hide creature24

 昨日と同時刻。アギリは同じように講堂へとやって来た。もうすでに何人かの生徒がちらちら見られるがそのほとんどが私服だ。


 今日は休日なので学校が休みなのだろう。講義はちょうど学校の授業が終わってからの時間帯である。なのでこのクラスのほとんどはアギリと同世代の学生である。


 アギリは昨日と同じ席に腰かけた。隣の席であるゲーテルはまだ来ていないようだ。


 昨日アギリは帰宅(hide creacher)するとさっそくクローゼットをあさり例のジャージを引っ張り出してきた。奥に入っていたので出すのは多少苦労したが、着てみたところ特にサイズに問題なかったのでそれを鞄に詰めて持ってきた。


 アギリが壁に立て掛けてある時計をぼうっと眺めていると隣で椅子を引く音が聞こえた。あのセレブの姿が目に入る。


「あ、おはよ」

「おはよ、ではないな…もう昼だ」

「いーじゃんどーでも」


 椅子をひいた張本人、ゲーテルは呆れ顔をしながら隣に腰かけた。彼も昨日のような制服ではなく紺のズボンに深緑色の上着を羽織っている。案外カジュアルであるが、材質はとても良さそうだった。


 さらに、ファッションなどの知識に至っては皆無のアギリにだってわかる程の有名ブランドのマークが小さく刺繍されていた。

 アギリが知る限り、このブランドはこんな高校生ほどの人間が着るものではない。

 やはり相当育ちはいいようだ。


 アギリはふと彼の服装から連想して昨日考えていた疑問を思い出した。それをゲーデルに投げかけてみた。


「あんたって着替えどんなの持ってきたの?」

「え?俺か?家にあったジャージを持ってきた」

「へぇ…セレブの家にもジャージってあるんだ」

「そのくらいあるわ。楽だし」


 そうグダグダ会話をしていると講堂の前のドアが開く音が聞こえた。その音に反応しその場全員の視線がそちらに向く。


「はーい、みなさんお待たせしました」


 そう言いながら講師であるセドが入ってきた。彼の服装も運動をしやすそうな物だった。

 一斉に辺りのざわめきが消えた。講師の生徒の数を確認する声だけか響く。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よ…………………………はい、全員揃ってますね」


 セドは随分と独特な数え方をした。古風丸出しだ。


「ではさっそく今日の授業を始めたいと思います……が、まずみなさん着替えを済ましてくださいね。今から更衣室の案内をします」


 セドはプロジェクターのスイッチを入れスクリーンを下ろした。

 スクリーンには地図が表示されている。


「更衣室はこの階にあります。ここをでて左に行くと部屋が2つあります。ドア付近に男女それぞれの標識があるのでそこみてもらえれば大丈夫です」


 セドがそういうと指差し棒で地図を差した。


「着替えは……10分あれば行けますね。着替えを済ませたらまたここに来てください。初回なので実技会場まで一緒に行きましょう」


 セドの話を聞き終え男女が別れて更衣室へと入るなり、アギリはさっそく着替え始めた。


 他の生徒も次々と着替え始める。

 皆が駄弁りながら着替えている。やはり学校単位で申し込んでいる生徒がいるのだろう。おそらくゲーデルもその一部だ。


 そんな生徒達に対し、学校に行っていないアギリは一言も話すことなく着替え終えた。行ってなくとも、義務教育は終わっているので問題はない、はずだ。


 アギリのは紺の上着と短パン、それぞれに白いラインがはいっている。


 アギリはくるりと更衣室内を見渡した。市販のジャージの者から、アギリと同じく学校のジャージを着ているものもいるが、アギリと同じジャージは見当たらなかった。


 アギリはその事にまず安堵したのだが…………。


「………………………………………」


 アギリは自分の胸の前に手を持ってきて上下に振ってみた。手は体に当たることなく空をスカスカと切るだけだ。


 アギリは颯爽と更衣室を出て更衣室の入り口横の壁に顔を向けて、今世紀最大のため息をついた。一生分の幸せが逃げたような気がした。


 何の凹凸もない自分の体が憎い。せめてでっぱりくらいは欲しかった。ラーヴァはかなりのものを持っているのになんでだ。


 アギリはそのまま壁に頭をつけ壁にもたれた。


「…………何してるんだ…?」


 後ろから声をかけられアギリは振り向いた。

 着替えを終えたゲーテルがたっていた。黒の有名スポーツメーカーのジャージであった。


「なんかすごい鬱々としているんだが………」

「ああ………今ちょっとメンタル的にやられてるからね…………はは…………」


 アギリは笑って見せたが目が笑ってない。


「始まる前からメンタルやられてどうするんだよ……何かあったか?」

「あんたに話しても多分わからないからいいわ。行こう」


 アギリはそう言って歩き出した。

 ゲーテルにこんな乙女な悩みを話しても、わからないだろうだから話しても意味がないとアギリは判断した。


 アギリの言葉にむすっとした顔をするゲーテルだったが踏み入ることはなく、アギリの後についていった。




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