたと、君は考えてるわけか」
ジャスティーの言葉にヒスイは頷いた。
体質に関する能力の場合はこのように生れた直後から発動することはよくある。本当にごくごく普通のことだ。
「じゃあこれも5歳以前は確定…………あーもう最近踏んだり蹴ったりだなぁ……」
だらりと体を投げ出し、ジャスティーは椅子に持たれた。若干自暴自棄にも見える。
「そうだな、情報は集まらないし前例は見つからないとなると………」
そうヒスイが言いかけたとき。
ガコン!!
大きな音がし、上から天板とともになにか降ってきた。
「?!!!」
「お前ら動くなぁー!!!」
上から降ってきたKPはドン!と音を立てテーブルの上に着地し銃をかまえ二人に突きつけた。
まとめてあった資料が宙を舞い、あとからカップが床に落ちるゴトンという音が響く。
いきなりのことに二人は暫しフリーズ。
「……………お前なぁ…」
フリーズがとけたヒスイの声は明らかに怒気を含んでいた。KPはおかまいなくけたけたと笑っている。
「なんで上から降ってくるのさ………」
「ん?何となく?」
ジャスティーが慌てて姿勢を直して尋ねるも、KPがきょとんとした顔で答えた。
何となくで上から降ってくる人間がいるのだろうか。ジャスティーも久しぶりにこんなに呆れた気分になった。
「あ、そうそうこれ」
KPは背負っている鞄から黒のぶ厚いファイルを取りだしばさりと机の上に置いた。
「頼まれてたやつ。黒狼の情報ファイルだよ」
「…………え?」
「だからファイル!頼まれてたやつ!」
ジャスティーはその言葉に唖然とした。
「え、……これ全部…………?」
「うん」
KPはファイルの表紙をバンバン叩いた。
あれだけ手を尽くしたはずなのになんなんだ、この差は。
ジャスティーはまた、力なく背もたれ天井を仰いだ。
天板の外れたところだけがやけに黒く見えた。
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