その星はどこに向かうのか

 科学が発展し、星間移動が可能になった世界。地球資源だけでは賄えなくなり、ほかの星に侵略を始めた世界。

 人間は肉体を捨て自らの身体を生体データに保存し、データの身体になっていた。

 食料が必要なくなり、建築物などの人工物もなくなった。今必要とされているのはサーバだった。データを保存する場所がなければ生きていけない体になってしまったのだ。


 現在、回収された資源は巨大なデータ容量を持つサーバを作成するための材料にされている。死ぬことがなくなるため、人間の欲は留まるところを知らない。かつ、人は増えるばかりだ。

 そこで、一部の人間が地球を離れようといった。疑似的な星を作成し、そこにサーバを埋め込む。その中にデータを映して、宇宙のはるか彼方に行こうと提案した。

 その計画は滞りなく進み、宇宙に飛び立った。


 この話は、その人口惑星で働く一人の人間のお話。


『先輩、私たちはいつまで監視をしていればよいのでしょうか?』

 そういったのは、四脚のロボットだった。脚の上には球体が乗っており、脚が格納できるようになっているようだった。

『監視を始めてからあと2時間で72時間だ。30分前になったら交代になる。そこまで我慢しろ』

 先輩と呼ばれた者も同じく四脚のロボットだ。


『あと2時間が待ち遠しい。あ、先輩。これ終わったら飲みに行きましょうよ』

『あいにく。データの酒はうまいと感じなくてな。遠慮しておく』

『先輩って肉体があった時からの人でしたっけ?肉体って面倒なんですよね』

 先輩はその身体を揺らす。

『確かに面倒だったが、今考えるとその身体が懐かしくて、戻りたくなる時もある』

 外見では見わけもつかないが、星の表面を伝って聞こえる声は普段より落ちていた。

 今いる場所は、人口惑星の表面だ。電磁石でくっついており、球体になって転がり移動する。

 宇宙には振動する空気がないため、表面を震わせて音を伝えるのだ。


 先輩と呼ぶロボットが会話を楽しくなるように話しかけていると、アラートが鳴った。

 それは待っていた交代時間の音ではなく、飛来物のアラートだった。


『なにか来ましたね。知的生命体でしょうか』

『それはないだろう。このあたりに星はない。宇宙で生きられる生き物ではあるだろうが』

 時折人口惑星に飛来物が来る時がある。それは知的生命体のときもあれば今回のような宇宙生物の時もある。知的生命体は話し合いで済ませることが出来るが、宇宙生物の場合は、攻撃してくると気があるため警戒が必要だ。知的生命体に警戒が必要でないかと言われたらそうではないが。

 アラームは一定距離になったら鳴るようになっている。

『撃ちます?』

『まて。管制塔の連絡を待つ』

 先輩がそう言ってしばらく。管制塔からの報告が来た。


『現在飛んでいる宇宙生物を確認しているか?』

 管制塔からそう聞かれる。

『目視している。推定距離約40㎞。大きさは数mだろう』

『こちらでも確認した。アメーバ状の生物だ。面での排除を許可する』

『許可確認した。20㎞を切ったら排除する』

『了解』


『先輩。待つんですか?』

『ああ。あのまま通り過ぎてくれれば問題ない。弾が少しだけ浮く』

『そうは言っても、あれ思いっきりこっちに向かってますよ』

『わかっている。だから、結局は撃つことになるだろう』

 そう聞いたロボットは嬉々として球体からアームを数本出した。先には大きめの弾が付いており、側面に火炎放射器と書かれていた。


『ちょっかい掛けても?』

『ほどほどにな』

 言い終わるときには弾が飛び出していた。直径30㎝程の弾はものすごい勢いで宇宙を突き進んでいく。

 計算によって宇宙生物に直撃する軌道を描いた弾は数分後には当たる。

 二人そろってそれを観察していたら、アメーバ状の宇宙生物が危機を察知したのか、弾が当たらないように、中心だけ穴をあけて避けようとしているようだ。

 けれど、アメーバに当たる前に弾が割れた。中から白い炎が噴き出し、アメーバを焼く。気体燃料ではなく液体燃料のためすぐに消えない。燃料がなくなるまで燃え続ける。

 遠くから見ると、突然目の前に恒星が現れたような輝きだ。


『たーまやー』

『花火か』

『知ってるんですか先輩。わたし、知らないんですよ。他の人が言っているのを聞いて』

 先輩がカメラを向けた。

『ああ、肉体があった時にあったものだ。資源の無駄遣いとかで次第に無くなったがな。だが、綺麗だったぞ。たくさんの色があってな。音も体に響いた』

『先輩。ほんとに楽しかったんですね。楽しそうです』

『そうか?まあ、今じゃそんなの夢物語だがな』

『・・・、こんな噂を知っていますか。研究室で今、肉体をよみがえらせる研究をしているって』

 先輩は、カメラを恒星に向ける。

『知っているとも。だが、無理だとも知っている。この惑星には肉体時代があったのは私だけだ。肉体がどんなものかも知らない連中に作れるわけがない。それに、無機物じゃ作れないぞ』

『そうなんですか!無機物じゃ作れないんだ。初めて知りました』


 恒星は燃え尽き、後には何も残ってはいなかった。

『撃退確認。監視員の二人は交代時間になり次第休憩に入ってください。次は一週間後です』

『了解。交代時間になり次第休憩に入る。次は一週間後』

 通信を終了させると目の前の床が開き、何かがせりあがってくる。次の二人だろう。


『いくぞ』

 脚を格納して転がりだす。

『わかりました。先輩、やっぱり飲みに行きましょうよ。データのお酒もおいしいことを知ってほしいんです。まあ、本物のお酒を飲んだことはないんですけど』

 エレベーターをアームで操作しながら返事をする。

『頑張ってみろ。俺は手ごわいぞ』

『頑張ります』

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