hide creature13

 アギリは緑のプラカードを持っている人物の近くへと行った。アギリ以外にも緑色のカードを持っている人がちらほらと集まり始めた。


「では、皆さんご案内するのでついてきてください」


 職員がそう言うと歩き始めた。回りの人々もそれについていく。


 周りには何故か屈強な男が多かった。さすが肉体強化といったところか。しかもみんな結構背丈もある。


 アギリはなんとか男たちにぎゅうぎゅう潰されながら職員の後についていった。


 後ろの方で「なんだこいつ」とか「渡されるカード間違えたんじゃないか」とかが聞こえてきたが気にしない。


 にっこりとした貼り付けたような笑顔でそちらを振り向くと、周りの声はきこえなくなっていった。


 アギリは第一ホールに案内された。だだっ広いホールにいくつか器具が置かれている。


『カードの裏に書かれている番号順に並んでください』


 天井のスピーカーからノイズに混じってそんなことが聞こえた。アギリがカードの裏を見てみると「15」と番号が書かれていた。

 周りの人々はならび始めていた。アギリは慌てて並びにいった。こんな感覚は途中まで通っていた高校以来だった。


 どうやらアギリは一番最後のようだった。


「一番最後かぁ…………」


 何気なくぼそりと独り言を吐き出した。


「嬢ちゃん気の毒だねぇ」


 アギリの独り言をを聞いていたのか隣の筋肉質な男が話しかけてきた。肌は褐色にやけ身長もこの中でもかなりある。アギリが見上げないと男の顔が見えない。


「まあ、申し込んだ順だからなぁ。嬢ちゃんは診断はじめてかい?」

「え?まぁ……はい。簡単な説明は受けたんですけど何をするかまでは……」


 アギリはそう言った。


「ここでは身体能力に関係のある能力の検査が行われるんだよ。例えば俺の一時的な筋力強化とかな」


 そう男が言うと彼は力瘤を作った。男がさらに腕に力を込めると腕が更に太くなった。男は「ほらな」と言った。


「おー……」

「ここにいるってことは嬢ちゃんもこういう系統の能力なのかい?」


 男はアギリにそうたずねた。


「はい、力の増幅だと思うんですけど………はっきりしないとこがあって……それで受けにきました」


 アギリがそういうと男は「なるほど……」と言った。それと同じくらいにまた軽やかな音が天井のスピーカーからなった。


『只今から第一ホールの能力診断検査を実施します』


「あ、始まる……」

「いよいよだな、お互い頑張ろうな」


 アギリは男にそういわれ肩をポンと叩かれた。この人はいい人だとアギリは判断した。


 いよいよ始まるのだ、「能力診断検査」が。


 ***



 アギリは能力診断検査を終えてホールから出た。診断結果が出るのはだいたい一週間後らしい。


 診断検査が終わってもしばらくホールは解放されたままなのでそこで話をする人も多いのだがジャスティーが待っているということもあり、アギリは真っ直ぐ部屋を出ていった。


 特に迷うことも無くジャスティーの所につくとすでにハルとミズキがいた。

 近寄っていくとミズキがこちらに気づいて手招きをした。


「あれ、私のほうが遅かったようだね」

「うん、サイコ系のとこね5人しかいなかったの」


 ミズキがそう言うと、ジャスティーの眉がかすかに動いた。


「珍しいね、サイコ系のとこがすいてるなんて」


 アギリはサイコ系の能力は種類も割合も多いため毎回混雑するとジャスティーから聞いていた。


「んじゃあ、全員揃ったね」


 そういうとジャスティーはあの黒い液の入った小びんを「ん」といいアギリに渡した。


「ごめん、さっき電話でね用事がはいった。これ使って帰って」

「路地裏でつかえばいいの?」


 アギリはたずねた。またあのときみたいにチンピラには会いたくない。

 が、ジャスティーは首をふった。


「ルーシーに話をつけてある。2階階段の踊場で使ってね」


 続けて「じゃ」と言うとどこかへと歩いていってしまった。


「いっちゃった………。あの人の仕事って何してるんだろ」

「一応政府の人らしいよ」


 ミズキがそう答えた。


「へぇ…………なんかそれっぽくないなぁ」

「たしかに、同感」


 ハルもそう思っているらしく、二人に対して頷いていた。


「んじゃ、いこっか」

「うん」

「はい…………」


 3人は歩いていき非常階段へとむかった。入口の前に立ち入り禁止の看板があったので三人は一度躊躇った、がそのまま通り越して奥へと進んだ。


 階段は薄暗く、階を示す壁に取り付けられた数字のオブジェクトがぼんやりと光っていた。


 三人はコツコツと音を立てながら、階段を2階まで上り踊場についた。アギリはさっきもらったビンの蓋をあけ壁にベタベタと塗っていく。


 絶対に落ちないような色をしているにもかかわらず水無しでもきれいさっぱり落ちる。


 この前初めて拭き取ろうとした時、落ちないことを覚悟していろいろ用意したのに乾拭きでも落ちるとわかった時の悔しさは尋常ではなかった。


 ある程度のおおきさに塗り終えると三人は誰もいないことを確認し、ワープホールへとはいっていった。


 ***


 ジャスティーはエレベーターがくるのを待っていた。3人とも無事に帰れただろうか。


 行きの路地裏にでたのが良くなかったかもしれない。あらかじめルーシーに話をつけておくべきだった。


 あのチンピラは大丈夫だろうか。少々やり過ぎたかもしれない。帰りに様子を見に行ってみよう。


 ジャスティーはそんなことをぼんやり考えていた。


「ジャスティーさん」


 後ろから声をかけられた。振り替えるとそこにはルーシーがたっていた。


「ああ、君か。どうだった?あの3人」

「どうもこうも……流石hide creatureのメンバーですね」


 と、いうとルーシーは持っていた書類に目を落とした。


「この時点で全員Aランク確定ですよ………とくにアギリ?でしたっけ?あの方は派手にやりましたよ」


 と、いうと1枚の紙と写真を渡した。ジャスティーはそれを受け取った。


「あなたに渡しておきます。あなたもこの器具に関しての開発は関わっているのでしょ?」


 と、言い残しルーシーは去っていった。


 ジャスティーはもらった写真に目を落とした。


「………マジかよ…」


 写真には大破した試験に使われる器具が写っていた。衝撃を受ける所には形状記憶素材がついているのだが中の骨組みが歪んだのかぐにゃりと曲がっている。


 そういえば待ち時間に大きな衝撃音が聞こえたような…………


 だがジャスティーが驚いたのはもう一枚の紙のほうだった。


 そこにはこう書かれていた。



 試験器具損傷により以下を請求をします


 修理費

 ¥80000000円


 請求人


 国家司法連盟第一責任者 ルーシー・アストレア



「…………こりゃ、ちょっとばかりおこられそうだなぁ………」


 ジャスティーはそんな独り言と共に盛大にため息をついた。


 ため息は虚しく周りの空気に同化していった。



 ***



 白いタイルの床をコツコツと鳴らし廊下を歩いていく。この建物はまだできて三年ほどしかたっていない。他の機関と比べればずいぶん新しい。


 タイルに自分の足元がが反射して写っていることから毎日丁重に掃除がされていることがわかる。


「よっ!久しぶりー」


 突然能天気な声が響いた。


 声の方に目を向けると黒のTシャツと深緑のジャージを着ている男が一人。

 Tシャツには白で「侍」と大きく書かれている。


 このセンスを問われるTシャツには見覚えがあった。


「………あなたですか。会議にはでないはずでしょう?」

「いやぁ、たまたま近くを通ったもんだから」


 ルーシーはどうもこの男……KPが好きに慣れなかった。

 いつもへらへらしていて能天気なとこがどうもルーシーの生真面目な性にあわないのだ。


 ルーシーはしかめっ面をしながら眼鏡を直し、KPを見た。


「んで、俺が頼んだことやってくれた?」


 いきなりKPが単刀直入にきりこんだ。


 ルーシーはため息をついた。

 本当は頼みなど聞きたくはなったが今回は仕方ない。


 なにせ、これは自分にしかできない事だった。


「しましたよ。あのアギリという方を私の「能力」で見る…………」


 KPが事前にルーシーに頼んでおいたこと、彼女の能力「分析」でアギリの能力を分析することだった。


 ルーシーの能力は解析系の能力においてはトップクラスを持っていた。ランクも文句なしのAだ。


 なのでなにかしらこういう場所に呼ばれることもいくらかあった。


「どうだった?なんかあった?」


 ルーシーの相変わらずのしかめっ面を気にもとめず、KPは笑みを絶やさず尋ねた。


 ルーシーはため息混じりにこう応えた。


「とくに変わったとこは………器具を大破させたくらいですが…」



 器具を大破させた。やはりアギリはかなりの能力を持っている。


 だが、KPが反応したのはそこではなかった。


「なにもなかった?多重所有とかも?」

「ええ」


 ほんのしばらくの間、何の音もない時間が訪れた。

 その時間はKPの声により終了する。


「そっか、ありがと」


 KPはそう礼を述べた。相変わらずの笑みを保ったままだった。


「なら、私はもう行きますよ。では」


 そう言ってルーシーは廊下を歩いていった。KPはルーシーの背中を見送った。


 その時の彼の双眼は笑みはどこかに潜んでしまい険しいものだった。

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