hide creature12

 都会の人混みのなかを掻き分けて歩いていく。こんな人の多いところに来たのは久しぶりだった。クロウの出現率が低い都会では近年人口が急増している。ただでさえ高密度に悩まされていた都市にはまさに追い打ちだろう。


「大丈夫?後ろついてこれてる?」

「は、はい………何とか…………」

「大丈夫でーす」

「ひ、人が………いっぱい………っ………」


 アギリは人に埋もれ、もみくちゃにされながらもなんとかジャスティーの後ろをついて来ている。


 アギリに続きミズキ、ハルも後ろからついてくる。


 今日は3人であの能力診断検査を受けに行く日だった。hide creatureのワールドツリー前で待ち合わせをし、ジャスティーに会場まで案内してもらうことになっていた。


 いつものように壁にあの液体を塗りワープホールを作り、そこをくぐると誰もいない路地裏にでた。


 ジャスティーいわく、ワープホールから出てくるところを見られるとまずいので毎回こういう人気が全くないところを選んでいるらしい。


 3人はジャスティーの後についていき路地裏を出た。


 ここまでは特に何もなかった。


 が、出るなりいきなりかなり人通りの多い道に放り込まれた。 もう押しつぶされそうになるようなレベルだった。


 アギリは人としょっちゅうぶつかるわ、ミズキはくつ紐を踏まれこけるわ、ハルは人に酔って気分が悪くなるわで散々だった。


 極めつけはハルの気分が悪くなったことで一端また路地裏に戻ったのだが、運の悪いことにそこで数人のチンピラに絡まれてしまったのだった。


 たが、今だにチンピラたちはジャスティーのおかげでぐっすり夢の中だろう。ジャスティーのあのあとの何事もなかったかのような笑顔が3人の脳内に焼き付いて離れなかった。


 馴れない都会の人混みに戸惑う3人とは裏腹にジャスティーはどんどん人と人との間をするすると通り抜けていく。


 ここでわかったことだがジャスティーは他人より歩くのが速かった。3人はたびたびジャスティーを見失いそうになった。


 そんなかんだでぼろぼろになりながら人混みを掻き分けること早10分、徐々にではあるが人が減り始めてきた。それでもでもまだ人と多いのでアギリは都会の恐ろしさを痛感した。あの廃都市の寂れが恋しくなってきた。


 なんとか戸惑うことなく歩ける位になったとき、前方を歩いていたジャスティーが立ち止まった。


 急に立ち止まられたのでアギリはジャスティーにぶつかりそうになった。後ろでも「ひやっ!」とミズキの声が聞こえた。


「ここだよ」


 ジャスティーがそういい前方にたっている建物を指差した。そこには全面ガラス張りの15階建てほどのビルがたっていた。入口には「能力診断検査実施会場」とかかれている立札が置かれている。


「ここでやるの?」


 アギリはジャスティーにそうたずねた。


「うん、そうだよ。いつもはもうちょっと小さいところでやってるんだけど、今年はなんか人数が多かったみたいで……」


 アギリたちはジャスティーの話を聞きながらなかにはいった。


 中に入ると広いロビーがありちらほらと他の人間が検査開始を待っていた。ジャスティーの言った通り、かなりの人がいる。


「ここでちょっと待っててね」


 ジャスティーはアギリたちを少しロビーで待たせて、カウンターへと手続きをしに言った。アギリたちはロビーの椅子に腰掛けしばらく話をしていた。


「どんなことやるんだろね」

「なんかねー能力にも細かい振り分けがあるらしくてね、それでちょっと検査方式が変わったりするんだって」


 確かにアギリとミズキの能力が違うように。能力も様々なものがある。例えば「火を操る能力」と「物を復元させる能力」を持つ物が同じ検査を受けたら正確な検査結果がでない。それをなるべく防ぐために能力によって振り分けられそれにあった検査を受ける。


「じゃあ私たちも別れるのかなぁ」

「私とハルは多分いっしょだけどね」


 ミズキがハルの方をみるとハルはこくりとうなずいた。


 そしてまた3人が駄弁っていると、ジャスティーが人の間を縫って颯爽と戻ってきた。どれだけ人混みの中を歩けばあんなふうになれるのだろうか。


「お待たせ、はいこれ」


 と、ジャスティーはそう言い3人にプラスチック製のカードを渡した。お互いのカードを見てみるとアギリのカードは緑でミズキ、ハルのカードはオレンジだった。


「しばらくしたら放送がなるからね。自分の色が呼ばれたら職員さんが誘導してくれるからそれについていってね。」

「あら?ジャスティーさん?」


 突然、女の声が聞こえた。

 声の聞こえた方に目を向けると、深緑の紙を密網でまとめ、眼鏡をかけた女が立っていた。服装からしてか試験管か何かだろうか。きっちりとしたスーツを身にまとっていた。


「あ、ルーシーじゃん」

 と、ジャスティーは言った。ジャスティーに「ルーシー」と呼ばれた女はこちらへと歩いてきた。


「どうしのですか?こんなところで」

「君こそどうしてこんなとこにいるの」


 ジャスティーにそう言われると女はかけていた眼鏡をかけ直した。


「何って……ここの手伝いにきたのですよ。普段やるようなことではないのですが……」


 彼女が言うとアギリたちの方をみた。


「そういえばこの方たちは?」

「ああ、この子達は検査を受けにきたんだよ」


 ジャスティーはそういうと「僕はその付き添いにきた」と、続けた。

 女は「なるほど……」と言葉を口にして、体をアギリたちの方へと向けた 。眼鏡の奥の優しい緑色の瞳には強い光を称えていた。


「初めまして。 ルーシー・アストレアと申します」


 と、言うと軽くお辞儀をした。


「あ…アギリ……です…」


 アギリはいきなり畏まった挨拶をされ戸惑った。ミズキは相変わらず「ミズキです」と、能天気そうに答えた。

 ハルは「…………………………ハル、です……」と、ぼそぼそと答えていた。


 ルーシーはしばらく三人を凝視した後、顎に手をあてて口を開いた。


「ジャスティーさん。もしかしてこの方々は………」

「うん、そうだよ。hide creatureに最近入った子たちだよ」


 hide creatureは政府が運営している組織であるが政府内でも存在を認知しているのは極一部。

 眼鏡の女………ルーシーはその内の一人だった。アギリはルーシーの着ているものがスーツであってもそれが制服であることに気づいた。


「それで能力診断検査を受けにこられたのですね」

「は、はい」

「皆さん頑張ってくださいね。では、私はこれで」


 ルーシーはそう言い残しどこかへと歩いて言った。歩く後ろ姿ができる人間というオーラをまとっていた。


 アギリは何故か体の力が変に抜けていくのを感じた。政府の人間と話したので変に緊張していたようだ。

 それを見たジャスティーはくすりと笑ってアギリの肩に手を置いた。


「変に緊張しなくていいからね」


 緊張していたのはアギリだけではなかったようで、ハルの方はいまだに力が抜けていなかった。ガチガチに固まったハルをみてミズキは「ハル?大丈夫?」と、声をかけてぺちぺちと背中を叩いていた。


 ジャスティーはルーシーが歩いていた方向をしばらく見ていた。


「普段はこういうことしないんだけどなぁ…ルーシーは……。よっぽど人手が足りてないのか……」

「へぇー、そーなんだ。さっきの人普段どんなことしてるの?」


 ジャスティーの一人言にミズキが問いかけた。


「もっと事務的なことをしているんだよ」

「へぇ」


 そんな話をしていたとき、突如天井のスピーカーから軽やかな音が聞こえてきた。


『皆さま、大変ながらくお待たせいたしました。只今より能力診断検査を実施致します』


 と、アナウンスがなった。


『緑のカードをお持ちの方は職員の指示に従って移動してください』


 緑のカードを持っているのはアギリだ。


「あ、呼ばれた」


 辺りを見てみると緑色のプラカードを持った職員らしき人物の周りに人が集まってきている。


「じゃあ、いってくるね」

「僕はここにいるから終わったらここに来てね」


 ジャスティーの言葉に「わかった」と返事をしアギリは彼らに背を向けた。


 後ろからミズキの「いってらっしゃーい」と、いう声が聞こえた。

 その声に対して、アギリは振り向き軽く手を振った。


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