hide creature16

 ジャスティーが抜けた後も会議は続けられ無事会議は終わったようだった。


 そしてジャスティーの元に診断結果が届けられた。結果は3人ともAランクだった。ルーシーにたずねると、サイコ系のミズキ、ハルは今までSランクが出ていないサイコ系の分野においてこれからの判断基準とするため。


 アギリに関しては器具大破など派手にやったが身体能力に関連のある能力は数も多く強力な者も沢山いるということでA判定にとどまったらしい。


 また、変動もあり得るかも知れないので定期的に受けに来てほしいと言われた。


 ジャスティーは3人を呼び診断結果を渡した。共同スペースで四人はローテーブルを囲んで談笑していた。


「皆Aだったねー」


 ミズキが診断結果を光に透かしながら言った。なぜ透かしているかはわからない。


「器具派手に壊しちゃったけど……大丈夫なのかなぁ………」


 アギリが不安げにボソッとそんなことを呟いた。


 ジャスティーはあの明細を見せようかと思ったが苦笑いで済ましておいた。あのあとジャスティーは少しばかり金銭面の件で怒られた。


 ハルは相変わらずなにも言わずに診断結果をじーっと眺めていた。


 しばらく何かしらの細かい説明をジャスティーから受けたあと、彼は仕事があると言って出ていってしまった。


 最近この頃忙しいようでなにかと忙しなくhide creacherを行き来しているのをアギリは見かけた。


 ジャスティーが部屋を出ていった後も3人でソファに腰かけてしばらく話をしていた。


「あれ、アギリちゃん。ここ結果書いてないけど」

「ああ……ここね、器具壊しちゃったの……………」


 ミズキは「すごーい!」と言ったがアギリは全然嬉しくなかった。


 あの器具はどれくらいするものなのだろうか、アギリはひたすらそれが気になっていた。ジャスティーに聞いてもわからないの一点ばりなので余計気になる。


 アギリがそんなことを考えながらハルとミズキの結果に目を落とした。いくら双子でもところどころ数値が異なっていた。


「この能力値ってなに?」


 アギリはミズキの診断結果を指差した。この能力値はアギリの診断結果にはなかった。


「あーこれはね、自分の能力がどれくらいの大きさなのかを数値化したやつだよ」


 ミズキがそう言った。ミズキとハルのを見比べるとハルのほうが少し数値が高かった。


「要するに威力かなー?ハルのほうが高いんだよ」


 ミズキはそう言うと、ハルのほうをみた。

 ハルは少し体を震わせて、ぼそぼそと口を開いた。


「け、けど……コントロールはミズキのほうが上手だよ………」


 ハルはまたうつむいてしまった。診断結果を見てみるとハルがBなのにたいしてみずきはA+だった。たしかにミズキは能力を使った方が細かいことが楽にできると言っていた。


 能力を使わないでどのくらいかを尋ねるのはミズキの部屋の端に綺麗に折り紙で作られた鶴とその隣に置かれた鶴なのかなんなのか分からないぐちゃぐちゃの紙製のオブジェを見かけたのを思い出したのでやめておいた。


 そういえばこの前ミズキと話してたときこんなことをミズキはアギリに話していた。


 ここにきてちょっとのとき、能力を皆に見せる機会があった。そこでミズキはちょうどあったスプーンを超能力で曲げたのだった。ミズキそこでハルにテーブルの上においてあったフォークを投げるように言った。


 ハルは早速やってみた。


 が、ハルはフォークを曲げるどころかフォークがおいてあったテーブルを誤って真っ二つにしてしまったのだった。ハルは昔からコントロールは苦手らしかった。


 この件でハルは一日中部屋に篭った。あの時はだいぶまいってしまったと、ミズキが困ったように笑っていた。


 3人が診断結果を眺めていると部屋のドアがバン!!と豪快に開かれた。本当に漫画のバン!というオノマトペがどハマりしそうなほどだった。


 一斉に3人の視線がそちらに注ぐ。ハルは音に驚いて若干びくついていた。


 そこには青髪で右目に眼帯をした男がたっていた。紺のテーラードに黒のスラックスに身を包んでいる。


「おー!ハル、ミズキ!検査結果帰って来たんだってな!」


 男はにこにこと笑っていこちらへ歩いてきた。先程は気づかなかったら左の首筋に「L」の入墨があった。


「もー!Lー!びっくりさせないでよ!ハルがびひっちゃったじゃんか」


 と、ミズキがいう。男は「わりぃわりぃ」と言いながらアギリの横に座った。


「お、この子が新しく入った子?」


 男はアギリの顔を覗きこんだ。異性にこう近くで顔を見られるのには慣れてない。


「あ、はい…アギリです」


 アギリはそう言っておいた。毎回そうだがどうもアギリは自己紹介がそっけない。


「俺はLって言うんだ。よろしく」


 青髪の男………Lはそう言った。この人がミズキが言ってた人か。たしかにちょっと遊び人のお兄さんというふうな雰囲気がある。


「エル………あんたも偽名?」


 KPがそうだったし名前の次列も似ているので、アギリは何となくそうたずねてみた。

 しかし、Lは首を横に振った。


「んいや、KPと違って俺のは本名だよ」


 そう言うと、Lは目の前の診断書を引き寄せ目を落とした。彼の目の前にはハルとミズキの診断書が置かれている。


「あ?ハルはコントロールがやっぱ下手なのか…」


 Lがハルの診断をみてそう言った。ハルは眉を八の字に曲げてどこか悲しげだ。


「ご、ごめんなさい……………」

「え、何で謝るの………」


 Lはハルに謝られて困惑した。ミズキも「謝らなくていーじゃん」と、苦笑いだった。ハルにはどうやら謝り癖でもあるのか、なにかと謝っていることが多い。


「コントロールは練習したらできるようになるからな、一緒に練習しよ、な?」


 と、Lは言った。ハルは「はい………」と弱々しく言った。顔はまだ悲しげだ。


「一緒に………ってことはLもサイコ系の能力?」


 アギリはLにたずねた。Lはしばらく静止し、うーん。と唸り始めた。視線は紙を眺めたままだが眉を八の字に曲げている。それを見てアギリは不安になってきた。悪いことでも聞いてしまったか。


「あの………なんか不味いことでも聞きましたかね……。」


 アギリは思わず敬語になって申し訳なさげにLに尋ねた。


「……え?………あ!いやそんなのじゃなくてな!?全然そんなのじゃなくてな!?」


 Lは驚いたように紙から顔を上げ、焦りながら弁明を始めた。


「たしかに俺の能力はサイコ系分類なんだけど………厳密に言うとちょっと普通とは違うんだよな」


 Lはそのままさらに続けた。


「サイコ系は異能力の典型的な例といってもいいしな。割合も半数近くを占めている。けどその中にもまだ沢山分類があるんだよ」


 そう言うと、Lは辺りを見回した。そのときダイニングテーブルの中央にフルーツの入った籠があるのを見つけた。おそらく誰かが持ってきたものだろう。その傍に小さい紙が置かれており、「自由に食べてください」と丸っこい文字で書かれていた。


「ちょうどいいのがあったな。ハル、ちょっと林檎を持ってきてくれ。あ、能力でな?」


 Lに指示され、ハルは一瞬躊躇ったが素直に注文を受け入れ林檎に向かって指を伸ばした。林檎はふわりと宙に浮かび上がる。相変わらずサイコパワーというのは便利そうな能力である。


 そして、林檎は一直線に四人が囲むローテーブルへと飛んでいき、ストンと着地した。


 Lはハルに軽く礼を言うと、話を再開した。


「今見てもらったのが、その中のうちの一つ、「サイコパワー」だ。これはサイコ系の中でも頂点に位置する。己に宿す力を応用して幅広いことに活用することができる。他の能力の代用もできるな」

「へぇ、やっぱり便利なんだ」

「まあ、そうやって使えるようになるには………結構練習したよな」


 Lがミズキとハルにそう言うと、二人は頷いた。ハルに至ってはガクガクと首を縦に揺らしている。


「で、俺の場合なんだけど………」


 Lは目の前の林檎を指さした。林檎は宙に浮かび上がった。


 一件さきほどハルが見せたものと同じことに見えるが、そこには明らかな違いがあった。


 林檎は安定せず、不安定にゆらゆら揺れているのだ。そして、浮かび上がる高さも低い。


 しばらくして、林檎はストンと糸が切れたみたいにローテーブルの上に落下した。この点もさっきのは離陸した飛行機が着陸するみたいに安定したものだった。


「あー………やっぱりこれくらいが限界かぁ……」

「なにか違うのは分かったけど………何がどう違うの?」


 アギリはLに尋ねた。


「俺の場合はな、自分の体自体にはさほどエネルギーはないんだよな。物は浮かせられるけど不安定で、ハルたちみたいにあんなふうに結構離れた遠くの物を引き寄せたりはできない」

「結構遠く………近くはできるんだ?」

「そう。けど本当に近くのやつだけど。」


 Lはだいたい30センチくらいかなと、付け加えた。たしかに林檎が元あった位置から考えると相当短い数字だ。


 ここでアギリにある疑問が頭の中に発生する。


 それは単純にエネルギーの量の問題ではないかと。


 アギリはそれを口にした。しかし、Lは首を横に振ってにたりと笑った。どこかその質問を待っていたかのようだった。


「たしかにサイコ系は本人のエネルギー量も関わってくる。それはどれも共通なんだよ。本題はそれをどのように使えるか、だ。この幅がめちゃくちゃ広いのが「サイコパワー」ってやつだ」


 要するにエネルギーというものはどんなものであれサイコ系に置いては必須条件………ということなのだろう。だからエネルギー量というのは単純に威力の差程度でしか話題にならないと。


 アギリが簡潔なまとめを頭の中で作るのと同時にLが「俺の能力は………」と、口を開くと共に指をパチンと鳴らした。


 すると、目の前の林檎に異変が起こる。林檎の輪郭がばらりと崩れ落ちたのだ。


 アギリは驚いて、崩れた林檎を手に取った。林檎は見事な正方形に切り刻まれていた。林檎の賽の目切り、といったところか。


「わあ………何したんですか?」


 アギリが尋ねると、Lは賽の目切りにされた林檎の1つを口に放り込んだ。シャリシャリとした咀嚼音がした後に「美味い」とつぶやく声が聞こえた。


「このエネルギーってやつはな……実はありとあらゆるものに宿ってるみたいなんだよ。……俺たちに比べるとほんとわずかだけど。で、その力には流れている向きってのがあるんだよ。その向きを変えれば当然働く力も変わる。俺はその力の向きを変えることができるんだ」


 Lはほぼ一息でこれを話した。


「はぇ………」


 アギリは一度に話された情報をようやく処理して抜けた声を思わず出してしまった。


「さっき林檎を切り刻んだのはそれだ。どうやら物体は流れているエネルギーの向きを変無理矢理ねじまげてしまうと………こんなふうに切れてしまうらしいんだよな。まあ、なんで切れるかまではわからないけどとりあえずこうなる」

「じゃあ、林檎を浮かせたのは?」

「あれは林檎にかかっている力を上に引っ張ったんだ。ただこの引っ張るエネルギー自体が弱いから重力に負けて不安定、さらに引っ張るとそっからエネルギーが逃げてしまうから時間が経つと重力に負けて落ちてしまう、ってこと」


 なるほどと、アギリが呟くと今度はミズキが口を開いた。


「私たちの場合も仕組みは似てるんだけど……Lみたいにねじ曲げることは出来ない。試してみたけどこれはだめだったよ」


 ミズキは一間おいて、Lの方を見た。Lはその通りというふうに頷いた。


「ただ持ち上げる時は林檎のエネルギーはもちろん引っ張ってるんだけど、その時に自分のエネルギーを補填しているらしくてね。だからLのよりも安定するし、遠くでも引き寄せることができるんだって」

「ふうん……そーなんだ」


 アギリは腕を組んでうんうんと首を振った。こういう知識が増えて少し賢くなったような気がした。


「ところで………今回受けたのは三人だけ?」


 Lが急に話題を変えてきた。三人は特に戸惑うことも無く頷いた。そして、ミズキが代表として口を開いた。


「うん、そうだよ………それがどうかした?」

「実はお前たちより少し前に一人新しく入ってきてたんだよ。そいつもサイコ系なんだけどな、……一緒に受けなかったのか?」

「うん、なんか私たちだけだったよ」


 Lは顎に手を当てて首を傾げた。


「あれ、一緒に受けるって言ってたはずなんだけどな………予定が会わなかったのか?」


 Lはそう独り言を言った。


「どんな子かなぁ……早くあってみたいなぁ」


 ミズキは前のめりになり、自分の太ももにに頬杖をついて呟いた。


 Lは「多分そのうち会えるだろ」と言って笑っていた。




 ***



 ジャスティーは自分の部屋を後にし、廊下をまっすぐ歩いていく。

 途中Lとすれ違った。多分ミズキたちに会いにいったのだろう。


 そのまま進んでいきジャスティーはひとつのドアの前にたどり着いた。


 コンコンと何回かノックすると気だるげな低い声で「どうぞ」と帰ってきた。


 返事とともにドアを開けると物が乱雑におかれた部屋のベットの上でガクトが横になっていた。


 周りに本が山積みに置かれているのでさっきまで読んでいたのだろう。だいたいパソコン関連の本だった。

 本の中に混じってある丸いクッションの上には1匹の黒猫がスースーと眠っていた。


 ガクトがベットから体を起こした。彼の頭に巻かれた包帯が痛々しかった。


「頭大丈夫?」

「ああ、特になにもねーよ。能力も使えるようになったし」


 そういってガクトは指先から青い稲妻を発生させた。静かな部屋にバチッと音が響く。


「けど、しばらく安静にはしておけって。たまに痛むし」


 ガクトは傷の辺りをさすった。ジャスティーはベットの端に腰かけた。そしてポケットから封筒を1つ取り出した。


「何だそれ」

「君を襲ったやつらが持ってたんだ。多分指令書なんだけど」

「ああ……あれか」


 ジャスティーは中身を取り出すとガクトにみせた。勿論彼が読めるわけはないのだが。


「なんだこれ。これも言語なのか?」

「いーや、どっちかと言えば暗号だよ」


 ガクトが顔をしかめているとジャスティーは声に出して読み始めた。


 ジャスティーの淡々とした声にガクトは集中している。ジャスティーが読み終えると、しばしの沈黙の後ガクトが口を開いた。


 その顔は驚きが混じっている。


「………殺すんじゃなくて生け捕る……はよそうしてたけど…。なんだそ報酬額……」

「うん、6000万」


 暗殺業界において報酬の相場は高くても500万位だとガクトは思っている。勿論生捕りの場合の相場はもう少し高くなる。殺すより連れて帰る方が断然難易度は高い。


 しかし、いくらなんでも6000万はかなりの報酬額だった。家が買える。


「いくらなんでも6000万はかけすぎじゃないか?」

「そうかな?」


 ジャスティーはそう言った。


「今回君を襲ったアサシン……あいつらは普段集団で暗殺を行うらしい」


 ジャスティーはポケットから携帯を取り出し顔写真のリストをガクトに見せた。写真の下には名前らしきものが書いてあるが、ガクトには読めない言語だった。


「総勢6人で暗殺を計画していたんだ。一人一人の能力はそこまで高くないにしろ確実にしとめたいときや生け捕るときには最適。……まあ、全員ジンにやられちゃったけどね」


 6人で報酬額6000万だと一人辺りはだいたい1000万くらいか。


 だが今の時代10万ほどでも人を殺す奴がいるくらいだ。そんなに金をかける必要はあるのだろうか。


「一人1000万でも…………高くないかやっぱり」


 ガクトがそう言うとジャスティーはあの紙を裏返してガクトに渡した。紙の角の方にはあの気味の悪いピクトグラムが書かれている。


 ガクトはそれを見るなり目を見開いた。


「おい………これって…………」

「こいつらならこの金額はまだまだ序の口程度でしょ?目的のためならどんな報酬額でも惜しまない」


 ジャスティーは顔色を変えずにそう言いはなった。


「ラーヴァとスーサイドをここから脱会させてはや三年弱かな?組織の主戦力でもあったあの二人が抜けてから組織は大きな動きはしていなかった」


 ジャスティーはそう言って立ちあがった。


「ラーヴァの脱会は特に大きな打撃だったようだね。今回君が襲われたのはラーヴァを出し抜くためのエサにするためだろう」


 ジャスティーはそう言うと更に続けて「君たちはよく会ってたようだし」と、言った。


 実際ラーヴァとガクトはかれこれ5年くらいの付き合いになっていた。お互いの利害が一致してからそんなに経つのかとガクトは思った。


 だが、今はそんなことを考えてはいられない。ガクトの背中に嫌な汗が流れる。


「このこと……ラーヴァに言ったのか?」


 ガクトはジャスティーにそうたずねた。


「いや、それどころか君が襲われたのも言ってないよ」


 ジャスティーの顔色は相変わらずだ。どうやらガクトが襲われたことはごく一部の人しか伝えてないようだった。


「とにかく事を大きくはしたくない。君だってそうだろ?」


 相手は次にどんなことを仕掛けてくるかわからない。


 そう言うと、ジャスティーの顔色が突然変わった。


 緊張が部屋にはしる。そして、ガクトの方を真っ直ぐに向きなおしこう言った。





「やつら………反社会組織「黒狼」はラーヴァを引き戻すつもりだ」

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