箱庭学園

 ここは、教室。一列に机が6つの六列。36人は入れる教室で教壇には先生と思われる人がたっていた。


「新入生の諸君、初めまして。私は君達を取りまとめる担任だ。自己紹介は省いてこの学園は何をするところなのかを教えよう」

 担任と名乗った女性は教卓を部屋の隅へと追いやり、白墨を手に取り黒板に何やら書きこんでいく。

 出来上がったのは何かの相関図だ。中心に箱庭と書かれた円があり、それと線で繋がるように各所に円が書かれていた。その一つにこの学園も入っていた。


「みんな知っているだろうが、この世界は箱庭だ。一辺100㎞もない立方体だ。その小さい世界で私たちは過ごしている。資源なんてあるはずもない。けれど、なんで私たちはいま、生きているか知っているか?そこに君」

 担任は適当に生徒を指さす。

 さされた生徒は立ち上がり、担任にこたえる。


「この箱庭には、別世界につながる扉を開けることが出来るからです。その先で資源などを採取しています」

「その通り。資源も何もないこの世界が今も生きている証拠がそれだ。箱庭には扉を作る力がある。私たちはその力を使って資源を集めているわけだ。けれど、一つ疑問には思わないか?なぜ、私たちは、その力を使って外に出ないのか。この何もない世界を捨てていかないのか」


 担任は無言で指をさす。

 先ほどと違う生徒だが、同じように立ち上がる。しかし、不安そうな顔をしている。


「わかりません」

 担任は大きくうなずき、その答えに満足しているようだった。

「知らなくて当然だ。君たち生徒は外に出たことがないからな。私たちが外に出ない理由は、外にしばらくいるとこの箱庭に帰らなくてはと思うようになるんだ。私も最初その答えに疑問を持ったが、外に出ると分かった。私たちには帰巣本能があるんだと」

 一拍置く。

「それが外に出ない絶対の理由だ」


 次に担任は黒板をいったん消し、別のものを描いた。


「では、なぜこの学園が必要なのかを教えよう。私たちは、資源を回収するために外に出るが、みんなバラバラに出ても意味がないし、効率が悪い。そこで、ルールを決めた。効率が良くなるようにルールを守る。それを教えるための学園。

 この学園ではルールを覚えさせるための場所なんだ。それ以外にもいろいろと教えるが、始まりはそれだ」


 担任が生徒を見渡す。

「そして、みんなは知らないだろうが、私たちが外に出る理由がもう一つある。それが、価値あるものの収集だ。価値あるものよりも使えるものを取ってきたほうがいいと思うだろうが、これも必要なことだ。なにせ、この箱庭はその価値あるものを吸収して存在を保っているんだ」

 生徒が驚きの声を上げる。知らなかったことだから当然といえば当然だ。

「今では、その価値あるものを集める方法も学園で教えることになっている」

 担任が、軽く手を鳴らす。


「これが、この箱庭学園がある理由だ。働くまでにしっかりと覚えて行けよ」

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