hide creature4

 クロウが黒い蒸気をあげ黒玉へと変化していく。機関銃の音とクロウの断末魔が未だ頭の中で響いている。辺りには真っ黒な液体が飛び散り、空の薬莢がいくつも転がっていた。


 アギリはそんな光景を見ていた。始めてのことだらけで思考が追い付いていない。

始めてあんなに大きなクロウに遭遇した。部品が組合わさって機関銃ができた光景、機関銃の音も始めてだった。もちろん、あの感覚までも……。


 そんなことがぐるぐる頭のなかでまわっていると男は弾丸の入ってない機関銃を投げ捨てこちらを振り返った。服はクロウの体液が飛び散りところどころ黒い染みができていた。


「ごめんね、びっくりしたでしょ」


 そう男が話しかけてきた。アギリはとっさに我にかえった。


「あ、いや……ちょっと急に色々なことが起きぎて…………」


 容量のすくない自分の脳ミソだとついていけない。ああいうさっきの動きができるくらいならもう少し頭も冴えてほしいものだった。


「怖かった?」

「それはなかったです」


 この解答はすぐでてきた。何でだ。


「いやー、色々急にごめん、ホント。元々こういう予定じゃなかったんだけど……」


 そう言うと男はできた黒玉の方へと歩いていった。黒玉はバレーボールくらいの大きさだった。


「でっか……」

「なかなか大きいな…………」


 男は黒玉を拾い上げた。真っ黒で見た目は重々しいが簡単に持ち上がる。男とアギリは顔を見合わせた。


「こんなのもってったら大騒ぎですよね………」

「まあ、そうだね………」


 昔、アギリは今回よりは小さいがちょっと普段狩るのより大きいクロウを狩ってそれを市役所に持っていったことがあった。


 アギリが出した黒玉をみるなりカウンターを担当していた男は「どうやって駆除した」のだの「何を使った」なの騒ぎたててきた。

 そのせいか回りにいた野次馬まで寄ってきてすぐにあたりは騒然となった。そのときは適当に知りあいがハンターをしててその代わりにここに持ってきたと、話してなんとか納められた。かなりの額の討伐金をもらえたがあんなことはもうごめんだ。


 これをもって行けばあのとき以上の騒ぎになるだろう。


「さすがに機関銃はやり過ぎたかなぁ………」


 そう呟いて男は辺りを見渡した。辺り一面に飛び散った黒い液体、転がる薬莢、そして流れ弾が当たったのかコンクリートの壁にいくつか穴が空いていた。


「あの…あんたって」

「ん?あ、名前いってなかったね………」

「いや、それは私もですけど…………」

「…………あなたってハンター関係者とかそういう感じの人ですか?」


 思いきってアギリは聞いてみた。あの大きさのクロウに対して冷静な反応、攻撃のかわしかた、その辺りが明らかに素人の動きではなかった。

あの機関銃も男の能力によってできたもので間違いない。ハンターでなかったとしてもクロウを駆除したことはあるだろう。あんな感じで普段クロウを駆除しているのだろうか。


 そう訪ねてみると男は若干困ったような顔をして うーん 、と言いながら腕組みをした。


「あ、いや、すみません。変なこと聞きましたかね」


 やはりあまり聞かない方が良かったのだろうか。


 しかし男は「いや、そうじゃないんだ」と言いこう続けた。


「たしかに僕はハンターの免許は持ってるしそう思ってもらって結構だよ。ただ………」

「ただ?」

「ちょっと言えば僕のところのチームは特殊なんだ」

「特殊?」


 ハンターのことはアギリはよく知らないが、ハンターのチーム構成にもいろいろあるのだろうか。


「君なら話していいかな。……まあ、どうせ話すことになるんだけど」

「話すって何を……?」


 そうアギリがたずねると。男は急に真面目な顔つきになり、アギリに向き合った。急にピリッと空気かはりつめる感じになり自然と背筋が伸びる。


「僕は様があってここに来たっていったでしょ。その様は君に会うためなんだ」

「私に会うため?」

「そう、本来ならもっとスムーズにいく予定だったんだけどちょっとね…………」


 と、男はさっきクロウが現れた方に少し目を向けた。


「あんなのがいるなんて聞いてなかったよ。まあ、なんとかなったものの」


 そう言って男は困り顔で笑った。だが、すぐに真面目な顔つきに戻った。


「だから、今は簡単なことだけ話して後は場所を替えよう。ここで話していたら何が起こるかわからない」

「簡単なことって………私、あまり頭はよくないんですよ」


 若干自虐的になってしまった。


「頭は関係ないよ本当に簡潔にして話すから」


 そう言うと男は今まで以上に真面目な顔つきになりアギリの目をみてこういい放った。





「君を ''hide creature'' にひきいれにきた」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る