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 ジャスティーとラーヴァは二人で病院の廊下を歩いていた。


 最初男が突っ込んできたときに携帯を落としたためラーヴァはすっかり忘れていたが、携帯は繋がったままだったようだ。


 ラーヴァの声が聞こえなくなった後もジャスティーはスピーカーに耳を澄まし続けていた。そこから聞こえた何かがぶつかったり、倒れたりする音にただならぬ以上が起きていることを察知した。急いで向かってみるとあの様だったらしい。


「一応自警団と警察に連絡いれといたからね。後処理はそっちに任せよ」

「どこの自警団に繋がった?」


 自警団の通報回線はどこも共通で、発信された場所から一番近い事務所に繋がる仕組みだ。


 ジャスティーは「KPのとこに繋がった。出たのはKPじゃなかったけどね」と答えた。


 外に出ると微かに遠くからサイレンの音が聞こえてきた。時期に到着してあの男たちを取り押さえてくれるだろう。到着するまでに目を覚まされると厄介なので男たちをジャスティーの創ったガムテープで拘束しておいてある。


 夜も遅い中二人はサイレンの聞こえる方とは逆の道を歩いていった。空にはぽつぽつと星が見える。


「そういえば……………」


 ジャスティーがラーヴァに問いかけた。


「誰も死んでなかったね」

「ああ……殺さなかったからな」


 ラーヴァは聞かれたくなかったのかぶっきらぼうに答えた。


「本当に丸くなっちゃったねぇ」


 ジャスティーはそう呟いた。


「お前は相変わらずだな………お前こそあの拳銃大丈夫なのか?」

「ああ?これ?」


 そういってジャスティーは拳銃を取り出した。これも創ったものらしい。本当に便利な能力だとラーヴァは思っていた。


「大丈夫大丈夫、これレーザー銃だから。急所もはずしたし」


 そういってラーヴァに拳銃を渡した。ラーヴァは受け取った拳銃をじっくりと眺めた。


 レーザー銃は超能力社会において護身用拳銃で最もポピュラーな物だ。実弾の物もある程度は合法化しているものの、レーザーは実弾よりも殺傷能力が低い。

 さらにレーザー銃が普通の拳銃より軽いというのも人気の理由だった。ただ実弾よりも複雑な構造をしているため、値段は少々高い。


 ラーヴァは試しに引き金を引いてみた。玉は発射されず軽いトリガーからカチカチと軽い音がするだけだ。


「もうバッテリーないしね……短時間で創るとどうもバッテリーまでは満タンにできないや」


 少し困った様な笑顔をみせながらジャスティーはラーヴァから拳銃を受けとり懐にしまった。


「………黒狼か……」


 ラーヴァがそう呟くと少し前方を歩いていたジャスティーの足が止まる。


「…何でそう思った?」


 ジャスティーはこちらを向かずにそう言った。


「いや、まあ直感だけど……正解なんだろ?それ」


 ジャスティーはくるりとこちらを振り向いた。さっきの困ったような笑顔はどこにもなかった。


「感づかれちゃったなら仕方ないか……うん、ご名答だよ」


 ジャスティーはそう言って「どの辺で分かった?」と、さらに問いかけた。


「さあ、どの辺もなにも………けど」


 ラーヴァは続けた。


「あのガクトの頭の怪我だな。本人に尋ねてもぶつけたとしか言わないし、どうも引っ掛かってな………もしかしたら黒狼が動き始めたのかもしれないと思っただけだ。あいつは私が脱会するのを手引きしてくれたうちの一人でもあるしな」


 ラーヴァがそう言うとジャスティーは「ふぅん」と言っただけだった。


「本当はもうちょっとしたら言おうと思ってたんだけどね。君の言った通り……ガクトの怪我は黒狼が関わっている」


 ジャスティーはくるりと背を向け、また歩きだした。ラーヴァもそれについていく。こいつは歩くペースが少々早い。


「やっぱり目的のためにはどんなことも惜しまないね、あそこは。ガクトを取っ捕まえるだけで6000万もだすってね。君の時はいったいいくらだろうってね。今回も懐漁ってみたけど指令書なかったし」


 ジャスティーの感情の読み取れない声が響く。二人はそれからなんの会話もなしに歩いていった。


 しばらく歩くと飲食店の多い通りに着いた。夜も遅い中、居酒屋にはひっきりなしに人が吸い込まれていく。


「どこ行くんだ?」

「ん?こっち」


 ジャスティーはそう言うと歩いていった。ついていくと路地をいくつか通って抜けた先にこじんまりとしたバーにたどり着いた。


「なぜ、バー…………」

「あの事件があるにしろないにしろ、どっちみちいろいろ話さなきゃいけないからね……ここは僕の知り合いの店なんだ。いろいろ喋っても大丈夫だからね」


 ジャスティーは店のドアをあけた。ドアベルがカランカランと音を立てる。


 店のなかは若干暗めだったがどこか喫茶店のような内装だった。ジャスティーに聞いたところ昼間は喫茶店をしているらしい。


 カウンターで店主らしき女が「いらっしゃーい」と自分の髪をいじりながらそう言った。店主は二十代後半か三十代前半くらいで彼女の金髪は緩いウェーブがかかっている。


 店には店主以外の人間はみられなかった。

 ジャスティーはカウンターへと向い店主となにか会話をした。すると店主はカウンターから出てきて二人を個室へと案内した。

 案内された個室にはすでに先客がいた。


「ああ、やっときたね」


 先客であるスーサイドがそう言った。ラーヴァの顔が曇った。


「おい、こいつが来るって聞いてないんだが………」

「ちょっとその言い方ないでしょ?」


 スーサイドはそう笑いながら言った。ジャスティーは「まあまあ……」と彼女を諭す。


 ジャスティーとラーヴァはスーサイドと反対側の席に座った。


「てきとーになんか注文しておく?」


 ジャスティーはメニューを開きそう言った。


 ジャスティーはサンドイッチと唐揚げ、ラーヴァはポテトの盛り合わせとシーザーサラダを注文した。スーサイドは待っている間に食べてしまったようだ。


「で?これなんの集まり?」


 スーサイドが自分の赤髪をいじりながらそう言った。


「……最近やつらの活動が目立ってきてるでしょ?」

「そうだね」


 ジャスティーは水を少し飲み更に続けた。


「だから「黒狼」の情報を共有したいんだ。そこで元黒狼メンバーのあなた方にお尋ねしようかと」

「へぇ………」


 ラーヴァは頬杖をつき話を聞いていた。


「けど、ジャスティーは確かに元黒狼の人間だけどさ黒狼に潜入捜査してたんだよな?なら私達より詳しいことしってんじゃないのか?」


 ラーヴァはそうたずねた。


 記憶が正しければジャスティーは政府内の人間であり、こういう潜入捜査に特化したチームに所属していたはずだ。そう考えると今さら情報を共有するなんて無駄だとラーヴァは感じた。


 だがジャスティーは首を横にふった。


「潜入と言っても僕の目的は君たちを脱会させることだったしね……しかもそんな上の立場じゃなかったし期間も短い。政府も黒狼に関してはほとんど情報を持ってないんだ」


 ジャスティーは肩をすくめた。


 それと同時に店主が注文していた料理を持ってきた。「お待たせしましたー」と言いながら料理をテーブルにおいていく。料理をすべておき終えると、伝票をおいてとっとと去っていった。


「それで上の人間とよく接触していた俺たちに聞こうと」


 スーサイドが背もたれにもたれそう言うと、ジャスティーはさっそくサンドイッチをほおばりながら「そういうこと」と言った。


「なら俺だと分が悪いね」

「お前上の人間と喋ってたの割りと見たぞ?」


 ラーヴァはサラダのプチトマトをつまんで口に放り込んだ。ぷちぷちと実が弾ける音がした。


「いや、そういうわけじゃないよ」


 スーサイドがそう言ったとたん、突然彼は糸が切れた人形のように椅子にもたれ、首をうなだれた。


 腕もだらりと投げ出している。


 いきなりのことにラーヴァはぎょっとするがジャスティーは慣れた顔でサンドイッチを貪り続けていた。


 何秒かたつとスーサイドは何事もなかったかのように姿勢を直した。


「よぉ」


 さっきとなにも変わらない姿と声。だが、明らかに目に見えない何かが変わっている。


「………おい、いきなり入れ替わるのはやめてくれ。こっちはなれてないんだ」


 ラーヴァがそう言うと彼は「わりぃ、けどいい加減なれてくれてもいいだろ?」と、口角をにやりとあげた。


「仕方ないよ、僕も最初されたときビックリしたから……マーダー、せめてなんか合図くらいはだそうよ」


 ジャスティーは彼___マーダーにそう言うと彼は「はぁい」と悪い笑顔をつくりそう返事をした。

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