hide creature9
共同スペースのドアを開けるとさきほどの二人は変わらずそこにいた。
ガクトは相変わらずパソコンを弄ったままだがKPはジンジャーエールを飲みながら何か書類を読んでいた。この男はジンジャーエールが好きすぎてほぼ毎日飲んでいる。
KPはジャスティーが入ってくるなり話しかけてきた。
「お、案内終わったか?」
「うん、部屋の場所も教えてきたよ」
ジャスティーはそう言いながらKPの横に腰かけた。そして、KPのみていた書類を手に取った。どうやら履歴書のようだった。
KPが今手にしているのはアギリの履歴書だった。写真はまだ貼り付けられていない。その代わりにクリップで1枚写真が付けられていた。
この履歴書はhide creatureが独自に手に入れた情報を集めまとめているものだった。ここにかかれている情報のほとんどは先程からずっとパソコンを弄っているガクトが集めてくるものだった。ガクトはパソコン関係の仕事をしているらしいが詳しいことは知らない。
おそらくハッキングとかでこういった情報を集めているのだろう。
「ラーヴァの妹なんだなぁ…………あんまにてねーけど」
「なんか異母姉妹らしいよ」
アギリは真っ黒な黒髪に黒目だったがラーヴァは金髪に青目だ。ぱっとみ姉妹には見えないがジャスティーは話していて仕草なんかは似ていると思った。素っ気ない素振りも似ていた。
「どう?アギリのこと」
ジャスティーはKPにそうたずねてみた。KPは暫く写真を見た後、口を開いた。
「俺、最初写真見た時弟だと思ったんだよな。まあ、かなりボーイッシュな見た目してたし」
「そんなんじゃなくて」
KPの茶番を咎めると、彼はやれやれというふうに肩を竦めた。
「なかなかいいと思うよ。能力はたしか………力の増幅だっけ?」
KPはそう答えるとジャスティーはうなずいた。
「うん、本人はそう思っているね。けど……普通のそういうのじゃないと思うんだ」
「ほう?」
KPは空になったジンジャーエールのボトルをテーブルに置いた。
テーブルには既に空のボトルが三本あった。
「どんなふうに?規模が大きいとか?」
「まあ、それもあるんだけど………」
ジャスティーはポケットから携帯を取り出した。そしてガクトに「パソコンかして」と言った。ガクトは「ん」と、ぶっきらぼうに返事してパソコンを渡した。
画面にはフォルダが開かれていた。フォルダのファイルの名前が人物名、しかも大物政治家の名前もいくつかあったが、ジャスティーはそれをみてなかったことにしてフォルダの画面を縮小化した。
そしてジャスティーはケーブルを創ると自分の携帯とパソコンを繋いだ。ジャスティーはパソコンのディスプレイに開かれた携帯のファイルを選択し一本の動画を開いた。
「ちょっと画質悪いんだけどさ」
「なにこれ」
「アギリと直接会う少し前に取った動画」
ジャスティーはあのとき屋上から取った動画をパソコンで流した。
KPはそれを食い入るようにみていた。ガクトも後ろに回り込んで動画を見ていた。
動画は短いものだったがその場にいた3人は妙に長いものに感じだ。
動画が終るとKPは姿勢を直した。ガクトも前傾姿勢を直し伸びをした。
KPが腕を組んで唸った。
「…………これ本当に一般人?」
「うん」
KPの疑問にジャスティーも同感だった。
アギリと一緒にクロウと遭遇したときもアギリの攻撃の交わし方は匠なものだった。まるで昔何かしらの特殊なことをやっていたかのように。それくらい動きが鮮やかで無駄がない。
「ガクト、この子がさ昔何かの訓練受けてたとかそういうのはなかったよな」
「ああ、特にそんな情報はなかった。ただでさえ情報が少なかったけど。」
そう言ってパソコンに再び手を着けた。そしてアギリのファイルを開いた。
アギリ・アレックス
両親不明、現在姓は姉のものを使用。生まれてすぐに孤児院に入所。中学校卒業まで在籍。高校入学時に孤児院を出る。
ざっくりとはこうだった。
その後わジャスティーとKPはファイルに書いてあったことを片っ端から読んでいったが特にめぼしいことはなかった。
KPはそれを読み終えると天を仰ぎ「うー………」と呟いた。そして新しいジンジャーエールのボトルを開けた。プシュッという炭酸がボトルから飛び出す音がした。
「飲みすぎだろ、ジンジャー」
「うまいじゃんかぁ……」
KPはそういうとボトルの半分を一気のみした。このメーカーは結構炭酸が強めだが一気に飲んで大丈夫なのだろうか。ジャスティーは純粋に疑問を持った。
ジンジャーエールを飲んでKPが口を開いた。
「けどさぁ、これも能力の類いなんか?」
「さあ、けどアギリはこんなこと言ってたんだ」
そう言ってジャスティーはアギリが自分の能力のことをどう思っているかを話した。
アギリの自分の能力の見解、最近のあの感覚のことも話した。こういうのはアギリが直接話した方がいいかもしれないと思いながらもジャスティーは話した。
「ふーん……じゃあアギリは''相手の動きを読むことができる''と、いうことになるな」
「うん、けどこんな能力聞いたことある?」
ジャスティーの言葉にKPは腕を組んで「ないな」と答えた。
「なんだろな、これが能力だとすると''感覚''的なものになるんかなぁ」
「前例がない能力となると確実にS判定はもらうよね」
ジャスティーのS判定理由のひとつにそれがあった。そのときは周りから変わった能力だねと言われる程度でそんなに珍しい能力だとは思っていなかった。
「けどさ、アギリは自分で能力は力の増幅だと言ってるんだよな」
ガクトはそう言った。KPはガクトの言葉にたいして「そう、それ」と答えた。
「多重所有者ってことになるな」
「例がないわけではないけど………」
多重所有者。所謂能力を二つ以上持っていることになる。
実際hide creatureには多重所有者がいる。だが、
「いままで自覚なかったんだよね、多分アギリは」
ジャスティーはそういう更に続けた。
「その''感覚''について話を聞いているときさ。アギリは「最近」って言ってたんだよね。だからそれまでは特になにもなかったことになるんだよね」
その言葉にガクトが眉を上げた。
「能力が現れ始めるのは5歳までだろ?履歴書を見たけどアギリは16。しかも最近ってことは少なくとも5歳以降ってことになるな」
ガクト言った通り、確かにそうだった。
能力が現れるのは5歳までだ。どの能力に関することを書かれた論文でも、最新の研究結果でも能力の出現は5歳までだった。
これに関して、少なくともここにいた3人は5歳以降の能力出現の例を聞いたことがなかった。
「そこなんだよなぁ………」
「あり得なくはなさそうだけどな……………」
KPは残っていたジンジャーエールを飲み干した。ガクトはパソコンをシャットダウンしはじめた。そしてパソコンを閉じるとパソコンを持って扉の方へと向かった。
「どこ行くの?」
「その5歳以降の能力出現に関してもしかしたら俺達が聞いたことないだけかも知れない。調べてみる」
そう言いのこして部屋を後にした。
ガクトが出ていった後にKPは立ちあがり空のペットボトルをリサイクル用ゴミ箱に入れた。
そしてその足て「んじゃ、俺部屋戻るわ」と言って出ていった。
共同スペースに一人残されたジャスティーはKPが読んでいた雑誌を手に取った。
雑誌の中身は最近のファッション誌だった。容姿端麗のモデル達が様々な服を見に纏い、華麗にポーズを決めている。
ファッション誌とは意外だった。興味はある方なのかと思ったが、KPは恐らくこういうことにはあのセンスがよくわからないTシャツを見る限り、関心がないように思えるのでただたんにそこにあったから手に取って読んでみたと考えた方が自然か。
パラパラとめくってみたが、特に面白そうなことも書いてなかったので後ろ向きでゴミ箱へとむかって放り投げた。
雑誌は綺麗に放物線を描いてゴミ箱に吸い込まれるように飛んでいき、ガコンという音が共同スペースに響いた。
***
KPは自分の部屋へとは向かっていなかった。彼が向かっていたのはあの大木オブジェのある真っ白な空間だった。
大木の枝の先にはホログラムで世界各国のニュースが写し出されている。この大木は一応ワールドツリーと呼ばれている。
白く無機物で植物らしいのは見た目だけのワールドツリーのさらに上に広がるホログラムは深い夜空に染まっていた。
これは外の時間の空にリンクしている。要は今は夜というとこになる。
ワールドツリーの横を通り過ぎ、KPは壁にあの液体を塗りつけていく。白い壁に穴が空くように黒が塗り付けられていく。
この時KPの頭の中にある仮説が浮かび上がっていた。だがKP自身もこれは半信半疑だった。これが正しいのならばこれからさわがしくなるだろう。
KPは壁に黒い液体を塗り終えるとその中に入っていきhide creatureを後にした。
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