第15話

「……お前…………その魔法が禁忌だと、分かっているのか……」

「……私だって、好きで……罪を犯したわけじゃないのです……」

ゆらゆらと足取り悪くクレアは動く。両手で顔を覆っているのでクレアがどんな顔をしているのかは分からないが声色からして怒りか悲しみ。もしくは両方取れる。

「…………ッ!人間はいつもそうなのです……そうやって、私を責め立て、私の存在を罪だという……でも、マリア達は違った……私を仲間だと言ってくれたのです……マリア達だけが、私を認めてくれた」

顔を覆っていた両方をだらんと下げ、サリエラを視界に入れる。目を合わせたサリエラはゾッとした。何も無い感じない無感情の飾りの目がサリエラをじっと見つめる。深い闇に捕らわれたかのようにサリエラは動けなくなってしまった。

「いたいた……クレアちゃーん!」

「…………テイラー」

サリエラの頭上で声がした。敵の名前を呼んでいるということは声の主は敵であると判断したサリエラは自身の頭上に視線を送り、そして、目を見開いた。テイラーが脇に抱えているもの、いや人は見覚えのありすぎる人物だったからだ。

「……コエ……」

4本の手足にはもぎ取られたかのような傷口、服の上からでも分かるほど深い傷跡があった。コエを抱き抱えているテイラーにはコエのものであろう赤い赤い血が体中にべっとりと付いていた。

「あれ?この子がクレアちゃんのお相手?……へー、そっか……君面白いねぇ、久しぶりに見ましたよ……君、ジャスティス家なんだ」

「ッ!!!…………魔物が、その名を口にするなぁぁぁッ!!!」

顔を険しくさせながらサリエラはテイラーに突進し、高く飛んだ。そして剣を振りかざす。サリエラの攻撃を華麗にかわしたテイラーはクレアの近くに行き、サリエラと向かい合う。

「そろそろ時間です。行きましょうか」

「……うん」

「待て!!」

「はい?」

「コエを置いていけ!!そして私と戦えッ!」

「……ダメです」

「……ッ!」

「これは私が拾った大切な素材なんです。そうそう、わたせません。それにこの子治癒属性なんでしょう?余計渡せませんよ。あと、私達には時間があるので君とは戦えません。」

「あ、まて!」

テイラーとクレアはサリエラに背を向け、走り出した。1人取り残されたサリエラはぐっと手を握り、下唇を噛む。手と唇から赤い血がつうっと流れていることにサリエラは気づかない。それほどまでにサリエラは悔やみ、そして自分を責めた。

_______________


「ッ!……誰だッ!!!」

スバルの背後に忍び寄る影。気配に気づいたスバルは火の玉を飛ばした。命中したのかは分からないがドサッという倒れた音がした。クレイグを見るとまだ状況を理解出来ていないのか固まっている。その隙を突き、スバルは気配の招待を暴くため、倒れた音のした方へ歩いていく。そこにいたのはボロボロになったシンだった。

「ッ!?……シー君!?」

先程の攻撃をスバルは後悔する。てっきり敵だと思っていたスバルは容赦なく火の玉をシンに当ててしまっていたのだ。シンを抱え、クレイグの元を離れた。追ってくる様子はなく、まだ固まっているかあるいは別方向へと行ってしまったか。

「……ごめんな、シー君。……」

それにしても、シー君の傷の量は多すぎるとスバルはシンの体を見ながら思ったら。それほどまでに手強い敵だったのかよくがんばったとシンを労った。暫く歩いていると微かに声が聞こえた。

「……誰だ、この声…………誰かが戦っているのか?」

声のする方向へ足を進める。

「……ルーくん!!」

スバルが見た光景はカルミラに首を掴まれ抵抗する力もないのか手足をだらんとさせ、虚ろな目をしたルアルの姿があった。すぐさまカルミラに近づき回し蹴りをする。それを容易くかわすカルミラに少々苛立ちがしたものの、かわしたはずみでカルミラの手からルアルが離れた。ルアルを素早く回収し、カルミラに向け火を放つ。攻撃が効くとは思わないが足止めにはなるだろう。とにかく遠くへ2人を安全な場所へと思いながらスバルは走った。適当な木の影に隠れながら怪我した2人をそっと横たわらせて、スバルもホッと息をつく。そして深いため息。

「参ったな。どーしたもんか……コエくん……は正直当てにしてないし……でも治癒使えるのコエくんだけなんだよなー、クソッ!……使えねーなぁアイツ……いっ」

右の脇腹に鋭い痛みが走り手で抑える。痛みがやむと手を退かす。ヌルッとした気持ちの悪い感触に顔を顰め、ズボンで手を拭いた。真っ赤な血がズボンについてしまったが今のスバルには気にする余地もない。考えることが苦手なスバルは直感のままに動きたいが、2人ものけが人を抱え、あちこちと走るわけにも行かないので、とりあえず待機する。

「……でも、ずっとここにいても、見つけてくれる可能性は低いよな……森だし、カリンちゃんもすっぽりの森……広いに決まってるよなぁ」

と、またため息。「うっ……」という呻き声をし、目覚めたのはルアルだった。ゆっくりスバルの方を見ると安心したような顔をしたがすぐに申し訳なさそうな顔をする。

「どうしたルーくん」

「……ごめん……」

「なにが?」

「エルちゃん…………1回助け出せたけど……また連れて、いかれちゃ、……た。」

掠れた声で、今にも泣き出してしまいそうな声で、ルアルはひたすらスバルに謝る。

「ごめ、ん……ごめん」

「いいよ大丈夫……エルちゃんはまた助ければいい、まずはコエくんだけど」

「コエに頼ることは出来ないぞ」

左の方向から歩きながら誰かが話に割って入ってきた。影がだんだん薄くなり顔が見え始める。そこにいたのはサリエラだった。

「……サリエラちゃんじゃん……コエくんに頼れないってなに?迷子とか?」

「そんな可愛い理由ならまだ良かった……」

「?……てか、サリエラちゃん、手から血出てるじゃん。口も切れて血を拭ったあとがあるし…………やっぱり、犯罪者強かった?」

「あぁ、とても……その犯罪者に、コエが攫われた。」

「はぁ!?」

「……コエ、さんまで……」

「結構酷い状態だ。多分、1番損傷が酷い。」

「1番って……シー君やルーくんでも酷いのに、これ以上って……」

「手足を全て取られていた」

「うっ……グロい話?」

「グロいもなにも全て本当の話さ」

サリエラはチラッとけが人2人を見た。シンは意識不明の重体、ルアルもこれ以上の傷が増えたら危ないだろう。シンを抱え、サリエラは歩き出した。慌ててルアルを抱きかかえてスバルもサリエラに続き歩き出す。

「どこ行くの……むやみやたらに歩いてもダメなんじゃないの?もし犯罪者に遭遇したら」

「なんだ?怖いのか?」

「いや、そんなんじゃねーよ!!」

「……大丈夫だ。あそこへ来る前にカリン達に会ってな、お前らを見つけるまで待っていろと言って、待機させてる。もう少しだから、頑張ってくれ」

道とは思えない道を歩いていき、陽の光が差し込める場所に辿り着いた。そこにはカリンやフォスターなどがいて、こちらの存在に気づくとカリンは走って駆け寄ってきた。

「サリエラさん、スバルさんを見つけたんですね!良かったです!」

「あぁ、あと、この2人を寝かせといてくれ。」

「わっ!こちらもまた酷い傷……」

カリンは優しく2人を手のひらに乗せ、ユースティアの隣に置いた。サリエラとスバルはその場に座り込む。

「あとは、コエコエとエルエルとアリマっちだけだね……」

「あぁ、でもこうもけが人が多いとな……動けるやつは……私、キロネックス、スバル、カリン、カピラタ……と言ったところか」

「わ、私もまだ……戦えます。」

「フォスターさん!無理して動かないで!」

「そうだぞ、フォスター……無理されて傷が増えて再起不能なんてことになったら……正直迷惑だ。今はしっかり休んでいろ」

「は、はい……」

「サリちゃんきっつー」

「それよりも、未だ不明の3人をどうするべきか……」

「コエコエは当てにならないどころか、エルエルと一緒で敵に捕まってるらしいし?……一応、コエコエの手足拾ったけど、ちゃんと繋がるのかな?」

「……繋がらなかったら困る」

「…………万事休す……ってやつ?」

「………風に聞いてみようか?」

「うーん、それしかないよねー」

「そうだな」

「誰を探しに行く?」

「まずは、アリマかな……」

「なんでアリマっち?」

「敵に捕まってない可能性があるからさ」

「あー、なるほど」

5人は立ち上がり、カリンはけが人4人を抱きかかえ、カピラタを先頭に歩き出した。

_______________


「アイツらどこに行ったんだ……?」

いつの間にか取り残されていたクレイグは道に迷っていた。詳しい所でもないので迷子になるのは当たり前なのだが。

「お前、こんなところにいたのか」

「ッ!……み、ミラァァァ……!良かった!一生このまま1人になるんだと思った!!」

「騒がしいな……ほら、こっちだ早く皆と合流しよう」

「う、うん!」

カルミラの後につき、離されないように歩く。

「どうだった?そっちは」

「ラストアークのことかい?……まぁまぁ、かな」

「そうか……こっちはそうでもなかったかな……買いかぶりすぎたくらい」

「あはは……それにしてもミシェのやつあの小さい子凄い気に入っていたけど……どうするつもりなんだろ」

「仲間にしたいって言ってた」

「は!?仲間!?……できるのそんなこと……」

「さぁ、どうだろうね……あぁ、あと、さっきテイラーに会ってね、なんかまた拾っていた」

「なんかってなに?」

「あれは確か……ラストアークの治癒のやつだったな」

「コエくんがどうしたの!?」

突然現れたヒノワにクレイグは驚き、尻餅をついた。その様子をゴミを見るような目でヒノワは見るが、すぐにカルミラに顔を戻し問い詰める。

「なになに!?コエくんがどうしたの!?なにかあったの!?ていくんの名前が聞こえていたけど!?」

「落ち着けヒノワ……テイラーがそのコエとかいう奴を抱えていたんだ。生きてるか死んでるのか分からないけど」

「なっ!?……ていくんにこれほどまで怒りを覚えたことはないよ……コエくんはヒノワが最初に見つけたのに〜ッ!!!許せないッ!!!」

ヒノワの眉間に皺が寄せ、握った拳が震えている。凄く怒っているようだ。

「ほら!早く行くよ!!かるくん!りちくん!!」

ヒノワはそのままズケズケと歩いていく。それをやれやれと言いながら2人はヒノワのあとに続いた。

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