hide creature10
このアパートに来てもう3年位になった。ゴーストタウンになる前はアパートも満室だった。
今ではアギリ以外の住民はいない。と、いうか多分自分以外誰もこの町に住んでいないだろう。
アギリは荷物をまとめながらそんなことを考えていた。今日アギリはこのアパートを出る。もう大きな荷物はhide creatureに運んである。後は細々とした荷物を運ぶだけだ。
アギリは壁に塗った黒く塗りつぶされた壁に荷物を押し込んだ。荷物はスブスブと中に吸い飲まれていく。
実際この黒い液体は1度戻ってから半信半疑で壁を拭いてみたが見事にきれいさっぱり跡形もなく取り除けた。
向こうではラーヴァいて荷物を受け取ってくれた。
「これで最後だよー」
「オーケー」
アギリが声をかけると向こうから凛とした声が返ってきた。
最後の荷物を運び終えると部屋を見渡した。あんなにごちゃごちゃしてた部屋は今ではすっかり空っぽになった。もぬけの殻だ。
こうしてみるとこの部屋も意外と広い。今まで感じていた閉塞感はどこかに消えていた。
アギリは少し部屋の中を歩き回った後、自分が蹴っ飛ばして立て付けの悪くなってしまったドアを開け閉めしてみた。このドアともおさらばだ。なにかとぎいぎいと軋む音が寂しさを誘った。
ドアを開け閉めするのを止め、アギリはあのワープホールの前にむかう。
そしてもう一度部屋を見渡した後ワープホールの中へと入っていった。
***
ワールドツリーが写し出すホログラムを眺めながら、ラーヴァは妹に渡された荷物を床に置いた。
アギリは昔から片付けは苦手だったな。
ラーヴァはそう思っていた。
昨日部屋に行ったときは相変わらずだった。段ボールやらいろいろな物が積み上げられていた。
そのなかで昨日二人は夕食を共にした。本来この前一緒に夕食を食べる約束はしていたのだが、いろいろあって先延ばしとなり昨日になってしまった。
二人で食事をするのは半年ぶりだった。アギリはクロウの大量発生の件、ラーヴァも仕事が変わったりして安定するまで立て込んでいたのだった。
そこで二人は昔の話をした。
「アギリはさ、私と初めてあったときのこと覚えてる?」
ラーヴァはそんなことをアギリに言った。
「初めてあったとき?たしか………私が5歳くらいのときか」
ラーヴァが13、4くらいのとき、ただいつのもように父親と食事をしていると
「お前には腹違いの妹がいる」
突然そういわれたのだ。そのときはひどく驚いたものだった。
そして会いにいってみるとそこは孤児院だった。そこの小さな部屋に案内された。部屋の扉を開いてみるとそこには絵本を読む幼い黒髪の少女が一人いた。絵本を逆さまにしたりぺらぺらとめくってみたりしていた。まるで使い方が分かってないかのようだった。
「第一印象はどうだった?」
「うーん……「お姉ちゃん」っていわれても似てないって思ったかな………」
「同じだ」
そのとき二人はしばらく何も話さすにいた。ラーヴァは何を話したらいいかがわからなかった。アギリは特に怖がる様子もなく、ただこちらを見ていた。しばらくするとまた持っていた絵本に目を移してしまった。
いきなりあったこともない妹と二人にされてどう声をかければいいのかが悩んだものだった。しかもかなり歳も離れていた。子どもと触れ合う機会などいままで全く無かったのでどのように接すれば喜んでもらえるかをひたすら考えていた。たぶんこの時の顔は相当険しいものだったかもしれない。
そうしていると突然服の裾をくいっと引っ張られた。いつのまにかアギリがこちらにきていた。
そして
「あなたがわたしのおねぇちゃん?」
と、たじたじとした言葉を紡いだ。
ラーヴァが「うん」と答えるとアギリはラーヴァの顔をじっとみた。しばらくして、大きな声で「にてなーい」と言ったのだった。
おもわずそれには笑ってしまった。それがきっかけで色々なことを話した。
アギリはどうやら両親の顔は見たことがなかったようだった。ラーヴァも同じだった。父親といってもあの人とは血は繋がってなかった。どうして親の顔を互いに知らないのに巡り会えたのか不思議だった。
この時父親はここの職員と色々話をしていた。父親はアギリを引き取ることを考えていたようだったが、父親は病を患っていたらしくそれが悪化したことにより引き取るのは断念した。父親はラーヴァが18の時に亡くなった。
それから長い時が流れた。アギリは16、ラーヴァも22歳になった。
そんな回想に浸りながらラーヴァはアギリの荷物を見ていた。ふと、その中に古びた積み木が入っているのが見えた。取り出してみると木の色はすっかりくすんで角は削れて丸くなっている。表面にはシールなどが貼り付けられていたような跡があった。
積み木を手に持って眺めているとワープホールからアギリが出てきた。
「ありがと、手伝ってくれて」
アギリに答えるようにラーヴァが口を開いた。
「これからはきちんと後片付けしろよ」
それに対してアギリは「は、はい……」と返事をして視線を逸らした。ラーヴァはそれを見て思わず笑ってしまった。
「あ、それ………」
と、アギリはラーヴァの持っている積み木を指差した。
「まだ持ってたのかこれ……」
「いーじゃん持ってて」
アギリはむっとしたような顔をした。
これはラーヴァがアギリの誕生日に贈ったものだった。職員の話によるとよほど嬉しかったのか一日中これで遊んでいたらしい。
随分と懐かしいものだった。
「貰ったときすっごい嬉しかったからさ、どうしても捨てたくなかったんだよね」
アギリはそう言い積み木を箱の中に戻した。
「じゃあ、行こうか」
アギリの言葉に二人は荷物を持って廊下を歩いていった。その姿は仲のいい姉妹そのものだった。
***
ジャスティーは廊下を歩いていくアギリとラーヴァとすれ違った。二人とも何かを話していたようなので声はかけなかった。二人の顔はとても幸せそうだったので水をさすのはよくない。
廊下を歩いていき自分の部屋の前についた。
ここ最近どたばたしていたので部屋に入るのは3日ぶりになる。
ドアノブをひねりドアを開けたとき突然横から腕が飛んできた。ジャスティーは咄嗟に相手の腕をつかみそのままねじって相手の体勢を崩し床に押し倒した。
「ぐえ」という誰かのうめき声が聞こえた。
「いい加減やめてよその悪戯」
「ははっ、ごめんごめん」
ジャスティーに攻撃を仕掛けた正体、赤髪の男が床に押し倒されたままそういった。この男はたまにそういった悪戯を仕掛けてくる。そのたびにジャスティーはこうしているのだがこいつは懲りない。
ジャスティーは男の手を離した。
男は立ちあがり「いてて」と、言いながら立ち上がり肩を回した。押し倒されたときに軽く打ったようだ。
「さっきさ、新しく入った子とラーヴァが一緒に歩いていたのをみたんだ」
「ああ、あそこね一応姉妹なんだよ」
ジャスティーがそう言うと赤髪の男は少し驚いたような顔をした
「へぇ、あいつ妹いたんだ……全然似てなかったけど」
「異母姉妹なんだって」
ジャスティーは最近自分が度々このことを説明しているような気がした。まあ、初見で姉妹と見抜ける方が少数であろう。
「ラーヴァってすっかり丸くなったよなぁ……」
赤毛の男はニコニコと笑い、頭の後ろで手を組んだ。
「それは君も同じでしょ」
「あのときはそうとう俺は荒れていたからなぁ」
「まあ、今でも君は荒れるときはあるけどね」
「ジャスティーは相変わらずだね」
昔は二人ともかなりピリピリしていた。あの時は目付きからもう違った。まるで尖ったナイフのような冷たい光を目に宿していた。
二人とも変わったのだ、あのころから。ジャスティーはそう感じていた。
「まあ、僕たちが元同僚ってことに変わりはないけどね」
「それは変えようがないな。過去のことは変えられない。」
赤髪の男はまた、へらへらとしながらそう答えた。この男のこういう所は昔から変わってはいない。だが、目にする頻度はたしかに多くなった。
「で、君は何をしに来たの」
「ん?悪戯仕掛けに来ただけだよ」
そういえばこいつが悪戯を仕掛けることに目覚めたのも最近だった。これはない方が良かった変化だ。
そう言うと赤髪の男は立ちあがり部屋を出ていった。
「過去は変えられないか………」
ジャスティーはそんなことをぽつりと呟いた。過去は変えようがない。だから人は過去を隠し続けるのだろう。
ラーヴァとあの赤髪の男………スーサイドは隠し続けるつもりなのだろうか。大切な人に変えられない過去を。
人を殺めることを職にしていたことを
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