hide creature14

 都会はクロウの出現率が低い。なのでここ最近都市部の人口はうなぎ登りだった。


 昔はまだ少し歩きやすかったが、もう今は人と人との僅かな隙間をすり抜けるように歩くしかない。


 だが、人が増えるぶん別の問題も出てくる。


「なんだてめぇ!?やる気か!?」

「上等だ!!クソが!!」


 互いに罵り合う声が聞こえる。

 KPが声のする方にいってみるとなにやら人が群がっている。人と人との間を覗いてみると男二人が互いに睨み合っていた。


 一人は金髪だが登頂部の色が黒だった。KPはそれをみてプリンを思い浮かべた。


 もう一人は青髪でやたらピアスをつけていてさらに舌が2つにさけている。スプリットタンというやつか。

 聞いたことはあるがあれはちゃんと手入れをしないと徐々に元に戻ってしまうらしい。


 二人ともそうとう興奮しているのか金髪は右手に炎を出している。青髪は爪が長く伸びていき、鍵づめのようになった。


 最近都市部で増えている問題。能力を使った喧嘩、犯罪が増加傾向にあるのだ。


 能力を公の場で使うことは個人の権利を尊重してか多少ならばとくに摘発はされない。


 だが、そのラインが曖昧すぎるのも増加を促進しているのではないかと、KPは思った。警察も取り締まりを強化しているのだがなかなか減らない。



「殺してやる!!!逃げんじゃねえぞ!!」


 そう金髪の男がいい青髪の男にへと突っ込んでいく。野次馬たちも「いいぞー」「やってやれ!」と声をかける。こう囃し立てる輩もいるから後々大変なことになるので個人的にはやめて欲しい。


「殺られるまえに殺ってやる!!!」


 青髪の男も鍵づめのついた腕を振り上げて突っ込んでいく。


 これはまずい。


 KPはそう思い能力を使おうとした。彼は一応自警団免許を持っているのでこのチンピラどもとは違う。


 が、突如金髪がつけていた火が跡形もなく消えた。


「は!?なんだよこれ?!」


 戸惑う金髪を見てチャンスと言わんばかりに青髪は鍵づめを振り下ろした。


 が、男の手には鍵づめはついていなかった。男の手は空を切っただけだった。青髪も目を丸くし驚いている。


「ったく、子供じゃないんだからさ。もうちょっと冷静になれないの?」


 突如声が聞こえた。男たちが声のほうに目を向ける。それにつられてKP、野次馬たちもそちらに目を向ける。


 そこには淡い茶色の髪をもった女が立っていた。左目は眼帯で見えなかったが目は赤く不気味に光っていた。


 KPは彼女を見たことがあった。



「なんだてめぇ!?!」

「クソガキが首を突っ込むんじゃねえよ!!」

「私ガキって呼ばれる歳じゃないわよ」


 女は相変わらず不気味な色の目で男たち二人を睨みつけている。ガキと言われたことが不満そうである。

 たしかにKPの記憶が正しければ彼女は童顔であるが既に二十歳は超えていた。それに着ているのもちゃんとした制服である。


 金髪は相変わらず火を使えない。火が使えないことで更にイラついたようだ。今までのイラつきをすべて女にぶつけようと女に飛びかかった。


 が、突然どこからかロープのような紐状の何かがものすごいスピードで伸びてきた。

 紐は勢いよく金髪と青髪に巻き付き二人の動きを封じた。


「っ!!さっきからなんなんだよぉ!!!」

「こんなの引きちぎって………!!!」


 青髪は力をいれるが紐………何十にもたばになった細い糸はびくともしない。


「無駄だよ。それは金属を練り込んだ特殊な繊維だ。並大抵の力じゃ引きちぎれない」


 糸の先をたどっていくと一人の男ががいた。碧海をおびた緑色の髪の少女とは逆の目に眼帯をしていた。糸は彼の着ている制服の上着から伸びていた。


「っ!!!!」


 男たちは男に殺気だつ。だが、男は微動打にしない。


「はいはい、話は留置場で、ねっ!!」


 女が男にそういうとすかさず手刀を男たちにいれる。


 男たちは糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。女は男たちが気を失ったのを確認し男に合図を出した。


 すると男たちに巻き付いていた糸がするするとほどけていき男の着ている上着に戻っていった。女の目も髪と同じ淡い茶色に戻っていた。


 少女は端末を取り出しなにやら連絡をとりはじめた。しばらくしてパトカーがけたたましいサイレンを鳴らしながら颯爽と姿を表した。警察が来たことで野次馬たちは蜘蛛の子を散らしたようにどこかへと消えていった。


 ニットの上着を着た男は男たちを警察に引き渡し、女は警官となにかを話している。


 引き渡しを終えると警官は少年と少女に敬礼をしパトカーに乗って去っていった。

 その場に残った見物客はKPだけとなっていた。


「おーーい!」


 タイミングを見計らいKPは二人に声をかけた。二人は振り向いた。


「「あ、KPさん」」


 二人の声が見事にハモった。


 二人の顔は髪、瞳の色が違うもののそっくりだ。

 KPは最近やってきた例の双子を思い出したようにこのような話題を二人に投げかけてみた。


「相変わらずそっくりだねーせっちゃん、たっちゃん。本当は双子なんじゃないの?」


 せっちゃん、たっちゃん、と呼ばれた二人は顔を見合わせた。


「双子どころか姉弟でもないんですよ」


 淡い茶髪の女、たっちゃんこと谷口はそう言った。それに続けてせっちゃんこと関口もうなずく。一応親戚同士らしいがここまでそっくりになるものかとKPは疑問を持った。


「そういやKPさん。今日は非番だったんじゃないんですか?」

「あー、散歩してた」


 関口の問にKPはざっくりと答えた。


 さきほどのような能力をつかって暴れられると警察でもなかなか手がつけられなくなる。そこで政府はこういった犯罪を取り締まる専用の組織をつくった。それらは「自警団」と呼ばれるようになった。


 hide creatureにも自警団に入っている者が何人かいる。

 今日、だいたいの自警団は民営なのだがこの辺りにはひとつだけ国営の自警団があった。それにこの二人とKPは所属していた。


「最近は本当に多いですね。こういったこと」


 谷口はそう言いため息をついた。


「クロウがでないだけまだいいだろ?」


 KPはそう言ったが、関口は首をふった。


「弱いやつしかでないんですけど………クロウの出現率も高くなって来てますよ。まあ、その辺は主ににハンターに任せておけばいいんですけど」


 関口がやれやれというふうに肩を竦めた。


「もうちょっと私たちの方にもいろいろ物資欲しいよね。スタン銃とかあったら便利そうじゃん。」

「たしかに」

「君たちはその能力が武器になってるだろ。だから必要ないんじゃない?」

「「そうですかねぇ………」」


 二人の言葉がまた見事にはもった。


 さきほど見たように、谷口の能力は相手の能力を一時的に使用不可にするものである。この能力は例が少ないものの一つでA判定を出されている。

 しかもこのような現場では重宝される能力だ。たまに他の自警団からも応援の要請もくほどだった。


 関口の能力は見た目だけではわかりにくいかもしれない。彼の能力は細い繊維状の物を操ることができる。

 要は糸状のものを操ることができる、といったところだ。パスタも操れる。

 細い繊維状の物なら、素材がどんなものでも自由自在で、外に出る時に服を着るのが一般的な現代社会においては絶大な力を発揮する。


 彼の着ている上着は専用に作られたもので、繊維に金属が練り込まれているので丈夫で束縛するにはもってこいのアイテムである。

 谷口と同じように、こちらもよく他の自警団から応援要請が来る。


「大変だろうけど頑張ってね。じゃ!」

「「あ、はい」」


 KPは関口と谷口に簡素な別れを告げてその場を後にした。


 KPは大きなスクランブル交差点の近くへとやって来た。よくテレビでも見かける大きな電光掲示板が目印だ。電工掲示板には製薬会社「オオバヤシ製薬」のお馴染みのフレーズが流れていた。


 このフレーズ昔からあるよな……と、KPは電工掲示板番の前を通りすぎとある大手コンビニへとはいった。


 看板には7の数字が3つ並んでいる。店の中の人はぼちぼちといったところだった。


 KPは入るなり飲み物売り場へと向いジンジャーエールに手を伸ばしかけた。


 その時、隣にトマトジュースが置いてあるのを見つけた。健康志向のスナックやジュースで有名なメーカーのものだ。ラベルにはみずみずしく雫を垂らしたトマトが大きくプリントされている。


 個人的にトマトジュースはここのメーカーのが1番美味しいと思っていた。


 KPは久しぶりにこっちでもいいかなと思いトマトジュースを手に取りそのままレジへとむかった。




 ***





 日はすっかり落ちて携帯の時計は午前12時を指していた。珍しく布団に入って見たのだが今日もいくら経っても眠気は襲って来ず全く眠れなかった。


 目の下に酷く濃い隈を作った長身の男が夜の街をふらふらとさまよっていた。


 その男の正体であるここ最近ガクトは全く眠れてなかった。


 元々不眠症ぎみなのもあるが長時間パソコンなんかの電子機器をいじっているのもある。睡眠薬に頼りすぎているので今日は外を歩いてみることにした。


 十二時を回ると飲食店もほとんどが店を締め始めて、泥酔した人が路上に寝転がっていたり、ビール缶片手に騒いでいる。


 ガクトはアルコール類を飲める年齢ではあるがアルコール類は嫌いだった。飲むと、ものの数秒で酔いが回り気持ちが悪くなり吐き気を催す。アルコールの臭いでもダメな時がある。それだけ酒には弱かった。


 成人式の時、友人に勧められてほんの少しだけ飲んだがあの時は散々な目に会い、気づいたら病院のベットの上だった。

 それ以来、酒を口にしたことはない。おそらく一生飲まないかもしれない。


 ずいぶんと散歩にミスマッチな場所を選んでしまった。このまま散歩を続けても、特にいいことは無いだろう。


 そう判断したガクトはガクトは酔っぱらいを横目にしながら散歩を切り上げ、路地裏にはいった。


 あの黒い液体を使うためだ。


 が、その前にやらなければならないことがあった。


 後ろを振り向くと全身黒づくめの人物が立っていた。


 目が会うと共に、人影が襲いかかってきた。


 それと同時に、ガクトが手を伸ばした。


 指先から小さい青い稲妻がバチっと音をたて発生した。すぐに稲妻は大きくなり、そのまま人物の頭を貫いた。


 再びバチンと音がし男はその場に倒れた。近づいて見て、様子を確認する。揺すってみても反応がないので完全に、意識を手放していた。


 ガクトの能力「干渉」はその呼び名のままのように、あらゆる現象に干渉することが出来た。


 使い方次第でほんとうに何でもできてしまう。


 遠く離れた場所から電子機器の電源をつける。電波に介入して、こちらに向けたり発信源を特定する。コンピューターのプログラムに侵入して、データを抜き取ったり書き換える。


 そして、この男のように相手の意識などに介入することもできた。この能力でさっきは相手の意識を遮断したのだ。使った後はあまり気分がいいものでは無いが。


 ガクトは伸びた男を見下ろした。


 さっきからガクトはこの男につけられていた。


 なぜつけられていたのかはわからない。


 もしかしたら暇つぶしに情報を自分に暴露された誰かが復讐に殺し屋でも雇ったのかもしれない。そうやって同業者が痛い目を見てきたのも知っているし、それをされるに等しいことをした自覚もある。


 とうとうそれが自分にもまわってきたか。


 殺してはいないので目覚めたら根掘り葉掘り聞いてやろうか。いや、めんどくさいな。


 正直どうでもよかった。



 ガクトがそうぼやぞや考えていると、




 背後で物音がした。




 ハッとして、すぐに振り返った。


 が、遅かった。


 瞬時に頭に強い衝撃が走り視界が揺れる。


「がっ!!!!」


 ガクトは壁にぶつかりそのまま崩れ落ちた。

 ぐにゃりと視界が歪み、脈に合わせてズキズキと頭が痛む。


 息がつまり、顔へ、なにか生暖かい液体が流れてきた。


 ぐらぐらと揺れる思考の中にいくつかの足音が聞こえてきた。自分は後ろから来た誰かに殴られたのか。


 ガクトは能力を使おうとしたもののうまく発動できない。ガクトの能力は強力なものではあるが頭を負傷したりするとうまく発動できないことがある。


 まさに今の状況だった。


「おい、起きろ。……………一人やられたけどまあ、いいか……目的はこいつだ」


 視界はぼやけて見えないがまだ耳は使えた。


 声はまだ続いた。


「気絶した?」

「いや、まだだ。まあ多分時期に意識は飛ぶだろ」


 ガクトはなんとか意識をたぐり寄せるものの急な出血による貧血症状が現れ始めた。声はとぎれとぎれになり意識をたぐり寄せるもの難しくなってきた。


「………生け 捕っ………………連れ…けば…は……………だ。か………報酬額だ……」


 とぎれとぎれでそんな言葉が聞こえた。


 生け捕り?連れていく?殺しに来たのではなく?


 殺すならここで始末してしまえばいい。どうやら生け捕ることが目的のようだ。一体どこに連れていくつもりだったのだろうか。


 なんとか、ぽつぽつと流れてくる情報だけで思考を始めるが頭がなかなか動かない。


 そんな中、突如異変は訪れる。


「…………も…………した…がっ!!!」


 突然ドスっという音がしさらにドサっと何かが倒れる音がした。目は見えないため何がおきているのかまではわからない。


「………た………!!ぐぁっ!!!」


 その声に続き次々と悲鳴が上がる。



 悲鳴は結構大きいもののはずなのに、音はだんだん遠くの方へいくように小さくなっていく。


 思考するにももう限界だった。


 殴られる音や悲鳴とともにガクトの意識は闇に引きずり込まれていった。


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