hide creature18
共同スペースのテーブルでアギリは資料を並べて眺めていた。あの日以来アギリは自分なりに「自警団資格習得講習」を片っ端から調べていっていた。
だが一口に講習といってもたくさんあった。今までの間、もんもんと悩みながらなんとか一部までには絞った。
……と、いっても自分の貯金で行ける金額で絞っただけなのだが…………。
「あぁ~~~どこ行ったらいいのかがわからん……………」
盛大な独り言を吐き出し、アギリはテーブルに突っ伏した。
いくら一部といっても十何件はある。資料を片っ端から読むのも目が疲れてきた。もともと活字を読むのは好きではないし、どっちかと言えば苦手だった。
アギリが机に突っ伏していると共同スペースのドアががちゃりと音を立てて開いた。
「あ、アギリ。なにしてんの?」
自分の名前が呼ばれ、突っ伏したままアギリは声の方を向く。向いた先にはジャスティーがたっていた。
「あー…………ジャスティーか……」
アギリがそういうとジャスティーはアギリの前の椅子に腰かけた。
「ん?アギリ、自警団の資格取りたいの?」
ジャスティーが机の上に広げられた資料を手に取りそういった。
「うん、ちょうどあんたに相談しようと思ってたんだけど……」
アギリはそういうと突っ伏した姿勢を直した。
「けど何でまた自警団に?ハンターでもいいんじゃない?」
ジャスティーは首を傾げた。
アギリには既に独学ではあるがある程度のクロウについての知識はついている。ならばそれをより活かしやすいハンターの方が向いているのではないかと思ったのでこう訪ねてみたのだった。
しかし、それはアギリも思ったらしくそれを踏まえてからいろいろあってこちらを選んだらしい。
「うーん、ちょうどバイト先の店長から自警団の人手が足りてないって言うのを聞いて……もともとなんか資格取りたいなーって思ってたからここに」
「なるほど」
「あと、ハンターも調べたけど倍率がやばかった」
アギリはハンター資格のことも調べていた。だが資格習得試験の倍率を見た瞬間調べる気が失せた。
これが一番の理由だった。
身体能力のテストなら自信はあるが、筆記の方はあの倍率では生き残る事はほぼ不可能であると断言してもいい。
「ははっ、調べちゃったのかー倍率。僕が受けたときはそこまでじゃなかったけどねぇ……最近になって一気に増えたから」
「タカラヅカじゃないんだしさぁ………」
「タカラヅカどころじゃないよ」
ジャスティーはそう笑った。
「ジャスティーって自警団の資格はとってんの?」
ジャスティーがハンター資格を持っていることは知っていたが自警団の方はどうなのだろうか。
「いや、僕は持ってないね」
ジャスティーはそう言った。そしてさらに続けた。
「けどジンとかは持ってるね、KPは両方とも持ってる」
「へぇ、あの人両方持ってるんだ」
ジンとは紹介の時にあって以来で特に話したこともないのですぐに思考から外れた。
アギリはあのジンジャーエール中毒者を思い浮かべた。侍と書かれたTシャツはどこで購入したのだろうか。やはりキョートとかだろうか。
「あの人最近見ないけど…」
アギリはここのところkPを見ていなかった。ああと、ジャスティーは思い出したように口を開いた。
「あいつね、たまに消えるんだよ。けどしばらくすると帰ってくるから」
「へぇ……」
あのKPという人は本当によくわからない。いつもヘラヘラしていてオープンな感じがするが本心は読めない。KPはどっからどうかんがえても本名ではないのでさらに謎だ。
アギリはそう感じていた。
ジャスティーはまたテーブルの上の資料に目を落とした。安い金額のテロップが目立つ。
「もしかしてどこ受けたらいいか迷ってる感じかな」
ジャスティーはアギリにたずねた。
「うん、自分の貯金でいける範囲の金額で絞ってみたんだけど……」
アギリはそういってため息をついた。
たしかにアギリのようなフリーターが講習を受けるとしたらこれくらいの金額が限度だろう。
アギリのバイト内容はだいたい知っているのでそこからもろもろ予測して計算してみると結構ぎりぎりであった。
「うーん、そうだな……こういったところはすでに専門学校である程度勉強してる人が多いんだ。君のような1から学ぶ人には向いてないかもね」
ジャスティーにそう言われてアギリは「えー……」と頭を抱えた。
「1から学ぶ人は…………たぶんこういうところかな………」
ジャスティーは携帯を取り出しとあるWebページを開いた。アギリは早速携帯を受けとり画面をざっとスクロールし内容を読んだ。
値段は5割くらい高くなっていた。
「やっぱバイトしなきゃダメかなぁ………」
アギリはまたテーブルに突っ伏した。何気に求人雑誌も用意していたので、携帯を手放しそちらに手を伸ばした。
パラパラとページをめくっていくとやはりスーパーやコンビニなどが多く目立つ。日雇いの求人要項もあった。
時給はせめて最低賃金以上のところがいい。あの店は実質中卒のアギリにも優しくしてくれたが他はどうかは分からない。
ふとジャスティーの方を見てみると、アギリがさきほど手にしていた携帯を弄り顎に手を当てて唸っていた。
そして、ポケットからもう一つ別の携帯端末を取り出した。
どうやら2個持ちしているようだ。そして、その端末でも別のブラウザを開きしばらく何かの操作をした後、口を開いた。
「経費で落とせるかなぁ……………」
ジャスティーがぼそっとそう呟いた。
しばらくアギリの動作が停止した。
「…………え?落とせるの……?」
「うん、頑張れば」
この人はよく経費とかいっているがその経費とはなんなんだろうか。
アギリはなんか濫用されてるような気がして不安になった。
「まあ、安心してよ落とせなくともなんとかできると思うし。とりあえず受けるならさっき見せたとこかな」
ジャスティーは再びアギリに携帯をわたした。さっきはざっとスクロールしただけだったのでWebサイトのタイトルを読んでいなかった。
「クオリィティフェイション……カレッジ……」
アギリはそう読んだ。なんか無駄に長かった。
「そこはいろんな資格が取れるとこなんだけど特にこういうのに力をいれててね、僕もここで取ったんだ。値段もわりと良心的だし」
たしかに応募枠をみたかんじハンターと自警団のところは大幅に大きかった。
「みた感じまだ申し込みはできるからもうそこやっといて」
ジャスティーはそう言い立ち上がった。
「え、お金どうすんの」
「とりあえず落とせるかどうか頼んでみるよ。じゃ」
そういってジャスティーは出ていってしまった。
取り残されたアギリはしばらく硬直していたが、とりあえず携帯をいじり申し込み画面へと進んだ。
ポチポチと次々に必要事項を入力していきあっという間に申し込みは終わった。申し込みが終わり携帯の画面をとじテーブルの上においた。なにかとすんなりと進んで行った。
このときアギリはあることに気がついた。
「………あのひと、携帯おいてったな………」
机においたジャスティーの携帯をみてアギリは呟いた。
***
白い壁と床が続く廊下をKPは歩いていた。
kPは最近全くhide creatureに戻っていなかった。
まあそれもいつものことだ。
kPはさらに歩いていきひとつのドアの前にたどり着いた。
ふと、横を見るとベンチに一人の少女が腰掛けていた。うつらうつらと首をゆらしている。歳は15歳くらいだろうか。
整った顔立ちの中にはまだ幼さを見ることができた。
少女の首がこてんと止まり揺れが治まった。少し遅れて、すーすーという寝息が聞こえてきた。完全に意識は夢の中だ。
こんな所に無防備に美少女を寝かせておいていいものなのかとKPは疑問に思いながらも、きていたジャージの上着を少女の体に掛けてやった。
そしてドアを開けた。
その部屋にはすでに2人の人物がいた。テーブルを囲んでおかれたソファの左には淡い金髪の女が座っている。携帯を手に取り誰かと連絡をとっている。
その反対のソファには黒髪の男が座っていた。腕組みをし、どこか一点を眺めていた。
入ってくるなり2人はKPの方を向いた。金髪の女は「また後でね」と言い電話を切った。
「やっときたか」
黒髪の男が口を開いた。KPは「わるいわるい」と言いながらそこにあった椅子に腰かけた。
大理石のような白い肌になんともいえぬほど整った美しい顔立ち。黒髪から覗く二つの宝石のような翠色の鋭い光をたたえた瞳がKPを捉える。
こんなに完璧な容姿をした人間がいるものなのかと初めて目にした時は思わず声が漏れた。
常に眉間に皺がよっているのはたまにきずだが。
「ヒスイもいいのー?あんなとこに娘さん寝かしといて?」
KPがそういうと黒髪の男……ヒスイは顔をしかめた。さらに眉間に皺がよる。
「だから……あいつは娘じゃないって何度言えばわかるんだ」
ヒスイは呆れ顔だ。
「けど端から見てると本当に親子みたいよ?」
ヒスイはさきほど電話をしていた女………グランデにもそう言われ、諦めたように眉を八の字に曲げた。
「ところであなた。いつうちのホスト来てくれるの?その顔なら絶対黙ってても相手を即おとせるわよ。」
グランデはそう笑って言うものの声色が結構真面目だった。たしかにこの容姿ならまさに天職といったところか。
しかし、ヒスイはそっぽを向いて黙ってしまった。
この二人の間でよく見られるやり取りであった。こうなるとしばらくグランデは口を聞いてもらえない。グランデは肩を竦めてほほえんだ。
KPはそれをみて笑った。だが笑ってられるのも今のうちだ。3人とも忙しいため集まれるのはなかなかない。
これから長い一日になりそうだ。
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