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 アギリは荷物を片付け終えるとベットの上に寝転んだ。真新しいシーツの匂いがした。ベットがあったのでここに来る際に敷布団は処分した。掛け布団はそのまま同じものを使う予定だ。まだベットの横に畳まれたままだった。


 引っ越しはこんなに疲れるものだったっけな、と思いながら天井をぼぅっと眺めていた。


 あのアパートに入ったときは孤児院の荷物をただもってこればよかっただけだったのだが今回は家具がいくつかあった。恐らくそれが原因なのだろう。


 アギリは携帯を開いて、チャットアプリを開いた。ひとつのチャット画面に移動し転送されたファイルを開く。

 ファイルの中身は地図だ。自分の部屋にはわざわざ印を付けてもらってある。地図をみると案外この空間は複雑な作りをしているようだった。


 この地図は先日ジャスティーから送ってもらったものだった。ジャスティーにあらかた施設の説明はされたのだが改めて自分でも確認しておこうと送ってもらった。

 それに、持っていて損はないだろう。


 時刻はちょうど昼を過ぎて、おやつといったところだった。どうせならちょっとこの施設の見物に行ってみてもいいだろう。


 ベットから起き上がり、アギリはドアを開け外にでた。

 すると丁度隣の部屋のドアも開き誰かが出てきた。黒い髪をツインテールでまとめた少女が出てきた。

 年はアギリより1つほど上に見える。


 その少女と目が合う。深い青い瞳がアギリを捉えた。


「あれ?もしかして新入りちゃん?」


 ツインテールの少女はアギリを見るなりそう言った。


「あ、はい」


 突然言われたのでアギリはそんな感じにしか返事ができなかった。少女はこちらに歩いてきた。


「話は聞いてるけど会うのは初めてだよね。私はミズキっていうの。よろしくね!」


 少女は自己紹介をしてにこりと笑った。ずいぶんとコミュニケーションにおいてはずいずいと来るタイプか。


「あ、アギリです。…よろしく」


 アギリも自己紹介をした。自己紹介というものはいつになってもなんとなく慣れないものがあった。


 そのせいでいつもなにかとそっけないものになってしまっている。悪いふうに見られてないかとアギリはすこし不安になった。


 ツインテールの少女……ミズキの反応は「うんうん、アギリちゃんかー」と言いながらうんうんとうなずいた。


「アギリちゃんは今日ここに来たの?」


 ミズキはアギリにそう尋ねた。常に愛らしくにこにこしている。


「……ちょっと前から来てたんだけど今日は荷物を運んでた。」


 ミズキはアギリの答えに「へえー」と答えた。


「私もねここに来たのはほんのすこし前なんだよ。良かったら部屋でちょっと話さない?」


 アギリは施設内をふらふらするつもりだったが誰かと話すのも言いかなと思っていたところもあった。それならちょうどいい。


「あ、いいね。じゃあそうしよう」


 ミズキの提案をアギリは承諾しよう。


「いいの?!じゃ、私の部屋ではなそ!!」


 と、言うとミズキは満面の笑みを見せ部屋のドアを開けた。アギリはミズキに案内されるままに中に入った。


 ベットとウォークインクローゼットはアギリの部屋と変わりはなかったが、部屋の真ん中にブルーに白のドットがプリントされた小さな丸テーブルがある。おそらく持ち込んだ品だろう。


 その他にも青のファンシーな壁時計やぬいぐるみなどがおいてあった。ミズキの部屋は全体的に女の子らしいものが多かった。

 自分の対象的で殺風景な散らかった部屋を思い出してみると少しばかり弱った気分になりそうになった。


「かわいい感じの部屋だね」


 その気分を押し殺して、アギリが言うとミズキは嬉しそうに「ね!そうでしょ?」とほほえんだ。本当によく笑う。


 アギリとミズキは丸テーブルを囲んで座った。


「ね、アギリちゃんはここに来る前どこにすんでたの?」


 アギリはミズキにそう聞かれた。アギリは少しばかり間を開けて答えた。


「えーと……アパートで一人暮らししてたよ」


 さすがにあそこに住んでいたとは言わなかった。これをつい口走ってしまって引かれない確率は家の二回ほどから目薬を数的垂らして、下で待ち構えている人間の目にその薬が入る確率と同じくらいだろう。


 ミズキはそんなアギリの思考には気づいていないようで頷くのみだった。


「へー、私はここに来るまで孤児院だったんだよ」


 ミズキはそう言った。アギリの眉が動いた。


「ミズキも孤児院出身?」

「も?……って事はアギリちゃんも?」

「うん、私は中学校卒業したのと同時に出たけど」

「へぇー。」


 ミズキは相打ちをするとさらに話を続けた。


「丁度ね、孤児院を出ようと思ってたときにねLにここの話をされたの。」

「エル?」


 アギリはミズキの口から出てきた名前に疑問をもった。ミズキは「あ、まだあったことなかった?」と言うと、詳細を教えてくれた。


「ここにいる人だよ。見た目はチャラそうだしちょっとそういう所あるけど、すっごい話してて楽しいしいい人だよ。ほんといいお兄ちゃんって感じの人!」


 アギリは「ふぅん」と返事した。

 いいお兄ちゃんと聞いて、孤児院にいた時に凄く仲の良かった少し年の離れた少年を思い出した。


 ちょっとチャラいとミズキは話していたが、悪い人ではなさそうである。今朝ジャスティーに会ったとき、集まれる人を集めて紹介すると言っていた。


 その時に探してみようとアギリは思った。


 それから、しばらく互いの話が続いた。ミズキはお喋りが好きな年相応の女の子といったように思えた。楽しそうに人と話す。

 アギリも久しぶりにラーヴァ以外の同世代の同性と話す事ができて楽しかった。


「そういや、ミズキの能力ってどんなの?」


 アギリはふと、そんなことをミズキにたずねてみた。


 アギリはこの前あったあの3人と姉以外の能力は把握していなかった。それどころか他は会ったこともない。


 来て日が経っていないというのもあるが、それでもジャスティーや姉以外と廊下ですれ違うなどしたことはまるっきりなかった。

 そういえばあの日以来、例の目つきのわるい長身男とジンジャーエール中毒者も見かけていなかった。基本みんな自分の部屋で過ごしているものなのだろうか。


 ミズキにそうたずねたのは、今彼女とこう話をしているのだからせっかくなので聞いておいた方がいいとアギリは思ったからだ。


 アギリの問に対してミズキは「能力かぁー」と呟くと、部屋のなかをキョロキョロし始めた。


「あ、あれでいいかなぁ………」


 ミズキはそう呟いた。


 ミズキの目線の先には青色のリボンをつけたテディベアがおいてあった。アギリは何をするのかとミズキの方を眺めていると、ミズキはテディベアに向かって指を指した。


 テディベアの周りの空気が少しほのかに青くぼやけたかと思うと、ふわりと20㎝ほど上へと浮かんだ。ミズキが指を動かすとテディベアはこちらにふわふわと浮かびながらこちらによってきた。


 そして、丸テーブルの上まで来ると。テーブルの上に吸い寄せられるようにトスンと落ちた。

 アギリは今起こった現象に目を丸くした。それを見たミズキがすかさず説明をいれる。


「私の能力は「サイコパワー」なんだー。こんな感じに物を浮かせたり、遠くにとばしたりすることができるんだよ」


 サイコパワー。アギリは存在を聞いたことはあったものの実際目の前で見るとその凄さに驚かせられた。


「今度ね、能力診断検査を受けるんだ。それでもうちょっと細かいこともわかるかも」

「あ、それ私も受ける」


 アギリがそう言うとミズキは「え!ほんと!?」と、机にダン!!と手をつき勢いよく立ち上がった。

 思わずアギリは身を引いてしまった。


「う、うん………」

「嬉しいなぁ!私たち二人だけで受けるのかなぁっ思ってたから!」


 ミズキが言葉のままのとおり、とても嬉しそうに満面の笑みでアギリを見た。そのときアギリはミズキの言葉にふと疑問を持っていた。


「私たち?」


 アギリがそうたずねたとき、急に部屋のドアがガチャリと音をたてて開いた。


 アギリとミズキがドアの方に目を向けると黒髪と赤い目を持った少年がたっていた。その少年は目の色は違うもののミズキとよく似た顔をしていた。よく似ているというか、瓜二つである。


 一瞬ドッペルゲンガーかと思ってしまった。そんなことはあるわけがない。


 少年の表情は少しばかり驚いているようにも見えた。アギリがミズキと少年の顔を見比べていると少年と目があった。すると少年は少しビクついてバタンとドアをすぐに閉めてしまった。


「え」

「あちゃー…………」


 ミズキは苦笑いをしている。


「ちょーっとまっててねー………」


 と、ミズキは苦笑いのまま立ちあがりドアの方へと歩いていった。


 ミズキはドアを開け、あの少年となにか話しているようだった。アギリはぼんやりとそれを見ていた。

たまに否定的な言葉が聞こえてきたような気もしたが気のせいだろう。


 一分くらいたったとき、ミズキはあの少年を連れてこちらへと戻ってきた。


 ミズキは相変わらずの笑顔で「ごめんねー」と、いったが少年の顔はうつむき気味で困り顔、目も泳いでいた。


 ミズキは少年を自分の隣へと座らせた。アギリは少年の方に目を向けてみた。すると一瞬目があったが少年はまたビクっとしすぐに反らしてしまった。「嫌われているのかな」と勘違いしてしまいそうだ。


「この子はねハルっていうの。ほら、自己紹介!」


 ミズキにさとされると「ハル」と呼ばれた少年は


「は、ハル……………です…………」


 と、自己紹介をした。相変わらず目は泳いだままで困り顔だった。


「私とねハルは双子なんだ。だから能力もいっしょなの」

「へぇ」


 アギリはまたハルの方に目を向けた。見れば見るほどよく似ている。ハルはアギリと目が合うとまた反らしてしまった。それを見たミズキは「ちゃんと目あわせて、話してよー」と、不満そうに頬を膨らませた。


「ごめんねー。初対面の人に対してはいっつもこうなんだ」


 ミズキはそう言って更に「初日の時はまぁ大変だったなぁ………」と、続けた。


 それに対してハルは「ご、ごめんなさい………」と言った。顔は今にでも泣きだしそうだった。


 アギリは、なにか動物園のふれあいコーナーにいる隅の方でちぢこまったハムスターなんかを見ているような気分になってきた。


 ミズキは誰にでもフレンドリーで、ハルは人見知りが激しい感じだった。人付き合いも苦手そうだ。


 双子でも性格はここまで対照的なものなのかとアギリは疑問に感じた。


「アギリです。よろしく」


 アギリが自己紹介を簡潔にするとハルは「よ、よろしくお願いします………」と、弱々しく返事をした。


「ところでアギリの能力はどんなんなの?」


 アギリはミズキにそうたずねられた。そういえば紹介がまだであった。


「多分力の増幅なんだけど…………まだはっきりしないとこがあってね。能力診断検査でわかるといいんだけど」


 この能力診断検査は大体の能力の判別は可能なのだがすべての能力を判別できるわけでもないらしい。アギリはジャスティーにその事を聞いていた。


「検査で分かればいいね」


 ミズキはアギリにそう言った。アギリは「まあ、そうだね」と呟いた。


 アギリはまたハルの方をちらりとみて見た。ハルは相変わらず困り顔のままだったが目をそらすことはなかった。




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